2024/06/17 のログ
ポーラ・スー >  
「あら、だって他人事じゃあないでしょう?」

 問いかけには、不思議そうに目を丸くして。

「うちのね、施設の子たちも不安そうにしてるの。
 そんな様子をみちゃったら、親代わりとしてはじっとしていられないでしょう?」

 そんな本当か嘘かわからないような答えを返し。
 やんわりと微笑みを向ける。

「この島の主体は確かに子供たちで、学生だけど。
 それはけして、大人や教師を頼っちゃいけないわけじゃないわ。
 そ、れ、に。
 先生、って子供たちが思っているよりも、よぉーく、色んなものを見ているのよ」

 そう言いながら、どことなく答えをはぐらかしつつも。
 偽りではない本心を、やんわりと伝える。

「他にも、島内交通の利用履歴や、異邦人の技能や能力のマトメ。
 ああそうそう、鉄道委員会にもお願いして、該当時刻の電車の利用状況をリスト化したのも、『りんちゃん』宛てに用意してもらったわ。
 ふふっ、今頃、捜査本部に届いてる頃かしら」

 そんな事を何気ないように言って、少女の頭に向かって軽く背伸びして腕を伸ばす。

「どうかしら『りんちゃん』
 すこぉし、でも、元気になってくれたかしら」

 そう言って目を細めて少女を見上げる。
 

伊都波 凛霞 >  
この先生がなぜ、どうしてそんあことまで知っているのか。
それは、大人だから、教師だからという理由だけれは説明がつかない。
ただ、それは悪戯にそれに触れるわけではなく…確かな善意にも感じ取れる。
そうやって、差し出されている。

──それを拒めるような性格は、していないわけで。

確かに拿捕する作戦は失敗してしまったけど。
あれはあれで、あの時点ではきっと最良最善の策だった。
実際に一度は圧倒することが出来ていた…それをみすみす逃すことになったのだ。
別角度からの挽回のチャンス。
それを彼女は与えてくれようとしている。

「──あーちゃん先生が何者なのか謎がより深まっちゃいましたけど」

「それはそれとして、…ありがたく頂戴しますね」

そう言って、いつもの"元気そうな"笑みで応えた。

ポーラ・スー >  
「あらあら」

 まだちょっとだけ、無理をしている『元気そうな』笑い方。
 けれど、それが出来てるだけ、ポーラは嬉しく思った。

「せんせいのこと、興味持ってくれて嬉しいわあ」

 くすくすと、笑い。
 背伸びをして少女の頭を優しく撫でた。

「せんせーはあ、ちょーっとお茶目で、一生懸命な子が好きで、教会の司祭をしたり、孤児院をしたりしてるだけで。
 ふつうで、どこにでもいるような、生活委員の先生よ?」

 どこにでもいるような教員が、屋上の鉄柵の向こう側から現れたりはしない。

「でも、もーっと、せんせいのこと知りたいならあ――」

 そしてまたいつかの様に、少女の口元に指先を持っていき。

「『りんちゃん』ともぉっとし、ん、み、つ、に、ならないとだめねえ」

 そう言いながらまた、距離をすい、と縮めていく。
 見上げる表情は、言葉が意味深長に聞こえるような艶のある表情だ。
 

伊都波 凛霞 >  
頭を撫でられる。
前もこんな感じで、ちょっとした出来事の後に撫でてもらったっけ。

「それ、全然わかんないです」

苦笑する。
情報の羅列だけじゃ、この先生が何者なのかはもうわからない。
かといって、それを突き止めようと言うのは──必要があれば、しないといけないけど。

頬を撫でる指先がするりとすべり、口元へ。
艶のある瑞々しい、すこしだけぷっくりとした。
年頃の男の子だったら息を呑んでしまうような唇。
それに指先が触れようとすれば、凛霞の白指がそれに絡んで。

「──だめですよ。こんな場所で、ふしだらです」

一応風紀委員。傍から見てそう見えるのは、いきすぎだ。

ポーラ・スー >  
「ふふ、もしほんっとーに、先生の事が知りたくなったらあ。
 『りんちゃん』に取り調べしてもらえるなら喜んでお話ししちゃうわ」

 愛らしい少女の指に絡めとられれば、楽しそうに笑った。

「あらまあ、ふしだらな事はだめなのね?
 ざぁんねん、『りんちゃん』とふしだらなこと、したかったのに」

 そんなふうに、わざと怒られるような事を言って、そっと本当に残念そうに指を引いた。

「――ああそうそう、この前ね、『はるちゃん』に会ったのよ?
 でもねえ、すぐに逃げられちゃったの。
 ねえ『りんちゃん』、わたし、『はるちゃん』に嫌われちゃったのかしら」

