2022/11/18 のログ
ご案内:「◆異邦人街外れの家」に深見 透悟さんが現れました。
ご案内:「◆異邦人街外れの家」に希遠さんが現れました。
希遠 >  
魔女の朝は早い。
大体日の出とともに日の出の祈りをすることから始まる。

「……」


目を開くのは大体日の出より半刻ほど早く。
こちらの世界では朝日が昇るのが一日の始まり。
それに合わせて生活するのにもだいぶ慣れてきた。
疑似的に眠っているとはいえ体がある以上癖のようなものは残っていて……
のろのろと起き上がりボーっとする時間が数分続く。
勿論祈りの時間に遅れない程度ではあるが……こちらに来てその時間が少しずつ伸びたように思う。
時間自体はずっと早いのに。


等と考えている間にも時間は進む。祈りの時間に遅れてはならないと魔女は意識を切り替えると
髪を纏め、装束に袖を通すと扉を開け、向かった先は空が見える屋上。
既に街の喧騒が遠くこの場所にも届いている。平和ないつもの朝。
ほんのわずかに笑みを浮かべ、魔女は僅かに白み始めた方向を向き、つま先でトンっと地面で鳴らす。
時間が早回しで進んだように一瞬で凍り付いた地面に祈りの為の陣が浮かび上がる。
小さなころ、これの練習がうまくいかなくて、泣きべそをかきながら練習した。

『―――』

異国の言葉が紡ぐ祝詞と共に周囲にきらきらと光が舞う。
それは陣と魔女によって生み出されたダイヤモンドダストが光を反射しているもの。
突然生まれた局所的な極寒地帯の影響で周囲が霜の音と共に白く染まっていく。

『―――、――――』

それは世界に火を灯す使途への挨拶と感謝を述べる言葉と詩。
何重にも重なった声は朗々と響き、けれど数mも離れればささやきほどの声にしか聞こえなくなる
そんな小さな吹雪の中で1時間ほど歌い続けた魔女は再び爪先で地面をたたくと踵を返した。
とたんに周囲に気温が戻り、凍る程ではないほどの風が屋上をまた乾かしていく。
響くのは只トン、トンと軽やかに階段を歩く音だけで……
再び住居に辿り着いた魔女は扉のロックキーをたどたどしく押すと扉を開き

「……ただいま」

言いなれない言葉を部屋の中へと。

深見 透悟 > 『ッヘーイ、キオンさんおかえりなっさーい!
 朝のお勤め?お祈り?まあ何にせよお疲れ様だわー
 毎朝やってるんでしょ、それ?俺にゃ無理だね、無理無理。眠いもん』

彼女が声を掛けた部屋の中から、早朝にも関わらず高テンションな返答が飛んでくる。
深見 透悟。先日の邂逅の後、この家の住所を確認した不可視の幽霊は、
暇があるとこうして度々(半ば無断で)遊びに押しかけて来たりしていたのだった。
家主である希遠と関わるには霊体が一番互いにとって気兼ねが少ないという理由から、
今回も例に漏れず無色透明、声が無ければ存在に気付かれすらしない状態。
だからこそ、自分の存在を主張する為にも掛ける声は大きいし、テンションも高い。

『さてさて朝だけどどうする?ご飯にする?朝シャンにする?それとも……わ・た・し?』

最後の選択肢は具体的に何をするのか不明だが、
その場の雰囲気で言ってるだけなのでそもそもまともに取り合わなくても問題は無い。
それくらいの理解は、これまでのやりとりで希遠も薄々察しているかもしれない。
なお、朝シャンを選ぶと高確率で覗かれる。そこはお約束としてね、とは本人談。

希遠 > 「……」

紐が引かれたクラッカーの如く浴びせかけられる言葉に暫く停止する。
若干小動物めいた動きになっているが本当に何度言っても慣れないし、聞いても慣れない。
これまで積み重ねてきた時間のうち、誰かと過ごしていた時間はほんの僅か。
大半が一人で、他人と触れ合うのは数年に一度の祭事の時くらいだろうか。
その数年だってこちらに比べればずっとずっと長い。
その相手が幽霊に相当するものだとしても。

