2022/11/12 のログ
ご案内:「◆公園「丸々団地前」」に希遠さんが現れました。
希遠 >  
夕方過ぎ、日もだいぶ落ちた閑静な団地のざわめきに僅かに金切声のようなものが混ざる。
その少し後、冬が近いにしても多少着込みが多い人物が現れた。
その人物は階段口から仰ぐように上をしばらくみあげると、どこかとぼとぼと歩き出した。
その足は近くの公園へとまっすぐ向かっており彼女が普段そこをよく利用しているであろうことをうかがわせる。
どんな場所にも公園は意外と沢山あるもので、特に人が沢山住んでいるような場所には大体小さいのがいくつかある。
整備不良故に人目の届きにくいこの公園は数少ない利用者の子供たちには秘密基地みたいで面白いと言われているそう。
若干重たい足取りでその公園に辿り着いたその人物は自販機の前に立ち止まり、少し悩んだ後温かいお汁粉のボタンを押した。

「……?」

ガタン、というおなじみの音に僅かにかがみこんだ姿がわずかに静止する。
その手に握られていたのは冷たい炭酸飲料。

「……――」

現実を受け止めた彼女は小さく首を振ると歩き出す。
そして鬱蒼と茂った木を払うようにして公園に入り込みベンチに座り込むと溜めていたため息が零れる。
普段感情が浮かばないその顔にもどこか疲労の影が落ちているようにも見えた。


「……くれーむ」

お金稼ぎの一環でやっているこの配送。
時間通りに届けた筈だったがお叱りを受けてしまった。
あちら曰く注文内容が違ったらしい。
そんな事を言われてもこちらは番号通りに受け取って、メール通りの内容がレシートに書かれているかどうか確認する位しかできないので……
それがそもそも違ったと言われたらわからないです。

「ぅー」

ベンチで膝を抱え、足をパタパタと泳がせる。
誰かと接すること自体が苦手なので接客業はとても疲れる。
こういう時上手に対応できる人が羨ましい。
人づきあいが苦手どころか対話が苦手な自分にはハードルが高すぎた。
そもそもこの世界は人が多すぎる。無理が凄い。無理。

希遠 >  
夏の時期に比べると気温がだいぶ下がってきた。
夏の間ここでボーっとしていると近寄ってきてくれた猫たちもとっくにどこかに行ってしまっている。
木の葉もだいぶ落ちてきている。人目が届きにくい公園とはいえ、そろそろ外から見えやすいようになるだろう。

そういえばこっちに来たばかりのころは緑の多さに驚いたっけ。
育った環境では視界の大半はモノクロだった。
こちらでは色彩が豊かで目が痛くなる。
それ自体は不快だけではないのだけれど、その色彩の数に比例するように面倒事が多すぎる。
物々交換はしにくいし、そもそも物価が高い。
元居た世界ではお役目さえ果たしていれば良かったし、それにお役目を果たすことこそが何よりも重要だった。
ある意味仕事に困らないといっても良かったわけですが、こちらでは別にお役目に相当するもの自体が無い訳で……
ある意味仕事人間()として生きてきた身にしてみれば突然の自由に囚われた形。

「……」

無言で手元の炭酸飲料を見つめ、そっとベンチに置く。
『容器が破損、破裂するおそれがありますので、凍らせたり社内等熱い場所に長時間おかないでください』の表記に気が付いたから。
炭酸飲料は冗談抜きに爆発するので油断ならない。既に何度か経験済み。

ご案内:「◆公園「丸々団地前」」に深見 透悟さんが現れました。
深見 透悟 > 『ヘーイ、おねーさん!こんな時間になーに黄昏てーんの!
 あいや、こんな時間だからこそ黄昏てんのか……? んまあ何でもいーや。なーにしてんのっ?』

炭酸飲料のボトルが置かれたベンチと、それを置いたと思しき人影へと唐突に声が掛かる。
振り返っても誰も居ないし、辺りを見回したとて同じこと。その実、実態の無い存在が声を掛けたのだから。

