2024/06/06 のログ
■シャンティ > 「あ、ら……」
彼らしい、意地と、愚直さがないまぜになった想い。
それは……とても、眩しいもので
「そ、ぅ……」
例えば――
この女には無数の魔術がある。
通常の魔術書から、禁書まで。様々な本の記憶がある。
それを駆使すれば、その望みを叶えることも――
「……場が、整っ、て……ない、みたい、ねぇ……
ええ。その、とき……を、待つ……こと、に……する、わぁ?」
思いついたことは告げず。
小さく、微笑むのだった
「ん……」
小さな、違和感にも似たナニカ
記述の中に埋もれていく、一描写。
「……どう、した……のぉ?」
いつもと、ほんの僅かに違う男の様子に小さく首を傾げて、問いかけた
■杉本久遠 >
「たはは――待っててくれるのか。
なら、うん、『まだ』、やれる」
久遠にしては少しばかり歯切れが悪い言葉。
これまで、他人にあまり見せる事がなかった、どこか迷いの含まれた言葉。
それを読み取れば――読まなくとも、久遠が何かを迷っている事は容易に知れてしまうだろう。
「――いや、大したことはないんだ。
それより、君のほうも、どこか普段より少し憂鬱そうに見えたが。
体調を崩したりはしてないか?
ほら、気候が崩れやすい季節になっただろう」
隣の女性を気遣うように、少し背中を丸めて顔を覗き込みながら。
驚かさない様にそっと、指先から触れるように彼女の手に自分の手を重ねようとする。
■シャンティ > 「……久遠?」
読み取れたのは、迷い。
あぁ――深く、落ち込んでいくかも知れない。
そんな端緒にもなりそうな、迷いの色。
「私、は……ええ。
問題……ない、わぁ……今、久遠……が、きて、くれた、の……だ、し?」
女にあったのは、空虚。
気を抜けば、どこまでも落ちていってしまいそうな深淵の穴。
けれど、それは何某かが埋まればいい。
「……だか、ら……久遠。
あな、た……よ?問題、は」
重ねようと伸ばされた男の手をわずかに躱し。
逆に、捉えようとするように上から乗せ返そうとする。
ただ、それは静かに、緩やかに行われて
■杉本久遠 >
「ん?
オレが来たから?」
どうにもピンとこない様子だが、ゆっくりと重ねてくれた手の感触に、どこか安堵を覚えていた。
いつ、どこへとも消えてしまいそうな彼女だから、だろうか。
それとも――。
「――いや、本当に大した問題じゃないんだ。
ただ、な。
オレも学園が長いから。
島の外だったら、いわゆる、大学生に当てはまる頃合いだろう?」
久遠が常世学園に在席し、幼少教育から高等教育、専門教育まで受けてきて、すでに14年だ。
14年間、学び舎で学生として過ごしてきた。
だがそれは、妹の名前の様に『永遠』ではない。
「希望の進路、というのを考えなくてはいけなくてな。
ずっと考える事を避けて、逃げてきたんだが――流石にもういい加減、逃げられなくなってしまった、そんなところさ」
たはは、と。
彼女の方を見ながら、情けない顔で普段のような張りのない曖昧な笑みを浮かべた。
■シャンティ > 「ふふ……そう。
植物、には……日光、が……必要……
そう、いう……話」
ピンとこない、といった風情の男に、さらに謎掛けのように言葉を紡ぐ。
真意を読み取ろうとして、顔を見たとしても、その顔にはただいつもの微笑みが浮かぶだけ。
「あぁ――
そう、ねぇ……」
女自身の常世歴は久遠ほどではない。
高校生として入り……事故にあい、休学。
以降は、どちらともつかないような生活を続け……
「それ、は……大した……問題、じゃ、ない……の?」
小さく首を傾げて、見えない眼をじっと男に向ける。
本当に問題ないのであれば、迷うこともないのでは?
そう、問いかけるかのように
「……私、は……モラトリアム、だか、ら……で、も。
久遠、は……考え、ない、と……ね」
人差し指を唇に当て……考える。
そして
「……スイム?」
ぽつ、とそれを口にした
■杉本久遠 >
「んん、ん?
