2021/12/04 のログ
ご案内:「◆女子寮 自室(鬱ロール、過激描写注意)」に藤白 真夜さんが現れました。
藤白 真夜 >  
「……ふう。今日も頑張っちゃった。
 もうすっかり暗くなっちゃったなあ……」

 自室に戻る。
 後ろ手に鍵をかけ、軽く息を吐いた。
 学校に行き、授業を受け、お花屋さんのアルバイトからそのまま青垣山の状況進行確認。異常なし。
 帰ってきたら、すっかり日が暮れていた。

 任務用の荷物が入った黒いバッグと、学校から直行だったからカバンを置く。荷物はコレだけだし、部屋の中身もコレだけだ。
 ご飯は抜いていたけど、お腹は空いていない/当たり前に。

「……体の具合、すごく良くなっちゃった。
 やっぱり、元気なほうがいいもんね。……心配、もうされないよね」

 ……。
 あのあと、結局風紀委員へ“暴行”した、と自首したけれど、あまり取り合ってもらえなかった。
 直接顔を会わせるのだけは避けたくて、せめてものお詫びと贈り物をしたけれど、それも多分届かないだろう。
 あの人たちに、風紀の厄介にはなるべくならないで欲しいと言われていたから。
 病院までいこうとしたけど、それはどうしても……無理だった。
 顔を合わせたら、今度こそ何をするかわからない。
 犯人は現場に戻る、の言葉の意味がすこしわかった気がした。

 体の調子が良い。
 このままもう少し任務に出ても良いくらい――そう思って、ベッドに寄りかかって、
 倒れ込んだ。

「――ごめん、なさい……っ」

 それは、あの人への言葉じゃない。
 勿論、それもあったけれど。……望むのならば。私の、卑しい思い上がりでなければ、あの人は許してくれるだろう。そう思ったから、私もきっと箍が外れた。――いや、外してしまった。

「……ごめんなさいっ……!」

 ベッドに顔を埋めたまま、シーツを握りしめた。爪がてのひらに食い込んで、赤いものが滲んで、すぐに消えた。

 私は、命に謝るべきなのだ。

 一度倒れ込むと、おぞましい重圧が私を押しつぶすのを感じる。
 何人分?どれだけの間?どのような最期で?
 それら全てを差し置いて、尊い命を啜りたてるような真似を、どうやって償えばいい?
 この身に自由は無い。だからせめて善行を重ねよう。そう誓った意志は、何処へ行った?

「ごめんなさい……っ、う、……あぁッ……」

 わからない。
 だからただ、せめて謝ることしか出来なかった。

藤白 真夜 >  
 何処までも堕ちていく心の中とは別に、私のカラダはどこまでも、滾っていた。
 異能は鮮やかな赤を放ち、祭祀局の任務は全てうまくいった。
 今回の囮任務も亡霊と怪異を引き寄せ“無傷”で帰還できた。怪異への誘引効果まで増した気がする。
 私は、謝らなくてはいけないのに。
 あの行為を、恥じなければいけないのに。

「……どうして、そんなに、浅ましいの……ッ!」

 思い返す感情の中には、歓喜しか存在しなかった。
 それが何よりも、おぞましく、厭らしい。
 せめてカラダだけでも戒めるべき、と自らの胸を掻きむしるように握りしめても、やはり痛みは無い。
 痛めれば痛めるほど、カラダの調子が明らかに快復していることが、余計に腹立たしかった。

 ……ああ。何時ぶりだったろう。
 生き血を啜るなんて。
 この島に連れてこられて以来、最初はやらされたけどすぐに途絶えたから、5,6年は無かったことのはず。
 ……それにしても、最近出会った血はどれも――どれも?――素晴らしかった。
 異能の関係?鍛えられた青少年のモノだから?なのに、贄のような――

「うッ、ああああぁッ!」

 頭の中/臓腑 に絡みついた残滓を振り払うように、声をあげた。

 ……私は。
 私は、“良いこと”をしなきゃいけないのに。
 人を傷つけ。
 人を食い物にし。
 自らのモノとして消費する以上の“悪いこと”が、あるのだろうか?

