2024/09/09 のログ
ご案内:「委員会総合庁舎 ロビー・総合案内」に東山 正治さんが現れました。
東山 正治 >  
委員会総合庁舎 ロビー。
今日もひっきりなしにロビーには様々な人々が行き交っている。
既に正午を回った昼飯時、そんなロビーに一角に集まる集団がいる。
かたや全身岩で出来た大男。滑らかな藍色の滑らかな鱗を持った蜥蜴女。
これが正装です、と言わんばかりの鎧武者に毛むくじゃらのクマ獣人。
彼等の共通点は、皆異界より流れてきた異邦人だ。
そんな彼等の視線は、実に不健康そうな男の前に集まっている。
それぞれが何とも言えぬ緊張感を感じていた。
そんな空気とは裏腹に、男東山はヘラヘラとした笑顔を浮かべていた。

「はいどうも、皆様お疲れ様でした。
 ああ、交通課のお二人さん。萩野ちゃんとアマリリスちゃんだっけ?
 お疲れさん。後はオレが引き継いどくから、宜しく。」

異邦人集団の案内をしていた風紀委員の二人。
丸坊主のいかつい萩野生徒、清楚なお邪魔様アマリリス生徒に適当に手をひらひら。
二人は失礼します、と会釈すればその場を去っていく。
さて、と改めて東山は手に持ったバインダーをトントン、と指で叩いた。

「じゃあ、改めてお疲れさん。キツかった?そりゃ良かったじゃん。
 ま、ここ数週間数ヶ月で少しは慣れてきたって感じ?そりゃ結構。
 それじゃあ、発表しようか。免許試験合格者を。」

くるりと指先でペンを回し、目を細めた。

東山 正治 >  
「──────まぁ、一旦その前に、だ。」

カツン、バインダーを叩くペンの音が軽快に響いた。

「感想。交通ルールの勉強とかさ。
 実際運転してみてどうだった?
 かったるいとは思わなかった?」

仰々しく両手を広げて尋ねる。
どことなくふてぶてしさが漂う中
一応教習生と言う手前、余りにも直球な質問に答えづらそうな面々。

獣人の生徒 >  
そんな中、一人の生徒が手を挙げる。大きく太い、クマの腕。
自らの故郷では誇り高き戦士として名を馳せた戦士である。
当初は困惑し、荒れていたが何とか現代に適応。
今では此のように、共通言語を習得し使いこなす程度にはなった。

「……不躾ながら、我等は共に趣味の範疇で此度の勉学を受けさせて貰いました。
 しかし、趣味にするには随分とルールに縛られるようにも見受けられ
 その、我々が思い描いた(はや)く、強靭な姿とは程遠いな、と。」

思い描いたあのスピード感とは程遠い。
ルールに守られ、思ったよりも遅く、律儀に走る鉄の塊。
それでも此処までこられたのは相応の情熱が彼等にあったからだ。
但し、疑問には思うこともある。特に、此の時代に慣れたからこその疑問。

「わざわざ、様々な移動手段がある中で、此れを移動手段。
 しかも、免許制度という手間まであるし、ルールも多い。
 無論、此れ自体が危険性は重々学ばせて貰いましたが、その……。」

「趣味にするだけには、中々労力がありましたな、と。」

東山 正治 >  
くつくつと喉を鳴らして笑う東山。
その通りと言わんばかりに、肩を竦める。

「概ね予想通りの返答ありがとうドレイクちゃん。
 まぁ、そうだな。あると便利っちゃあ便利だが移動手段って観点からみりゃ、そうだ。」

「金銭的手間を除けばバスに電車と公共交通機関。
 手段も限られるが転移魔法にポータルとかの魔法道具(マジックアイテム)
 他にも……何だっけ?まぁいいか。要するに移動手段は幾らでもある。」

混迷から超成長した此の時代、移動手段なんて幾らでもある。
自家用車は、彼等の言うようにある意味趣味だ。
勿論、移動手段なんて昔より多種多様だ。
自家用車のみの利便性は東山目線でも趣味だ。
金もかかるし、手間も掛かる。
だが、今も尚残り続けているのは
結局のところ移動手段として収まりが良いのだ。

「まぁ、そのうち車を持てばわかんじゃない?
 意外と便利だよ。オレも出勤に使うし。
 それと、この交通ルール云々とかもさ、意味があるのよ。
 敢えて車が今も尚残る意味があると、オレはね。」

人差し指を立て、異邦人面々なぞるように指さした。

「主に、異邦人共(おたくら)向けにね。」

東山 正治 >  
「ずばり、地球側(コッチがわ)にどれだけ合わせられるかって話。
 別に交通ルールに限った話じゃねェよ。世のルールとして残る法律。
 異世界側(ソッチがわ)の文化とか色々あるだろ。風習に、決め事。
 それは何時しか、オタク等のどっかでぶつかる事になる。恐らく、間違いなくね。」

今の時代のグローバルすぎる位自由なものだ。
この時代の最先端たる常世島でもそれは変わらない。
ありとあらゆるものが混迷し、交差し、互いに絡み合う。
それは、法律(ルール)の中でも同じ。それは絶対だ。

「……郷に入っては郷に従え。あ、オレの国の言葉ね。
 要するに、どんな事情であれ、そこにきた以上そのルールに従いなさいってこと。
 そりゃあもう、自分の中の絶対とぶつかっても、迎合しなきゃいけないってワケ。」

そもそも、大昔でさえ国柄の違いで問題が起きてるくらいだ。
そこに異邦人だの何だの混じってしまえば、ややこしくて仕方がない。
無論、それは異邦人(かれら)の生き様等にも関わってくるだろう。
多少の折り合いはついても、この世界に合わせるということは
何時しかそれらを捨てねばならない時が来る
此処はもう元いた世界ではない。それが出来ないなら、はみ出すしか無い。
ある意味そういったものの集まりは、落第街(あそこ)異邦人街(むこう)だ。
最も、そういった場所にも最低限の決まりはある。
真の無法(じゆう)など、何処にも在りはしない。

