2024/09/18 のログ
東山 正治 >  
公安委員会は、その性質上単独行動も少ないはない。
だが、決して集団戦が不得手ではない。
有能な指揮官がそこにいれば、影の集団はそこにいる。
ヘラヘラとしたニヤケ面を崩さないまま、すぅ、と煙を吸い込んだ。

「──────?」

一蹴。煙を吐き出し、肩を竦める。
表情こそ崩れない。だが、その瞳。
黒の視線は、何よりも冷ややかだ。

「猥褻罪と……公務員にそういうのさ、贈賄罪ってのがあってねぇ。
 教師ってのは、公務員にあたんのよ。ま、受け取らねェから成立しないけど、さ。
 ……ていうか、オレに収賄罪掛けようとした?おいおい……。」

まぁ、明確には賄賂ではないため怪しいが
こういうバカ共にはそれっぽい言葉でも充分。
くつくつと喉奥で笑い、肩を竦める。
やつれた見た目だが、こう見えて元法の番人。
現役を退いても今も尚法律の最前線の知識を
その脳に常にインプットしている男だ。
トントン、と自らのコメカミを叩く。

「ダメじゃないのォ、ちゃんと勉強しとかないと。
 特に今は法律(ルール)もバカみたいに増えてんだぜ?
 学生の本分は学習だろうがよォ……ま、それはそれとして……。」

表情から、笑みが消える。

「……痛い目見て捕まるのと、このまま捕まるの、どっちがいい?」

冷ややかな圧は、一人だけじゃない。
見えぬ所に、至る所に圧がある。
隠密機関が戦闘が不得手と、誰が決めたのか。
皆、少女に一糸触れぬままに屠る自信がある
罪には罰。慈悲はない。更生の時間だ。
どちらを決めるかは、彼等次第。
一方の教師と言えば、少女と目が会えば適当に手を振った。
緊張感があるのか、ないのか。

妃淵 > ひらりと手を振られ、なんだこのオッサン…といった顔でその細い肩を竦める。
一方で不良達と言えば…。

コイツは靡かねえな、と判断。
そういったくだらない生き方をしているなりに判断は早い。

『べ…別に、俺らまだ何もしてねェーし…!』
『お、おい…帰ろうぜ、なんかこのセンコー、やべーぞ…!』
『ちっ……いいオモチャ見つけたと思ったのによ…!』

顔を見合わせた、刹那。
だっ、と駆け出しその場から逃げ出す不良達。
判断は早かったような気もするけど…

多分、判断が遅かったと判断することになるかどうかは、
目の前のこの煙草吸ってるオッサン次第なんだろう……。

なんとなく、達観したような眼でやりとりを眺めていた。

東山 正治 >  
 
逃げる男子生徒を追うことはない。
その代わり、くるりと指を回すハンドサイン。
周囲の影の気配が消える。逃げられはしない。
一度目をつけられた以上、更生室行きだ。
学園の秩序とは、そう簡単に見出せるものではない。
さて、一騒動終わった後、かつ、かつ、と気だるげに少女へと近づく。

「────妃淵(フェイイエン)。異能殺しの血縁者の元二級学生。」

ヘラヘラとした笑みが、再び貼り付けられる。
瞬間、ふぅー、と顔面めがけて吐き出される煙草の煙。
タールたっぷり。最も濃度の高く、高くてクールな匂いがする。

「いやァ、タイヘンだね。やったことは返ってくんだ。
 ま、そりゃああんな生活してりゃそうか。かわいそうに。
 前みたいに同意の上でヤらせてやりゃあ、目を瞑ったのに、さ。」

「……あ、でもエンコーはマズいか。どっちみちだな。」

出るわ出るわ嫌味の嵐。
教師であり、公安である東山は、
大凡の生徒の情報を記憶している。
彼女がどんな生活をしており、今どうしているかさえも
それらを知った上で、言っているのだ。

