2024/12/17 のログ
ご案内:「図書館 閲覧室」に泳夢さんが現れました。
泳夢 >  
木製のレトロな車椅子が図書館のエントランスをゆっくりと通り過ぎていく。
その背を押す人影はなく、車椅子はひとりでに動いているように見えた。
一見した外観に反し、恐らくそれは電動式の車椅子なのだろう。

やがてエントランスを抜けた車椅子は、そのまま本棚の並ぶ一角へ進んでいく。
歩くような速度で走り抜ける車椅子の上で、澄み切った白磁のような髪が揺れていた。

「んと、魔術の本は確か…」

手慣れた調子で本棚の列を移動する車椅子に座った少女は、 やがてとある本棚の前で制止する。
恐らくは目的とする書物がある場所が其処であったのだろう。
少女は目的の本棚から何冊かの本を取りながら、パラパラと本を捲っていく。
一冊、二冊と読み進めれば棚へと戻し、そうして目当ての本を探しているのだろう。

ご案内:「図書館 閲覧室」に廿楽 紫音さんが現れました。
廿楽 紫音 > 「~♪…ん」

少し魔術について調べたくて立ち寄った図書館。
行ってみれば、見かけない先客が一人いるのに気が付く。
車椅子に、動きがぎこちない手足は少し物珍しい感覚だ。

「何かお探しかい?」

にこり、と笑って声をかけてみる。
最近”裏”にばかりいたから、こういう場での交流も偶にはいいだろう、と。

可愛い子だったから声をかけたってのも多少はあるけど。
こういう小さな交流の一つ一つが後々いい事につながることだってあるだろうし。

泳夢 >  
「わっ、こんにちは?」

掛けられた声に小柄な少女はくるりと振り向く。
小首を傾げて見返す瞳は澄んだ空のような蒼の色。

彼女は手に取っていた本を膝の上へと置き直すと、ぺこりと一礼を声を掛けた主に向ける。
容姿からして教師だろうかと判断したのか、口調や声色は少し硬い。

「ええと…ちょっと念動系の魔術について調べてまして」

廿楽 紫音 > 「じゃ、俺と同じだ。
 魔術の勉強?」

そうかしこまらなくていいよと手をひらりとして、近くの本を手に取る。
手に取った本は悪魔術の類。
魔術の系統としては殆ど知らない体系だし、自分の求めるものとは少し違うものだったから、うーんとしてから本棚に戻し。

「念動系…サイコキネシスとかいう類?
 あれは超能力か。魔術と一応別カテゴライズなんだっけ。

 勉強熱心でいいね~、何かしたいことでもあるんだ?
 それともテスト勉強とか?」

魔術というのは才能が8割の世界だ。
異能に比べたら系統化されているものではあるものの、使える者と使えない者で大きな差が生じる。
だから、常世学園では魔術の講義は基礎的なもの以外は選択式の専門科目になっていることが多い。
とはいえ、様々な存在がやってくる常世学園では、異能も含めて多くの科目が選択式であるのだが。

「念動力か…やったことないけどそれっぽいのは出来そうな感じするな。
 俺も魔術、ちょっと齧ってるんだよね。今日はちょっと調べたいことがあってここ来たんだけど。

 何だったら簡単な事なら教えよっか?」

泳夢 >  
勉強…というと少し違うが、間違っても居ないので否定せず。

「は、はい、そんな感じです」

畏まらずに、と言われて声色は少しだけ柔らかに。
けれども敬語は流石に直ぐには崩さないようだった。

「やっぱり、そういう魔術…あると便利なので。
 私ほら、こんなんですから、もうちょっと習熟しておきたくて」

ともあれ、問われた言葉に軽い思案を交えながら彼女は返す。
顔色は変わらぬ素面で、軽く顔の横あたりまで上げた義肢をゆらゆらと揺らした。
肌色よりも白が強く、球体関節のそれは一目で作りものだとわかるそれであった。

「え、いいんですか?」

廿楽 紫音 > 「ああ、成程」

義肢を見て納得。
成程、車椅子に乗ってるのは足が不自由だからか。
大変そうだなぁ。

ま、不思議な体してる子ならいくらでもいるし、そのうちの一人って事か。

「基礎的な魔術なら多分教えれるんじゃないかな。
 得意なのはまた別の系統だけどさ。

 それに学ぶなら人から教わる方が効率いいでしょ」

少しは教員らしい事をしないとね。
まぁ、専門分野ではないけれど……基礎の部分なら大体要領は共通してるはず。

「それにしても凄い義肢だね。
 事故?生まれつき?

