2024/09/21 のログ
ご案内:「第一教室棟 教室」に東山 正治さんが現れました。
ご案内:「第一教室棟 教室」に五百森 伽怜さんが現れました。
東山 正治 >  
常世学園 某教室。
時刻は夕暮れ。窓から漏れる夕日がやけに明るい。
既に本日の授業は終わり、生徒は皆自由時間。
そんな空き教室の一角に、東山はいた。
窓を眺める視線は定まらない虚ろな視線。
何時もの事だ。何も見ていないわけでもないし、
気も定まらないわけではない。寧ろ意識はハッキリとしている。
一応此処は校内。神聖な学び舎。タバコはご法度だ。
ついつい無意識に懐に手を伸ばすば、おっと、と肩を竦めてストップ。

「さぁ、て、と。来てくれるかね……?」

今日はそんな一人の生徒の時間をお借りする予定。
所謂"個人面談"という体で教室を借りている。
とは言え、自由な校風だし何より強制ではない。
うら若き乙女にも色々事情はあるだろう。
ああ見えて遊び盛りかも知れない。学生なら仕方ない。
"ワケアリ"の子ではある。今回の為に"対策"も施した。
此方としては折角だし来てもらえると助かるのだが、さて。
ゆるりと首は、教室の扉に視線を戻した。

五百森 伽怜 >  
廊下から近づいてくる足音。
放課後の廊下に刻まれる足早な歩みのリズムは、
教室の前でぴたりと止まる。

数瞬の後。
小突く(ノック)音が二度、扉を小さく震わせた。

「失礼します……ッス」

扉の向こうから聞こえてくるのは、少女の声。
震えたり裏返ったりしている訳ではないが、
それでも中に、何処か強張った緊迫の色が見て取れる。

相手が教員であり、面談として呼び出されたこと。
その相手が男性であること。
教室に呼び出された少女(サキュバス)からすれば、
胸の内が強張って当然ではあろう。

「入っても、良いッスか……?」

東山 正治 >  
コンコン。小さなノック音。
続けて強張った声音は、何時ぞや聞いた女子生徒のものだ。
職業柄、多少の心理の機敏は理解する。
尤も、彼女の経歴を考えれば当然の事だ。
おまけに、自分が異性であることを考えれば尚の事。
自然と口元は、何時もの嫌味なニヤケ面に戻る。

「どーも、五百森ちゃん。
 逆瀬ちゃんとこで出会ったきりだったけかな。
 ま、立ち話をする気はねぇし、中へどうぞ?」

「……つっても?センセー"事情"は理解してるつもりなんでね。
 別にこのままでもいいよ?今時、顔みねェ面談も珍しくはないしね」

一応初対面ではないが、何かとあの時はごたついた。
教師と生徒。実質初対面と言っていい。
扉一枚隔てているが、彼女にとっては大きな一枚。
一応中に入るように促したが、一応己は教師。
自らで色々対策は施しても、それは此方の都合。
尊重すべきは、生徒(かのじょ)の意思である。
どうする?と、静かな声音が、一枚の(カベ)から聞こえてくる。

五百森 伽怜 >  
自らの手を胸に当てて、すぅ、と息を一つ吸う。
そうして緊張に閉ざし気味の唇から息をゆっくり漏らして。

「それじゃ、失礼します……ッスよ」

ここまで足を運んだのは、彼女の意志である。
今日は薬もしっかり飲んでいて、準備も万端だ。

少しばかり前に鞄をひったくられてしまったのだが、
財布の中身以外は風紀委員のお陰で戻ってきたので、
何もかも買い直す羽目にならなかったのは、まだ救いだった。
補助制度を活用し、何とか今月分の薬も買うことができている。

対策は十分。
その筈だが、やはり男性と二人きり、というのは。
手が震える。教室の扉がいつもよりずっと、大きく見えた。

『五百森君、君は補習だ。放課後、教室に来てくれるか――』

いつかに聞いた――

『――ようやく二人きりになれたね』

――教師()の声が、脳裏を掠める。

胸の内から苦くて酸っぱいモノがこみ上げそうになる。

粘性をもって、思考に蜘蛛の巣を張ろうとする記憶を、
軽く頭を振ることで追い払う。

ここで立ち止まってしまったら、前に進めない。
もう一度呼吸を深く行ってから、五百森は扉を元気よく開けた。

「こんにちは……ッス!」

教室に、快い声が響く。
扉から現れたのは、鹿撃ち帽の少女。

東山 正治 >  
数分の沈黙。
今日は(コレ)と面談かな。此処までは想定通り。
そう簡単に自らの事情(じんせい)と向き合えるはずもない。
流石にハードルが高かったか。オンラインにしとくべきだったか。
丁度いい。一本吸いたかった所だ。目の前にいないなら吸ったてバレ────……。


