2021/11/02 のログ
O RLY >  
「馬鹿は嫌いなんだよね」

抑えられた左手首を一瞬ずらしながら右手を振りぬく。
ジャケットの下、太もものホルスターに仕込んであった艶消しのナイフを男の右手に真横に突き立てた。

「あんた確か硬質化の異能持ちだったよね。
 銃弾通んないんだっけ。厄介だよね。」

そのまま体を捻って入れ替わるように立ち位置を変える。
真っ先に体幹付近から硬化するという硬質化のデータは持っている。
首を狙えば恐らく防がれただろうけど、末端、特に可動部は反応が遅れる。
一瞬腕を動かしてそちらに対応させれば尚更、反応は遅れる。
後は硬質化する前に筋肉に阻害されないように刺せば刃は通る。
それに体重移動と足を利用して重心を操作してやれば不安定な姿勢からでもこの通り。

「希望的観測過ぎるんだよ」

見た目細くて小柄な女、一人で何とでもできると踏んだ。
だとしても複数人で来るべきだった。もっといい場所を選べばよかった。
気絶でも狙えばよかった。せめて両腕を拘束するべきだった。
そうすれば反撃される可能性を少しでも減らせた。
そしてそもそも……

「アタシがそんな脅しでいう事聞くわけないだろ。」

O RLY >  
「仮にアタシがそんな脅しで恥ずかしがる初心な乙女だとして、
 写真ばら撒かれるのが嫌だからいう事聞きます……っていうわけないっしょ。
 エロ漫画読み過ぎ。」

悠々とナイフを抜き、こちらに向き直り両手を広げる男と相対してもう一本ナイフを逆手に構えながら距離を測る。
相手はさっさと逃げないところを見ると、勝てると踏んでいるのか
それとも手土産にするつもり?まぁどっちでもいいか。
こちらといては都合が良い展開であることも確か。
どうせこいつ、殺すし。良い口実を作ってくれてありがとう。
一瞬微笑むも、ぶり返すずきりとした痛みに顔を顰めた。

「流すってマジで言ってる?
 冗談のつもりで言ったのかもしれないけどさ、それ自殺行為だよ。
 あんたはそれを知ってますって言っちゃいけなかったんだ。」
 
特に今は。あんな思いをした直後の今は。
あれはアタシじゃないんだ。あたしだけど。
糞、思い出すだけでしんどいし家に帰って引きこもりたい。
殺意が膨れ上がる、どうしようもなく。
躰が大きな男は今全てアタシの敵だ。

「……殺す」

そう呟いて地面を蹴る。

O RLY >  
飛び込んでいくこちらに対し全身の硬質化が終わったであろう男も
姿勢を僅かに落とし両手を前にこちらへ構えた。
手首の捻りが内側に強い。データ通り格闘術の経験者か。コイツ。
間合いに入ると同時に突き出される拳を半身で躱しながら前進。
顔の数ミリ先、唸りを上げて通り過ぎていく拳が後れ毛を数本引きちぎっていく。

「なろっ」

一発目は軽いジャブ。二発目が本命。
後ろ脚は力を込めたまま踏み込み足の力を抜き、ナイフを横に、そして切っ先を上に向けながら斜めに盾にする。
腕に強い衝撃と負荷。突き出される腕の力を下に押し出す推力に変え
更に姿勢を低くしながら地面を這うように懐へと飛び込んでいく。

「…っ!」

鈍い痛みで僅かに踏み込みが遅れる。
そのツケは大きく膝蹴りが間に合ってしまった。
咄嗟に横に跳ね飛び、勢いを殺しながら2,3度転がる。

「あー、だっる」

そのまま獣のように四肢で跳ねる。追撃に打ち下ろされた拳は空を切り地面を削った。
別に油断していたわけじゃないけれど、思ってる以上に体が鈍い。
全部あんたのせいなんだからなととある男に呪いの言葉を投げながらこちらに振り向いた男をねめつける。

O RLY >  
「……うっさい。笑わせんな。これで十分だっての。」

嘲るように投げられた言葉に返しながら再度ゆっくりとナイフを構える。
こいつは既に勝ちを確信している。
見るからに余裕を隠さないまま、じりじりとこちらの逃げ道を塞いだ男の脳内では
多分もう自分のあられの無い姿が展開されているんだろう。股間を隠せ。

「……っともー。」

片手で構えていたナイフにもう片方の手を添える。
間合いは圧倒的にこちらが不利。火力差も一目瞭然。
並の耐久力なら一撃当たれば大抵の相手は戦意を失うだろう。
そして、この男はそうやって生きてきた。

「舐めてんなぁ。」

足元を踏み割りながら踏み込む。もう今度は遅れない。
迎撃に繰り出される拳は早いけど見えない速度じゃない。精々コンクリを砕く程度。
まっすぐ突き出されたそれをステップを踏むように半回転しながら回避。
続いて掬い上げるように打ち上げる拳も左手で払い躱し、
その腕の下に潜りこむようにあまり姿勢を落とさないまま今度こそ懐へと滑り込む。

