2024/07/14 のログ
ご案内:「第二教室棟 屋上」に天使 夕さんが現れました。
天使 夕 > 梅雨が明け、春から夏へ。
どこまでも青が広がる空に、午後の授業開始を告げるチャイムが鳴り響く。
丁度日陰になった入口横のベンチの上で丸まりながら、気持ちの良い風に頬を撫でられると、ついつい微睡んでしまうのも仕方がないこと。
ああ、猫は良いな……。
いつもこんな風に、気持ちよくお昼寝が出来てしまうのだから。

「ふぁー……」

大きな欠伸を一つして。器用にベンチの上でころり、寝返りを打つ。
今頃、テストを頑張っている学生もこの下の階に何人もいるのだろう。ご苦労様である。

天使 夕 > 緩やかに通り過ぎていく小さな雲の欠片。
どこまでも穏やかな午後の一時。
どちらも午後のお火寝には掛け替えのないもので。
こういう何処にでもある平凡を、いつか大人になったら、私も懐かしく思う日が来るのだろう。
大切な時間を無駄にしたと後悔するのか、それともあんなこともあったなってくだらない思い出を笑うのか。

できれば、笑って思い出せるような、そんな学生生活を送りたい。
赤点を取って補習を受けたりするのも、また一興?
んーん、それは全力で逃避行する感じで。

ぽかぽかした陽気に包まれて、じんわり体温が上がるのは夏の証拠。
薄目を開けて見上げた逆さまの空を飛行機雲が割って飛ぶ。
そう言う、ありふれた景色をいつまでも忘れずにいよう。

なんとなく、そう思った。

ご案内:「第二教室棟 屋上」から天使 夕さんが去りました。
ご案内:「第二教室棟 屋上」に伊都波 凛霞さんが現れました。
伊都波 凛霞 >  
「わ…っ」

屋上に出ると、季節の変わり目の強い風に髪を攫われる。
島の向こう側の雲は厚くて、夜は大きな雨が来そうだなあ、なんて思って。

「えっと……」

放課後。
屋上も殆ど生徒はいなくて。
だから呼び出されたんだろうけど。

自分を呼び出した"誰か"を探して、辺りを見回す。
そうしていると、声をかけられた。

振り向くと、そこには自分と身長は同じくらいの男子生徒。
…すごく、緊張しているのが見るだけで伝わってくる。

伊都波 凛霞 >  
見たことは…多分、ない。
振り返った先…多分、一年生。

「えっと…初めまして、だよね?」

笑顔で、そう声をかける。
友人を通じて、自分を放課後の屋上へと呼び出した。
今年はじめて、この島で夏を迎えるのだろう彼は…視線の行く先に困ったように俯いて。
それでもすぐに、気持ちを固めて、前を…こちらを向いた。

『好きです。付き合って下さい』

装飾も何もない、真っ直ぐな言葉。
余計なことなんか何もつけられていない裸の心。

「―――」

いつもの通りの言葉を返そうとして、声が出なかった。
その一言だけを口にした年下の彼は、それを伝えるのが限界だと言わんばかりに両の拳を握り、俯いて、顔を赤くして。
…どれだけの勇気でその言葉を絞り出したのかが、理解ってしまって。

伊都波 凛霞 >  
『ごめんなさい』『気持ちだけ』『お友達なら』

口にするのに勇気も何もいらない薄い言葉。
この屋上から飛び降りるような勇気をもって告げられた彼の言葉に返すには、絶対的に軽い。

そういうものだ、と理解っているから、躊躇われた。

「どうして私を?」

なのに代わりに出た言葉はそんなたった一言で、余計な時間を彼に使わせてしまう

伊都波 凛霞 >  
『一目見て』
『学園で見かけるたびに』
『知れば知るほどに』

彼の簡素にも思えた一言には、そんな長い時間の葛藤が籠められていた。
ああ、だからあんなに重く感じたんだと納得する。

『だめですか』

再び顔をあげた、年下の彼の言葉。
こちらが言い淀んでいるのを理解った上での、勇気の第二撃。

───もう、答えなければならない。

「ごめんね」

最初から断る気だったくせに。
断る理由も大したものはないくせに。
無駄に彼の有限の時間を奪って、その上理由まで語らせて。
───なんていやな女。

伊都波 凛霞 >  
『そうですよね』

彼の口からは結果が理解っていたような言葉が返ってくる。
……わかっていたのに、それを覚悟してまでなぜそこまで勇気を振り絞れるのか。
試験期間の終わり、夏を目の前に控えて…今しかないとう後押しも会ったのかもしれないけれど、
どうして断られたのか、彼は理由も訊かずにありがとうございましたと頭を下げて、階下への階段へ走っていった。