 そう言いながら、泣きまねをするように、よよよ、と袖口で口元を抑えながら目を伏せた。
 

伊都波 凛霞 >  
「ダメですよ。先生が風紀を乱しちゃ」

残念そうに離す様子には少しだけちくりと。
でもいけない。ふしだらなここはだめ。ましてやここは学び舎である。

「はるちゃん?…あ、悠薇、と…?」

すぐに逃げられた、と話す先生。
…うん、そうだろうな…と納得する。
だってすごく距離を詰めて来るもの。

「えっと、嫌われた…とかではないと思いますけど」

「悠薇はちょっと、うーん…人との距離の詰め方が苦手、というか…。
 初対面だったらきっと尚の事で、びっくりして逃げちゃったんじゃないかな…?」

と、苦笑い。
どうしていいかわかんなくなっちゃんだろうなあ、と。
そういえば、その時にキスをされたのがどうのこうので妹に問い詰められたのを思い出す。

「あ、あと!拡大解釈はダメですからね?
 私、先生とキスはしてないですから!」

ポーラ・スー >  
「あらあら、そうだったのねえ。
 それは悪い事しちゃったかしら。
 『はるちゃん』はとってもシャイなのねえ」

 誰に対しても同じような距離の縮め方をしてしまう。
 ちょっとだけ悪い癖だとは、自分でも思っていないわけではなかった。

「――まあ。
 でも、わたしは『りんちゃん』にキスしたわよ?
 お耳に、だけど」

 嘘はついてないわ、とばかりに。

「うーん。
 じゃあ、本当の事にしちゃえば問題ないわよね?
 わたし、『りんちゃん』の感触が気になっちゃうわ」

 などと言いながら、自分の指で、自分の唇をゆっくりとなぞって意識させようとして見せた。
 

伊都波 凛霞 >  
「ちゃんと耳にキスした、って言ってくれるならいいですけど、
 おかげで妹に問い詰められちゃったんですからね…?」

妙な誤解を生むから情報は正確に伝えてもらわなければ。

「問題おおアリに決まってるじゃないですか!?
 ダメですよそんなの!そういうのは───」

「そ、そういうのは……す、好きな人とするモノ、ですし」

抱えた紙束を抱える腕が少しぎゅ、と沈み込む。
僅かに紅潮した頬が青空の下によく映える。

ポーラ・スー >  
「――まあまあまあ」

 少女の言葉を聞いて、目を丸くして、とても微笑ましそうに。

「そうねえ、そうよねえ。
 うふふ、『りんちゃん』の好きな人は幸せねえ。
 お式には呼んで欲しいわあ。
 綺麗な白無垢、仕立ててあげるわね」

 などと、とんでもなく余計なお世話を言いつつ。
 楽しそうに、ぴょんぴょん、と数歩、屋上の階段に向けて歩き出す。

「さってさって、『りんちゃん』の応援も出来たし、せんせいはお仕事に戻ろうかしら。
 この後、生活委員の会議なの。
 きっとまた、登下校の見送りのお話しだわ。
 早起き苦手だから大変なのよねえ」

 そう言いながら、ひらりくるり、と楽し気に舞って。
 少女にもう一度向き直ると、両手の人差し指を立てて、自分の頭に当てる。

「遅刻するとね、とーっても怒られちゃうの。
 『りんちゃん』みたいに、かわいく怒ってくれるなら嬉しいのに、ねえ?」

 ふふふっ、ととても楽しそうな笑顔を見せる。
 そして少女に気安く『またね』と言って、屋上から去って行こうとするだろう。
 

伊都波 凛霞 >  
「そういうのはまだ気が早いので!
 ──まったく、もう」

誂われているのか、どこまで本気なのか…。
いまいちつかめない先生。
けれど今抱えているこの紙束は、間違いなくありがたい施し。

またねと去りゆく背中に「ありがとうございました」と深々、頭をさげて。

「……よしっ」

やること(仕事)がふ増えた。
後悔とか悩んだりとかしてる暇はない、ってコト。

ふわりふわりと、空に流れている白雲のような先生だけれど。
今の自分には、丁度よいカンフル剤だったかもしれない──。

ご案内:「第二教室棟 屋上」から伊都波 凛霞さんが去りました。
ポーラ・スー >  
 ――屋上を後にして、薄暗い空き教室。

 罅割れた『板』に六方を囲まれたポーラは、口元を抑えながら、歪に笑っていた。

「――あらあら、越権行為だと言うの?
 そんなはずないわぁ、わたしは、正式な手順を踏んで、公的な記録を請求しただけだもの。
 それが偶然『甲種不明犯』と『伊都波凛霞』が交戦していた時間と重なってしまっただけじゃない」

 耳に押し込んだ通信機からは、苛立たしげな声が聞こえてくる。
 その声は、ポーラの行った独断行為が非常に気に入らないようだった。

「もう――そんなに気に入らないのなら、わたしを処罰すればいいでしょう?
 ふふっ――出来るならそうしてる、って言いたいのよね、わかるわあ」

 『組織』の多くの人間が、己の事を疎ましく思っている。
 なにせ、『組織』に於いても、得体が知れないのだから。
 そのくせ好き勝手にやるとなれば、目障りにだってなるだろう。
 それでもポーラ・スー(名前のない怪物)を飼わなくてはいけないのだから、彼らにとっては災難な事だ。

「――大丈夫よ、わたしだって死にたくはないもの。
 だからこれでも大人しくしているつもりなのよ?
 ええ、だって、本当に自由にしていいのだったら――」

 その先の言葉を遮るように、通信機から怒鳴り声が響いた。
 それが頭に響く前に、女は通信機を切った。

「――ああ、こわいこわい。
 ちょぉっとだけズルをしただけなのに。
 人質まで取られてるんだもの、わたしが裏切るわけないでしょう?」

 歪んだ笑みは、ますます深くなる。
 女は、袖口で自分の首に触れた。

「ふふ、ふふふ――ええ、わたしは従順だもの。
 だから、ちゃあんと脚本は大事にするわ。
 だってそうじゃないと、折角の演目が台無しになってしまうもの、ねえ?」

 薄暗い空き教室の中で、女の笑い声が、くすくす、くすくす、と長く微かに響き続けていた――
 

ご案内:「第二教室棟 屋上」からポーラ・スーさんが去りました。