「慣れる」

扉を閉めもた、もた、と電子ロックに苦戦しながらただ一言。
そう言いつつもちっとも慣れない電子ロックを使っているのは普通の鍵だと凍り付いてしまって内部構造がいかれてしまうから。
大変都合が良い場所があって助かるけれど……どうやら以前似たような性質の人物が住んでいた場所らしい。他に住める存在が少ないという理由で家賃はかなり安くしてもらっている。なお先住者は恋人と同棲するとかで円満に出て行ったと家主は話していた。凄い強調していた。聞いてもないのに。

「……おふろ」

幽霊の問いかけにものすごい念押しをする魔女。その言葉には執念めいたものすら感じさせる。
何故かというとちゃんとお湯が出る。魔女がこちらに来て気に入っている贅沢その1なので機会は逃さない。だってお湯が出るんです。沸かした冷水じゃなく。ヒトノカタを取っている以上、感覚だってある程度再現される。温かいお湯を浴びれるなんて贅沢の極みが毎日だって可能ですって。―――――!(素晴らしい!)。

「おふろ」

……そして魔女は覗かれる事に一切の躊躇いが無かった。というよりその行為が問題行動という発想すらなかった。

深見 透悟 > 『おおっと、お邪魔しまーすって言って入っては来てるよ一応
 丁度キオンさん出てった後だったからさー、無断じゃないよ、ホントホント
 まあ今更無断侵入だって言われるとは思ってないけど』

クラッカー幽霊は相手が停止していても留まるところを知らないらしい。
連射砲の如くに言葉を投げつけてはふわりふわりと宙を漂う。
聞かれてもいない言い訳まで一方的に捲し立てて、満足げに胸を張る。表情も言葉に合わせころころと、噺家のように変わっているのだが残念ながらそれら全て視認する事は出来ない。

『慣れるかー……慣れるんかなー』

電子ロックの施錠に手間取る後ろ姿を見ながら手短に告げられた言葉を復唱する。
ちなみに先住者についての情報は聞き及んでいない。興味も無いから訊ねなかったし、訊ねなかったからキオンも話題には上げなかった。
ただ、彼女と同じような異邦人か、冷気にまつわる異能を持った人が住んでいたんだろうなー、くらいの認識はあった。

『ハーイ、お風呂頂きましたー!え、マージで!?
 いやー、早起き……いや、俺の場合夜更しか。何にせよ朝に来てみるもんだ』

勢いで投げた質問がホームラン級の回答を得られ、選択肢に入れておいて驚く幽霊。
ふわりふわりと彼女の傍らへと漂って来ると、ここが幽霊のベスポジ!とばかりに彼女の背後、肩の上辺りに陣取った。

『やっぱり気持ちのいい一日は朝のお風呂からだよねえ!
 さーーーっすがキオンさん分かってらっしゃる!それじゃあめくるめくバスタイムにレッツゴー!』

さも当然の様に同行する気満々の幽霊。
遠慮というものは無いのかって? 元居た世界に肉体と一緒に置いて来ちゃったかもしれない☆(本人談)

希遠 >  
「ん」

漂う声の出どころを探すように僅かに視線が左右に泳いだ後、じっと固まって耳を傾ける。
そして小さく頷くとこちらで一般的な服装の着替えを棚から取り出し、足取り軽くお風呂場へと向かった。
はらりと装束を脱ぐと軽く畳み、そわそわと蛇口へと手を伸ばす。

「―――♡」

ノブを捻ると噴出したお湯に思わず笑みと喉を鳴らすような声を漏らした。
そのままお湯を浴びながら目を瞑りふぅと深く一息。肌を伝い流れていく温度と感触を楽しむ。
濡れた布で肌と髪を拭き、香草を練り込んだオイルを練り込んだあとその家に関わる祖霊に応じた化粧をするのが一般的だった。燃料は貴重なので温いお湯でもお客を迎えるための特別な作法で、贅沢。それなのにお湯を浴びるほど使ってもいい?なんて素敵!飽きないの?飽きる訳がありません。