────……ガラッ。


「……あっ」

間の抜けた声が漏れた。
元気よく開かれた扉の向こう。
そこには丁度懐から煙草を取り出している男教師の姿がばっちし。
(レンズ)がバッチリ特ダネを掴んだ瞬間だ。
此れには流石に東山も苦笑い。
待った待った、と言わんばかりに煙草を持ったまま両手を上げる(ホールドアップ)

「ちょっとちょっと、
 開ける前にもっかいノックしてよ五百森ちゃぁ~ん。
 ……煙草(コレ)ね?未遂だからね?まだ教室(ココ)じゃ吸ってないからね?」

だからやめとけよ。
しーっと、人差し指を立てて念押し。
東山正治(ひがしやまさだはる)。その悪評は知る人ぞ知るだろう。
学園きっての神秘嫌い、異邦人嫌いの怖い教師。
今更悪評の一つや二つ気にしないが、
"敢えて"演じることにより空気を和らげる目的だ。
フリじゃないからな、と再度念押しすれば煙草をすっと懐にしまった。

「さて、と……改めまして、かね。
 どうも、こんにちは。法律学担当の東山正治(ひがしやまさだはる)です。
 悪いね、青春真っ盛りの中、こんなおっさんに付き合わせちゃって。何か予定とかあった?」

先ずは礼節。
教師として、大人として一礼。
空調の利いた教室内は程よい室温が保たれており、
鼻腔を擽るうっすらとしたハーブの香り。
人を気持ちを落ち着かせるようなアロマの香りであり、
その正体は部屋の隅においてある小瓶と棒(リードディフューザー)
備え付けのものではない。東山が用意したものだ。

「ちょっとアロマ(こういう)の好きか知らないけどさ。
 知り合いの小鳥遊ちゃ……小鳥遊先生に教えてもらってね。
 あんまり女っ気のねぇモンで、気に入らなかったら片付けるから気軽にいいなよ」

「ま、適当に座りな。席は見ての通り、どこでも自由席なもんでねぇ」

くつくつと喉を鳴らして東山は笑う。
勿論東山はそんなもの知識程度しか持っていない。
あくまで彼女を落ち着かせるものの一つ程度の小道具として、
わざわざ慣れないことをしているのだ。

五百森 伽怜 >  
「え、あ……」

扉を開いた瞬間、目に映ったのはかつて出会った男性教師。
あの時は世話になったが、それでもやはり二人きりになるのは怖くて。
胸が痛いほどに強張っていた。

そんな緊張の糸が、解けていくのを五百森は感じた。

「あ、はは……」

作り笑いは、苦笑いへ。
すっかり力が抜けてしまった。

それと同時に彼女を強張らせていたものもまた、
ある程度は消え去っていた。

だからこそ、二の足を踏むことなく教室の中へと進むことができたのだった。
教室には何処か落ち着くハーブの香りも漂っている。

他人の(こと)を気にしてきた人生だ。
色々と気を遣ってくれているのだろう、ということも
ある程度察しがついたようで。

苦笑いは、朗らかな笑みへ。
先よりも、柔らかな笑みが浮かんでいた。

「あの時はお世話になりましたッス。
 
 予定は別にないから大丈夫ッスよ。
 寧ろ、どんな内容か分からないッスけど……
 あたしの為に時間を割いて貰って申し訳ないッス」

改めて前回街で助けられたことに礼を言いつつ、
五百森は逃げ道に一番扉に近いところにある座席――
その一つだけ前の席に腰を下ろすのだった。

東山 正治 >  
とりあえず滑り出しとしては上等だ。
東山は確かに異能者や人外、あらゆるものに嫌悪感を抱く。
それは彼女とて例外ではない世界(ルール)が赦すなら、稀代の殺戮者だ。
だからと言って、それを好き勝手開放する程若くはない。
自由な校風とは言え、そこで教鞭を取るということは、
如何なる私情を抜きにし、しっかりと生徒に向き合う覚悟を持っている。
見境のない大人ではないからこそ、気を使うのだ。
正直、少し内心安心していた。彼女が悪いわけじゃない。
飽くまで、紙切れ(プロフィール)だけの情報だが、
その体質は、その目は、何が起きても不思議ではないからだ。

「なぁに、教師としてキチンと仕事しただけさ。
 五百森ちゃんが気にするような事はねぇよ。」

そう、教師としての仕事だ。
面談(コレ)に応じてくれた以上、本番はここから。
事前に幾つもの対策は仕込んでおいた。
"ワケアリ"な生徒は幾らでもいる。
教鞭をとるものとしては、それを必要以上に察されず、
なおかつ必要以上のその心身を傷つけてはならない。
要するに、こう見えて何時も以上の気を張っている。
それ感じさせないように、何時も折を演じるのみ。
ヘラヘラとした嫌味ったらしい笑みを貼り付けて、肩を竦める。