「………」

振り返り、少年の背中を見送る、
強い風が吹いて、再び髪を攫われる。

伊都波 凛霞 >  
「───はぁ……」

アンニュイ。

どうしても慣れるものじゃないし、後には溜息しか残らない。

屋上の転落防止用の鉄柵に肘を預け、頬杖をついて…学生街を一望できる屋上に佇む。
なんかみんな、すごい勇気で告白をしてくるのに、決まって『そうですよね』『やっぱり』『わかってました』
とても物分かりよく、諦めてくれる。
違うんだって、そうじゃないのに。

ずっと胸の奥につかえるものがあって、真っ直ぐに受け取ることが出来ない。
でも、もう少し踏み込んで、粘って、どうしても、絶対に…そんな風に言ってくれたら。
不確かなもの(子供の頃の約束)を振り切れる…かもしれないのに。

「…あー、もう。そういうのだめ、ダメ……」

妙な考えを振り切る様に頭を左右に振る。屋上に他に人がいなくて良かった。

「何様なの。ほんとにやな女……」

鉄柵に突っ伏すように上半身を預けて、深い深い溜息が漏れる。

伊都波 凛霞 >  
告白を断っておいて、もう一歩踏み込んできて欲しかった、なんて。
そこの一歩は自ら踏み越えないといけないものに決まってる。
でもその勇気がないから、ただ待っているだけ。
相手の勇気に甘えて構えているだけで何もしない。
相手の本気の感情を知っていてそんなことが出来るのだから。
そんなの嫌な女以外のなにものでもない。

それでいて、こうやって落ち込んでるのが何よりもイヤ。

見下ろす、放課後の校門と学生街。

見るからに、男女のペアが増えた。
当たり前といえば当たり前、入学して、夏を迎えて。
とても短い青春時代の中を生きているのだから、彼らは一生懸命だ。
夏の前にはカップルが増える。
一夏の恋、なんて言葉もあるくらいなのだから。

「幸せ者ども…」

ばたばたと、屋上の強い風に吹かれてポニーテールが棚引く。

伊都波 凛霞 >  
今日この場で、さっきの彼を繋いでくれたのは友人の一人。
彼女は『相変わらずモテるね』なんて軽く言ってくれていた。

けど。

モテる、は褒め言葉じゃない。不幸せな言葉。
だってそれは本当に愛する唯一の人が隣にいない人間に使う言葉だから。
言われても贅沢だなんて、とても思えない。

夏が近づくにつれて増える曇り空。
浮ついた気持ちとは正反対の、暗雲。
まるで自分の気分のような空を見上げる。また一つ、溜息。

「逃げる幸せがまだ残ってますよーに…」

風も強くなってきた。
ほどなくして、一雨きそうな雰囲気だ。

ご案内:「第二教室棟 屋上」に紫陽花 剱菊さんが現れました。
紫陽花 剱菊 >  
雨足がしとしとと忍び寄る。
晴天を暗雲が覆い、静寂を撫でる向かい風。
あたかも、それは初めからいたかのように不意にいた。
音無く、気配も無く、影より罷り越し少女の背に佇んでいる。

「……浮かぬ顔をしているな……。」

@虚;うろよりまろびでたかのような静かな声音が風に乗って耳朶に染みる。
吹きすさぶ風が、艶やかな黒髪をざんばらに乱し、静かな男の目線が少女を見ている。

伊都波 凛霞 >  
「ううわあ!?」

誰もいないと思ってた屋上でのいきなりの声かけは驚く。
…いつものことだけど、それなりに達人の域にいると自覚してる武術の師範代の自分の背後を気配なくとれるこの人なんなの。

雨を予感させる強い風が吹いてリボンと髪が棚引く。
ぱたぱたとはためくスカートを手で抑えながら振り向けば、声の主。
もう見慣れた艶黒(えぐろ)の髪を自分と同じ様に風に流して。