「ん」

ふと我に返る。耳に近い位置から声がした気がする。どうやら声の主が近くにいるらしい。
魔女の知る限り、自身と幽霊は似たような物ではあるが「ダーリンさん」ことトーゴについてはいくつか疑問がある。自分は「かつてヒトであった頃の自分」を模倣しているため食事や睡眠も”模倣”している。実際には湯浴みも睡眠も必要ないとしても”ヒトノカタチ”と”ココロ”を保ち続けるために。けれど彼はその肉体すらそこに存在しない。体もないのに眠くなるのだろうか。食欲がわくのだろうか。そうだとしたら自分の知っている幽霊とは少し在り方が違うのかもしれない。

「ダーリン」

とはいえエネルギー体であることは間違いないと思われるので短く呼びかける。魔女としての自分は一種の魔法生物であり、その維持のために周囲からエネルギーを様々な形で吸収し続ける。いわば本質的な食事はこちらが正規なもの。お陰でこちらでは何らかの形で魔力を補充できるものを買い続ける必要があるのだけれど……。

「近い、危ない」

その辺にいるであろう位置をじっと見つめた後ぼそりと。
今日はまだ食事をとっていない。補充する前に油断するとエネルギー体であると思われる彼を”喰い”かねない。元の世界にいた頃のように。因みにこれまでに何度かヒヤッとしている。雪女ですけれど。

深見 透悟 > 『…………』

短い付き合いながらも、彼女が現状何よりも尊んでいると思しきシャワータイムを騒がしくしては流石の透悟も申し訳が無いと思うらしく。
すんっ……と静かに黙りこくると、おずおずと彼女の後に続いたのだった。
常世島の住人としても、異邦人としても先達であるから守護霊よろしく彼女を人知れず見守る心積もりに他意は無い。無いはず。たぶん。

『はぁ~~~~~~早朝からクールガールのシャワーシーンめっちゃ眼福ぅ~』

他意しかない気がする。
着替えを取りに向かう様子から始め、お湯の感触を彼女が堪能し始めるまでを見届け、ようやく口を開いて出てくるのは感極まったと思しき溜息。
今器ががあればご一緒したのになあ、などと宣っていたが、声を掛けられればハッとこちらも我に返る。

『はいはい何でしょキオンさん?
 シャンプー切らしてた?それともボディソープ?
 はたまたタオルを忘れて……ないね』

だとしたら何か問題があるのだろうか、と問題の塊のような幽霊が怪訝そうに首を傾げたが。
続く言葉には更に首を捻る。勿論視認されない仕草なのだけれど。

『危ない?近いと危ない……
 いやまあそりゃあキオンさんの小柄な背丈に似合わずダイナマイトなダイナマイツ(複数形)は一都市壊滅も夢じゃない代物なのは違いないけども?』

己の身に対する警告とは夢にも思わず見当違いな返答を返す。
なおこの幽霊の原動力であるところのエネルギーはいわゆる人間の煩悩と同じ類のもの。
故に、サービスシーンを特等席で見るなんて状況に活動エネルギーはフル生成中。
生成され過ぎて余りまくっているので、多少齧られたところで影響は無かったりする。ぶっちゃけ透悟一人分くらいの余剰エネルギーがあるだろう。

希遠 >  
「……?」

思った以上に元気そうだった。相変わらず喋る喋る。まるで氷雨のよう。
幾つかわからない言語があるけれど至って問題なく楽しそうなのでまぁいいかと魔女は。
責任が取れない範囲ではあるけれど本人が良いなら気にしないのが良い。良くも悪くも。

「……平気なら良い」

感じられる気配は余剰エネルギのようなものなのだろうか。感知できないだけで別で体があるのかもしれない。
心配事が減ったならあとはお風呂を楽しもうと思う。
ひとまず髪をくるくると巻き上げ氷柱のような簪で固定して……

「♪」

のんびりと目に見えて上機嫌でお風呂を楽しむ。
シャンプーもボディーソープも悩みに悩んだ選んだお気に入りの香草の香り。
お風呂いっぱいに広がったそれを楽しみながらゆっくりと体と髪を洗って……

「……ふぅ」

十数分後、湯船につかってほぅと白い吐息をこぼす魔女の姿が!
ものすごい勢いでお湯が冷えていくので追い炊き機能は必須ですがそれもちゃんとついている。
げに素晴らしきかな機械文明。と先住民。お風呂に関してはすさまじい勢いで適応中。