『いやーもうすっかり秋も深まっちまって。冬になると思うとなんだか心寂しくなっちまっていけねーや。
 こうして散歩なんて洒落込んでみたんだけど、年の瀬も近い所為か誰も彼も忙しそうで脅か……話しかけるタイミングも中々見つからねえもんで参っちゃう。』

問われても居ない事をべらべらと話す声だけの何か。
気概を銜えるつもりは毛頭ない。ただ、こうして突然声を掛けた相手が驚くのを楽しむ、ただの愉快犯の幽霊だった。

希遠 >  
選択肢が多いことは幸せな事なのだろうと思う。
少なくとも、温かいご飯と住む場所があるというのは元の世界では贅沢の範疇だった。
それを望んで、一生追い続けて死んでいく者達がいかに多かった事か。
それを争って血で血を洗う争いだって起きていたし、それを収めるのも私の役目の一つだった。
それを何もしなくてもいい。それだけでなんて自由な世界なのだろう。

『異邦人の方に対する生活援助措置等もありますので』

なんて言っていた風紀委員の言葉を思い出す。
未だに手元には島の住人として証明する書類は届かない。
同じようにそういった書類を申請している人は沢山いるので時間はかかりますよと言われたが、もう随分経った。
単純に届いていないのか、それとも届く前にどこかに行ってしまったのかはわからない。
そんな幽霊のような状態でいる事にはなれている。そもそもほとんど似たようなもの。
だというのに、誰かが沢山いるこの島で、存在しない存在であることがこんなにも重苦しい。

「…」

そんな事を鬱々と考えていた所に急に降って湧いた声に顔を上げるとゆっくりとあたりを見渡した。
人影はない。変な気配と人の言語が聞こえる。誰かが隠れているような熱は感じない。
……え、なにこれこわい。

「……誰」

口から零れるのは抑揚のない平坦な声。
先程の怒鳴り声で若干会話が怖い子症候群になっているので内心はバックバクなのだけれど、良くも悪くも表に出ない。

深見 透悟 > 『おおっと、思ったより薄味のリアクション。久しく幽霊してなかったから俺も腕が落ちたかなー
 ま、それは置いといて。どもども、俺は見ての通り……って見えないか、聞いての通りテンプレート的幽霊の深見透悟っての。
 こう見えて……って見えないんだよな、こう聞こえて……っつーと変な感じだけど、天っっっっっっ才魔術師なのよ、よろしくねー?』

年の程はそこらの学生と変わらないくらい、特異な点と言えば見えない事と少し浮いていること。
ふわふわと宙を漂いながら、右に左にと揺れ動いて一見クールガールと思しき相手を観察しながら言葉を発する所為か、声の出処も左右に揺れる。
相手の内心の動揺も、冷たく思える誰何の声も、まったく気にしてなさそうな陽気な調子で、相も変わらずべらべらと。

『さーて俺の自己紹介なんてどうでもいい事はうっちゃって。
 おねーさんのお名前は?何歳?3サイズは?彼氏いる?どこ住み?てかLINEやってる?』

本当にべらべらと。
とは言うのも自己の存在を主張させるものが基本的に言葉しか無いことを自覚している故なのだけれど、それを差し置いても喋る喋る。
質問を矢継ぎ早に投げかけたかと思えば、流石に疲れたのかふぇーと聞く方の気が抜ける様な溜息を吐いて小休止。
ちなみに現在位置は真正面、どどーんと腕組みなんてして少し浮いた高いところから興味津々に貴女を見下ろしている。

希遠 >  
「幽霊」

まさかの同類のような存在だった。しかも凄い喋る。めっちゃ喋る。
全然見えないのに声での存在感が凄い。滅茶苦茶圧が凄い。
たぶん口から生まれて口が原因で死んだんじゃないかってレベルで凄い。

「慣れているから」

この世界の幽霊の概念は判る。
それに照らし合わせると自分もほぼ同族なので慣れているといっても間違いではない。
……こんな良く喋る”幽霊”に会ったのは滅茶苦茶久しぶりだけれど。