「ちょっと、一つの恋を終わらせてしまったので」

そんな受け答え。
苦笑はしているけれど、内に籠もるものが重いことは見るものが見れば理解る。

紫陽花 剱菊 >  
何故(なにゆえ)狼狽する理由があろうか。疑問に小首をこくりと傾ける。
不思議とそう思うが此の現世(とこよ)では至って普遍。
影の者、天道に出ぬが故に背より語り掛けるが普遍であった乱世の世とは異なるのだ。

「……驚かせたのであれば済まない。
 ()めつ(すが)めつ、其方達(そなたたち)を見守るのが私の役目……。」

故に、此処に在り。
壁に耳あり、障子に目あり、影は場所を選ばず潜んでいる。

「…………。」

眉を顰めた。
艷黒(えぐろ)黒糸(こくし)より垣間見えるは柵の向こう側。
二つと影が彼方より揺蕩っては消えていた。
()より在るのは、実りし影法師と散った泡沫也。

(はばか)り乍、先んじて其方(そなた)の様子は知っていた。
 私は未だ、恋を知り得たばかりの身。然れど、受け入れるかは当人の問題。」

「其方が決めた事であれば、互いに相違は在るまい。
 ……斯様、何故(なにゆえ)其のように後悔をしている?」

伊都波 凛霞 >  
「後から声かけるのはいいとして、気配は出してくださいね…。
 此処では別に気配を殺して話しかける必要とかないんですから」

暗殺者とかそういうのでなければ。
暗殺者だって仕事以外の時にまで気配消してはいない…と、思うけど。

告白を受け入れるかどうかは当人の問題。
それはその通り。
見守られているというのは心強いけど、同時にそんなところまで見られていたのは少し恥ずかしい。

「ううーん、それは…」

「…断る理由が、浮ついてる…からかな…?」

どうなんだろう。
なんでこんな気持ちになるのかは難しい。
相手の思いの本気さに対して、自分が断る理由が有耶無耶すぎるのあかもしれない…けれど。

「大した理由があるでもなく、人の気持ちを踏みにじってる気がして」

紫陽花 剱菊 >  
「…………そういうものか。」

然れども、公安たる影は斯くあるべきだと説かれた。
故に息を潜め、己を殺す。…彼女の言う事も一理、ある。
行住坐臥(ぎょうじゅうざが)戰場(いくさば)に置く男に取っては些か難しい話だ。
眉間の皺も、訝しさに数本増えよう。

風天もより荒れ草木を攫う。暗雲立ち込め、しとどと空気が濡れぼそる。
肌を逆撫でする雨足の気配。そろそろか。

「……失礼。」

ごく自然な動きであった。
少女の体を隻腕が手繰り寄せ、双方の身が重なる。
細く、靭やかであり鉄の如き硬さで刃のような冷たさを持つ男の体。
天道仰ぎ、何時の間にか手にした紺の傘。程なくして、しとり、しとり、雨音が静寂を破る。

其方(そなた)をまた濡らすわけにはいかぬ。
 暫しの共連れ、許されよ。……然て、何故(なにゆえ)そう感じる?」

間近で(うろ)の黒が少女を見据える。
互いに背の差は無く、目線も間近。

「……ただ気に入らぬだけでは在るまい。
 其方(そなた)の事だ。相応の事情が在るのではないか?」

伊都波 凛霞 >  
「そういうものです。区分をしっかり保つのもプロの条件ですよ。たぶん」

眉間に皺を増やす様子を見れば苦笑しつつ。
相変わらずの人だなあ、と。

そんな会話をしていれば、急に距離を詰められ、慌てる。
すぐに急な雨足から傘に入れてくれたことを知るも…近い!
近い!!!

「や、それはいいしありがたいんですけど」

近い!!!!!
自分も大概距離が近いほうの人間ではあると思っているけど。
この人はきっとナチュラルに何も考えずこれが出来てるんだろうな…と考えると末恐ろしい。
大きな躑躅色の瞳が揺らぐ。
その後に投げかけられた問いに対する答えは簡単。
でもそれを口にするのは…人によっては莫迦にされそうとも思ったから。

「気に入らない…なんてことは、なくて」

艶のある唇が言葉を紡ぐ、やや、弱々しく。

「ただ、引っ掛かりがあって……。 …笑わないでくださいね?」

一応、前置きした。
彼がそれを笑うような人間ではないと思って入るけど…。

「子供の頃に将来のことを約束した男の子がいて…。
 まぁ、よくある話だとは思うわけですが、その…なんかそれが、忘れられなくて。
 それこそ子供の頃に離れ離れになってからもうずっと会ってないんですけど」

