2026/03/04 のログ
ご案内:「夕闇が迫る学生通り」にカタストロアさんが現れました。
ご案内:「夕闇が迫る学生通り」に蒼空 奏さんが現れました。
■??? >
夕闇が迫る学生通り。
遠く、喧騒が聞こえてくる。
どこかで、誰かが、何かを。
その結果、悲鳴が上がっている。
この街であっても学生通りで起きることは珍しい類の。
そう、事件だ。
何者が異能を使い、暴れている。
■蒼空 奏 >
放課後。
保健委員の当番も今日はなくて。
少しだけいつもより早い帰宅時間。
この時間の学生通りは帰宅中の生徒で人通りも多くて。
遊んで帰ろうよ、なんてグループもあちらこちらに散見される。
残念ながら今日は自分は一人で。少しだけ寂しさを感じつつの帰路。
ふと耳に入ったのは喧騒。
最初は、誰かが喧嘩してる?なんて思ったけど、そうじゃなさそうで。
どよどよと、波風のように悲鳴や怒号が拡がっていった。
「え…」
普段の姿と変わらない学生通りに、普段は聞こえない違和が広がる。
もしかして事故──。
誰か、けが人とかが出てしまっているなら、自分にも出来ることがある。
少し強く、自分の手を握りしめて。
足早に、それが起こっている場所へと急いだ───。
■カタストロア >
逃げ惑う生徒と逆の方向へ。
騒動の中心へと走れば。
倒れ込んだ風紀委員たち。
それぞれがうめき声を上げている。
赤い制服に腕章。二年生がチームの中心のようだ。
そして彼らを睥睨しているのは、ボロボロのスーツを着たリザードマン。
鋤鼻器官が少女の匂いを嗅ぎ取り、230cmを超える巨躯が振り向けば。
縦に裂けた瞳孔が少女を見た。
「……随分と」
手に付着した返り血を長い舌で舐め取って。
「ありがたいことだ……デザートが歩いて来てくれるっていうのは」
倒れ込んだ風紀委員が最後の力を振り絞って、告げる。
はやく逃げて、と。
「いや……キミは見たことがあるな?」
人の生活空間に不釣り合いな足音を立てて一歩近づく。
■蒼空 奏 >
曲がり角を曲がって、最初に目に入ったのは…道路に倒れる風紀委員の生徒数名。
血が流れている──急がないと。そんな気持ちだけが早った。
すぐにそこで気づくべきだったのに。
起こっているのは、事故じゃなくて──。
「──!」
立ち竦んだ。
連日のニュースでも見ていた風貌。
それでもどこか、自分の生活する範囲とは違う世界のように思えていた。
「…あ………」
見上げる。
逃げて、と張り上げられた声が耳に届く。
──どうしよう。
動けない───。
逃げなければいけないのに、命令に足が従ってくれなかった。
…恐怖に竦む、って、こういうことを言うんだ。
足音にびくりと身体が震える。現実感が急速に増していくと同時に、……眼の前の怪物はよくわからないことを言った。
「わ…」
「私は…貴方なんて、知りません」
蒼い瞳は恐怖に見開かれている。漸く動いた足は、一方後ろへと、後ずさる。──近くなる距離。逃げられない………。
■カタストロア >
「そうかな?」
周囲にいる風紀を見渡して。
口の端を歪めて破顔う。
「お嬢さん、ゲームをしよう」
「ルールは簡単、鬼ごっこだよ」
主人格殿はあのハンカチを返そうと四苦八苦していたな。
内部の佐々木伊織に残酷な場面を見せるも一興。
甚振って新鮮な血肉を味わうとしよう。
「10数えるからその内に逃げるといい」
「どこまで逃げてもいい、コモドオオトカゲは狩りのターゲットを最長で四日追い回すと聞くがね」