妃淵 >  
「───……」

ふぅ、と一息。
困った連中もいるもんだ。
…まぁ、この教師のおかげで喧嘩はせずに済んだ。

「助かったよ。センセー。……随分色々知ってんネ」

パーカーのポケットに手を突っ込んで話す様子はあまり先生に対する態度としてはよろしくないが。
一応お礼は言えるらしかった。

兄貴のことまで知ってんだから、普通のセンセーじゃないのか。
そういえば委員会がどうとか言ってたっけ。

「かわいそうに、とか」

「全然顔がそう言ってないけど?」

なんてわかりやすい、心にもない言葉なんだ。

「ジョーダンじゃない。金にもならないのにヤらせるか。
 ……ソレで目を瞑るって、キョーシとしてどうなの?」

まぁ、もう金になっても嫌な顔をするだろう身内がいるからしないが。
そして、向けるのはちょっと怪訝な眼。…なんだ、一瞬売春容認してんのかと思った。

…なんか掴みどころなくて疲れるな…。
少女が教師に抱いた印象は、まずそんなところ。

東山 正治 >  
懐から取り出したるは携帯灰皿。
喫煙者の必需品だ。ごり、と、中でタバコを押しつぶした。

「そりゃ、地獄耳なモンでね。
 よーく知ってる。知れる範囲で、な。」

公安委員会に所属する以上、常に情報は更新される。
仕事の範疇。そこにプライベートなど関係ない。
ヘラヘラと笑うご覧の通りのニヤケ面。
尚も目は笑っていない。ご覧の通り、心にも無い言葉の集まりだ。

「そりゃ、オタクがどうなろうと知ったこっちゃないしな。
 ろくでなしの兄貴と一緒に逃避行して、か弱い男子生徒たらしこんで……。」

「人生ウマくやれてんねぇ、結構結構。」

言葉のチョイスにさえ悪意がある。
わざとだ。敢えて彼女の事を煽り立てている。
何処まで言っても、心にも無い言葉が雨のように降り注ぐ。

「……で、金にもならねぇ学生身分してるってか?
 まだ落第街(アッチ)のが稼げそうだってのにねェ……。」

手段を選ばなければ、だが。
見下ろす視線は、冷ややかだ。

「で、どうしたのよ?そこまで青春送りたかった?
 学生身分になってまで、やりたいことでもあったワケ?
 オレとしちゃァ、掃き溜めにいてくれたほうが助かったんだがねェ……。」

妃淵 >  
「……一応助けてもらったナリだし。
 タバコは嫌いだから消してくれてそれも助かる」

ぺらぺらとよく喋るセンセーだな。
抱いた印象はそんなもの。本気で言ってるんでもないだろう言葉の羅列だし、気にすることもない。
それが何を狙ってのものなのかは、さっぱりだけど。

「別に真実を指摘されたところで腹立ちもしないけどさ。
 そういう言い方をして、なにかを狙ってる…わけもないよな…?」

こんなところで自分を煽って、教師にとってなにか得があるとも思えない。

「──結局何が言いたいのさ。
 斬のことバカにしたいわけでもないんだろ?
 オレがここらにいてセンセーになんか苦労でもかけてんのかな…」

───"彼"のことに触れられた途端、平静さが揺らぐのを感じる。
一瞬だけ、その背中に陽炎にも似た、空間の歪みのようなものが見えて……消えた。

東山 正治 >  
僅かな圧でさえ、揺らぎもしない。
目の前にいるのは公安委員会所属。
そして、今も尚現職の教師だ。
たかが女子生徒一人が何をしても、
退くこともない。ヒラヒラと軽く手を振れば、
おどけたようにお手上げポーズ。

「教師だからな。ちゃんとした生徒は手助けするさ。
 ガキが迷惑かける時点で苦労は選り取り見取りだね、全く。」

普通の学園とは違う学園都市。
その大規模な教師となれば、問題山積みだ。
現に、元二級というだけで手を煩わせた。
ご覧のとおりだけど、と言わんばかりに手を広げる。

「……で、だ。」

そんなふざけた雰囲気も、不意に終わりを告げた。
どことなく纏う空気が変わった。

なんで手を出さなかった?余裕でしょ、オタクなら。」

あの異能殺しほどでないにしろ、
その格闘技術は高いものだと聞いている。
現に、単純な戦力なら東山程度もノす事は容易だ。
そう、お得意の暴力で振り払えば良い。
だが、彼女は限界まで我慢した。
じ、と真っ直ぐな視線が彼女を見下ろしている。

