2024/09/22 のログ
■東山 正治 >
よもや、犯人がその教師だとは思うまい。
勝手に名前使ったんだし、お愛顧だね!
「……ふぅん。ま、いいんじゃない?
続けられてるんなら、少なくとも信念も、
今いる新聞同好会も、上等ってワケじゃない。違う?ま、死なない程度にね」
その末で事故って死んだらどうしようもない。
そこまでの面倒は教師としても、一人の人間としても見切れない。
教師は飽くまで教師であり、一人の親代わりではないのだ。
特に今の情勢は、ある意味大変容前より命の価値は軽い。
誰もが懐に異能を持ってるかも知れないなんて、物騒だ。
少なくとも、東山の感じる世の中はそれだ。
やや呆気を取られるような物言いに、くつくつと喉を鳴らして笑った。
「まぁ、情報通なモンでね。
……まぁ、五百森ちゃんの事も勿論心配してるよ?オレはね。
だからこうして個人面談も開いたし、聞きたいこともあるからね」
かつ、窓際から一歩離れる足音がする。
「あれまぁ、金欲しさのスリ。そりゃ、災難だったね。
全部盗られるよりはマシとはいえ、やるせねェな。
……まァ、少なくとも……抑制剤が無い時間があった、と」
漂うアロマの香り。
程よい室温に空気。
掛けられる穏やかな声音の数々だったが、
わずかに漂う空気が冷ややかになる。
「オタクの体質……目ぇって言ったほうがいい?
特性については聞いてるよ。まぁ、大変だよな。
オタクみたいな混血だと、特にそういうのは聞くよ」
「ままならねェよなァ……幾ら抑制剤だの魔術だのあっても、
その後の人生まで考えてくれねェと。他人の親御さんをどうこう言う気はねェが、
子どもにも子どもの人生があるんだ。ちったァ考えて産んでくれねェとな……」
時代が混迷とした後、特のこの手の混血は珍しくはなくなった。
但し、異能等と同じで全てがプラスに働くわけではない。
種族としての特性、文化、或いは生き方。
様々な要素が人間とは不適合を起こし、
その後の人生に大きな影響を与えかねない。
一時期、何とかキッズみたいな無軌道な若者の問題は、
大昔から往々として存在していたが、特に複雑になってきた。
ため息交じりに語る東山の声音は何処か冷ややかだ。
それは、彼女に向けられたものではない。
もっと広く、大きく、世間に対して向けられたような恨み節。
その恨み節のせいなのか、空気が徐々に、冷え込んでるような気もした。
「───────……ところでぇ」
■東山 正治 >
その一言を気に、どんよりと空気が重くなる。
もし、東山のことを見ていたなら、姿が消えたように見えただろう。
公安委員会、隠密機関の体捌き。音もなく消え、
その気配は、教室の扉の前
「オレは……なんだ。
デケェ病気に掛かったこともねェし、怪我もしたことねェ。
ただ、わざわざ抑制剤で抑え込まなきゃイケないモンだ。
抑え込む、外付けで制御しなきゃいけないほどに強力な力……オタクが忌避するような厄介なモンだ。」
「効力の時間とかはしらねェけど……服用してない時間もあったワケだ
そこまでの状態で外を彷徨いてたら、事件の一つや二つあってもおかしくねェ」
「誰かといたか、それとも隠れていたか……。
問題は、誰といて何処にいたか、だな」
先程の言葉とは一転し、随分と冷え込んだ声音だ。
端々に見せた優しさはそこにはなかった。
アロマの香りすら遮るような言葉は一つ一つが、
鼓膜を、気を揺さぶるように揺らす。
「……センセーさぁ、教師以外にも色々やってんのよ。
それこそ昔取った弁護士資格とかでさ、法律関係の仕事とか、探偵の真似事。
その中に悪い奴や不法入島者の動向を追ったりしてんだよねぇ~……」
ピッ、とその背中を通り越して"何か"が舞った。