もじもじと、己の手指同士を遊ばせながらの言葉。
照れくさい。こんなことを告白を断る理由に言うことなんていくらなんでも出来ない、そんな理由。

紫陽花 剱菊 >  
「ぷろ。」

少女の語感より明らかに崩れた物言いである。
斯様、幽世の言の葉は己が知る言葉より倍以上。
今も尚意味を覚えるのに四苦八苦な異邦人也。

「……? 何か……?」

此の刃は人として意義を持ち、夕暮れと互いに恋を知り得た。
然れど、愛も恋も作法を知ること無く、互いに帳の此方(こなたと)彼方;かなた@。
つぶさに人としての所作もまま成らぬ故に、此度が問題だと露知らず涼しき顔。

「…………。」

一層と雨音は増していく。
緑雨(りょくう)に染まる景色はさながら、互いを隠す暖簾の如し。
男は静かに、唯静かに少女の悔恨を聞き届けよう。

「……笑う事では在るまい。幼子乍交わした約束であろう。
 斯く言えば、立場が違えど私も其方(そなた)と何も変わらぬ。」

斯様、一人の女の為に数多の人々が奔走した。
其の中で唯々愚直に彼女と向き合い、成し得たに過ぎない。
何時逢えるかも分からぬ逢魔時(おうまどき)を佇んでいる。
永久(とこしえ)に変わることはないのだろう。互いに朽ち果てようと、永遠(とわ)に。

「斯様な気の持ちが人として大事であることは皆より学んだ。
 ……なおざりせぬ其方(そなた)は立派だ。自らを責める謂れは無い。」

「……然れど、其方(そなた)のように女子(おなご)に声掛けされた経験も無いが、な。」

冗談めかしに、柔く微笑む。
一入(ひとしお)紛れる物寂しさは、進めぬ待ち人故のもの。
いわんや、何をおいても不変で在るが故に、愚直な男で在った。

伊都波 凛霞 >  
涼しい顔をする隣人。溜息もまた一つ増える。
意図的にそういうことをされるよりは良いのか悪いのか。

「──剱菊さんは」

この言葉は、果たして口にしても良いのか、否か。

けれどそれを、どうしても今の自分と重ねてしまうところもどこか、あって。
この人なら、口にしても許してくれるのかもしれない。
真摯に、それに答えてくれるのかもしれない、という甘え。

「剱菊さんはずっと待ち続けるのが正解だと、思う…?」

「……もしかしたら二度と再会することがないかもしれない、約束を」

言葉は真直に彼に向かう。その内側に在る約束にまで。

──恐らく彼に恋や愛を教えただろう彼女。
自分はあの時、彼の背を強く押した立場、だった。
思えば、残酷。
彼女の罪は重く、二人は惹かれ合ったにも関わらず会うことが出来なくなった。
それも、いつまで会えないのかもわからないままに。

「──他に、剱菊さんと共に歩みたい人が現れても、約束し続けるのかな……って」

もしかしたら叶わないかもしれない、それを。

紫陽花 剱菊 >  
さんざめく雨音に吐露した言の葉は有りの侭の彼女か。
端無くも出てしまったのであろうか。さゆる空気がそうさせたのか。
幾許の沈黙。唯、雨音ばかりが強く、強く──────……。

「────皆目、検討も付かぬ。」

果たせる(かな)、苦い笑みが滲み出る。

「……私は此の幽世(かくりよ)の地に流れ着いた招人(まれびと)
 (いくさ)しか知らぬ身とも成れば、其れこそ如何様に知る事も出来よう。」

流れ着いた刃、多くの人々に研磨され、持ち手を見つけた。
なかんずくも、互いに手を取り逢えたのは刹那の刻。
日成らずして、刃は唯黄昏に在るのみ。
正しい行いとは思わない。過ちであるとも思わない。
如何にして己が囚われているのかは、身を以て理解している。

「……互いに渚と佇む身成れば、其方(そなた)逢瀬(おうせ)に流れる事も出来よう……。」

斯様、互いに身を寄せたまま、何処へなりとも流るるままに。
(あつら)え向きに、今や二人ぼっちは雨の帳。
いじらしい其の頬に手を添えた。あたかも(いざな)うかのように。
他者にしか埋めれぬ隙間故に、肖ることも容易い。
口先寸前。視線も、吐息も、唯木漏れ日のように擦れ合う。