妃淵 >  
元二級学生、なんていうのは案外早くバレる。
SNSだったり、昔は学園の裏サイトなんて言われたような場所で。
誰が漏らすのかはわからないが、とにかく脛の傷なんてのはすぐに曝け出される。

「───別に。
 蹴っ飛ばす価値もないだろうと思っただけだよ。
 こんなこと割としょっちゅうあるしな。どこで知って来んのか知らないけどさ」

「それに割とすぐセンセーが割って入ってくれたしな」

だから、ちゃんとお礼を言ったつもりだ。
礼節は足りていなかったかもしれないけど…現在進行系で。

「ただ…」

「なんか、まるで手を出してほしかった、みたいに聞こえるぞ」

東山 正治 >  
へ、と鼻で笑い飛ばされた。

「"あの目"は……そういうんじゃないでしょ。
 アイツ等の価値の話すんなら、オタクの目はもっと冷ややかだろうぜ?」

教師であり、元弁護士。
つまり、人を見る職業だ。
お為ごかしは無用。もっと、"本心"の話をしている。

「オレが入ったのは……オタクが手を出さなかったから
 ちゃんと我慢したから、センセーが助け舟出しただけ。わかるか?」

「オタクが同じ領分入ってたら、目もかけねェよ。」

それだけの話だ。
良識と法律(ルール)を弁えた生徒を助ける。
至極、当たり前の良識に従っただけにすぎない。

「……で、なんで手を出さなかったの?」

ニヤニヤ。
半分検討はついてるが、敢えて言わせたがっている顔だ!

妃淵 >  
「なんだそれ、オレがアイツラボッコボコにしてたらほっといたって?
 それはそれで、なんか……いいのか?教師だろ、アンタ」

何言ってんだ…?
と思わず怪訝な視線。
まぁ、そうだったらどうしたか、までは言っていないが…両成敗とか言い出すんだろうか。
……なんか胡散臭い、実は偽教師とか…いや、そんなことする意味もないか。

「その聞き方さぁ…」

「検討ついてるクセにわざわざ言わせようとしてるよな?」

じー。
じっとりとした紅い視線。

「──それに何か意味があるなら言ってやってもいい」

ニヤニヤしている顔がやや気に入らない…突っぱねはしないが交換条件を出した。

東山 正治 >  
「大人はガキの喧嘩に口はださねェよ。
 まァ、犯罪行為か行き過ぎたら話し変わるけどな?」

生徒間のいざこざは基本生徒で。
それが息すれば出張るのが大人。
口を出しすぎるのも、悪影響。
頼るべき時は、程々に。
紅い視線を受けても、さて、と肩を竦めた。

「さて、な。まぁ、意味はある。
 妃淵生徒の意味が問われるぜ?」

それがわかるのは、答えた時だ。
さあぁ、授業はもう始まっている。

妃淵 >  
「そうかあ?先生は生徒同士の喧嘩は止めるもんだろ」

どうにも腑に落ちない言葉が続く。

「さて、な。じゃなくてさあ」

はぁぁ、と深い溜息。
なんだこの教師…なかなか面倒くさくなってきた。

「じゃあ、正直の答えなかった場合は?
 センセーに真偽がわかるのか?」

どーなんだ?と。
ポケットから出した両手を胸の前で組み、じぃ、と見上げて。

東山 正治 >  
「"喧嘩"は止めない。"それ以上"は止める。
 それ以上でもそれ以下でもないさ。」

世の中、そこの線引をしない生徒(ガキ)が多すぎる。
異能一つとってしまえば、それは命のやり取りだ。
そうなる場合は止める。大人の役割だ。
何でもかんでも甘やかせば良いものじゃない。
喧嘩の一つや二つ、子どもならやらせとけば良い。
くつくつと喉を鳴らすように笑えば首を振った。