「キオン、年齢はわからない。
 上から90,60、80くらい。彼氏はいない。島在住。らいんってなに」

聞こえてくる音の方向に顔を向けつつ淡々と返す。
おそらく最後はこの辺にいるはずと真正面を見上げながら。
実は滅茶苦茶喋る幽霊というのは個人的に好感を持っている部類なのでちょっとだけ上機嫌。
……全く表に出ないけれど。

深見 透悟 > 『そ、幽霊ー
 と言っても生霊か死霊かは俺自身分かってねーんだけど!
 まあ霊魂には変わりねーってんで、幽霊ならせて貰ってるってワケ。あ、お姉さん死霊以外は幽霊って認めない派だったりしないよね?』

まあそんな派閥分けが本当に存在するかどうかは知る由もないのだが。
声だけの、頓珍漢が浮いてる様な存在を自覚してるが故に、極力相手の地雷に類するものは踏まないようにしたいからという理由での問だった。
ま、地雷踏む足もねーんだけど!とは本人談。

「そ、慣れてる……慣れてるんだ?
 え?なになに、お姉さん霊感ある人とか?クール系霊能少女とかやべぇカッコいいやつじゃん。フゥー!」

幽霊の テンションが ちょっとだけ上がった!
見えないとは分かっていながらも両手の親指をグッと立ててナイスでーすのポーズ。
何がナイスなのかは本人も分からない。ほぼほぼライブ感だけで喋ってるのだ。

「キオンさんー……年齢不明。てことは年下の可能性もあるお姉さんか……ふーむ。
 あ、律儀に応えてくれてありがと!上から90……え、きゅうじゅっ?モッコモコな格好なのに脱いだら凄い系とか……しかも彼氏ナシ!?島在住で、あ、LINE知らない?
 ……って聞いといてなんだけど俺もよく知らないんだよねーLINE。」

淡々と返されても気にした様子もなくオートで盛り上がる幽霊。
よほどキツイ返答が来ない限りは一人でも勝手に盛り上がっていくスタイル。
感情が表に出ない相手と対照的に、テンションをトップギアにぶち込んだまま、口から言葉が出るわ出るわ。

「そんでキオンさんこんなところで何してたの?休憩とか?
 そのベンチに置いてあるのキオンさんの?飲まないの?」

希遠 >  
「しない。幽霊というなら幽霊」

なんだかそういう派閥があるらしい。
この島の幽霊も大変だ……彼には頑張ってほしい。

「霊感……そう言うのはよくわからない」

こちらではそうではないけれど、お役目の時はむしろ死人の方が周りに多かったので……。
けれど何故か喜んでいるようなので良しとする。別に誰も困らない。
しかしこれだけ元気だったら別に霊感とか関係ない気がする。
喋るのが得意ではないので正直、すごく助かる。

「一年の定義が違った。
 正確な数値を算出できない。
 先日アルバイトで測った時の数値なので概ね正確」

嫌って答えてないと思われないように補足だけしておく。
ラインとかは本気で分からない。もっと魔術的にしてほしい。

「休憩……?
 そう、休憩。疲れた。
 ……飲んだことがない物なので悩んでいる」

手元で今にも弾けそうな缶を見下ろして言葉を繋いだ。
そう、飲んだことがない奴。炭酸飲料なんて元々なかったからです。
しかも温かいものを飲む予定だったので。

深見 透悟 > 『そっかそっか、なら良いんだ!いやー話の分かる人で良かったわー
 幽霊ですって言っても信用して貰えなかったりするしさー、見えないからってさー、参っちゃうよね!』

幽霊は幽霊なりに苦労があるらしい。
一応不都合なくコミュニケーションが取れるようにと人型とテディベア、二種類の器を用意したのだが生憎と今この場には存在していない。残念。

「ほ?霊感は分からないけど慣れてる、と?
 そっかー、霊感あるとぼやっと輪郭を察したり、見えないけれど触れられたりと特典が付くんだけどもね!」

今のところ霊体のまま触れられる相手と言うのはそう多くはない。
生体に近い器を得てからは、霊体での活動が縮小傾向にあったから増えてもいない。
霊感テストしてみるのも面白いかなー、なんてケラケラ笑い声が混じったりしつつ。