「う、……うぅッ……」

 涙は流れていなかった。
 ただ、紅い雫が目元からベッドに溢れ落ちる。
 それは幻のように霧になって消えた。この私にそんな資格など、無いのだから。

藤白 真夜 >  
 どうやって、贖えば良い?
 
 被害者にではなく、私のカラダを圧し潰すこの罪悪感に。
 お前は低くあるべきだ。
 お前は卑小であるべきだ。
 そうやって与えられる罰は、私にとってあまりにも心地良かった。
 なのに、自ら誘惑に負け悪事に走った瞬間の、あの――

「ぇほっ、こほ、――ごほッ」

 嘔吐く口元からは何も溢れない。
 当たり前だ。今のカラダはとても調子が良い。
 細切れになっても戻れそうなくらい。

 嗚呼――思いついた。

 私には、先生が居た。もう居ないけれど。
 精神的に不安定だった――今もそうかもしれないが――昔、私の支えになってくれたひと。
 その人は、冷たく、冷静に、でも真っ直ぐに、私に言葉を遺した。

『自傷も、自殺も、キミには意味が無い。
 元から、死に意味なんて無いけどね。
 ……意味の無いことではなく、意味を求めなさい』

 まだ昔。
 私が痛みを覚えていたころ。
 よく自らを戒めるように傷付けていた私は、それでぱたりとそういう真似を辞めた。
 実際、意味も無かったから。
 痛みに生を覚える感覚は、いまだに私の中に残っていても。ソレには痛みがなかったから。

(……ごめんなさい、先生。
 でもこれは、違います)

 部屋に血の匂いが満ちるのと同じくして、私から赤い霧が膨れ上がった。
 悪魔の翼のようで、死神の鎌のようでもあったそれは、……刀だ。
 一本の、赤く光る刀が、昏い部屋に浮き上がった。

ご案内:「◆女子寮 自室(鬱ロール、過激描写注意)」に芥子風 菖蒲さんが現れました。
藤白 真夜 >  
 私の痛みに価値は無い。
 でも、全ての痛みに耐え戦いつづける人たちの価値を、私は知っている。
 そういう人たちの力になりたくて、私は治癒術士になりたかったんだ。その夢は、叶うことは無かったけれど。

 目前に浮かぶ赤い太刀の前で、立ち上がった。

「斬って」

 刀は震えるように動くけれど、私の命令を効かなかった。
 
 私の異能は、生存本能を原理としている。
 生きるために芽生えてしまったのが、コレだ。
 だから、嫌がるのだろう。
 ――違う。
 これは、生きるために必要なモノだ……!

「――我が昏がりを、斬り殺せ……ッ!」

 瞳に昏い光が灯る。
 昏い、殺し。
 意図せずして重なるソレは、あの人が対峙して負ったのと同じモノになるはずだ。

 自らの本能も切り捨て、浮かび上がる太刀は、――私の腹部を掻ききった。

 その切れ味は、本物には遠く及ばないだろう。けれど、同じモノに近づくはずだ。
 あの傷と、同じモノになるはずだ。

「……、……」

 声は、出なかった。
 ごぽり、と腹部から溢れた血潮は、部屋を汚すことすらない。
 ただ、痛みですらない痺れる感覚と、赤い煙を残して――傷も残ることはなかった。
 
 濃い、血の匂いだけが、漂っていた。

芥子風 菖蒲 >  
ぴんぽーん。

インターホンが陰鬱な空気に波紋を作る。
部屋の扉の前、のぞき穴には茶色のツンツン頭に青空の両目。

「ここ、だよな……」

すっかり退院して紹介任務の後、なんだか本庁がちょっと騒がしかった。
風紀委員への"暴行"事件の自首らしい。
よくわからないが、その人物の特徴が如何にも知り合いと合致した。
おまけに、部屋に届いた不在届。こういう時に、風紀にいてよかったと思う。
一応"事件の目星"として、公安に住所捜査をさせればあっという間だった。
やはり、彼等の情報網は侮れない。