植物?」
やはりよくわからない顔だった。
とはいえ、彼女の顔にいつも通りの微笑みが浮かぶのなら、とても分かりやすく久遠の方も嬉しそうにしただろう。
「ああ、大した問題、じゃ――」
彼女にじっと見つめられると、心の奥底までのぞき込まれているような気持になる。
それが困るではないのだが、どこかくすぐったい。
「――そう、なんだ」
彼女と重ねた手と反対で、ぽりぽりと頭を掻いて、むう、と唸った。
「君も知ってる通り、オレのスイマーとしての実力は、あまり高くないんだ。
もちろん、アマチュアの中ではそれなりの自身はある。
ただそれはあくまで『それなり』でしかなくて、プロの世界にはとてもじゃないが届かない」
熱量で突き進む久遠にしては、現実的で淡々とした自己評価。
眉根を寄せて難しい顔をする。
「プロを目指すには、あまりにも遠い。
諦めたくない夢だが、生きていくのに夢ばかりを追いかけるわけにはいかない。
そうだろう?」
そう言いながら、重ねた手を上向きに返して、彼女の手を優しく握る。
「それでも一定の成績は残してきた。
華々しくはない、が。
だが、コーチやインストラクターにならないか、という誘いを貰えてもいるんだ」
それは、一般的な観点からすれば、とても好い話だろう。
エアースイムの世界から離れず、その世界で安定した仕事をする事が出来るのだから。
ただしそれは。
「だが、そうなると、プロを目指す道は完全に閉ざされる。
今以上に、座学で学ばなければならない事が増えるからな。
練習時間を大きく削るしかないんだ」
久遠は才能あふれる選手ではなく、小さな才能を努力でなんとか微かに輝かせている、そんな選手である。
その努力――練習時間を今以上に削れば、プロという夢は確実に遠のいてしまうのだ。
「別にコーチやインストラクターが嫌なわけじゃない、むしろ声が掛かって光栄なくらいでな。
後進を育てる事も、間違いなくオレのやりたい事の一つではあるんだ」
そう久遠は話すのだが。
それでも、一度夢に見てしまったものに、未練を感じないほど達観出来てはいないのだろう。
■シャンティ > 「……そう」
ぽつ、と小さくこぼす。
ああ、そうだろう。この男は、そういう男だ。
どこか冷静で。しかし情熱的で。
だからこそ、悩む。
理想と現実の狭間で
その姿が……とても……
「そう、ね……それ、は……深刻。では、ない、か、しらぁ……?」
静かに、気だるげに。
その言葉は二人の間だけに流れた
「ね、ぇ……久遠?
本当、に……生きて、いく……ため、だ、け?」
その気になれば、彼には収入のアテがないわけではない。
勿論、それに頼れば家の負担は増えるのもわかりきってはいるのだが。
では、単に実力の底が見えているから?
それとも、夢が遥か彼方だから?