「へえ、時間の流れが違うとかじゃなく一年の定義が……ま、そういうとこもあるか!
 いいやいいや、名前分かったし、キオンさんって呼べば年上だろうと年下だろうと同じことよ!俺なんて幽霊だしな!
 ほ、ほぉ~ん、アルバイト時に測った……クソッ、その場にうっかり居合わせたかったシチュエーションだっ!」

年齢問題は即座に納得&解決。呼び方さえ定まりゃ実年齢なんて誤差よ誤差。
お喋りな上に欲望に忠実。心底悔しそうにぎりり、と歯ぎしりまでする始末。
端末間で連絡を取るコミュニケーションツールめいたものという知識は透悟にもあるけれど、それ以上は知らない。スマホは持ってるけどそう頻繁にも使わないし。

「ほうほう、お疲れのとこ声掛けちゃったわけかーごめんねー?
 あらまあ炭酸初体験?良いじゃん良いじゃん、折角だしこれも貴重な経験と思って飲んでみんさい。毒じゃねーと思うし、ね?ほら、ね?」

放っといても悪くはならないと思うが、初めての飲料を口にしてどんな反応をするのか興味が湧いた。
ので、無責任に勧める幽霊。圧と押しが強い。

希遠 >  
「そう」

言葉少なく肯定だけする。
先程から聞いている内容で考えるとどれだけ話しかけても反応すらされなかったりするのかもしれない。可哀そう。
まぁ本人はそこまで気にした様子ではないけれど……自分だったらちょっと嫌だなとそう思う。

「私はなんと呼べばいい」

年齢なんて別に何でもいいということに関しては同じ意見だけど
こちらからどう呼べばいいのかわからないのはちょっと困ってしまう。
そう、知らないことは怖いのだ。そうか、ちょっとだけさっきまで感じていた感覚の理由が分かったかもしれない。
でも……

「……ちょっと、怖い」

ものすごく仏頂面で女児のような事を言い出した。

深見 透悟 > 『いやー、折角お喋りしようとして声を掛けても幻聴だと思われたりとかさー
 一番焦ったのはアレだ、声を掛けた相手がその足で精神科に受診しに行こうとしたこと。あん時ほどごめんなさいを連呼した事は無かったわ』

なお謝罪連呼された側はいよいよ自分の気が触れたと思い幽霊を振り切って精神科に強行したらしい。
それでもこうして見ず知らずの相手にいきなり話しかけるのだからこの幽霊もこの幽霊である。

「んー?親しい人からはトーゴって呼ばれてるし、特にキオンさんが呼びたいのが無ければトーゴで。
 別にダーリンとかでも全然構わないけど!むしろ大歓迎だけど!」

初対面相手に恐ろしい程の馴れ馴れしさ。しかしこれがデフォルト設定。
勿論ダーリンなんて呼ばれることは無いのも織り込み済み。断られてもしょげたりしない。たぶん。

「……怖い? HAHAHA、突然姿の見えない幽霊に話しかけられるなんて状況を経験しておいてただの飲み物が怖いと?
 まー気持ちは分からんでも無いけど、そう怖がったところで何か変わるわけでも無し、俺も居るし飲んでみよーよ?ね?ほら、レッツトライ!」

事情は解らなくても気持ちは解る。そう告げるも軽薄な口調は信ぴょう性も薄々だ。
仏頂面の正面で、ヘラヘラと笑みを向けながら楽し気に見守っているのは、たとえ何が起きても自分に実害は無いとみている故か。

希遠 >  
「えぇ……」

興味が無いような返事の裏でドン引きしていた。
いやそれはごめんなさいを連呼してたから余計そうなったのでは?と人間理解が乏しい自分でも思うんですが。
普通に幻聴が聞こえてきてごめんなさい連呼したらみんなそうする。自分でもそうする。

「そう、ダーリン」

ダーリンは愛称みたいなものなのだろう。
この島の言語はまだ理解しきれていないというか口語が多くてわかりにくい。
ただまぁ相手が喜ぶと言っているのだからそう呼んでおけば間違いないだろう。