写真だ。ちょっと製法が古い一枚の写真。
そこに映る人物の姿には見覚えがあるはずだ。
赤い、紅い、血のような髪に燃えるような橙の瞳。
中性的美しさを持つ、目立ちたがり屋の人見知り。
「──────ソイツのこと、知ってる?知らないなら知らないでいいけど、何があったか教えてもらえねェ?」
背中を撫でる圧力は泥土を塗りたくるかのような嫌悪感。
噂は飽くまで噂。そんな言葉こそ、全て嘘。
火のない所に確かに煙は立たなかった。
背を突き刺すような鋭い視線は、
あの時の教師とは違う真逆の意思を感じるだろう。
悪評靡く、怖い教師。全て真実だ。
さぁ、新聞屋、返答を違うな。
背を貫く目は心底を見透かすかのように、ずっと突き刺さる。
振り返る勇気があるなら、その姿を見れるだろう。
扉に背を預け、まるでこの世全てを敵視するような淀んだ目をした人間の姿が。
■五百森 伽怜 >
「…………」
確かに、母親は嫌いだ。
大嫌いだ。
強大な力を持ったエルダーサキュバスの母親は、自分とは全く違う倫理の上で生きている。
相容れない存在であるし、何度も顔を見た訳ではない。
でも、父親は多少、自分に良くしてくれた。
だからこそ、
『ちったァ考えて産んでくれねェとな』
無神経な言葉には、一転して唇を固く結んだ。
――ただ優しいだけの人じゃないことも、知ってるッスよ。けど。
確かに、そんな風に考えたことは何度もある。
どうして自分を産んだのか、産んでしまったのか。
それでも、自分の頭から出た言葉と、他人から出た言葉では随分と響き方が違う。
目を伏す。気づけば少しだけ、奥歯に力が入っていた。
歯軋りまではいかないそれは、胸にこみ上げる何かを押し止める為のブレーキに他ならない。
それが何なのか、はっきりとは掴み取れない。
五百森には。
こみ上げたものがあったからこそ、だろうか。
顔を上げれば、教師が扉の前に立っていた。
身体が小刻みに震える。
その震えの元は、
それはこの教室に入った時脳裏を過った時の記憶であり、
今まさに問われている、あの夜の記憶でもあった。
背中を見せ続けるのには抵抗があった。
少しだけ勇気を振り絞って、男の方を見やる。
逃げ道を閉ざされた子鹿は、それでも男を見やるのだ。
「……その写真の人は」
唇を固く結んでからは、何処か頭が冷えていた。
子鹿なりに、状況は理解している。
ピンポイントでこの写真を出されたということはつまり、
当然既に関係性を疑われている、
或いはほぼ関わりがあったことについて、確信を持って提示をしているのだろう。
であれば、ここで変に取り繕うのは悪手だ。
そもそも、こちらも向こうも、この夜においては――何も悪いことはしていないのだから、
それをそのまま伝えれば良いだけの話だ。
「落第街に咲く薔薇、ノーフェイス。
犯罪者……ッスけど……あの日は、あたしを、助けてくれた人ッス。
何も……起きてないッスよ、先生が考えてるようなことは」
危ない橋ではあった。
それでも、痛みと共に居てくれたから、あの夜は何事もなく過ぎ去っていった。
現実には。
■東山 正治 >
その目には彼女のような魅了の魔眼でも、
見ているだけで生命を殺すような邪眼でもない。
東山正治は異能者ではあるが人間だ。
但し、その視線は見ているだけで人を害するような錯覚。
ただ見られているだけで殺意の泥土を全身に塗りたくられ、
心底を鷲掴みにするような不快感。怨み、怒り。
人間のガワを被った悪意。どれほどの怨嗟を溜め込んでいたのだろう。
虚構のように開いた双眸は、生徒に、人に向けるような目ではない。
人間だからこそ持ち得る憎しみ。それに例外は無いのだろう。
「……へぇ、オレの方を見る度胸はあったんだ。
ただのか弱い少女じゃねェってか?