それとも……
「久遠……あな、たの……迷い、は……ど、こ?」
じっと……変わらず、虚ろな瞳が男を見上げていた
■杉本久遠 >
「たはは、深刻、なのかな」
言われると、そうなのかもしれないと苦笑いを浮かべた。
彼女の見上げてくる瞳を、糸目がじっと見つめ返す。
「ああいや、そう、だな。
ただ生きていくなら、別にプロを目指し続けたって構わないんだ。
最低限の稼ぎで十分だから、一人で生きていくなら、それでいいんだ」
そう言いながら、握った彼女の手に、もう一方の手も重ねた。
「でもオレは、君と生きていく未来も、考えたいと思ってる。
思ってる――じゃないな。
オレは君と一緒に生きていきたい、真剣にそう考えている――んだろう」
だからこそ、迷い、悩む。
安定しつつも新たな展望のある進路と、いつ届くかもわからない、暗中模索を続ける道と。
ただ彼女は――
「君はきっと、オレが本当にやりたい事をやればいい、と言ってくれるんだろう。
そして、その方が君にとっては刺激と楽しさが、あるのかもしれない。
オレはそんな思い出を、君に沢山作ってあげたいとも思う」
そう言いながら、彼女の瞳を見つめたまま、ほんの少し、距離を縮める。
「でもそれだけでなく、君に少し退屈で、それでも安心して安らげるような。
いつでも帰って来れて、翼を休める事が出来る止まり木のような。
そんな場所を作ってあげたい――そういうふうにも思ってる」
それは、何年か前に先走って言ったプロポーズとは違う。
真剣に考えて悩みぬいた、彼女と共に生きていくためのビジョンだった。
彼女が秘めている謎は沢山あるが――それをそのまま受け入れて、彼女が幸せに思える道に進みたい。
そう――愚直なほどまっ直ぐな愛情ゆえに、久遠は迷って悩んでいるのだ。
■シャンティ > 「そう」
ただ、生きるだけならば。なんとでもなる。
勿論、窮屈ではあろうけれど。
「……」
ほんの一瞬。
その虚ろな瞳が、丸くなる
「それ、は……困っ、た……わ、ねぇ?」
小さく、首を傾げる
将来の、ビジョン。
女自身もまた、描いたことのない、先。
未だ……来ていない、未来
「……久遠。
私、は……先、を……見な、いで……きた、女、よ。」
いつ、どこで、どうなろうと。
別に構わないという、冷めた心。
先など見なくとも。見えないモノを見なくとも。
今だけで十分だと
「……久遠。
変わら、ない……こと、って……どう、思う……?」
ふと、口にする。
それは、どこかで投げかけられた問。
■杉本久遠 >
「――あ、いや、すまない、困らせてしまったか。
また先走ってしまったみたいだ」
一緒に生きたいという気持ちに嘘偽りはない。
そこには、一片の曇りもよどみもない事だろう。
ただ。
「変わらない、事、か?」
その問いに、ほんの少しだけ考えるようなそぶりをするが。
ほとんど悩む事もなく、当たり前のように答えるだろう。
「いつまでも自分らしくいられる。
いつでも自分の原点に戻れる。
変わらないというのはそういう事じゃないか?」
少し不思議そうには答えるが。
答え自体は、悩む事もなく滑らかに答える。
■シャンティ > 「……」
なるほど
彼らしい、答えだ
「そう、ね……
先、走って……いる、わ、ねぇ……?」
くすり、と笑う
くすくす、と……薄く
「それ、は……私、と……いる、こと、が……
決まっ、て……から、の……先、よ……ね?」
共に生きていく、ということは。
その前に、しかるべき流れがある。
そこを飛び越えての考えである、が
いかにも、この男らしい……とも、いえる
「そし、て……ええ。
……そ、れは……久遠、だけ……の、未来。
久遠、だけ、が……描、く……未来、ね?」
女に用意したい、と。一方的に見る未来。
「……ええ、それ、で……いい、の……なら。
それ、で……考え、れば……いい、わ?」
考えるだけなら、自由だ。
そこには誰も居ないのだから。
その、袋小路にも似た迷いの中で、どうもがくのか。
どう、泳ぐのか。
「……原点……なる、ほど……大事、ねえ」
ぽつり、と。
独り言のようにつぶやいた
■杉本久遠 >
「――むむう」
彼女の反応に、思うところはあったのだろう。
「たしかにその通りだ。
まずは君に、一緒に歩んでもらえるような男にならなくてはならないな。
――君にとっては、迷惑な話かもしれないが」
そう、両手で包んだ彼女の手を大事そうに胸の高さまで挙げる。