「っほ」

フェイントの一閃。腋を掬うように逆手に切りつける。
それと同時に再び繰り出された蹴りが眼前に迫った。

O RLY >  
「っくぁ…」

重い一撃。
こうも体格差があると来るとわかっていてもかなりの衝撃を受けることは避けられない。
体を庇うよう膝と両腕で受け止めるも、受け止めた体がゴムまりのように宙に浮く。
その瞬間男は勝利を確信していたのだろう。
瞳を輝かせてこちらに腕を伸ばしてきた。

「……ばかめ」

――全部誘導されてんのに気が付けバカ。
鷲掴みにしようと伸ばされた腕が触れる瞬間、丸めていた体を伸ばし、ブレイクダンスの要領で体をずらす。
空を切った腕に軽く片手を伸ばし、それの勢いを利用して体を横回転させる速度を更に加速。

「死に晒せやぁ!!!」

その速度と体重を全てのせて、握ったナイフを男の首元めがけ振り下ろす。
と同時にナイフの柄が轟音と共に火を噴いた。自力では決して刺さらなかったはずのナイフは
やすやすと男の首元に入り込み、そのまま反対側へと走り抜けていく。
その切っ先は艶々とした輝きをやどし、夜の路地に鮮血で円を足した。

「…と」

振りぬいた姿勢からその回転を殺すために獣のような姿勢で地面へと着地する。
普段だと女豹のポーズ(笑)とかふざけているところだけどそんな気力が無い。
僅かに遅れて男の体がぐらりと傾ぎ、ゆっくりと倒れていった。

O RLY >  
地面に黒々とした染みを広げている男の顔は笑ったまま。
ほんと馬鹿。自分が有利だから、硬質化してるから、
そんな風に油断したまま、こいつはそうじゃない結末に気が付く暇もなかった。

「……んな相手に何苦戦してんだって話だけどね。」

血に濡れたナイフを男のズボンで吹き、もう一本を拾い上げながら独り言ちる。
戦闘なんてこんなもの。よほど両者が拮抗しない限り、一瞬で終わる。
かなり手加減しているとはいえ本当に随分と手間をかけてしまった。
マジでずっとお腹とか腰痛いし全身怠いでやってられない。
……それもこれも、全部あの男のせい。色々と思い出してさっと朱に染まる。

「んあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

悲鳴と共に頭を抱えながら蹲る。
二度とあんな痴態晒さないと決心した直後にあれですよ。
トリックオアトリートどころか美味しく頂かれた挙句トリックまでされたわ!畜生!
つか途中からもうその次元じゃなかったわ!!!●ぁっく!あ、まてその罵声は今はあかん。

「どっかに記憶を消す装置でも落ちてないかなぁ。…助けてどら●もーん」

ガシガシと頭を掻きむしった後ふらりと立ち上がる。
良い方向に考えよう。馬鹿が一人死んだ。
派手に潰すのはもっと上のランクの奴で良い。
それまでに消した数人がそれに関与していると仄めかせばいいだけだし
それまでの手間が一つ省けた。そう、悪いことじゃない。

「ってそれで済むかバカヤロー……。」

がんっと近くの壁に頭突き。
目的が達成されるにしろしばらくかかる。
それまでの間、一度や二度ではなく同様の場面があるだろう。
……メンタルが持つかなぁ。マジで。

「……封印解除したろか。このやろ。」

ぼやきながら空を仰ぐ。
既に死体には興味もなし。

O RLY >  
「いや、てか考えたらあたし、実はすごい勤勉じゃんね」

あんなことがあった後に色々しんどいのをおして送別会の準備をするって
人情に溢れすぎてて自分でも怖い。そのうち善意で過労死するんじゃないだろうか。
やだなーこわいなー。仕事人間ってやばすぎる。
その果てに馬鹿に絡まれる。何か悪い事しましたかアタシ。
あ、沢山してるわ。

「……最低限の仕掛けはしたし、今日は寝よぉ」

そうしよう。うん。不毛な現実逃避を終わらせながらそう決めた。
これ以上考えると碌なことが無い気がする。
ハロウィンに乗じて場面の設定は既に済ませた。
仮装やバカ騒ぎのお陰でなーんにも疑われずに候補地を選べたし仕掛けも上々。
個人的な仕掛けはその後にやればいいし。

「あー、だっる」

かえってシャワー浴びて、色々綺麗にして……
あの部屋がきれいになったくらいのタイミングで武器を取りに行こう。
今行ったらアタシはメンタルブレイクで死ぬ。
グッバイアタシのメンタル。
そんな事を愚痴りながらふらふらと歩きだす。
目が覚めたらとりあえず水分と甘いものをたらふく食べよう。そんなことを決心しながら。

ご案内:「◆路地裏」からO RLYさんが去りました。