「ダーリンは怖くないのか。
 知らないものに触れるのが」

未知に対する恐怖の薄さはやはり、この島の平和さと選択肢の豊富さからくるものだろうか。
ただまぁ。ゴーに入ればゴーに従えというらしい。ゴーさん誰だかわからないけれど。

「……飲んでみる」

ジュース缶を手に取りプルトップに指をかけ力を入れる。
プシュというガスの抜ける音ともに炭酸飲料のさわやかな香りと僅かな飛沫が噴出して……

「……?」

来なかった。見事に凍り付いていた。

深見 透悟 > 『だからなるべく声掛ける相手はちゃんと見定めるようにしようと思ってんだけどさー
 いやー、それでもあんまり話し相手が居ない日が続くとついつい声掛けちゃって。』

友人が居ないわけでも無いけれど、やっぱりどこか忙しそうで。
生者と死者の溝を実感させられるわーなんてどこか他人事の様に嘯いた。

『!? ……おぉぉ、思ったよりもグッと来るものがあった。イイね!!』

ここがSNSなららぶりつ連打するところだわ、とまたしても親指を立ててのグッドポーズ。
あとで真相を知った彼女が怖いが、今は怖くないので来る波には乗って行こうと要らんサーファー根性を見せつつ。

『いやー、怖いか怖くないかで言えば……怖くないわけでは無いけど。
 それ以上に好奇心の方が勝っちゃうからなー、知らない物事ってのは。魔術師っていう種族病みたいなもんだよねこれは。
 それにほら、知らないって言ってしまえば俺からすりゃキオンさんだって“知らない”の集合体みたいなもんだし。だからって怖がったりしてたらお近づきになれねーっつーか。』

未知とは解明される余地のあるブラックボックス、あるいは宝の山。
恐怖を感じるよりも先に好奇心が疼き、調べ尽くそうとしてしまうのは透悟が生まれた、此処ではない世界の魔術師が抱えるサガであり業である。

『お、いーじゃんいーじゃんナイストラ……え?凍ってる?』

人が何かに挑戦する姿は美しい、とか何とか宣いながら見守ろうとしていたが、開けられた缶は中身を噴き出す事も無く。
しっかりと固体になっている様だった。
なんで?そんなに寒くはないよな?と首を捻りだす幽霊。

希遠 >  
「そう」

これだけよく喋るのだから生前はさぞかし知人が多かった事だろう。親しい以上の存在もいたかもしれない。
それこそ数年に一度程度しか他人と喋らないような生活を送っていた自分とは大違いだ。
その分さぞかし寂しい事だろう。声をかけたくもなろうというもの。

「?」

相変わらず姿が見えないので推測する程度しかできない。
喜んでいるように聞こえるけれど大丈夫なのかなと内心首をひねりつつも

「……少し理解できる」

自分もほんの少しだけ凝り性なのでそんな所が無い訳でもない。
どれくらいの範囲でどの位気温を下げれば吹雪になるのかとかそういう可愛い程度の好奇心だったけれど。
必要の堰が低くなればなるほどそんな疑問が溢れやすくなるのだろう。

「……」

少し落ち込んでいたので制御が甘くなっていたよう。
足元に目を向けると地面にも霜が立っている。
……彼が幽霊でよかった。生身の人間なら無意識に凍死させるところだった。

「大丈夫、心配しないでダーリン。
 よくある事だから」

はぁ、と一つため息をつきつつ寒気を制御しなおす。
これ以上凍っても困るし。凍ってしまった飲料を温めて溶かすのもいいけれど、多分ホット飲料になるので自然解凍に任せようと思う。

深見 透悟 > 『まーでもその結果、こうしてキオンさんと知り合えたし?
 唐突に話しかけてみんのも悪くはないなーって思った!』

たぶん今回が特別なケースであることは言うまでも無いのだが。
ウッキウキになりながら小さく小躍りなぞしてみる。踊ったところでまあ見えない事には何ら変わりないけれど。

『あ。うぉっほん。……いやいや、今後も是非ともダーリンと呼んで頂きたい物だと。
 あ、理解して頂ける?いやー、この辺の感覚は中々理解を得られないものでねー、キオンさんも魔術師とかそんな感じだったり?』