「オレの未来が、オレだけの未来になったらダメなんだ。
オレの未来は、君と一緒に描ける未来がいい。
――オレは、君の指に指輪を送りたい。
君がオレと一緒に歩んでもいいと、一緒に未来を描いてもいいと思ってくれたなら、そうしたいと思ってる」
だから悩んでいた。
言葉にした夢は、一人で考えた例えば、一例に過ぎない。
別の形であっても、久遠は彼女と共に歩めるのなら、それを選びたいと思っていた。
「オレだけの未来なら、きっといつまでも、空だけを見上げ続けているさ。
でも、オレの目にはもう、空だけじゃない。
君の色がいつも、そこにあるんだ」
温かな銀色が。
眩しい褐色が。
久遠の描く夢には、いつの間にかずっと、彼女がいるようになっていたのだ。
「ああ――うん、そうだ。
話せてよかった。
大事なものを確かめられた」
自分にとって何が大切なのか。
自分の原点、そして、自分らしさ。
目指したいみらいのカタチが、少しだけ見えた気がした。
「――まあ今は、まずは君のやりたい事を手伝えたらいいなと思ったよ。
オレは君にどれだけの秘密があっても、一向に構わない。
ただ、君の望む事があるなら、少しでも力になれるようになっていきたいな。
――なんて、オレじゃあ力不足かな」
たはは、といつものように――少しだけ悔しそうに笑った。
■シャンティ > 「……迷惑、か……は。
あな、た……次第、ね。久遠?」
きっかけは、些細なことだった。
それに、大きくかける想いも、なかった。
……そこでは
「あ、ら……」
男の口から出てきたのは
どこまでも真っすぐで どこまでも愚直で
どこまでも熱くて どこまでも……
「指……そう……そ、う……なの、ね」
薄いピンクの唇が……うすく、うすく、つぶやく
強い思いを受け止めて
そろそろ……なのだろうか。
このさきの未来を選ぶべきタイミングは
「私、は……ね。久遠……
夢……なん、て……ない、の……よ?
した、い……こと、も……ね。」
悔しそうな笑いを浮かべる男に、女は語りかける。
その眼と同じ、どこか空虚な語り
「えぇ……今、が……満ち、て……いれ、ば……いい。
だか、ら……そう、ね。
久遠、は……十分、力……に、なって、いる……わ?」
小さく、薄く、笑う。
「これ、で……いき、て……いけ、る……の」
そういって笑う。
優しい、微笑み
■杉本久遠 >
「そうか。
それなら、それでいいんだろうな」
優しい微笑みに、久遠もまた柔らかく笑う。
「すまん、別に急かすわけじゃないんだ。
ただ、その、何時までも君との関係を曖昧にしていてはいけないと思ってな。
だから、君の今が満たされてているなら、それで」
それなら、彼女の心にある空洞を、少しずつ『今』を繰り返して埋めて良ければいいと思う。
「夢もしたい事もないなら、今の瞬間、一つ一つを楽しんで、今を一緒に重ねていこう。
ああいや、常に一緒じゃなくてもいいんだ、君が今を楽しめるように、自由に、思うように生きていてほしい。
その今を満たす一助になれているなら、オレはそれで充分幸せなんだ」
そう言って、彼女の手を優しく引いて抱き寄せる――事が出来れば、久遠も少しは男らしさがあるのかもしれないが。
そんな思考がかすめはしても、安易に彼女に触れないのがまた、この久遠という男だった。
「だから、未来の事はもう少しだけ、後回しでもいいのかもしれないな。
ああもちろん、考えないわけじゃないが――焦る必要は、ないんだろう。
――君と一緒に、今を生きられるんだからな」
そう言って、久遠は彼女に真っすぐな愛情を伝える。
今時、情欲に動かされたのではない、ゆっくりと積み重ねてきた、晴れ渡った空の様に澄んだ愛情。
久遠はそれで充分なのだと、心から思った。
なぜなら。
こうして彼女と重ねていった『今』こそが。
いずれは掛け替えのない『思い出』となり、『未来』になるのだから。
■シャンティ > 「あ、ら……て、っきり……いま、で……満足、なの、かと……思って、いた、わぁ?」
くすくす、と笑う。
いつもの、からかうような、楽しむような微笑み
「ふふ。で、も……そう、ねぇ……急、だか、ら……すこぉ、し……びっく、り……した、けれ、どぉ……
久遠、の……考え、は……伝わ、った、わ?」
青いままの果実ではなく、じっくりと中で熟していった。
そんなような、甘く、濃く、しっかりとした愛情。
「……ふふ。そう……ね。
それ、に……この、先……なに、が……ある、か……わか、らない、し?