答えるさ。」

確証があるのかないのか。
何とも言えない一言だ。
少なくも、そんな彼女の様子を楽しんでるのは見てとてる。

妃淵 >  
コイツ、こっちの質問に全く答えねえ。

…まぁ、どうも一風変わった教師…なのか。
面倒くささのランクが1つ上がった気がする。

心底面倒くさそうな顔をしつつ、口を開く。

「オレの監視役も兼ねてる(アイツ)に迷惑かかるからに決まってるだろ」

「スラム育ちの元二級生徒だ。何か問題が起きればすぐアイツのせいになる。
 オレのさじ加減一つでアイツのフツーであるべき人生が変わっちまうんだろ。言わなくてもわかるだろ…」

なんでわざわざ言わせたいんだ、こんなこと。
と、ややむっすり顔。

東山 正治 >  
ニヤニヤ。
ニヤケ面の段階が一段アップした。
間違いなく言わせたことを楽しんでいる。
恋人同士を茶化す父親めいた嫌な感じだ!

「ま、大方予想通りってとこだな。
 そーだな、他人に迷惑が掛かる。結果として、自分じゃない。
 人に迷惑を掛けるから我慢した。二級学生(マエ)なら手ェ出してたろうにな。」

自分勝手に振る舞うことは簡単だ。
だが、この社会に生まれ持った以上、
そう簡単にはいかない。例え独りであっても、
身勝手を犯せば、知らない他人が迷惑をおっかぶる。
少なくとも、無法地帯ではなく彼女はそこに上がった。
社会秩序の法律(ルール)に、意図したかはさておき則った。

だから、助けたのだ

飄々とした言葉ばかりだが、嘘は言っていない。
困っている生徒に手を差し伸べるのは、
教師として、至極当然だ。
軽くしゃがみこんで、視線を合わせる。
子ども扱いでもあるが、目線を合わせて対等を示した。
人差し指を中に立て、クルクルと回す。

「随分と入れ込んでるじゃない、彼の事。
 そんなに好き?ああ、正直どっちでもいいんだけど、さ。」

「で、彼の人生に乗っかったオタクは、どーするよ?
 将来は専業主婦?現実、道のりがなげーぜ。」

卒業するだけでも数年だ。
この混沌とした社会に出るとなれば、尚の事。

「……どうよ。現時点で、やりたい事とかないワケ?」

妃淵 >  
「人に、っつーか、アイツに、だけど」

その他大勢だったら別に知ったこっちゃないかな…とは思う。
まわりまわって来るのなら、結局迷惑はかけるべきじゃないのだが。

見上げていたが、その長身を折り曲げて目線を合わせられた。
まいったな、あんまり真面目な話は好きじゃない。

「何入れ込んでるとか入れ込んでないとか、
 まず基準がわかんねーから何とも言えないんだけど…」

「なんだかんだで今の生活は悪くない。
 バイトも学校も、アイツはもっと大変っぽいけど文句一つ言わないからな。
 そんなヤツに色々おっ被せてのうのうとしてられる程ツラの皮暑くないってだけだヨ」

将来だのの話もまるで考えていない。

「生活するので精一杯だからなー。
 まぁ、生きてればそのうち何かしら必要にかられてやるんじゃないの」

人生大体そんなもん。
学生の中から将来のことを見据えて頑張っている…なんてのはいるかもしれないが少数派だ。
学園生活が社会と密接なこの島では、余計に自然と道も見つかるのかもしれない。

「で、道に迷ってたら仕事でも紹介してくれるとかそういう話?答えたんだからちゃんと見返りあるよな」

東山 正治 >  
「別に大勢に入れ込む義務はねェよ。
 人間、結局自分の周りが全てさ。」

社会というのはそれらの群体であり、
それらを侵害しないために皆法律(ルール)に則っている。
結果として、彼女はそれを守った。
立派に社会に馴染み始めている証拠。
ヘラヘラとしたニヤケ面は、止まらない。