「ダーリンは、お風呂
 入らない、の?」

お湯で上気した表情の中、ふと沸いた疑問。
文化的に異なる風習でもこんなに楽しいなら色々と受け入れやすいと思うのだけれど……
少なくとも物理的にお湯を浴びれそうな感触はしない。元の体の方は普通に生活しているのかもしれないけれど。

深見 透悟 > 『それにそれに俺という男にはちょっと危険な方が様になるってもっぱらの評判で
 だからキオンさんは一切気にせずお風呂を満喫して頂ければと思うますですのよ!』

しがない木っ端幽霊の事なんて意に介さなくても結構でござい、と気を使ってるのか、己の欲望に誠実なのか分からない姿勢を見せる。
実際こうして希遠が入浴中はエンドレスでエネルギーが生成されるので無問題。ある意味食べ放題。

『ふぅ~~~、はぁ~~~~
 果たしてこんなにも幸福漬けになっていて良いのだろうか。いや良いんだろう。良い!俺が決めた今決めた』

懸念事項も解消されたのか上機嫌にお風呂を楽しみ始めた彼女を見守りながら感慨深げに溢す。
生成されるエネルギーは既に一日分の活動も楽々こなせそうな程で、今なら特大魔術を無詠唱で連打も出来るとは本人の言。
げに恐ろしきは魔女の齎す力であろうか。ただお風呂入ってるだけだけどね。

『はぁ~……生まれ変われるならこのお風呂のお湯になりtえ?ああ、はいはい俺?
 俺はほら、霊体じゃ暑い寒いも分からないし、勿論お湯の暖かさだって分かんないから
 入ってるフリ、なら出来るけど所詮フリはフリだし』

絶え間なく湧き上がる湯気の中、湯船に浸かってくつろぎながら声を掛けてきた魔女へと答える。
こちらの世界の肉体もとい器は、現在男子寮で絶賛活動停止中。中身がここにある以上動くことは無い。
もう一つの活動用器であるぬいぐるみに関しても同様。よそのお家で本来のぬいぐるみとなっている。

『俺はこうして希遠さんがこっちの世界を満喫してるのを見守れるだけで充分オブ充分
 アヒルの玩具でもあれば憑依してプカプカ水面を漂うくらいは出来ると思うけど……』

言葉と共に湯船へと目を向ければ、同様にプカプカしている双つの半球は目も覚める白さ。
さながら雪化粧の双子山だなあ、としみじみと吐息を溢して。

希遠 >  
元気の有り余るといった調子の声にゆらゆらと湯舟で揺れながら耳を傾ける。
マシンガントークの割に(こういうのをマシンガントークというらしい。勉強した)自分の事を喋らない気がする。
自分のきき方が下手なだけかもしれない。少なくとも我慢しているという印象も受けない。むしろ満足そう。

「そ」

滅茶苦茶テンションが高いということは伝わってきた。心配するだけ無駄な気がしてきた。
そっけなく呟くとざばぁっとお湯を滴らせながら湯船から立ち上がる。
もう十分温まったし、これ以上は流石に燃料費が嵩む。

「上がる」

お風呂から出るのを上がるというらしい。
お湯につかっていると蕩けてそのまま深く深くに沈んでいきそうになるので多分そういう表現なのだろうと魔女は解釈していた。
このまま蕩けっぱなしだとまた調整が大変。
ぽたぽたと雫を垂らしながら体を伸ばし少し遠い場所に置いてあったタオルへと手を伸ばし、ふと動きが止まる。
その姿勢のまましばし思案した後、首を傾げ

「ダーリンは、普通のヒト?
 へんじゃない?」

若干どころかだいぶ酷い言葉足らずの質問を。

深見 透悟 > ミステリアスでクールビューティーなトランジスタグラマ―のお風呂シーンを目の前にして元気の有り余らない男子など居ない。
兄に勝る弟並みに居ない。後に透悟はそう力説したという。
確かに自分自身について語る事は少ない幽霊だが、単純に語るほどのものじゃないという意識が強くある所為だ。