奇遇ー、なんてキャッキャとはしゃいだり。
今その好奇心は彼女自身に向けられつつあるのだけれど。
勿論自分の置かれた状況も、透悟にとっては好奇心の対象だが。如何せん最近は暗礁に乗り上げていたから。

『はら?ほろ?……よくある事?
 もしかしてもしかすると、それがキオンさんが持つ能力だったり?』

近くの飲み物が凍る、足元に霜が立つ。
であれば周囲の気温も下がってたりするのだろうか、と目の前で起こる現象を興味深そうに眺めては推測を立てていく。
彼女がこの時期にしては厚着なことも関係あったり?と首を傾けながらもその瞳は好奇の光を宿し爛々と輝いていた。

希遠 >  
「そう」

言葉少なく相槌を返す。
ある意味貪欲に縁を作りに行く姿勢は素直にすごい事じゃないかと思う。
仲良くとかそういう感覚はとっても難しいので。

「魔女とは呼ばれていた。」

こちらの魔女という言葉とは少しニュアンスが違うかもしれない。
魔術師とも少し違う。もっと信仰の対象に近い、畏怖と隔絶を示す言葉があるならそちらの方が正しいかもしれない。

「ダーリンは天才魔術師、だから、そうかもしれない」

実際ここまで見えないというのは中々にすごい。
守り人である以上殆どの存在が”視える”はずの自分でもおぼろげにその位置が分かる程度で明確に輪郭を捉える事が出来ない。
そんな状態で自我をしっかりと保っている……成程確かに素晴らしい魔術師だ。
自己紹介でも言っていたしさぞかし名のある魔術師だったのだろう。
さっきアルバイトの事にも興味を示していたし、やはり探求心の強さというのは大きな意味を持つのだろう。

「魔女は皆そう。私の世界では」

神域守と言われる者達は皆多かれ少なかれ周囲を凍らせる能力を持っていた。
だから”私の能力”かと言われると少し違う気がする。
神域守になる……とはそういう存在になる事だから。
全ての生命を凍らせるような、そんな存在に。

「……こちらでは、雪女というらしい」

案内を受けた風紀委員にはそう呼ばれたし、自己紹介の時にはそう伝えろと言われたような気がする。

深見 透悟 > 『そうなんだよ~
 いやー幽霊になってもなお知り合いが増えるってのは有難い限りでさー、だから、これからもよろしくねキオンさん!』

手短な相槌でもやっぱり盛り上がる。
実体もない、姿も認められない幽霊という曖昧な状態となっている身の上であるからか、自己を確立させておくものが極端に少ない。
吹けば飛びそうな自己を保つには、他者との縁が最重要……と本人は無自覚に思っているのやも。

『魔女
 ほぉーん、なるほどねー。魔女か。魔女ー……』

口振りから自分の言う魔術師とは響きが似ても明らかに非なる存在として扱われている事は想像がいった。
噛み締めるように復唱した後、少し考えるように黙して。

『え?ああ、そう?いやいや、自負はあるけど人から天才と言われると何だか照れちゃうなーやっぱり。』

にょっほっほ、と不思議な笑い声を上げつつ身を捩る。
天才を自称する事は多々あれど、それを認めて貰えるのはやはり心地良い。
自称天才魔術師(幽霊)、素直に有頂天。

『へえ、へえ!キオンさんの世界では、魔女はこういう系統の能力を?
 なるほどなー、術式の気配は無かったし大気中の魔力変化も見られなかったけれど……いや、そもそも最初からこの周囲が波長が他と違う……?』

彼女自身に気を取られていて気付かなかったが、改めて周囲も含めてよくよく見れば魔術の行使中と似た様な空間になっていることに気付く。
これは彼女の魔術というよりは、彼女自身が魔術の様な……と頭を回転させる様は、なるほど確かに天才を自称するだけはあるといったところ。