他人の目も見れねェのに、発破だけでどうにかると思ってるワケ?笑える」
彼女の事情を知った上で笑い飛ばし吐き捨てた。
先程の優しさにも嘘はない。だが、この悪意にも嘘はない。
体は震えているのに、その意思が突き動かしている。
親との関係性を詳しく知ってるわけじゃない。
流石に親を小馬鹿にされて、少しは怒りを覚えたのか。
それとも、思春期が抱くような反抗心か。
せせら笑う大人は静かにそれを見下ろしていた。
「……そう、助けてくれた。成る程ね。」
公安委員会は諜報機関ではあるが、
それでも全てを見通す力があるわけではない。
情報社会に魔術に、異能。ありとあらゆるものが混迷し、
常に発見と隠蔽はいたちごっこを続けている。
彼女が人見知りと接触したのは知っている。
その後、どうなったかまでは知らない。
凍てつく鋭い眼差しがじ、っとその魔眼を射抜く。
──────……嘘は言ってない。
「成る程なァ……何もなかった、と。
オタクは違反者に匿われ、何事もなく夜を過ごした……と」
ふ、と鼻で笑い飛ばした。
「面白い証言だな。
で、ソイツを信じる為の証拠は?
どんな形であれ、犯罪経歴ついてる奴なんだ。
ソイツが何もしていない。助けてくれた。そりゃ、いい美談だな?」
「作り話としては百点満点だ。
……五百森伽怜。オタクも情報を扱う身なんだ。
言葉一つ信用させるには、それに伴う証拠がいる。
特に、犯罪経歴がついてる奴はな。それとも……」
見開かれた目が細くなる。
「その言葉だけを、オレに信じろって言うのかい?」
■五百森 伽怜 >
怖い。
眼前の教師が、というよりも。
人間の持つ悪意が、何よりも怖いのだ。
それでも。
怖いと同時に――何処か、慣れきってしまっているものでもある。
こういった感情を向けられた時の、対処の方法に。
嫌いな筈の親、それでも産みの親である彼らを――馬鹿にされた、僅かな怒りもあった。
だが、それだけではない。その視線を受けても、ギリギリそちらを向いていられたのは。
少女の心が、既に歪んでいたことも大きく関係しているのだろう。
笑顔の裏に隠した少女の罅割れた心は、凍てつく眼差しも、悪意も。
少なくともその場では、耐え忍んでみせるだけの強かさを持って、
完全に逃げてしまうことなく、今日此処までこの世にしがみつこうとしてきたのだから。
或いは、かつての風紀委員が、あの夜の朱色が、くれた勇気か。
喉が詰まりそうな感覚を覚えながら、五百森は語を継いでいく。
「……先生。
それは、難しいッスよ。言葉以外のものは、あたしは持ち合わせてないッス」
ないことを証明することは、難しい。
それは、消極的事実の証明――即ち、悪魔の証明であろう。
証言以上のものを求められて問いただされたとして、
五百森自身からこれと提示できるものはないように思えた。
「……それとも、身体検査でもしろって言うんスか?」
胸の奥がずしん、と重くなる。震えが止まらないまま。
ぎゅ、と。己の身体を抱くようにする五百森。
彼女が細指で掴んだ制服の袖に、くしゅ、と皺ができる。
それを浮き彫りにする夕焼けは訪れる静寂を、どこか冷たく妖しげに見下ろしていた。
■東山 正治 >
東山は腐っても法律に関わる人間だ。
証言の重要性もそうだが、証拠の重要は何よりも知っている。
そして、それを証明する難しさ。
たかが同好会程度の子どもに、
本職と同じものを持ち得るはずもない。
今の御時世、人の記憶を覗く術だってある。
死人だって法廷に立つことだってある。
世の中も法律も、その仕組も大きく変わり続けている。
「───────……」
身体検査。それもありだろう。
委員会に持っていって頭の中を覗き込む。
証明するのであればそれが手っ取り早い。
東山は何も言わない。何も答えない。
視線も、瞳の色一つも変える気配もない。
肌にへばりつく気色の悪い沈黙だけが間にある。
夕焼けの向こう側。扉の前は影だ。
影から悪意が、覗いている。
数分、感覚としては数時間と錯覚したかもしれない。
不意に、東山が一歩前に出た。
