2024/06/22 のログ
ご案内:「大時計塔」にポーラ・スーさんが現れました。
ポーラ・スー >  
「――やあねえ。
 重傷の『捨て駒』(ペット)にくらい、優しくしてくれないの?」

 時計塔の上で、黒服の女は右耳の通信機を相手に話していた。

「わたしは、ちゃぁんと指示通りにお仕事したのに。
 剣士ちゃんの力は、とっても強力だけど、ちゃんとコントロール出来ていたわ。
 それに、技も異能も、成長するけれど、心だって育つものよ?
 子供たちの成長は、とっても早いのだから――」

 そう言いながら、黒服の女は左手を挙げる。
 指先からは、ぽたりぽたり、と今も止まらない血が滴り続けている。
 傷が塞がらない、血も止まらない。
 けれど、それもまた――愛おしかった。
 

ポーラ・スー >  
「――ego omnis mundum amare est.(このよすべてがいとおしい)

 その言葉に導かれるように、右手に持った折れた刀に、青白く光る液体が何処かから染み出してきて、集まって来る。
 そして再び、結集して刀の形になり、鞘に包まれた。
 異世界から訪れた流体金属で出来た刀、『神山舟』(かやふね)の能力の一つだ。

「ねえ――そろそろ少しくらい制限を外してちょうだい?
 この傷もこの痛みも、あの子がくれたと思えば愛しいけれど。
 このままじゃ死ななくても、貧血になっちゃうわ」

 そう言葉にすると、程なくして血は止まり、『傷も塞がった』。

「あらあら――これだけ?
 ざんねんねえ、文字通り身を削ってあげたのに。
 まあ――いいわ、とても素敵な時間だったもの」

 『失った鼓動』が、一瞬だけ戻る。
 それで充分で、右手と左肩の表面的な傷は再生した。
 無論、全てが治るわけではなく、少女が残した傷は取り繕った下で痛みを訴えている。

「あーあぁ、どこでお風呂に入ろうかしら。
 これだけ血だらけだと、お洗濯も出来ないわ。
 これ、お気に入りだったのに、新しいの仕立てないと」

 そう不満じみた声を漏らしつつも、やはり表情は楽しそうなまま。
 ゆっくりと歩きだす。

「ああ――oms ego desidero amplec est.(だれかわたしをだきしめて)

 そして風が吹き、黒い姿は影に滲むように消えていった。
 

ご案内:「大時計塔」からポーラ・スーさんが去りました。