2026/03/03 のログ
■コトハ > 「はぁん……?」
なんとなく当てずっぽうのように言ったことだが、あながち間違いではなかったようだ。
だからといって、少女もそれを自慢気に思うことはない。
むしろ、当たってしまったことがめんどくさい、と感じていた。
相手の乾いた笑いから、いい経緯ではないのは確かであるし。
「うん?」
ホシを追い詰める。相手は妙なことを言った。
警察とかそういう仕事をしていたのだろうか。
別に興味はないが、そういう堅い仕事をしていたのにこんな有り様になったのなら……おそらく何事かあったのだろう、とは察せられる。あまり考えたくはないが。
「……っ」
ほんの一瞬だが威圧とも殺気ともとれない、何かの気配を感じる。
少女は武術も何も素人なので、実際には悪寒が走った、といった程度のものであるが。
緊張のためか、バキリ、と音がして飴が砕ける。
「……別に、好きで行ってないです。嫌いなのに、心地だけはいいだけで」
ぽつり、と呟き
「言葉の綾だよ。マジで水がなきゃ干からびるし。ま、こいつ舐めてる分でだいぶ楽だけど。」
新しい飴をあけて見せて、咥え直す。
ぴこぴこと、飴と繋がった棒が揺れる。
「なんだよ、だれだよイロハって。記憶喪失かジイサン。
……ただのボケ、だよな?いや年寄って意味じゃなくて冗談って意味で。
真顔で冗談言うなよ、笑っていいのか突っ込んでいいのかわかんなくなるだろ」
言葉荒く突っ込んでから……どこか真面目に聞き返す。
一応、真面目に受け取ったのか、それから男の言葉を反芻する。
「……学びたいことととか、卒業後、か。」
しばしの間。考えているような素振りを見せる。
「ちょい前までは、なんか色々考えてた気がすんだけどな。
今は、さっぱりだ。法学……法学、ねぇ。
てか、なんで法学なんだ?いや、アンタがそういう教師なのか。」
そういえば、そういう系の仕事をしていたっぽい発言が本の少し前にあったか、と少女は思い出す。
「って、なんだこれ。人生相談かなんかか?」
■東山 正治 >
教師もそうだが、それ以上に公安職。
おおよその情報は調べたりもする。
そういう仕事だ。昔取った杵柄として、そういう所も買われていた。
「……、……そ。
まぁよくいるさ。コトハちゃん以外にも、そういう子は。
単位がどーとか言うべき何だろうが、俺はそこまで堅苦しく言う気はない。」
「ソイツの人生だしな。好きにすればいいさ。
まぁ、でもせっかく入学してるんならちょっと勿体ないとは思うけどね。」
少なくとも"訳あり"なんて話こそきりが無い。
個人の問題や種族の問題。安定期に入ったとは言え、未だ混迷の時代だ。
それこそ星の数程。そう、よくある話だ。
くつくつとした笑い声を、コーヒーで流し込む。
「ん、俺そんな事言った?悪いね、人の名前を間違えて覚える親友がいてね。
もしかしたらクセが移ったかもなぁ。まだボケてるつもりはないんだけど……。」
「ま、それはおいといて、だ……。」
懐か取り出し、少女へと投げ渡す。
一枚の名刺だ。法律事務所と、その住所が書いてある。
「そ、迷える不良少女の人生相談。
さっきも言ったが、俺はわざわざ嫌いな場所に無理して行く必要はねぇと思ってる。
そんな所で何が学べるかって話。まぁ、心地良いっつーのはきっと個人の話だろ。」
「友達がいるからとか、そういうの。
まぁ、だからこのまま適当に生きるのも自由だけどさ。
どうせ暇ならちょっと俺のお手伝いとかしてみない?」
ゆるりと立ち上がればまたコーヒーを一口。
軽く伸びれば全身が軽くポキポキ音を立てた。
「なに、探偵の真似事だよ。単位も金も用意してる。
しっかり一つの委員会として容認されてるから合法さ。
オタクみたいなのも手伝ったりしてるし、ソイツにも勉強を教えたり、な。」
「気が合いそうだぜ?なにせ、コトハちゃんより口の悪い女だ。
気の強さもイーブンだな。けどま、本人なりにやりたいことがあるから手伝ってるって話さ。
はみ出しものがいちゃいけねぇ理由はねぇってな。……ま、何時でも暇な時に来なよ。」
それこそ教師でもあり、一個人としても手を差し伸べる。
根の勤勉さもそうだが、そういう意味でも変わり者なのかもしれない。
教師として自ら、グレーゾーンのセーフティとなる。
言葉とは裏腹に、その"面倒"な生き方は骨髄まで染み付いているようだ。
■コトハ > 「あ、そ」
変に諭すわけでもない。叱りつけるわけでもない。
好きにすればいい、という額面だけ見れば無責任にも聞こえる言葉であった。
ただそれは、少女に気持ち悪さと心地よさのどちらも感じさせていた。
「うぉっと!?」
投げ渡された名刺は、手に収まるように飛んだが思わず取り落とす。
慌てて拾い上げて、まじまじと見つめた。
「なんだよこれ……ほうりつじむしょ?」
少女は思わず、男と名刺の間で視線を何往復かさせた。
先程の話からすれば想像もつく内容ではあるが、実際に見るのでは印象がだいぶ違う。
「不良少女とか、ちょいちょい言い草が気に食わねぇな。
まあ、覚えておくくらいしてやるよ」
名刺をためすすがめつ眺めてから、財布にしまい込む。
ごく普通の財布だ。あまりにも。
「……ありがとう、ございます」
■東山 正治 >
「意外とお礼は言えるんだ。いいね、フェイちゃんよりはいい子だ。」
それこそからかうような物言いだった。
一気に缶を飲み干せば空缶を軽く振った。
「学務をサボってこんな所いるなら、充分優良不良少女でしょうが。
まぁ、こう見えて弁護士資格とかは持っててね。探偵の真似事もしてるってワケ。
意外にも法律関係者っていうのは、何時の時代でも重宝されるモンみたいだぜ。」
だからこそ教師もやるとなると激務なのだが、それはどうでもいいことだ。
此れがきっかけになりえればそれでいいし、停滞を望むならそれでいい。
そう、自由なものだ。行動に伴う責任さえ目を瞑れば、だが。
「ま、それ以外でも相談には乗ってあげるよ。
解決できるかは別として、教師でも個人でも。
じゃ、俺はもう帰るから、コトハちゃんもさっさと帰りなよ。」
それじゃあね、と踵を返す。
振り返ることもなく、やがてコーヒーの香りは風に消えていくのだった。
■コトハ > 「そうかよ」
フェイ、というのは男の言葉から考えれば、もう一人の手伝いをしている不良少女、といったところか。
どんな少女なんだろうか。口も性格も、あまりよくなさそうだけれど、と少女は考える。
「弁護士って探偵とは違う職じゃねえの……?」
証拠の裏とりなど、探偵じみたことをする場合もなくはなさそうではある。
しかし、実際の職として混同したようなことをするのは如何なものだろうか。
思わず、胡散臭げに見る。
「……ま、それはそれとして。気が向いたら、な。
私だって、別に好きで来たわけでもねーし。さっさと帰るよ。」
面倒くさそうに男に返事を返す。
それから、男とは重ならないように僅かに時をずらして少女も帰っていく。
理由は単純で、同道するのは面倒くさそうだったから、である。
ご案内:「大時計塔」から東山 正治さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」からコトハさんが去りました。