2024/09/20 のログ
緋月 >  
「重鎮……ですか。」

…何と言うか、また『先輩』の底知れなさのひとつを感じた。
まだ「罰」から日が立ってないというのもあるが、それを抜きにしても、この先ずっと、
あの小さな先輩には頭が上がりそうにない気がする。

「い、いや、それは…その……。

学内(ここ)でそのお話は、ちょっとだけ、控えめにと、言う事で…。」

少し赤くなりながら、照れ隠しにまたポテトサラダに箸を伸ばす。
その反応で、凡そ直感が外れてはいないだろうというのが分かりそうなものだが。
それにしても、おいしい。肉は育つのに大事だが、野菜を疎かにするのもよくない。

「そうなんですか…それじゃその時は学食か、外で何か買って食べているんですか?
まあ、私もよく外…コンビニエンスストアのお世話になる事はありますが。
おいしいんですよね、あの、煮卵が入ったおにぎり…。」

つい食事事情の一端が口から洩れてしまった少女。
お弁当を前にしては、少し失礼な発言だったと少し反省しつつ、今度はハンバーグにお箸を伸ばす。

「これもおいしいですね…!
偶にしか作ってくれないというのは残念ですけど、作ってくれた時は
心にも贅沢なお弁当になりそうです。」

おいしいご飯は心の栄養。
 

ポーラ・スー >  
「あらあら、照れちゃってたのね?」

 そう言ってくすくす笑った。

「あのお嬢さんってば、とても素敵な子だったから。
 お似合い――ふふ、そう言えるといいわね。
 ああでもちょっと、余計な事も伝えちゃったから、申し訳ないわ」

 そう、少し悩まし気に眉を下げ。
 彼女に伝えたあの『場所』が、悪い結果をもたらさないと良いとは思うのだが。

「んーん?
 わたしは、普段からお弁当よ。
 子供たちのお弁当も作らないといけないもの」

 なんて、さらっと誤解されそうな言い方をしつつ。

「あぁうんうん、わかるわっ!
 あのコンビニご飯、たまーに食べるととってもおいしく感じちゃうのよね。
 ふむふむ、るなちゃんは煮卵が好きなのね、覚えておくわ」

 そうにこにこと笑いながら、楽しそうに。
 本当に他愛のない時間を嬉しそうに過ごしている、そう見えるだろう。
 ――そう過ごせていたらいいと、女はいつも願っている。
 

緋月 >  
「むう……って、余計な事って何ですか、心配になります…。
まあ、今度会った時にもし訊けるようなら本人に訊いてみますけど。」

とりあえず、今はご飯の時間。
余計な事は考えず、午後に向けてしっかり食べて置こう。

「へぇ、そうなんですか――って、子供…!?」

ちょっととんでもない事を聞いた気がする。
まさか……この先生、子持ち…!?
早速誤解が走っていそうな書生服姿の少女。

「あ、分かりますか?
最初はご飯をどう作るか分からなかったので、お世話になってた事が
多かったんですけど…結構、嵌ってしまって。
煮卵も好きですけど、おにぎりの類は基本なんでも好きですよ。
やけにお高そうな包装のおにぎりは、最初は疑ってかかってたんですけど、
実際食べてみたらすごくおいしくて――」

と、お話する間にも、順調にお弁当の量は減っていく。
あまり背は高くない方の少女だが、どれだけ入っていくのか、疑問に感じるかも知れない勢い。
ともあれ、思わぬご馳走を頂けて満足そうである。
 

ポーラ・スー >  
「うふふ、大したことじゃないの、ちょっとだけね。
 大事な頼まれごとをしちゃったから、その意趣返し、かしら」

 彼女から預かった『大事な物』は、すでに委員会で審査中だ。
 それが彼女の望む結果として実を結ぶまでには――まだまだ時間が掛かりそうだが。

「――あら?」

 驚かれると、ああ、とばかりに両手を合わせた。

「そう言えば、るなちゃんは知らないわよね。
 わたし、教会の司祭と、養護施設の院長をしてるのよ」

 女を知る人間は、『不可侵の領域』としてその存在を知っている。
 侵犯する事は、命を失うよりも恐ろしいと知っているからだ。
 けれど、少女にそんな事を知る機会があったはずもない。