「いるかなぁ……」

ぴんぽーん、ぴんぽーん。
部屋の中など、わかるはずもない。
インターホンの音ばかり、響き渡る。

藤白 真夜 >  
 ……やっぱり、意味は無かったのだろうか。
 その行いは、何も――

 ぴんぽーん。

 その音は、今の何より現実離れして私の耳に届いた。
 ……何かを、断ち切るほどに。

「……え?」

 自慢じゃないけど、私に友達は全く居ない。
 大体、アルバイトや祭祀局の任務に駆け回っているから、奇跡的に出来た繋がりも絶たれてしまう。そっちのほうが良いだろうし。

 ……もう少し、頭が回ればよかったのだけれど。
 こんな時ばかり、小市民の私は 待たせては失礼 だなんて見たことも無いはずのお客さんへと、考えてしまったのだ。

「は、はーい!
 い、今、開けますね……!」

 何も、おかしなところはなかったはず。
 少し、血の匂いがするだろうけれど、……目元も、お腹も、……あ、セーラー服ちょっと斬れてる……。お腹だし、大丈夫かな……。
 ……もう、何ひとつ傷付いたものは無いのだから。

 だから、私は扉を開けてしまった。
 その隙間から、暗い部屋に光が差し込む。

 相手がわかっていれば、絶対に開けなかったのに。

芥子風 菖蒲 >  
扉が開いた。
そこにはいつもと変わらない先輩の姿が"あるはずだった"。

「──────……」

鼻腔を衝く、血の匂い。
それも酷く濃い匂いだった。
何度か嗅いだ記憶がある。
時折担当する、"凄惨な現場"。或いは、その"当事者"。
現場か、或いは戦場か。今はそんな事はどうでもいい。
見開かれた青空が、彼女の体をまじまじと見る。
衣服が切れているが、傷は見えない。
だが、彼女の異能の事は少し知っている。
そして、彼女自身も言っていた。だから、傷が重要と言う訳じゃない。

彼女が自分の姿を見て、何を思うかは分からない。
わからないけど、伸ばした手は肩に伸ばされた。
抵抗もなければ少し強めの力で肩を掴まれることになる。

「……"何をしてたの?"」

ただ、一言問うた。
一言だけに多くの意味があるけれど、それ以上に震えていた声音は心配の色が強い。

藤白 真夜 >  
 扉が開いた。
 
「――え?」

 その先には、菖蒲さんの顔。
 私にとってはまるで、……運命の死神に追いつかれたような気分で、愕然と、目を見開き――

「あっ、……」

 けれど。
 その絶望的な硬直は、触れる掌の力強さと、その声色に掻き消えた。

「え……っ?あ、あの。
 ……な、何も――、」
 
 驚き、恐怖、恥じらい。
 色んなものが、まだ残っていた。
 怒られたらどうしよう。あのことに聞かれたらなんと答えれば。申し訳が無い。
 この人が扉の先に居るとわかっていたら、絶対に開けなかった。
 もう、顔を合わせることでさえ――、
 ……でも。
 でも、もう逃げたくなかった。
 私は過ちを犯して、そして逃げ出した。
 だからこそ。

 嘘をつこう。適当にやりすごそう。
 そう思っていた私は、……逃げないことを決めた。

 抵抗することなく掴まれていた肩に、ほんの少しだけ力が戻る。
 貴方を見つめ返す瞳は、……揺らいで、弱々しく。……けど、貴方を見つめていた。

「……考えて、いました。
 貴方にしてしまったこと。
 自分のしてしまったこと。
 ……どうすれば、許して、もらえるのか……」

 最後の言葉だけは、あなたを見つめずに、発した。
 それは、私自身の問題でもあったから。

芥子風 菖蒲 >  
何もない、と彼女は言う。
色んな感情がごちゃ混ぜになった不安そうな顔だった。
やっぱり何かあったんじゃないか、とは思う。
その要因が自分であることは微塵も思わない。
肩を掴んでいた手はゆっくりと力が抜けていき
冷たいはずの頬へと添えられていく。あの時と変わらない、暖かな掌。
視線も次第に追いついて、青空は彼女の仄暗い瞳を見やる。
意図せずして、目を反らさせないようにするような形だ。