 って、そういうの聞くのは失礼か」

泳夢 >
「じゃあその…お願いしてもいいですか?
 一応、知識だけはあるんですけど、実践がいまいちで」

端的に言えばコツが知りたい、という感じなのだろう。
少女はいま一度ぺこりと頭を下げてお辞儀を返した。

「あ、気になって当然だと思うので、大丈夫ですよ。
 大人の人からは後天的…だと聞いています」

そうして問われた当然の疑問に返された返答は、どこか他人事のようで。
まるで彼女自身にもよくわからないことであるかのような物言いで在った。

廿楽 紫音 > 「だと聞いてます…ってことは覚えてない感じ?
 はは、じゃあ俺の記憶と同じ感じだ」

自分もまた、ここに来るまでの記憶がない身だった。
そう考えると少し親近感があるな。

記憶がないのは考え物だ。自分の場合身寄りも何もなかったが。

「実践がいまいちね……じゃあ俺流のやり方で簡単に。
 念動っていうものかちょっと微妙なのと、少し特殊な魔術だけど……まあ参考くらいにはなるでしょ。

 俺はね、菌類に対する作用を魔術として扱えるんだ。
 菌っていってもウィルスとかも一応含まれるのかな。
 ま、微生物を操作する魔術って思えば話が早いよ。
 
 物を動かすってのはやったことないけど、多分……」

菌はどんなところにでも存在する。
体内にも菌は存在するし、無菌室だって完全な無菌なわけではない。

それらを操作してやる事、特別な菌を生成してやる事で、様々な薬効や作用を引き起こすことができる。

「管理者の人らには内緒にしといてね?」

バレると文句言われそうだから、としーっと唇に手を当てて。
そうしてから、適当な本を指でなぞって…そこに魔力、不思議な力、マナと呼ばれるものを伝わせる。

「魔術ってのは簡単に言えば、導線を引いて何か起こしたいところに作用させるのが基本だと俺は思ってるかな。
 念動力なら、見えない糸や腕を自分の身体から伸ばして、自分だけが分かる感覚で物を掴む感覚。

 俺の場合は菌に作用する魔術だから、見えない糸を菌から出してもらう感じで…
 まずはイメージを作ってく。
 イメージは魔術の基本だからさ。」

本から指を離して、イメージを練っていく。
イメージは菌糸。それが指先から伸びて、本を掴むイメージ。
それらのイメージを、周囲の菌達に伝えて、菌たちを変容させる。

かた、かた…と本が揺れて。
ひとりでに本が引き出されて浮かび上がったように、肉眼では見えるかも。

でも魔術士の眼からすれば、男の手から細い糸のようなものが伸びていると、理解できるかもしれない。

泳夢 >  
「ええと、おんなじ…?」

不思議そうに教師を見上げる少女の顔が、こてりと左に軽く傾く。
彼もまた、記憶のないなか保護されたりした身の上だったのだろうか…と思案しているのだろう。
ともあれ、その反応自体が覚えていない事への肯定であったのには違いない。
今はそれよりも、彼の魔術のアドバイスのほうへと耳を傾けることにした。

「微生物の操作…」

そうして耳を傾ければ、中々にすごい魔術を扱える人物であったことに少し目を丸めた。

それは確かに浅学な自分でも非常に特殊だとわかるような魔術。
だが、それ以上に幾らでも悪用できそうな魔術だなと、最初に抱いた印象はそれであった。
眼には見えぬそれを察知する術は無く、何よりウィルスや細菌は人類の大敵だ。
そう最初に思い至ってしまう自分に、少しばかり自己嫌悪を彼女は向けて。