愉快そうに肩を揺らすと地に伏した風紀委員が取り出そうとした通信機を軽く蹴った。
「ひとーつ……ふたーつ」
通信機だったモノは自販機に直撃し、黒煙を上げて炭酸水をハラワタから吐き出した。
「みぃーっつ………」
■蒼空 奏 >
──怪物は嗤う。
ゲームをしよう、と。
時間を与えるから、逃げると良い──と。
思い出す。
この怪物の凶行は連日報道されて。
その度に心を痛める人もいた。
憤る人もいた。
気分を損ねて具合が悪くなる人も。
きっと、この怪物から逃げる事はできない。
走るのも得意じゃない、足も早くない。
逃げ出したいと身体が叫んでも、足は言うことを聞かない。
……それなら。
「…っ……イヤ、です」
逃げるでもなく。
懇願するでもなく──。
少女は大きく手を拡げた。
それは怪物に対してではなく、そっぽを向いて。
倒れている風紀委員の生徒達に向けて───蒼白い光が彼らを包み込む。
きっと完全回復はしない、けれど……自分と違って走ることくらいは出来る筈。
「逃げて下さい──、はやく」
愉快そうに嗤う怪物の眼の前で、少女は自分よりも他人を逃がすことを選択していた。
「…10。待ってくれるんですよね」
■カタストロア >
逃げる時間を使って風紀委員たちを回復させている。
マズルを器用に使ってピュイと口笛を吹いた。
「よぉーっつ……いつつ…」
確実に立てない程度に痛めつけた連中が。
回復しつつある。
治癒系ではなかなかの異能規模だ………
「むぅーっつ……ななつ…」
だがオレを前に逃げないということの意味を。
知ってから後悔してもらう。
「やぁーっつ……ここのつ……」
───順序としては何も間違ってはいない。
「とーう……カウントは終わりだ」
舌なめずりをしてさらに一歩。
「Bon appétit」
大口を開いて両手で彼女に掴みかかった。
■蒼空 奏 >
──怖がらない。怖がれば、この怪物は悦ぶ。
ゲーム、なんて言い方をして人を傷つけて。
「どうして……」
「そんなに、誰かを傷つけるのが楽しいんですか…?」
震える声、別の言葉で塗りつぶして、口から漏れそうになる言葉を留める。
助けて、なんて口にすれば…風紀委員の彼らは逃げてくれないから。
眼の前で開く大きな口。鋭い牙──。
怖がるな。…というのは、無理な話。
恐怖に押しつぶされそうになる。
これで死んじゃうんだ、と。
でも最後に、人を助けられたから良かった…と思おう。
そう思わないと──死にたくない思いが噴き出してしまう。
ぎゅっと目を瞑る。
自分の華奢な身体を抱き竦めるようにして、恐怖から瞳を閉じた。
■カタストロア >
「誰だって好き勝手やるのは楽しいもんさ」
そして凶悪な爪が生え揃った手が彼女に触れる瞬間。
自分から肉が軋む音がした。
「あぐ!?」
脊髄に溶けた鉛を流されたような。
体が自由に動かない。
左目が人間のような黒の瞳孔に変わる。
『やめろカタストロアッ!! それ以上は覚悟してもらうぞ!!』
低い、オレ自身の声で甘っちょろい言葉。
こいつ……佐々木伊織の人格が抵抗しているのか!?
「このガキ……! お楽しみを邪魔する意志と力があるとはな…!!」
頭を抱えると幾重にも頭部を引っ掻く。
『お前が言ったんだぞ…もう僕らは表に出ている人格に干渉するくらい簡単なんだってな!』
誰も、何もしていない。
なのに腕が関節技でも決められたかのように逆に反っていく!!