影から、這い出るように東山が一歩、また一歩とよってくる。
まるで鉛のように重く、確かに大きな足音が近づいてくる。
瞳に今まで向けてきた男達の熱情や欲望はない。
純粋な悪意、怨み、そして、殺意。
腹の奥底で数十年以上煮えたぎったそれは、
数百年、数千年の怨みに勝るとも劣らないものになっていた。
その脳裏にある記憶を重なるように、大人の手が、夕焼けに───────……。
■東山 正治 >
コトッ
■東山 正治 >
【糖度100%!Maximum coffee!】
机に置かれた未開封の缶にはそう書かれている。
一部のマニアには人気の、激甘のコーヒーだ。
東山は、少女の体に指一本触れることなく、
ただコーヒだけをおいて通り過ぎていった。
そのまま何をするわけもなく、先程いた窓際へ。
「……まぁ、なんだ……」
振り返ることなく、声音はちょっとだけ気まずそう。
気づけばあの凍えた空気も、淀んだ気配もない。
空調の効いたアロマの香りが、また夕焼けに返ってきた。
「怖がらせたのはまず、謝る。悪いね。
……五百森ちゃんの証言を現状確固たるモノにする証拠は無し」
「けどまぁ、"信じるよ"。一応、教師だからね」
法を司るものとしては、彼女の全てを養護できない。
神出鬼没の赤い違反者。その関係性、内容、行われた事。
結局の所何一つわからない。信ずるには値しない。
だが、東山は同時に教師だ。無論、無条件ではない。
そうであっても、震える体を、自らの恐怖を乗り越えて訴えかけた。
逃げ出そうとすることも、泣き出すことも出来た。
だが、敢えて立ち向かってきた。その根底がなにかは察せないが、
そうさせるほどの信頼を、あの違反者は勝ち取ったと言う事。
ならば、そこまで言った生徒を信用しないのは、教師として間違いだ。
「……で、本当に人見知りは何もしてないんだな?
憶測にはなるけど、何となく状況はわかるよ。
その上で、五百森ちゃんは何もされなかったんだな?」
彼女はその体質で、多くの苦労をしてきたのだろう。
その日は抑制剤がなかった。どういう状況かは想像できる。
そんな状況で、何も起きずに、彼女を助けた。
その言葉は公安として、法の番人としてではなく、
一人の人間として、教師として彼女の安否を気に掛けるものだった。
■五百森 伽怜 >
東山が近づけば当然、震えは大きくなって。
視線を逸らし、唇を噛む。ただ、どれだけ震えても、逃げ出すことだけはしなかった。
暫しの後。
その緊張と恐怖は、机に置かれた簡素な音で、一瞬にして溶けるのだった。
ほう、と一息をつく五百森。
少女なりに理解している。
彼が持つ闇は、目にしてきた男達の目とはまた、質が異なるものだ。
「……先生達が、ノーフェイスの動向を追っていることは知ってるッス。
先生達から見れば。
特に、東山先生から見れば、許せない人間だと思うッス。
色眼鏡がかかってるのも当然ッス。あたしだって、人のことは言えないッス――」
お騒がせ者の犯罪者。
この学園の治安を守る立場からすれば、目の上のたんこぶであろう。
「――だけど、あの夜、人は戦ってくれたんスよ。
何故、踏みとどまってくれたのかは知らないッス。
それでも、唇を噛んでまで……血を流してまで、あたしの魅了の眼に抗って。
無抵抗に等しい状態のあたしに、何もしなかったッス」
法の番人の一つでなく、教師としての言葉。
それは机に置かれた缶の色味が思い出させる、歯が蕩けそうな甘さほどではなかったが。
それでもやはり、甘く感じられた。
だからこそ、五百森はしっかりと向き合って、そのように伝えた。
教師として向き合ってくれるならば、こちらも生徒として向き合えるのだ。
■五百森 伽怜 >
「だから……あたしは、大丈夫ッス」
だからこそ。
その笑みは、この教室に来てから一番自然で、明るくて。
穏やかな少女の笑みだったのだろう。
■東山 正治 >
「ふぅん……そっか。なら良かった」
血を流してまで少女の体に手を出さなかった。
そこまでするなら好き嫌いの問題ではない。