しかしてそれでも教師だというあたり、きっと『いいひと』なのだろうと。
そう今は思うことにして、そんな思考をゴミ箱へと投げ捨てた。

「導線を引く…ですか。
 糸や腕を伸ばして…掴む感覚……」

まじまじとそんな魔術行使を観察しながら、紡がれた言葉を反復する。
ただ、その視線は手から、直ぐにかたかたと揺れる本の方へと移る。

魔力の動き、それそのものがみえていないのか。
或いは音に反応したのは、定かではないが…目を凝らすように観察しているのは確かだった。

廿楽 紫音 > 「そ、同じ。
 まぁ特殊な身の上って事だよ」

そう言いながら、浮遊する本を手でつかむ。
やはり適正がない系統だな、本一つ動かすので随分苦労をしたし。

「このイメージができるかどうか、どういうイメージが自分に合ってるのかっていうのが魔術をうまく使えるかどうかの分水嶺だと思うな。

 どう?参考になった?」

ならなくてもまぁ、いいか。
これが本業の授業ならともかく、今はプライベートで勝手にやってる事。

「得意な魔術とかある?こういうのが出来るとか、そういうの。
 まずはそれを探る所からじゃないかなー。自分の得手不得手を知って、それで出来る事を考える感じ。

 俺は念動力の真似事は得意じゃないみたい。やっぱ菌って力弱いわ」

ははは、と笑いながら本をぺらり。
魔法薬術の類の本だ。ちょうど探してた所なんだよな。

「とまぁ、今ここでできるのはこのくらいのアドバイスかな。
 何か参考になった?」

泳夢 >  
「あ、はい!
 やっぱり実例を見ると、本より何となくわかりやすかったです」

うんうんと思案しつつも、声が掛かればハッとして、そう返事をした。
ちょっと声が大きくなってしまって、咄嗟に「やっちゃったっ」とばかりに口を義肢で抑えたのは愛嬌か。

「うーん…実を言うと、そういうのもまだ全然で…。
 基本的なものしかやってないですけど、どれも今のところはいまいち…っていう感じ、ですね」

結論から言えば、今のところ適正なんかは詳しくは分からない、という事らしい。
口にしている言葉からだけならば、基本的な魔術分野の範囲に適性はなさそうでもあるが…
実際に詳細な検査なんかをしたわけでもないのだから、やはり”わからない”が結論だろう。

「…でも、本が取れるだけでも、便利だと思います」

廿楽 紫音 > 「ははは、図書館では静かにしないとだったね」

そんなことを言いつつ自分も長々と説明をしてしまったけど。
まぁ、怒られてないから大丈夫でしょ。

「ふーん、そうなんだ?
 ならそこからやってみるといいかもね。得意分野が分かれば幅も広がるしさ。

 ま、確かに便利だよね。
 本動かすとかは兎も角、結構色んな事に使えるし」

くすっと笑って、少しだけ君の方覗き込んで。

「君が思ったような事もできなくもないからね」

なんて、含みのあるような言葉を一つ。

「なんてね、まぁでも菌なんて悪用しようと思えばいくらでも出来るけどねー
 俺も面白い事ができないか研究中だよ。
 
 俺も魔術は勉強中だからさ、君と同じって訳」

本をぱたんと閉じて元に戻して。

「じゃ、まずは自分の適性を調べるところからやってみるといいよ。
 この島じゃそういう検査とか多分やってるだろうしさ。

 わかったらまた、勉強付き合ってあげる。

 あぁそうだ。
 俺は紫音、君の名前、聞いてもいいかな?」

泳夢 >  
「アドバイス、ありがとうございます。
 色々もうちょっと、やってみて……特異な事、みつけてみます」

ぺこりとまた頭を下げて、少女は丁寧に礼をした。

それから静かに視線を上げて、覗き込んだ視線が交われば少しだけ苦い笑顔を携える。
要らぬ思案は隠していたつもりであったけれど、やはりバレるものらしい、と。

「……ですね、ものは使いようって言いますし。
 私が出来る事がひとつでもあれば、そこからなにか、できるかもしれませんもんね」

「あ、私は泳夢、です。
 一応二年生…になります」

廿楽 紫音 > 「普通考えるじゃない、そういうこと。
 俺だって色々やりようあるなーって思ったりするしさ」

そういう魔術だ、可能性を考えるときにいろいろと悪用方法を考えたりした。
実際に使ったかは…今は秘密。

「二年生か、いつか講義で出くわしたらよろしくね。

 さってと、そろそろいくかな~
 今日は楽しかったよ」

調べ物は、また今度でもいいものだし。
若い子に軽くアドバイスするのはやっぱり楽しいもんだ。

「できるようになるといいね、念動力」

そう言って、手を振ってその場を後にした

ご案内:「図書館 閲覧室」から廿楽 紫音さんが去りました。
泳夢 >  
「はい、講義の時には改めて、よろしくお願いします」

その言葉に、ほっと一息つきつつも、苦笑は携えたまま。
担うようなその言葉に「ありがとうございます」と小さく返し。

「……私もできる事、見つけないとなぁ」

と、教師が去った本棚で小さく零せば、また新たな本を探し始めるのだった。

ご案内:「図書館 閲覧室」から泳夢さんが去りました。