『雪女! なるほどその種族名は俺も聞いた事がある。
 日本に伝わる氷雪や凍結系統の能力を扱う女性の妖怪や物の怪と呼ばれる存在だねえ』

なるほどクールな彼女にはぴったりの肩書かもしれない、と腑に落ちた顔になった。見えないけれど。

希遠 >  
「よろしく、ダーリン」

にこりともしないまま僅かに首を傾げつつそう返す。
打算的な意味合いがあることは自覚しているが、自分は喋るのが正直苦手だ。
こうやってある意味こちらをお構いなしに喋ってくれる人の方が無駄に気を使わなくていいと言えるかもしれない。
……その思考が既に盛り上げなくてはという気を使っているかもしれない。

「天才はその義務の履行なくして成りえない。私のような凡夫とは違う。誇るべき。
 ……空間の波長が違うのは確かにその一環」

ぽつりぽつりと思考を巡らせながら短い言葉をゆっくりと繋いでいく。
魔術を行使するという点では同じだし、魔術そのものである、という点では少し違うけれどこの島ではそれを明確に分けて定義はしていないような気がする。
無音化等の物はよりコントロールが効きONOFFの線引きが出来る分術と区分できるかもしれない……などと。
本人は無自覚だがこういった定義をまず明確化させたがる所はある意味研究者肌であり、似た者同士ともいえる。だからこそこうして変な波長の合い方をしているのかもしれない。

「言語化が難しい」

能力かと言われると難しい理由がそこにある。
魔女の能力というより魔女になる前提、在り方そのものだから。
彼女らからしてみればそれは人が自らを人間と称するようなもの。

「こちらでいう魔力を行使する適正が近い」

興味津々なようなので出来る限りそれっぽい言葉を使って説明してみている。
まるで講義のような口調だが実際にはどう表現すればいいのか困っている口下手魔女その1。

「ダーリンも空間干渉。一緒。
 ……周知が必要」

認識や境界の把握が必要であることは勿論領域内で他人に影響を与えるという点で似たようなことをしている。
見えない、気が付かれないならともかく、あちらと違いこちらでは少し気を抜くと他人が死にかねない。
信仰が無くとも現象は起きてしまうから、自分だけでなく他人にも知ってもらう必要がある。
……正直とても難しいのでこうして理解しようとしてもらえるのはとっても助かる。

深見 透悟 > 『よろしくよろしく~
 やっぱ良いわあ、ダーリンって呼ばれるの。なんだか身体がぽかぽかしてくる。ま、俺今肉体無いんだけど!』

ゴーストジョークも交えつつ、上機嫌で宙を漂う幽霊。
相手の心内など気にせず、喋りたいときに喋りたい事を頼まれずともべらべら喋る幽霊は気を使われても使われなくとも意に介さない。

「あはは、天才の義務か……ま、確かに。誇っちゃいるさ、そりゃもう誇りまくりよ!
 ……なるほど、初対面で言う事じゃないかもだけど、大変興味深いな」

能力というよりは種族、あるいはそういう在り方が近いか、と認識を改める。
自分が幽霊であり、浮いたり物質を透過するように、彼女は冷気を繰るのだろう。
推察を重ねれば重ねるほど、魔術師としての好奇心が刺激される。悪い癖だと思いつつも、生来のものだから歯止めを利かせるのは容易でない。

『そっかー、んじゃ無理して言語化しなくても
 俺の方で勝手に推察出来るし、もし言語化出来るようになったらその時に……』

気が向いたらで良いよ、とひらひらと手を振って応え。
答え合わせを求めるつもりは無い、推察や考察を重ねてしまうのは性分の様なものだから自分の中で据わりの良い解を見出せればそれで良いのだ。

『適正、ね。
 ……はぁ~、やっぱ色んな形があるな、ホント飽きない。この世界は特異が過ぎて飽きる暇が無い!』

術式、能力、在り様。言葉で括るには様々な事象が絡み合う物が多過ぎる。
そしてそれは森羅を読み解くことを目標とした己が世界の魔術師には宝の山だ。勿論、透悟自身もその業からは逃れられない。

『俺も一緒……なのかなあ。かもしれない、確かに!
 まあでも一緒と言うならこのままキオンさんちにご一緒させて貰う方がぶっちゃけ有難かったり。
 どうかしら。幸い俺には、その冷気もさほど効果も無いようだから。』