「いいね、学生らしくていい答えじゃない?
 そんなモンだよ。十年二十年どころか、数年先なんてわかりゃしないさ。」

予知とかそういう話ではない。
存外、そんな先の事を考えて生きてはいないという話。
漠然とした中で、徐々に徐々に道は定まる。
特に若者なんて、そんなもので充分だ。

「ヘタないい子ちゃんより余程いい。
 見返り……?ハッ……。」

立ち上がり、肩を竦める。

「いやー、未成年を働かせると労働基準法に引っかかちまうからなァ。
 後継人、或いはそれに属する親族の許可がなけりゃ、教えれねェや。」

いやー残念だ!
正しく言うだけ損だったと思わせるおどけっぷり。
くつくつと喉を鳴らして笑う様は、悪意たっぷりだ。

東山 正治 >  
……が、不意に顔を覗き込まれる。
目前。ニヤケ面の裏に、真剣な眼差しが紅を覗き込む。

「……今、オレの言った事がちゃんと理解出来たか?妃淵。」

妃淵 >  
「いいや?さっぱり」

組んでいた腕を解き、肩を今一度竦めて見せる。

「この島で働くのにそんな制限ないだろ。──どこの国の話してるんだ?」

消えないニヤニヤ顔に相対する少女は怪訝な表情が消えない。
その奥から真剣さが向けられていても、大人からのそんなモノの受け方なんて知らない。教わってもいない。

「…悪いけど元・二級学生だ。
 ぶっちゃけ頭はよくない自覚もあるから言葉ははっきり言ってくれよな」

「センセーの言う"ヘタないい子ちゃん"のほうが物わかりについてはオレよりいいと思うヨ」

だから自然、想うことをそのまま口にする。
嘘も偽りもない。わからんことはわからん、と。

東山 正治 >  
ピ、と二本の指が少女を指す。

「この島は一般社会の法律がベースだ。
 此処で未成年が働けるのは、学園として、
 部活動という名目でやってるに過ぎねェ。」

つまり、本来であれば働けはしない。
此処は学園都市という特殊環境だから働けている。
この島を出るか出ないかは彼女達次第だが、
一般社会においては、東山の言い分が正しいのだ。

「……妃淵。オタクはあの不良共(バカども)に手を出さなかった。
 理由は同居人に迷惑をかけたくないから。……落第街(アッチ)はともかく、
 常世学園は暴力を許容していない。まず、この行動は正解。」

二本指が今度は宙を指し、一つ指をおる。

「だけど、労働基準法を知らないのはマイナスだな。
 ……言っとくけど、労働。部活動にもルールはあるぜ?
 オタクは、それを知らなかった。ああ、タイヘンだ。」

「ソイツをミスったら、デケェ迷惑が掛かっちまう。」

カクン、末路を示すように人差し指が地面を指した。

「……良く、"無知は罪"って言うが、その通りだ。
 世の中、知らなかったなんて済まされねェ。
 そこは、この学園都市だって同じだ。
 ルールを守らねェ奴は、此の島にいられねェ。」

そこは表も裏も同じだ。
即ち不文律。此れを破れば、それまでだ。
一つ一つ、丁寧に言語化を続けていく。
元二級学生どうこうではない。
一人の生徒に教師が向き合う、単純な構図だ。

東山 正治 >  
ゆるりと少女から離れると、仰々しく手を広げた。

「だが、幸いにも此処は学校でもある。
 学び舎は、そんな無知を無くすためのものでもある。」

「──────特に、法律学は、ね?」

この世の根底的な法律(きまりごと)が学べるのだ。
此れほど正しく、世の事を理解する学問はない。

「……あの不良共(ガキども)はそれを破った。
 だから目をつけられて、更生室行きだ。
 そう、知識は力だ。識る分だけ豊かになるし、役に立つ。」

これは絶対的な事だ。
武力、魔術、そんなものより役に立つ。
何故なら、覚える気があれば誰でも覚えられる
此の世界に出来た社会に溶け込む以上、誰もが持てる、絶対なのだ。

「……法律学の授業を取りなよ、妃淵"ちゃん"。
 此処に、丁度その専門家(エキスパート)がいる。」

トントン、と自信の胸を叩いてニヤリと笑う。
勿論これは、ただの勧誘ではない。
授業の取捨選択は自由制だ。
彼女に気を回すだけではなく、
一人の生徒として、教師は将来の先まで見据える。

