2025/01/02 のログ
■紫陽花 剱菊 >
「……私は、戦事以外の事を知らない。
今も、此れからも俗世の事を学んでいくのだろう。
此方の地は、遍く者々を人とする」
「で、あれば……人であるために必要であろう」
斯様生き様は刃成れど、心は人。
足らしめんとするのは未練と、縁。
剱菊にとっては、人手あることこそ重要なのだ。
僅かに綻ぶ侘びしき笑みは、複雑な感情の綯い交ぜであろう。
「故に、其方の言うことも理解出来る。
然るに、私もまた同じくして当てはまるのだろう。
戦しか知らぬ、世間知らず。あけすけ無く言えば、
其方達の言葉で言えば"異邦の者"に当たる存在だ」
今や地球上でも普遍的な存在。
然れど、未だ移住問題は如何ようにも。
此度の島一つにおいても、異邦人街が何よりの証左。
細く、白い指先で自らの胸をなぞる。
「然るに、其方の言葉はいみじくも耳朶に染みる。
努々忘れることはなく行動していたが……差し当たって、どうか」
「意地を張り続けるのも手間を掛けさせるのであろうよ」
必要と在らば受けいれる。
無論、生きてる以上自ら自立すべきであろう。
不足であるが故に、分野は違えど互いに助けなくば生きれぬ御身。
彼女の矜持を否定するに非ず。柔軟に考えるべきでは?と、解く。
■泳夢 >
「言われるまでもなく、それなりにコレでも甘えてる方なんだけどね」
結局のところ、今でも支援に甘んじている部分は甘んじている。
己にはできぬと分かっていることを、己一人でやろうとはしていない。
必要とあらば今だって受け入れている。
つまるところ、"必要以上"を掛けさせぬようにしているだけ。
「甘えていい身分だからって、自分で出来るかもしれないこともしないって。
それって──ただ生かされているのと、何が違うのかわかんないでしょ?」
それが何故か、と言われればそれだろう。
他者無くして生きられぬからこそ、尚更にそれは少女の裡にある思想であった。
「私は嫌だよ。ただお世話をされるだけで、ただただ生きるなんて」
それは生きながらにして、死んでいるも同然なのだから。
■紫陽花 剱菊 >
「然り、重々承知している。
で、あれば件の悩みは必要であったか?とな」
曰く、休み休みであれば辿り着くと宣った。
結果として、彼女は医療機関の世話を選んだ。
"たられば"ではあるが、不足の身体に負担を掛けてどうするのか。
無論、彼女自身わかりきった事であろうに。
「其方の志は立派だ。
五体満足で地に足付けようと、千鳥足の私より余程立派に歩んでいる」
見てくれではない、在りようの話だ。
隣でゆるりと歩む虚が、横目で見やる。
「然れど、ままならぬ事、其方の基準もあろう。
せめて、職務で動く者には悩むよりも先にもっと世話になるべきとは思わなくもない」
「悩む程の事であれば、一入、な」
畢竟、問題なく帰れるのなら悩むなのど在りえぬ話なのだ。
理想を志、体現するのは尊むべきである。
然れど、悩みが発生するという事は、難しい事と重々理解しているはず。
敢えて、口にするべきからこそ今一度耳朶に染みるものもあろう。
「気を悪くしたようであれば、謝ろう。済まない。
其方の矜持を踏み躙る訳ではない事は理解して頂きたい」
■泳夢 >
「不必要でも悩んじゃうから、悩みなんだよ~」
ぷくりと頬を膨らませて、抗議するような顔を見せる。
こと、こういうものは理屈ではないのだと。
理屈の上ではどちらがいいかわかっていても、自立したいと思ってしまうのだから。
「なんにせよ、甘え過ぎたくないって事。
出来ないことは出来ないって割り切る様にしてる分くらいは、出来る事はしたいから。
その為に悩むんなら、それはしかたないんだよぉ」
介助など受けぬ身であれば、こんなことで悩むこともなかったのだろうが。
こればかりは致し方ないことなのだと、悩んでしまうことを少女は割り切り、受け入れていた。
「まぁ、同意してくれるとは思ってないから、別にいいよ。
……と、このあたりかな」
そう話し込んでいれば、目的の商店街には直ぐに付く。
此処から先は、それぞれに目的の場所があるのだろうと、車椅子をとめて。
■紫陽花 剱菊 >
「……然り。私が意地の悪い事を言った気もする。
わかっている、わかっているとも。私が悪かった。膨れないでくれ、泳夢」
理屈ではないことも重々承知している。
言葉が過ぎた。どうどう、と苦笑一つと宥めよう。
「少なからず、私は尊重している。
で、あれば彼の病棟で無理にでも手を引いていたよ」
此度の事も然り。
彼女の矜持を重んじ、同意するからこそ手は出さぬ。
そらんじるに非ず、貶める事にも非ず。
意を示すからこそ異を説き、寄り添うのもまた在り方也。
かつり、かつり、乾いた足音が歩を止める。
「左様。此処までだな。
……泳夢、此処で出会ったのも何かの縁だ。
私は其方よりも未だ俗世に疎い。然るに、折り言って頼みがある」
徐ろに懐に取り出したるは現代の叡智。
小さな小さな絡繰りたる携帯端末。
「其方が暇な時で良い。
私が俗世に慣れるような手伝いをしてくれぬか?
余り輩と呼べる者も少ないのでな。嫌なら構わぬのだが……」
即ち、連絡先交換して今度遊びましょうって事。
口下手コミュニケーション初心者、不安げにおろおろ。
■泳夢 >
「分かってるならいいんだけどさぁ~」
ぷくりと膨らませた頬を、ぷふーと息を吐きながら萎ませる。
不機嫌をわざとらしくアピールしているのは、少女の茶目っ気なのだろう。
「うん? 頼み?」
そんな返事を返しながら、視線を彼へと向ければ、その手には携帯端末。
あぁ、なるほどなぁとすぐに納得すれば、苦笑を浮かべて。
「あぁ…いいよ。私も暇してること多いしね。
ひとまずはそうだね、話友達みたいな感じで」
友達にしては相手が年上過ぎる気もするが、それはそれ。
此方も携帯端末を取り出せば、つつがなく連絡先を交換するのであった。
「それじゃあまたね、剱菊さん」
■紫陽花 剱菊 >
「……左様か、助かる……」
感に堪えない破顔。宛ら童と相違無し。
然るに、端末操作も相違無し。悪戦苦闘。
何とか交換し終えると懐へとしまうのだ。
「また、相まみえよう。泳夢」
一歩、二歩。ゆるりと下がり、その姿はまた消える。
人混みに紛れて、俗世の宵闇へ消えてゆく。
実に晴れやかな気の持ちに、水を差す。
──────だってキミって、ボクと同類でしょ?
彼の悪鬼の、戯言。
人知れず、苦渋に歪む。
「私は……人だ……」
人であるはずだ。
自らに言い聞かせ、何もかも宵闇の中へ溶けて行くのであった。
ご案内:「学生通り」から泳夢さんが去りました。
ご案内:「学生通り」から紫陽花 剱菊さんが去りました。