全ての生命を凍らせるとしても、既に生命で無いものには幾分か効果も薄れるのだろう。
折角の興味をそそられる存在、もっと時間を掛けて理解をしていきたいのもあるが……

『何よりキオンさんがそのジュース飲んだ感想を知りたいし、さ。』

凍ってしまった缶ジュース、自然に溶けるまでにはまだ時間が要りそうだ、と。

希遠 >  
「…?」

ちょこっとだけ首を傾げながらもよっぽどお気に入りの愛称なのだろう。と結論付ける。
名前に誇りを持つのは良い事。あちらの世界でも名前はとてもとても大事だった。
朧な存在であればあるほど。だからこんなに嬉しがっているのはなんだか納得。

「たすかる」

言語に関してはまだ理解出来ない事が多い。
元々言葉というのは得意な分野でもない。良く言葉が足りないと”友達”にも怒られていたっけ。
そういう意味では勝手に推察して理解してくれるというのは甘えているかもしれないけれど楽で良い。

「楽しそうで何より」

随分と楽しそうだなと思う。
同時に最近感じていた違和感の正体に思い至った。

「……そうか」

私は怖がっているのだろう。拠り所もなく、確かで安全と思えるものが何もない世界を。
それほどあの世界を、あの雪と嵐に閉ざされた場所の事を愛していたのだ。
なら、知るしかない。何が安全で何が危険なのかを。
魔法使いになったあの時と同じように。

「構わない」

その手助けとしてこの良く喋る主は適切かもしれない。と魔女は思う。
同時に良くも悪くもこの魔女に自身に対する”プライベート”とか”プライバシー”といった概念は存在しなかった。
そのせいかあっさりと頷き……。

「……しばらくお預け」

まだまだ凍ったままのジュースはこの世界への理解度を暗喩しているようで……。
なお、羞恥心ZEROで日々を過ごす姿が観察できる一方で魔女のもう一つの能力と言える”無音化”がエネルギーの塊である幽霊の類とは死ぬほど相性が悪いというの事が彼が彼女の家で過ごしたなら数日後に判明するかもしれない。

深見 透悟 > 呼称に対する認識の誤差。
というよりは幽霊が一方的に相手の無知にかこつけて悦に浸ってる状況が果たしていつ崩れるのだろうか。
なお、幽霊本人は真相が知れた後の事など既に考えなくなっている。「その時はその時」精神で往くのだ。

『いやいや此方こそ、知見を広げるには思考するのが一番だし、最近この手の考え事はしてなかったから。
 いい機会を得させて貰っちゃって。いやー、ホント助かるわあ~』

とことん我が道を往くことに特化している幽霊は、やりたい事を(怒られない範囲で)やりたいようにやるのがモットー。
そのスタンスに甘えらたところで苦にもならなければ気にもしない。

『そら楽しいっしょ!これぞ魔術師の本分って感じ、くぅ~天っっっっ才の頭脳が滾って来る~!』

いつだって未知との遭遇は心躍るし、事象の解体は腕もとい頭脳が鳴る。
それにまあ、見目麗しい女性と親しくなれるのは男としても本分だ。

『おぉ、話が分かる&早ーい!
 じゃあじゃあ、道案内よろしくねー?』

帰路の同伴に対して了承を得られれば、いやっほう、と少し舞い上がる。
厚いベールの奥に隠された神秘の果実を求めるのは浪漫だねえ、と独り言ちた。
それは世界という壁を越えた先のキオンという存在そのものに対してでもあり、また……先程聞いた90という数字も確かに透悟の頭の中では眩く点滅していた。

『キオンさんちに着くころにはある程度溶けたら良いけど。ま、それは帰ってのお楽しみって事で――』

レッツゴー、と意気揚々と雪を名に冠する魔女と連れ立って帰路についた事だろう。
その後、天国と地獄を一度に味わう事になるなんてことを、今の幽霊は微塵も考えていなかったという。

ご案内:「◆公園「丸々団地前」」から希遠さんが去りました。
ご案内:「◆公園「丸々団地前」」から深見 透悟さんが去りました。