「ふふっ、もうほんとにおにぎりが好きなのね。
 それじゃあ今度、わたしの手作りおにぎり――」

 ――ドクン、と。

 あり得ないはずの音が、女の頭に響いた。

「――けほ」

 口元を抑えて、小さくせき込む。
 その袖口は――女自身も驚くくらい、朱に染まっていた。

「あら――」

 そう、女にしては珍しく、本心から驚いたように小さな声を漏らして――重箱をひっくり返してしまうような勢いで、テーブルに倒れ伏した。
 

緋月 >  
「は、はぁ…意趣返し、ですか。」

大事な頼まれ事、と言われて真っ先に思いついたのが先生の立場。
あまり外に漏らすと良くないかも知れないので、深く訊ねるのはなしにしておこう、と思った少女。

「あ、はあ、教会の司祭…というと、アレですか、神職ですか。
養護施設…は、聞いた事があります。孤児院とか、ですよね。
そうか、子供ってそういう――ちょっとびっくりしました。」

事情を知れば納得。
変な事はなかったようなので、ほっと一息。

「まあ、子供の頃から親しんでましたから、おにぎり。
コンビニエンスストアで買えるような、色んなものは後から知りましたけど。」

と、そんな返事を返した所で、
 

緋月 >  
「……あーちゃん先生?」

小さな咳に、思わず視線を向けると、
そこには、袖口を真っ赤な飛沫で汚してしまった先生の姿。
そのまま、勢いよくテーブルに倒れ伏す姿を見て、

「せ、先生!?」

がたん、と、席を立つ。
素早く様子を確かめようとする。吐血に、突然の倒れ方。
流石に、ただ事とは思えない。

もしも意識がないようなら、大急ぎで生活委員を呼びにかかるだろう。
直ぐに保健室か――あるいはもっと、しっかりした設備の病室に運ばなければいけないだろうか。
 

ポーラ・スー >  
「ああ――」

 愛しい生徒の慌てた声。
 同時に――あり得ないはずの、『鼓動』が頭に響き続けている。
 それは尋常では『起きてはいけない』事のはずで。

(――なにを、するつもり?)

 女を管理するはずのあの男(・・・)が、なにかを始めようとしている。
 そう、先日会った時――酷く焦っているようだった。

「る、な、ちゃ――」

 かすれた声で少女を呼び、その手を弱弱しい力で掴む。
 少女の手に、童女のように細い指先で、文字をなぞった。

 ――『第二方舟(セカンドアーク)』――

 それは助けを求めようとしたのか、それとも、『彼』を止めてほしいという願いなのか。
 理由はわからないが――女はそのまま意識を失う、
 そして少女の報告をもとに、速やかに医療機関へと緊急搬送されていったことだろう。
 

緋月 >  
「先生…!?
無理にしゃべらないで、今、生活委員の人に連絡を――」

無理に口を開いて、また何かが起こったら大変だ。
何とか落ち着かせようとした所で、手を掴まれ――

「……!?」

――指で、何かを書かれている。
文字…漢字か?

(この短時間なら…っ!)

こっそりと、バレないように他心法を起動。
シミュレート力の極端に増大した脳で、なぞられた順番を確かめ――

(…第二、方舟…? つっ…他心法、遮断!)

小さく頭痛を感じた所で、怪しまれないように術を解除。
幸い、ごく短時間の起動だったので、軽い頭痛だけで済んだ。

そのまま、なす術もなく、搬送されていく先生を、書生服姿の少女は見送る。

「……ポーラ先生…。」

一体、あの書き文字は何なのか。
先生は己に何を知らせたかったのか。

わからない。わからない、が――

(……調べる位は、した方がいいかも知れませんね。)

静かに、少女は決意を固める。
 

ポーラ・スー >  
 ――こうして、子供たちに『あーちゃん』と親しまれている教員、ポーラ・スーは緊急入院する事となった。

 意識不明の原因は『大量失血によるショック症状』。
 生命維持装置に繋がれ、辛うじて命を繋ぎ留められる事となった。
 ――そう、各所には報告されるだろう。

 しかし、決して書かれない情報がある。
 患者『ポーラ・スー』には――心臓が存在しなかった(・・・・・・・・・・)のだ――

 

ご案内:「第一教室棟 食堂」から緋月さんが去りました。
ご案内:「第一教室棟 食堂」からポーラ・スーさんが去りました。