『まあ、そんなフリの真似事でも気が向いた時にやってみると存外気持ち良かったりするからお風呂って偉大よね~』

湯船の縁に腰掛けて、お湯の水面を指で突いてみるけれど波紋ひとつ立たないのを確認し。
どうせならお山もつっついてみようかなんて暴挙に出ようとした矢先、唐突に希遠が立ち上がって。
おひゃあ、と素っ頓狂な声を上げながら床に転がり、尻餅ついた姿勢で見上げればこれまた絶景。

『はいはいー、十二分に温まれたようで何より何より
 水を弾き湯気立ち昇るお肌もまた眼福至極でございま……ぉん?
 ……俺?普通か変か?
 そりゃあ俺ってば天っっっっっっ才魔術師でしてよ?普通の枠には収まりませんわよ?』

何処を見ても目が幸せになりそうな彼女を見上げながら、えっへん、と変な幽霊は胸を張る。
どちらにせよ普通では無いのは確か。ていうか幽霊の時点で普通ではない。

希遠 >  
「フリ、はとても大事」

事実こうしてヒトのふりを続けているから曲がりなりにもヒトで居られる。
少なくともヒトの欠片は持ち続けているつもりだ。
けれど、それにはいくつか問題があって……。

「そう」

普通の五感の持ち主か、という意味だったのだが伝わる訳もなく。
そもそも幽霊相手に聞く事ではないかもしれないが……
良くも悪くも幽霊が日常過ぎてその辺りの感覚が欠落している魔女は返答も文字通り受け取る。

「……なら無理、か」

タオルで髪を抑えながら思案する。
お風呂から出たら核の方の”お風呂”をしなければいけない。
こちらに合わせた感覚に調整する必要がある。この世界は騒がしく、色々と刺激が多すぎる。
そもそも一般的なヒトの感覚というのは忘れがち。というのもあるけれど、
この世界の基準的感覚というのがどうにもわからない。
昔は魔女同士である程度”体”を預けて調整していたけれど……
こちらでは雪の代わりに音と色が溢れているので実は少し困っている

「そろそろ、感覚調整、しないと」

天才魔術師なら自分の感覚をいじっていても不思議ではない。
元世界の魔術師と呼ばれるヒト達は大体冷気に対抗するために感覚をいじっていた。
生憎そういった方向には詳しくないし、詳しそうな知り合いもいない。
そもそも知り合いがいない。本人は無自覚なものの大変人見知りなので。
何なら幽霊だからこうして会話が成立している。
なお、本人は会話が得意な方と思っているのだから質が悪い。

「体、調整できるヒト、しらない?」

これだけよく喋る幽霊なのでもしかしたらそういう知り合いがいるかもしれない。
沢山喋れる人は知り合いが多いというか……(コミュ力があるというらしい)
そういう技術がこの島になら在りそうな気がする。
何故か低い所からする声に向かって顔を向けて首を傾げる

「最悪体感、意見だけ、くれるモノで、良い」

深見 透悟 > 『一理ある。ありまくる
 実際のとこ、こうして幽霊してても生きてた頃のフリをしてるに過ぎないしなー
 ……もしフリを止めてたらもっと違う存在になってそうだもん、俺も』

もっとホラーな亡霊じみた言動をしていた気がする。
それでなくとも今のこの状態は色々な物に引っ張られ過ぎるきらいがある。生者の無意識に引っ張られたりとかなんてしょっちゅうで。
だから人の多いところは霊体では近寄らない様にしていたりもするのだが。

『なーになに、何のお話し?
 感覚調整、って……もしかしてヒトとしての感覚、ってこと?』

思案気な彼女の言葉に、というか無理というワードに耳聡く反応。
天才を自称する以上、無理とか出来ないという言葉には思うところがあるらしい。
続けて呟かれた言葉に、ふと思ったのか訊ねながらも勝手に推察を重ね始めて。

『カラダを調整……感覚だけじゃなくて、身体を?
 肉体の調整……ハッ、まさかそのご立派オブご立派なお胸様がお縮み遊ばされたりも!?』

雪の魔女の問いに思わずその肢体をまじまじと眺めた刹那、ピーンと思考回路がはじき出した答え。
頭の回転は速い方だけれど、思考の方向が明後日を向いていた。具体的には下方面。
そんなこと とんでもない!と目を見開くも多分勘違いだろうとは思いつつ。