「……何もしてないなら、そんな切り口しないと思うよ」

刃物を扱う人間だからこそ思う。
これは何か鋭利なものだ。自傷だろうと何だろうと、穏やかな事じゃない。
責める訳では無いが、嘘は許さないと言わんばかりに真っ直ぐ見つめる青空。
途端、彼女が目線を反らすときょとり、と小首をかしげる。

「許す?何かした?」

至極、不思議そうに聞き返す。
彼女が思うよりも少年は気にしていない。
だから、気にも留めていない。彼女が"罪"と思ったことは、少年にとっては違うのだ。

「あ、上がっていい?一応、中見ときたいから」

調査的な意味で。
疑う訳じゃないけれど、本当に何かあったのなら困る。

藤白 真夜 >  
「……えっ?」

 ……予想はしていたのです。
 あのひとは優しい人だから、――ちょっとデリカシーは無さそうなんですけど――きっと酷いことは言われない、かも……と。
 でも、気にしないどころか何があったかも気にしていないのは、ちょっと想定外。

「え、いえ、あの、……えっ!?部屋にですか!?
 で、でも、あの、……いえ、は、はい、どうぞ……」

 一体どうやって謝ろうか。どう説明しようか。そんなことを考えていた頭の中身は、その質問に吹き飛んでいたのです。
 上がる……?どうして……??そ、そもそも誰かを部屋に上げるのもはじめてで、というか男の人が――べ、別に変なモノは何もないしそんな考えにふける余裕も無かったはずなんだけど、考えていた不安とかが打ち砕かれたところに微妙に恥ずかしいような面映い思いが――

 頭の中をぐるぐると恥ずかしいような気持ちが渦巻きながら。
 その根底にある昏い澱が変わることはない。
 ……ほんの少し、楽になった気はしていたけれど。

「あの、ごめんなさい。ここ、何もなくて……」

 女の部屋には、何もなかった。

 家具と言えるものは、備え付けのベッドと箪笥に本棚くらい。黒いボストンバッグと、学校のカバンが床に打ち捨てられていた。
 持て成すためのテーブルやクッションも無い。
 生活感は無いのに、人だけが居る家のよう。
 唯一、本棚には魔術や異能関係の技術書がぎっしりと詰まって、端の方に数冊小説が並んでいた。

 目をひく疑わしいモノは何も無い。ただ、ベッドから血の匂いがするだけ。
 それは、人の住まう空間にある特有の香りであるし、直前に起きたコトの残り香でもあり……。
 この女の香りであった。

「……これは……、」

 腹部に開いたセーラー服の切れた跡。……そっか。このひとなら、ここから解ってしまうのか。そんなことを考えながら、

「自分で、自分を斬りました。
 ……貴方と。
 同じ傷ができれば、いいと思ったんです」

 どこか恥ずかしがるように、目線を落としながら。
 あの行為に、意味は……

「やっぱり、貴方達と、私の傷の意味は違うと。
 ……違っても、良いと思ったんです」

 目線をあげて、あなたの青空を真っ直ぐに見つめる。
 先程まで冷えた熔岩のように落ち窪んでいた瞳は、今は過ぎゆく夜に映る月食の赤のよう。
 揺らいで、幽かで。でも、静かに、弱々しくとも、昏い光を湛えていた。

「……私は、間違えたり、傷付いても、それで良いって。
 元から、出来が悪いんですから……少し、馬鹿をやるくらいで、良いって」

 ……だから。
 自分を焚きつけるためなら、自刃も厭う必要は無いんだって。