「……それと言っとくけど、今の時代移動手段もルールにあるよ?
 もしかして、ただで転移とか出来ると思った?
 場所によっちゃ使用禁止だし、ちゃんとその辺も決まってるからねェ。」

「誰もが自由に生きられちゃ、世の中滅茶苦茶になっちまう。」

だろ?と何処か楽しげな東山。
その一方で、四人は押し黙り、何とも言えない空気が流れていた。

東山 正治 >  
クルクルとペンを回し、は、と鼻を鳴らした。

「……まず初めに言っておくと、オレは異邦人(おまえら)が嫌いだ。
 仕事で無けりゃ顔も見たくねェよ。何だよクマだの蜥蜴だの鎧だの、仮装大会か?」

東山はこの混迷とした時代を、人を憎む。
そこに例外はない。生徒というくくりも関係ない。
異能も、何もかもクソ喰らえだ。それをひた隠す事もない。
ぞわりとしてせせら笑う悪意に、四人はそれぞれ表情をこわばらせ、身構えるものもいた。

「けど、まぁ……。」

けろっと表情を引き締め、カツンとバインダーを叩いた。

「オレは、此れでも一応教師なんでね。
 特に法律(ルール)に関しちゃ、エキスパートって自負するワケよ。
 これはオレなりの考えにはなるけどさ……この学園の生徒は、オタク等以外にもごまんといる。」

「年齢、種族、それこそ老若男女さ。
 今の時代に学びも老いも若いも関係ない。
 生徒(おたくら)を我が子同然に導くのが仕事って奴さ。」

クルクルとペンを回し、ヘラリと笑みを浮かべる。

「教師もそれは同じ。中にはオレより年下のガキだっている。
 けど、教師って立場になってるってのは、必ず意味があるはずだ
 少なくとも、オレは意味を持っている。だからこうして、オタク等に付き合ってる。」

「仕事で、だけどね。
 まぁ、オレみたいな教師に頼れって言ってんじゃないの。
 オレでもいいけど、学び舎にいるウチに頼っときなさいよって話。
 どーせこんな世界だぜ?ままならんことは任せとけって事。丸投げとはちげェからな?」

「それこそファレーマンちゃんやおこんちゃん。
 シャルトリーズちゃんに焔城ちゃんにあれよあれよ。
 オタク等が信用出来る教師にその時は相談しな。
 アイツ等も、教師としては何かしら持ってる連中だとオレは思ってるよ。」

「……多分ね。」

東山 正治 >  
東山は世を憎み、世界を呪う。
それでも尚、教師としての立場に殉じ、生徒を導く事をやめない。
自らの私情はともかく、伸ばした手を払う真似はしない。
それこそごまんといる教師とはいえ、問題を起こせば此処にはいられない。
最も、完全無欠、潔癖な教師とはいい難い。
見ての通り、東山の思想は歪んでいる。
それでも尚、教師としての立場、善性がそこにはあった
おためごかしのような真似はしない。これは、避けられない現実だ。
何時か、彼等もその壁に当たることはあるだろう。
この教習もまた、その予行演習の一つだと東山は考えていた。

そんな東山の考えが伝わったのかはわからない。
少なくとも教習を受けた四人はどことなく、腑に落ちた感じはしている。
それを見た東山もまた、ほんの少しだが柔らかな表情を浮かべていた。

「……ま、オレからは以上。
 あ、そうそう。肝心の合格発表だけど……。」

バインダーにペンを差し、ぱん、ぱん、と両手を軽く叩いた。

「全員、合格
 萩野ちゃんとアマリリスちゃん曰く『速度もルールも守れた良い運転でした』……とさ。
 少なくとも、オタク等の努力は実ったわけだ。おめでとう。
 後はまぁ、しっかりと法律(ルール)を守ってお楽しみください、っと。」

「これから免許発行と説明があるから、もう30分位待機しといてな。
 いやー、ダルいよなー。さっきから待ってばっかで。オレん時もそーなのよ。」

ヘラヘラと笑いながら踵を返し、視線だけを生徒達に向けた。

「けど、此ればっかりは機械に任せらんねェってことで、一つな?
 ま、そういうワケでおめでとさん。呼び出しがあるまで、喜びをお噛み締めください、と。」

それじゃあ、と東山はその場を去っていく。

東山 正治 >  
総合ロビーを離れて、ポケットからバイブ音が聞こえてくる。
携帯端末を取れば聞き慣れた声が聞こえてくる。

「はいはい、ドーモ。
 何?仕事の方は順調?そりゃ良かった。
 最近は『姫鴉』ちゃんや皆も頑張ってるようで、助かるよ。
 いやー、教師の業務って多くてね。昨日も二時間しか寝てねーわ。」

人気のいない廊下に、東山の声は響かない。
その声は、誰にも聞こえない。端末の向こうだけが知っている。
ヘラヘラとした笑みは、どことなく不気味。

「……で、飛行機の手配は終わってる?そりゃ結構。
 尻尾も掴んでるよな?……はい、上出来。じゃあ、後は決行時間通りに……。」

東山の仕事に終わりはない。
そこにはもう"教師"の顔はない。
男もなく、気配もなく、真っ昼間だと言うのにその姿は薄れ、やがて消えた。
表でも裏でも、彼は己の立場に殉ずるだけ。
此度もまた、誰にも知られること無く人を守り、導く。


それが、東山 正治という教師の在り方なのだ。

ご案内:「委員会総合庁舎 ロビー・総合案内」から東山 正治さんが去りました。