『ああ、体感ね。そういう意味なら、心当たりはあんまり無いけど。
 さっきの質問と合わせて考えりゃ、感覚が普通か否かなら俺だって十分普通の範疇よ。暑い寒いも今は分からんけど、ちゃんと器に入れば感じるし。』

天才魔術師を名乗ってはいても、人間らしさは失いたくない。が彼のポリシー。
故郷の他の魔術師は彼女が思う通り、自身の感覚や肉体をある程度弄ってはいたが、それに反発し人間としての感性を残したうえで成果を出したが故の“天才”だったのだから。

希遠 >  
「……その割に、は、フレンドリーだった…気がする」

生来の気質というのはあるかもしれない。
古い友人にも一人そういう魔女がいた。
騒がしくって明るくって、そしてそう在りたいんだと楽し気に言っていた友人が。
その面影を彼の中に感じるから、これだけハードルを感じないのかもしれない。
そう考えると今の彼が彼のままでいてくれてよかったと思う。

「そう」

口数に反して察しが早い。こういうところは大変助かる。
というより口に出しながら整理するタイプみたい
自分一人で調整し続けるとどうしても少しずつズレる。
料理を続けるといつの間にか味が濃くなるという。
それとよく似ているかもしれない。

「多分、出来るけど
 ……へん?これ」

若干困惑しながら服に袖を通す。
体の調整は出来なくもない。その必要が良く分からないだけで。
確かにこちらの世界ではあんまりこの体系みない気がする。そうでもない気もする。判らない。

「こちらの世界の平均、が、判らない。
 多分、感覚がズレている、のは間違いない」

淡々と、けれど僅かに困惑が含まれた口調でぽつぽつと。
実際本人の自覚が無いだけで多種感覚は諸人の数倍鋭敏であり、体感速度に至ってはだいぶ狂っている。
吹雪の世界ではそれぐらい鋭敏でなければ生きていく事すら難しいというのもある。
痛覚がほぼないのは忘れてしまったからだけれど

「……普通、に生きていく
 わからない。難しい。
 ……せめて感覚位は、合わせたい」

表面が白くなっている椅子に腰かけ、暫く黙った後小さく呟く。
衣服の肌触りもいいし、お風呂も快適だけれど
洪水のような情報量の波にこの感覚の鋭敏さは少々しんどすぎる。

深見 透悟 > 『それは……まあ、そこは生前の俺の理想も込みだから、かな』

故郷では周囲と隔絶していたから。というよりは、周囲に人との関わりを厭う人間しか居なかったから。
しかし魔術師という人種において己の研究の為に人との関わりは最低限にするのは理に適っていたため、不要とされて削ぎ落された結果だ。
その状態がデフォルト、いわば“普通”であったのに対し此方の世界の人間の感性を持っている透悟は“異端”の側である。

『なーるほど!感覚の調整、か……
 器作る時に俺も似た様な事をしたんじゃないかと思うから、出来なくは無いと思うんだけど。』

理論や方法に齟齬が生じると宜しくない。
ましてや感覚、感性と言った物理的でない部分は思っている以上に細やかな調整を必要としたりもする。
出来なくはない、とは言ったものの、その前により詳しく理論を知る必要はあるな、と割と大きな声で独り言ちる。

『ってお縮みなさる事も出来ましてっ!?
 変だなんて滅相も無い!素敵!最高!ビュリホー!出来る事なら埋まりたい!』

困惑している彼女を更に困惑させかねない賞賛の嵐。
初めての邂逅時には90と聞いていたが、実物を見れば絶対それ以上あると透悟は確信していた。実数値は知らないけれど。

『平均だなんてわざわざ均さなくても、大きい事は良い事……あ、そっちの話では無く?
 けれどまあ、過大もあればも過小ある、だからアベレージが存在する。わざわざ平均値に収まろうとしなくても、良いとは思うけどなあ』