焦、らなく、て……も、いい、わ……ね」
どうしようもなく、欠け落ちた器。
それを満たすのは虚ろの娯楽たち。
それが真に満たされるのは、どんな未来か。
「えぇ……たのし、み……だ、わ」
ちいさく、ちいさく、女はつぶやくのであった
ご案内:「図書館 休憩室」から杉本久遠さんが去りました。
ご案内:「図書館 休憩室」からシャンティさんが去りました。
ご案内:「図書館 休憩室」に風花 優希さんが現れました。
■風花 優希 >
ガシャン。自販機が、ガコンと飲み物を落とす。
静かな図書館の休憩室に響くその音は、やけに大きく聞こえる。
腰を曲げ、自販機の取り出し口に手を入れているのは一人の少年。
「よ…っと」
彼は取り出し口から缶を取り出すと、身体を滑らかに起こす。
男子にしては長めの、透き通る水色の髪が微かに揺れる。
前髪から覗くのは、薄く透けた赤色の瞳。
手にした缶のラベルには、激甘メロンソーダと書かれている。
少年は缶を片手で摘まむように持ち上げたまま、静かに自販機の隣にある長椅子に腰かけた。
■風花 優希 >
何てことは無い、一見すればただの休憩している男子生徒の姿だ。
カシュリと缶のプルタブを開けて、口を付けるとメロンソーダを流し込むように缶を傾ける。
ただ、その間にもその視線は休憩室の外…図書館の書庫付近に向けられていた。
即ち禁書庫へと繋がる通路付近に、だ。
「……」
こくり、こくりと喉から炭酸を飲み込む音が静かに響く。
少年の表情は一見してリラックスしたようなそれで在りながら、何処か異様なほどに平静で。
こんな様子で在りながらも、まるで気を抜いていないようにも伺えた。
ご案内:「図書館 休憩室」に焔城鳴火さんが現れました。
■焔城鳴火 >
「――仕事熱心ね、風花」
そう言いながら、少年に鳴火は煙草を一本差し出す。
鳴火もまた、口に一本咥えている。
が、それに火はついていない。
「シガチョコ。
なにをそんなに気にしてるわけ?」
そう少年の様子から、ただの仕事熱心さとは違うモノを感じて質問した。
■風花 優希 >
炭酸飲料であるだろうに、その飲み方もまるで炭酸を感じていないかのような一飲み。
……暫くして、こくり、こくりと喉を鳴らす音も止まった。
そして微かに彼は目を伏せると、自販機の隣に置かれたゴミ箱へと缶を放る。
見事なコントロールで缶はゴミ箱の中にホールインワンを決め、少年の口から小さく息が漏れる。
声をかけられたのは、まさにそんな時。
「またなんというか、懐かしい匂いのするものを…。
別段、仕事をしてるだけですよ、不法侵入警備の」
顔を見上げて、何てことは無い様に、少年は返す。
■焔城鳴火 >
「第三次大戦前商品の復刻シリーズ。
私の地元じゃよく売られてたもんよ。
本土の静岡。
父親の実家が神社で、縁日なんかにもよく行ってたから馴染みがあんの」
『で、いらないの?』と、箱から器用に一本だけ飛び出したシガチョコを向ける。
「ふうん、不法侵入警備ねえ。
――それにしては随分と、熱心すぎる気がするけど?」
目を細めて、少年が見つめていた書庫の方へ視線をやった。
その先には禁書庫へと通じる通路がある。
■風花 優希 >
「実家、神社だったんです?
……じゃあ、一本だけ」
差し出されたシガレットを、一本だけ受け取る。
シガレットを指で摘まんで、口に咥えて、それっぽい仕草を一応は見せて。
けれども直ぐに、ガリっと、咀嚼し始める。
「他の人が、熱心じゃないだけでしょう。
図書委員ですからね、まあそれなりには」
そう語る少年の口調は、極々自然なものだ。
隠している様子も、隠そうとする意志もそこには無い。