──────……然れど。


「……此れは、私の答えだ。其方(そなた)にそうで在れと言わぬ。」

添えた指先が、柔い唇をゆるりと撫でる。

「私は、其れでも待つと決めた
 彼女を止めた"責務"が、私には在る。」

暮色蒼然(ぼしょくそうぜん)。暗闇にも朝日にも進めぬ動かぬ刻で待つ。
其処に綴られたものに擱筆は無く、何れ何方も朽ちるであろう。
即ち此れ、広き幽世の世を識らずも良いと、可能性を捨てたのだ。
あけすけなく虚しき行いで在ると、詮無き事と謗られても。
あの日、彼女に別の道を示さんと手に取った以上、其処以外在りえぬのだ。

「……然るに、そうでなければ彼女を止める事などしなかっただろう。」

全てを捨てさせたのだ。道を閉ざしたのだ。
いたたまれぬとも、必定。故に、待ち人で在り続ける。
黄昏と共に朽ちるのであれば、悪くもない。
此処に在り続ける事に意味があるのだ。全てを捨てさせた。
故に、自らも此処に全てを置いた。此の先、別の道が在ろうとも。

選んだ故の、責務なのだ。

朧の如き、儚き微笑み。
然れどからくも、清らか也。

伊都波 凛霞 >  
──選んだ道を正解にするために藻掻くもの。
そう、思っていたはずなのに、また正解を問うてしまった。
何が正解だったかなんて、先に進んでみないとわからないっていうのに。

彼の答えを聞く。
あの日あの時、思えばあれも夏の出来事。
待ち続ける選択と、己の責任を口にする彼の言葉は…とても、とても──重かった。

「…でも」

「あの時、彼女を止めようとしたのは、貴方だけじゃない。
 それを決めたのが貴方だったとしても…それは───」

それは、辛いことではないのだろうか。
雨の音が続く屋上、その言葉を口にすることは出来なかった。
視線は合わせることもなく、足元へと落ちる。
その手が頬に触れて、ようやく、視線を上げれば…躑躅色の瞳はやや色を濁して。

「こんなお話まで、させちゃったのに」

「どうすればいいのかわわからなくなっちゃった」

そう言って、寂しげに笑う。
子供の頃の約束は、時間が経てば色褪せて。
再会が何時になるのかもわからないままに時間は過ぎ去っていった。
同じ時を生きる皆は、少しずつ前へと進んでゆく。
酸いも甘いも、色々な経験を積みながら。
自分だけそうできない、焦燥はあったのかもしれない。

「──…ごめんなさい。変なこと、聞いちゃった」

唇を撫でたその手をとって、一歩後へと退がりながら。
二人の間には距離が生まれ…強くなってきた雨足に少女は打たれる。

「ありがとう、気にかけてくれて。本当に良いお友達、もったなって」

さめざめと降る夏の始まりの雨。
少女は雨に濡れながら、もう一度笑って。

「もっとよく考えてみる。…私にはまだ時間があるから」

私とあの子の時間は止まっているわけじゃない。
自分を慰めようと、似通った境遇の人の選択を聞いて甘えようとして、本当に浅ましい。

「ありがとうございました」

深く頭を下げる。
背中に落ちる雨粒の感覚を感じながら、踵を返して──少女はその場を去る。

──雨足は、強くなるばかりだった。

紫陽花 剱菊 >  
其れを止める事は敵わず、雨の中に少女は消える。
雨音に一人残されたまま、刃静かに佇んでいる。

「……然れど、私なんだ。私で在らねば、成らぬのだ。」

彼女を、彼女たちを止めんとしたものは(あまね)く人々が奮闘した。
一所懸命。最後に手を取ったのが己だっただけだ。
理由はそれだけで、充分だ。

しとど、一層勢いを増す雨音。
(うろ)の瞳に映るのは、さんざめく鬼雨ではない。
今も尚、黄昏の色が満天に広がり続けている

「あかね……。」

今も尚逢えぬ彼女の名を呟いた。彼女に是非など問いはしない。
己が選んだ以上の事はない。何時か訪れる事を夢見るばかり。
叶わぬ願いだとしても、構わない。なべて、世は事もなし。

何時しか男の姿も、雨の帳に消えゆくのみ。

ご案内:「第二教室棟 屋上」から紫陽花 剱菊さんが去りました。
ご案内:「第二教室棟 屋上」から伊都波 凛霞さんが去りました。