とはいえ彼女は在り様が人間とは異なる、というのは短い付き合いでも理解している。
であれば彼女の言葉通り、この世界で生きるために適した感覚は必要なのかもしれない。

『普通に生きなきゃいけないって法則も無いけども
 そういう事ならこの天っっっっっ才、一肌脱ごうじゃありませんかっ!
 まあキオンさんの方が先にお脱ぎになられてた訳だけども』

眼福のお礼に、と静かに腕まくりをする幽霊。もちろん見えない。
そして己の胸を拳でドンと叩いて胸を反らして見せた。見えないけれど。

希遠 >  
「……」

いつも明るい声が一瞬陰りを感じさせるものになった事には気が付くも、
コミュ障魔女はどう声をかけるべきかわからなかった。
そう在りたかったという理想があるということは素晴らしい事だろうけれど
そう在れない事情があった事もうかがえる。その葛藤は少しだけ、判る。

「そ」

その感傷に浸ることなく連ねられた言葉に一つ頷いて。
こちらに来ていくぶんの時間が経つ。
肌感覚だと数か月だけれど、こちらではもう半年以上たつらしい。
そんな話をお仕事しているときに聞いた。
その割には太陽が良く上る。早いのか遅いのかよくわからない。

「単純に、不便」

少し困ったように口にする。
目立つといいことが無いというのが今の所の感想。
こんなに色々にあふれているのに多様性に関する寛容性が自分の世界と同等かそれ以下というのはどういう理由なのだろう。
その辺りももしかしたら何か見落としている部分があるのかもしれない。
なんにせよ今、いうなれば雛鳥の状態。吹雪の中を飛ぶことは出来ない。

「多少好きにいじっても構わない」

何やらテンションが上がっている彼がそういうなら必要な事なのだろう。
天才らしいので細かい調整に役立つ意見をくれるかもしれない。
世の天才というのは感覚で事を成す者達もいるので一概には言えないが……
少なくともそれほどの才が無いと認識して生きてきた自分よりは信頼がおけるだろうと魔女は判断して。

「お願いして、い?」

そのまま首を傾げる。

深見 透悟 > 『なーんて!柄にも無いこと言っちまったよ!あはは、気にしないで!』

深くにもしんみりさせてしまったと、取り繕う様に幽霊は笑い声を響かせる。
死とは肉体からの解放となり真の自由であると提言する者も居るという。形は違えど一理あると思えてしまうこともある。
現に今こうして幽体として活動する自分は、故郷に居た頃よりもはるかに自由、だ。

『感覚の調整ねえ……まず現状を知らないことには始まらないな
 さっきの様子だと熱さ冷たさに対する感覚は普通、だと思う。となると他の感覚がズレてたり?』

平均値を探る前に今の値を知っておく事は肝要だ。
彼女の感覚のことは彼女にしか分からない。出来る限り詳細を教えてくれると助かる、と告げて。

『なるほど……大きいと肩が凝ったり揺れたり人目を引いたり……あ、そっちじゃなく?
 不便、不便ねえ……例えばどういった不便?』

脱線はデフォ。さっきまで湯浴み姿を備に見ていたのだから無理もないとは本人談。
何なら服を着た今でも鮮明に透視出来る気がする……のは置いといて。
どういった問題が生じるのかという事にもヒアリングをしておきたいと伝える。
問題点で調整箇所を、現在の感じ方で調整幅を決めることが出来るだろうと推察してのこと。

『いじっ……!いやいや流石に俺でもそんな邪な事は考えないぞ
 まあ何にせよ幽体のままじゃ厳しいや、ちょっと器取って来るかー
 走って来るのは怠いから転移魔術使おっと。幸い魔力は豊富だしふひひ。』

まだ普段の起床時刻よりも早いくらいの時間。
男子寮まで帰って、それからまた来るにしてもぜんぜん朝の範疇を出ない事だろう。
有り余る幽体の活動エネルギーはそのまま魔力へと転じる事も可能だから、多少複雑な魔術を必要としても対応できる、はずだ。

『オッケーオッケー、この天っっっっ才にお任せなさい!
 お礼は先払いで頂いてるので結構よん』

得意満面と言った様子で頷く幽霊。見えないけれど気配だけでも伝われと親指を立ててもみたり。