「勿論、タダでとは言わねェよ。
 "いい仕事"を紹介してやるし、その間いいバイトもさせてやる。
 時給はそのへんのより高いぜェ~?どーだい。損はねェ話だ。」

妃淵 >  
「ソイツを勉強してエキスパートになると、
 こんなに回りくどくって面倒くさい大人になるのか?」

概ね言いたいことは伝わった。
が…回りくどすぎる。
要約すると実に簡潔に済む内容だろうに。
あえてこちらに考えさせ、答えを聞く。
まったく、授業かなにかのつもりらしい、が。

「追試や補習でもないのに生徒に放課後に授業受けさせるのはどうなんだ?センセー」

片眉をあげて、そのニヤケ面と似たような表情をしてやろう。

「にしても…法律学ぅ…?
 ちょっと前までスラムに住んでた二級学生だぞ、オレ。
 でもまぁ…仕事や割の良いバイトってのには、興味がある」

トントン、と靴で地面を叩き、再びその両手をパーカーのポケットへ突っ込んで。

「そーゆー、損のない話は一番最初にして欲しいなァ。
 だったら二つ返事でオレだっていい子ちゃんになってたのにさ」

東山 正治 >  
「いいや?オレの性格だし、嫌がらせの範疇だけど?」

しれっといい切った。
決していい大人ではないことがありありと見える。
しかも、嘘を言っていない辺りろくでもない。

「そういう二級学生や異邦人のためだよ。
 勿論、法律家を目指す生徒もいるからな。
 そこは混在。仲良くしとけよ?」

此処は学園であると同時に都市だ。
社会と緻密に隣接している以上、
それに纏わる事の補助は事に欠かない学園だ。
ふ、と鼻で笑い飛ばせ首を振った。

「それ言ったら意味ないでしょーが。
 世の中楽な事ばかり覚えてちゃ、
 同居人に迷惑かかっちまうぜェ?」

苦労しろと言っているのではない。
楽なことばかり覚えても意味はないと言っている。
授業が退屈なのは、学生身分だった記憶もあるし、
良く知っている。苦労は買ってでもしろとは言わないが、
多少の苦労がなければ、堕落まっしぐらだ。

「で、どーする?やる?
 あ、因みに時給はこんなん。」

す、と携帯端末の液晶を見せる。
並みにアルバイトよりとんでもなく時給はいい!

妃淵 >  
「初対面の相手に嫌がらせってしていいモンなのか?」

なんとかハラ…みたいに言うものじゃないのかそれ。
よくわかんないけど。

「そうかあ…?
 楽に越したことないと想うけどな…。
 好き好んで苦労するやつなんかいるもんか。
 その点についちゃ、アイツはもう十分迷惑被ってくれてるよ」

まぁとりあえず地獄の沙汰も金次第(最近知った諺)と言うものだ。
提示された賃金をどれどれと覗き込んで……。

「──、返事の前に、内容」

とりあえず内容次第、前向きに考えられる金額だ。

東山 正治 >  
「バレなきゃいいんだよ、バレなきゃ。」

元法律家から飛び出るトンデモ発言。
良い子の皆は真似しちゃダメだぞ!

「好き好んで苦労する奴はいねェ。
 だが、苦労を知らなきゃ楽にもなれねェさ。
 少なくとも、オタクの同居人はそうしてるだろうよ。」

自分から二級学生の保護観察だ。
学生身分で自分もひーこらしてるのによくやる。
惚れた弱みっていうのを差し引いても、だ。
だからこそ、身近な相手で例えたほうがわかりやすい。
へ、と乗り気な姿勢の彼女を笑った。

「センセーのお手伝い。委員会じゃねェぞ?
 オレは法律家なんでね、一応。だから、色々してんの。
 そのオレの雑用。多少は知識もいるから、授業は受けてもらわなきゃならねェってワケ。」