意地か、或いはそうさせる何かがあったのか。
全てが見通せるなら苦労はしない。犯罪者、お騒がせもの。
だが、殺害と言った犯罪は犯していない。
少なくとも、東山が手にした情報の限りで言えば、になるが。
それと照らし合わせれば使えなくはない情報だ。
「まぁ、五百森ちゃんがそういうならいいでしょう。
手ぇ出されずに良かったねェ。けど、そう言うのばかりじゃないからね?」
不可抗力とは言え、そこは教師。
形式上だけの注意は残しておく。
はぁ、と気が抜けたように後頭部を掻いて振り返る。
既にそこに、あのような悪意は何処にもない。
笑みではなく、真面目な一人の大人の表情。
「いいさ。アイツの事は大体わかった。
とりあえず五百森ちゃんが無事って言うなら、それでいいさ」
「……後、悪いね。事情も知らずにオタクの両親をバカにした。申し訳ない」
その笑顔には嘘はないだろう。
だが、そこに至るまでの過程は"教師として"は褒められたものではない。
無論、東山はその行いを一切後悔も反省もしない。
教師である以上、謝るべきところはケジメとして、謝罪した。
彼女が合わせるかは知らないが、視線はしっかり、少女の顔を捉えていた。
「とりあえず、話は以上。悪いね?何度も怖がらせてさ。
最後にお詫びと、小言を一つあげようかな……」
懐に手をいれる頃には、ヘラヘラと何時も通り胡散臭い笑みが貼り付けられている。
「何度も言うけどさ、今回は不幸中の幸い。
二度同じことがあるとは限らない。五百森ちゃんは生徒だろ?
だからさ。学生のうちに教師(オレら)をもっと頼りな。
……オレは見ての通り、オタクのことが嫌いさ。別にオタクだけじゃない」
「この世の何もかもを、憎んでる」
ご覧の通りだ。嘘偽りはない。
その人間性は決して、褒められたものではない。
そして、それを隠すこともしない。
これは、東山なりの線引き。自らの人間性を初めに伝えておく。
今度は懐から取り出したそれを、机へと放り投げた。
コン、と缶にあたったそれは、名刺だ。
教師の個人名刺。しっかりと連絡先も書いてある。
「……それでも頼るってんなら、それには応える。
オレも教師だからね。別にオレ以外だっていい。
オレの隣、体は小さくて声はデケェけど面倒見のいい教師もいるしな」
「後は、探偵の真似事もやってるからさ。特ダネもあれば"買うぜ"?
……補助制度があっても高いらしいじゃん。必要があれば、だけどね」
世を憎み敵意をむき出しにする本性でも、
それを抑え込み世間と向き合うのが大人であり、教師だ。
この学園にも教師はごまんといる。皆個性的だが、
教師である以上皆、どんな形であれ生徒を導く力を持っている。
それが教師であるために必要なものだ。
東山もそれを持ち合わせているからこそ、未だ教鞭を握れるのだ。
「じゃ、話は終わり。悪いね、時間掛けちゃって。
そろそろ日も沈むから、帰り道には気をつけなよ?」
■五百森 伽怜 >
「……色々あって、先生っていう人達を心から頼っていこうという気には、
まだなれないッス」
それは、この学園に転入する前のことだ。
未だにその呪縛が己を縛っていることを、五百森は痛感する。
それは、眼の前に居る教師が抱えている憎しみと、
もしかしたら似通ったところがあるのかもしれない。
それでも、かつて自分に迫った教師は、
今目の前に居る教師とは違う存在であることは百も承知。
だからこそ、そのことを自分に言い聞かせて――
「だけど、全部を憎いって言いながら、それでも生徒に手を差し伸べてくれるなら。
お世話になるッスよ、東山先生。
それとも、お客様って呼んだ方が良いッスかね?」
――その手を取るのだ。
そうして、いつも周囲に見せている明るい顔でそのようなことを聞いて。
「それじゃ、失礼するッス!
……先生は怖い人ッスけど……いいとこも、ちゃんと知ってるッスから」
ぺこりと腰を折って、去っていくのだった。
ご案内:「第一教室棟 教室」から東山 正治さんが去りました。
ご案内:「第一教室棟 教室」から五百森 伽怜さんが去りました。