2021/12/05 のログ
芥子風 菖蒲 >  
少年にとっては許す許さないなんて事じゃない。
あの時の事は、"初めから聞いている"。
どうすればいいか、と求めた時彼女が行った行為だ。
なら、それでいい。それが答えだ。許す許さないというなら

"もう既に、許している"。

「お邪魔します」

そう言う訳で彼女の部屋へと上がった。
何というか、簡素な感じだ。女の子の部屋ってこんな感じなんだろうか。
当然だが、女の事なんて少年が知る訳もないので分かるはずもない。

「オレの部屋みたいだね。……最近はちょっと物が増えたかも?」

簡素と言えば自分もだ。
主に寝る場所にしか使わないから大きいベッド位しかない。
そう思っていたのだけれど、最近は物が増えた。
舞子とか星とかと付き合ってる内に、"お土産"が増えた。
ああいう置物とかぬいぐるみ、何に使うかもわかっていない。
統一性の欠片もないけど、"今の部屋は好きだ"。

「…………」

自分で自分を斬った。
そう聞けば、少年は目を細めた。
自分と同じ傷が出来ればいいなんて、いうものじゃない。
少年は静かに首を振った。

「よくないよ。だって、真夜先輩泣いてた。痛かったって」

あの時確かに泣いていた。
声を荒げている彼女は、確かに"何か"痛みを訴えていた気がする。
いいはずがない。慣れるはずがない。
"斬られると、傷つくと痛いんだ"。そんな当たり前の事、自分でも知っている。
だから、そう。彼女の部屋を一通り見渡すと彼女へと迫る。
あの時みたいに、ずぃ、とその顔を覗き込んだ。

「よくないよ。オレは真夜先輩が傷ついたり泣くの、イヤだ。
 オレは真夜先輩も護りたいんだ。護りたい人には、笑顔でいて欲しい」

それが戦う理由。
自分が護りたい大勢の、自分の心を温かくしてくれる大勢を護りたいんだ。
たったそれだけの単純な理由。青空の両目が、昏い血色を覗き込み……。

「……もしかして、あの時の事を気にしてるの?
 先輩、血を吸わないといけないような体だったりしないの?」

ああ、そうか…と思い返せば思いついたのはそれだ。
そう言えばどういう意味かまでは聞いてなかった。
彼女が泣かないようにするには、どんなことでも聞くつもりだ。

藤白 真夜 >  
「……あ、あれは……」

 あの時のように覗き込まれると、今度こそは逃げるように目を落とした。
 恥ずかしいというより、申し訳無さそうに。
 ……他ならぬ私が誰かを否定したり逃げようとすることこそ、間違いだったのに。

「わ、私が、馬鹿なことを言ってしまったから、……。
 私はただ、……、私には貴方が、――」

 私と貴方を重ねて、その意味を探して、刀を突き刺して検証して、その上で。
 ――私には、貴方が守る価値なんて無い。
 そう言おうとした言葉は、ぬくもりと笑顔を求めるその温かな空の前に、立ち消えた。

「私の、痛み……」

 応えるのでなく、自らの内に探すように、切れたセーラー服を抑えるように、お腹に手を当てた。其処には何も無い。
 その指先は求めるようにさまよい……自らに訴えるように胸元に、指先を。

 私の優先順位は、私の中に無い。
 私に、価値があるとは……やっぱり、思えない。
 ……でも。
 目の前の、見知らぬ誰かのために立ち続ける人のために、なるのならば。
 ……私が、笑顔であることは、“良いこと”であるのでしょうか……?
 だから、下手でもいいから、笑顔を――、

「――もうあんなことしませんっ!」

 でも。
 血を吸うのかという問いかけにだけは、知らずに声が荒げてしまった。

「あっ。
 ……ご、ごめんなさい! ……ごめんなさい」

 そう。
 彼のために、笑うことは出来るかもしれない。
 でも、アレは私の問題だ。あれは、私の弱さが引き起こしたものだ。
 ……だからこそ、このひとには説明しないと、いけない。

「血を、……吸わないといけないわけじゃ、ないんです。
 命を……、ひとの、命を。求めているだけ、で。
 い、いつもは、もっと、なんとかできてるんです。
 保健室で、貴方が触れさせてくれたときも。
 ……でも、……」

 説明はたどたどしく、意味もはっきりとは伝わらないかもしれない。
 それは、強い恥辱を圧し殺したモノだったから。
 でも。

(アナタは、とても美味しそうに見えたから)

「……ごめんなさい……」

 だからこそ、それは強い自責の念が見えていたはず。
 今度こそ、頭を下げた。

芥子風 菖蒲 > 【一時中断】
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ご案内:「◆女子寮 自室(鬱ロール、過激描写注意)」から藤白 真夜さんが去りました。