「ヘンに頭を使わずとも、ただ言う事聞いてりゃいい。
 ……勿論現役の教師だ。"ヘンな事"はしねェし……」

く、と口元が歪に歪む。

東山 正治 >  
「先に言っておくけど、オレオタクの事嫌いなんだよねェ。
 ああ、別に元が二級学生(ノライヌ)だからじゃねェぞ。」

「異能者、異邦人……何から何まで面倒にしてくださって……。
 気持ち悪いんだよな。許されるならオタクの首を締めてる所だ。」

口から漏れる悪意は本心そのものだ。
この世につらつらと漏れる恨み節。
東山という男が何たるかを滲み出させる。
異能嫌い、異邦人嫌い。そんな生易しいものじゃない。
この世の何もかもを憎んでいる
その視線も、殺意も、本物だ。此の男は、絶対にやる

「……まぁ、けど、一応教師である以上、仕事はするさ。
 オタクに声掛けたのも、助け舟も出したでしょ?」

但し、それはすぐにナリを潜めた。
歪んだ本性の中に、社会規律を重んじる善性。
そして、教師としての責任感が東山を人として留まらせている。
これは、同時に東山なりの線引きだ。
誰に対してもこの本性は隠さない。
この学園切っての、この世嫌い。
だからこそ、信用もされるし、嫌悪もされる。
先の行動もこの本性も、全てが本当だ。

「……で、どーすんの?」

何を信じ、何を選択するか。
目の前の金額に浮かれるのか。
この思考こそ、"本質"だ。
同時に、正しい答えもない。
生徒として、個人として、思考し、答えを出せ。

妃淵 >  
「ああ。よく理解った」

なんでこのセンセーがこんなに面倒くさいのか。
コイツ自身が死ぬほど面倒臭い生き方してやがるせいだ。
いい加減な口ぶりに見えて本質を捕らえたことは口にしているし、
回りくどいが結局のところ落ち着く部分は示してる。
で、なんでそんなマネしてんだ。となれば出てきたのがコレ。

嘘を言うようなタイプじゃないのはなんとなしに感じるし、
嫌いだってのも本当なんだろうが、その嫌いなヤツを助けるわ導くわ、
相反するものを混濁して持って無理があるってのに両立させてる。

「一応聞くんだけど」

「なんでそんなめんどくせーことしてんの?
 そんなに教師なんて給料がいいように思えないけどな。
 金のためじゃないってなら尚更、なんでそんな一応教師を貫いてんの」

スラムで生きてきたんだ、こういう眼の人間の本気度くらいは理解る。
誰かに飼われてるのかやらされてるのか、そんなタマにも見えないし。

「どうしようかな。決まってるけど、ソレの答え聞いてから答えるよ。
 センセーさっきからこっちが聞くことにあんまり答えてくれないんで、1つくらい聞いとくヨ」

だが、しれっとそう言葉を返す。
授業中のつもりなら、生徒の質問にも真摯に答えてもらおうか。

東山 正治 >  
二律背反。
憎む世の最先端で、教師をやっている。
あらゆるものに中指を立てるような悪性は
本来、教鞭をとるべき立場ではない。
が、この学園で教鞭を取れるのは、
たった一つの資格があるからこそだ

「……"大人"だからだよ。苦労してんの、センセーは。」

ただ吠えて無軌道に世界の敵になるなんて誰でも出来る。
だが、東山は法律家であり、世界の律に携わった。
同時にそれは、彼の生き方の表れでもあった。
人を正し、導くべき時に手を差し伸べる
元弁護士、東山 正治が教師に選ばれたのもまた、
生徒を正しく導ける事を期待され、それに応えているから。
こうしてどことなく穏やかに答えるのも、東山の一面の一つにすぎないのだ。