「まぁね、あの時の縁ってことでね。
 オタク、最近色々あったみたいじゃないの?
 一応教師だからねぇ。生徒の情報はそれなりに気を掛けてるワケ」

わざとらしく両手を広げてあっけからんと。
嘘は言ってない。尤も、他の教師よりも、
少しばかり公安所属(情報通)なだけだ。

「まずは……そうだな?怪我、大丈夫?
 色々巻き込まれたってね。見舞いとか送られたでしょ?」

先ずは順に話題を沿っていこう。
席のことは、今は敢えて指摘しない。
此方も気を使ってか、それなりの距離。
窓際でぼんやりと視界を合わせてるか合わせてないのか、曖昧な視線。

五百森 伽怜 >  
「あ、お見舞い……その節は……」

教室の隅でただでさえ小さな肩を更に小さくしながら、
五百森はぺこりと頭を下げた。

「お陰様で、殆ど元通りッスよ。
 学園の医療技術もスタッフも、頼りになるッスからね」

怪人テンタクロウを追って、負ってしまった大怪我。
一時期は車椅子、そして松葉杖での生活を余儀なくされたが、
今はもうすっかり良くなっている。

学園の医療技術もさることながら、皮肉なことに彼女自身に流れる血の力が、
その回復に少なくない貢献をしていたのだが。

抑制剤()は十分に効いている。
それでも、窓際に居る教師の顔は極力見ないように努めて。
話を進めていく。

暫しの沈黙。
記事の為、危険な場に出てしまったことについて、
叱咤されるのだろうかと心配しつつ。

居心地の悪そうな笑みを浮かべながら、五百森は視界の端に映る
教師の反応を見ていた。

東山 正治 >  
頭を下げられた。
はて、確か別の教師の名前を使ったんだが……まさか……。

「(あの看護師め……)」

そのまま言いやがったな。
こういうのはバレたくないのに、全く。
些事ではある。気にしてないと言わんばかりに、手をヒラヒラ。

「腐っても一応最先端の島だしなぁ。
 まぁ、後遺症も内容で何より。
 いいんじゃない?何時も通り生活出来てるなら、さ」

あらゆる技術力の最先端。
天下の常世財閥のお膝元。
自分も仕事柄、世話になることは少なくない。
焦点を合わせないのはお互い様だが、
やはり彼女の視線も此方を視線を捉えてはいない。
それもそうだ。その体質を考えると、
事故が起きたのは一度や二度ではない。
何処となく気まずそうな彼女をみながら、ふ、と気の抜けたように笑う。

「オレぁ別に、いいとは思うよ?
 此処は、生徒の自主性を重んじる学校だ。
 五百森ちゃんがどういう信念(ジャーナリズム)を持ってるかは知らないけど、さ。
 オタクなりに務めるべき場所に努めた結果、だろう?責めやしないさ」

それくらいは些細なことだ。
裏を返せば、それで死んでも自己責任だ。
決して無責任ではない。教師といえど、
自らの足で赴く者を止める権利はない。
故に、尊重するだけというお話。
コンコン、と窓枠を軽く叩けば窓の外を見やる。
夕暮れの向こう側。外では行き交う数々の生徒の姿。

「新聞同好会……だっけ?まぁ、怪我も程々にね。
 あんまり無茶するとセンセー看過出来ないよ?」

だが、釘は刺しておく。

「……ま、その地続きか知らないけど随分と最近不幸(アンラッキー)みたいじゃないの。
 聞いたよ?ひったくりにあったってね。持ち物は?犯人は捕まった?
 大事な物とか入ってたんじゃないの?やってらんないよなぁ……」

五百森 伽怜 >  
――近寄りがたい雰囲気もあるし、怖い噂も聞くッスけど、
  優しいところはあるのは知ってるんスよね。

何のことはない。 
宛名にあった教師に礼を言いに行った折に、
それとなく彼のことを伝えられたのである。

教師として、人として、ある程度信頼が置ける人物なのは理解している。
だが、それとこの魅了の()とは話が別で。
だからこそ、このように微妙な距離を空けて話を続けているのである。

「……あたしは、頑張ってる人達の姿を伝えたいッス。それが信念、ッス。
 今回のことは、反省してるッスけど……伝え続けることは頑張るつもりッス」

責められるものとばかり思っていたが、
そういったことはないらしい。
それでいて、最低限釘は刺してくれるのだから、
やはり人の良い人物なのだろう、と。
五百森は改めてそう感じていた。

「……へっ? そんなことまで知ってるッスか……?
 そうッスね、犯人は無事風紀委員の皆さんが捕まえてくれたッス。
 ただ、財布の中身だけは使われちゃってて、戻って来なかったッスけど……。
 でも、そうッスね……あたしにとっての大事なもの……抑制剤がそのまま残ってたのは、
 救いだったッス」

抑制剤。決して安くないその薬を、五百森は補助制度を活用しながら購入し続けている。
バケモノである自分を、社会の隅に繋ぎ止めてくれる、大切なモノだ。