「どう?満足の行く答えだった?
 それとも生徒をイジめるのが趣味って答えたほうが良かったァ?」

くつくつと喉を鳴らして笑っている。

妃淵 >  
「いいや」

「面倒くさい生き方しか出来ない大人、って言い換えれば。
 センセーは至ってごく普通のドコにでもいる大人ってだけだな」

期待に応える
責任を果たす。
己の我を殺し、スマートにそれを実行する。
まぁ、それが大人だと言うのであれば……納得だ。

そんな大人にいずれなるのか、なれるのか。
学生の只中にいる少女には、もちろんさっぱりわからなかったが。

「実際生徒いじめる趣味もあんじゃないの」

軽口、それに続いて。

「いいよ。やらせてもらう。
 ただしオレの頭は出来がいいほうじゃない、仕事も勉強も教えるならしっかり教えろよ。センセー」

なんて態度のでかい生徒だ。ナリこそ小さいが。

東山 正治 >  
く、と何処となく引きつった笑みに変わる。
何処にでもいる大人。ある意味的を得ている。
だが、一つだけこれだけは言っておかねばならない。

「いーや?センセーのような大人になるのだけは、止めときな。」

これだけは言い換えようのない真実だ。
その面倒くささの極地みたいな生き方。
少なくとも、学ぶべきものではない。
暗に、別にそういう大人にならなくてもよいと、
彼女の自主性を案じているのもある。

「……さぁて、ね。」

否定はしなかった。

「言ったろ?教師だからな
 受け持った生徒の面倒は見るさ。
 ……さて、じゃあセンセーはお仕事があるんでこの辺で。」

真っ直ぐ帰れよ~、と適当に手を振ってその場を後にした。
後日、例の不良共は何をされたかわからないが、
大分品行方正な姿で見違えたとか……。

妃淵 >  
「さっきも言ったけど楽なら楽なほうがいいんだってば。
 死んでもそんな面倒くさいのになりたくないね」

そんでもって否定をしないヤツ。
別にそれくらいはっきり否定すればいいのに。
逆に、どれくらいのことなら顔真っ赤にして否定するのか興味が湧いてきた。
なんでこの教師の手伝いしてんのか聞かれたら『ロリコン教師に口説かれたから』とでも言いふらしてやるか。

「ん……まぁ、とりあえず助かったし……よろしくな」

「……って」

その背中を見送って…腕組み、溜息。

「名前くらい言ってけよな…調べるの手間だろうが……」

調べる手間、を教えたつもりだろうか…。
本当に面倒くさいセンセーだことで。

しかし自然と、途中から会話の中で苛立つことはなかった。
感情的になるとすぐに異能の力が表に出そうになるが…あの厭味ったらしさがそれほど腹立たなかったのも、教師の為せる業ということだろうか。

「………いや、たまたまだな」

ただのいやらしい面倒な教師に違いない。
それぐらいで思っておくほうが、多分距離感的には丁度いいんだろう。

そんなわけで、今後は何かことあるごとに生徒の立場を最大限利用して尽くおちょくってやることに決めた。
捻くれてるのはお互い様だろうし。

そんなことを考えながら帰路につく。
これで多少なり、アイツのバイトとかの負担が減るなら大歓迎だ───憂さも晴らせるし。

大通りを照らす夕暮れの太陽は、沈みかけていた。

ご案内:「学生通り」から東山 正治さんが去りました。
ご案内:「学生通り」から妃淵さんが去りました。
ご案内:「学生通り」にジャスパーさんが現れました。
ジャスパー > 「おーよしよし、かわいいねぇ」

とある出来事から、野良犬と面識?を得た少年
それ以来なぜか件の野良犬とよく遭遇するようになった
そうなると、和解の機会もあるのだ

今ではわりとマブである

「…うーん。ただ飼うわけにもいかないしなぁ…
生活委員とかに相談したらなんとかなるかな?」

よーしゃよしゃよしゃ、と犬を撫でている

「俺の異能も、なんなら翻訳機能とか着いたらいいのにな」

などと呟きつつ可愛がる。癒し!

ジャスパー > 仲良くなって、別のいいこともある
自分の異能にちょっとしたレパートリーを加えられる

『ふすっ、ふすふす』

「お、もう一回もう一回、はいわんつー」

『うぉんっ』

犬の鳴き声を異能に収める
これで再生しない限りは犬の鳴き声を…何かに役立てることができるかもしれない
吠える声ではないから威嚇には使えなさそうだが
せっかくいくつかは保存できるのだ。面白そうな音は取っておくに限る

ジャスパー > 「うし。じゃあな、わんダチ(犬の友達の意)よ
そろそろ帰るぜ
いい相手見つけろ……いや、野暮ってもんだな…」

ふっ、と謎に気障な仕草をして立ち上がってさよならだ
また会いに来よう…

ご案内:「学生通り」からジャスパーさんが去りました。