「舐めたマネしやがって…! また太陽を見られると思うなよッ!!」
奇妙なりし一人芝居。
いや──人格たちの肉体の奪い合い。
左目が蒼空奏を見る。
『蒼空さん、ごめん……ハンカチ、保健委員に…郵送したから…』
『こいつに捨てられたり、燃やされたりしたら…』
『返せなくなっちゃうからね……は、はは』
二人分の苦しむ声が、ひとつのマズルから漏れてくる。
■蒼空 奏 >
暗闇でその時を待つ。
死ぬ時は痛いのかな。
痛いのは、苦手。
自分のものも、他人のものも。
苦手なもの、ばっかりだな。
死ぬまでの一瞬は長い、って聞くけど、本当に長く感じて───。
「……?」
その時は、来なかった。
地べたにへたり込んだまま、恐る恐る青の瞳が開かれる。
──怪物は、呻き苦しんでいた。
「……え…?」
誰かと言い合うような、低い声が上から降る。
見上げた先、頭を抱えるカタストロアの姿があった。
困惑の中、彼の言葉が耳に届く。
ハンカチ───あの時の彼。
カタストロアのニュースを見て、苦しんでいた彼だ。
「……佐々木さん、なんですか?」
立ち上がる。
足はもう震えていなかった。
ただ困惑の渦中、あの時の彼が名乗った名前を呼ぶ。
■カタストロア >
「そうだ……!」
「風紀委員どももよく聞け!!」
「オレの本体は畜産二年の佐々木伊織だァー!!」
頭を抱えたままカタストロアのほうの人格が吠える。
「家探しをしてやれよ? 証拠もあるかもな、こいつの夢を踏み潰してやりなぁ!!」
頭を抱えたままゲラゲラ笑っていたが。
すぐに落ち着いた様子で両手を下ろした。
「ま、御本人サマはもう表に出ることはねぇだろうけどな」
絶望したか伊織ィ!!
手前ぇの牧場経営なんてくだらない夢を諦めて死ね!!
棺に入ったまま二度と出しゃばるんじゃねぇぞ!!
「グゥ……」
ヨダレをダラダラ流したまま苦しみの余韻に頭を軽く振る。
「ろくでもない夜だぜ……!」
そして爪と牙が月光に照らし出された。
■蒼空 奏 >
「───」
怪物の咆声。
曝け出された人格の名乗り。
カタストロアが見せた僅かな隙に、回復した風紀委員達は立ち上がり、怪物と少女の間に割って入る。
彼らは島の秩序守護機構──逃げるということは選択しなかった。
『カタストロアの正体は、畜産科二年の佐々木伊織』
風紀委員達にもその言葉ははっきりと伝えられる──。
「っ……佐々木さんは」
「貴方みたいな怪物じゃ、ないです」
「貴方がしているような醜悪な行為を気持ちの悪いものとして見て心を傷めていた…普通の人、でした!」
風紀委員の後ろから、精一杯に声を張り上げる。
悪さをしているのは彼じゃない。
今、眼の前にいる巨軀の萼。
好き勝手に人を傷つける怪人とは別の人間である、と。
「わ…悪さをしてるのは、貴方だけ、です…!」
■カタストロア >
眼の前に回復した風紀が立ちふさがる。
騒ぎを聞いて遠くサイレンも聞こえる。
新しい異能込みでもこの消耗具合で囲まれたらさすがに危険か……
そして風紀に守られる、なんの力もないはずの女が言った言葉は。
「何……?」
オレを糾弾するもの、だった。
「笑わせるな…オレは伊織の体を使って散々、良い思いをしたぜ……」
「現行法と照らし合わせてどう判断されるかな…クク」
敗北感。
何故だ、ちっぽけな主人格と回復異能だけの女に……?
「この街をグズグズにしたら、治す人間も風紀が守るものも無くなるぜ」
背を向け、
「せいぜい楽しみにしてなッ!」
跳躍する。
遠く、月下に響く破滅の咆哮。
■??? >
その日、佐々木伊織は行方不明となった。
しかし、ニュースに佐々木伊織という名前が出ることはなく。
ただ、事態は混迷を深める。
■蒼空 奏 >
「───」
追え、という怒号。
比較的軽傷二まで回復した風紀委員が赤い制服を翻し、怪物を追う。
少女は…緊張の糸が切れたようにしてその場にへたり込んでいた。
大丈夫ですか、と声をかけてくれた女性の風紀委員に、小さく頷く。
そうか…、だからあの時の彼は、あんなに苦しそうにしていたんだ。
こんなこと、誰に話せる筈もない…苦悩、葛藤…そんな渦中だったのかもしれない。
「………佐々木さん」
小さく名を呟くとともに、怪物の去った通りの空を見上げる。
…その後、簡単に怪我がないか、とか…問診があって。
風紀委員本庁で少しだけ、彼のことを話すことになった。
カタストロアの事件のニュースを見て苦しむ様子を見せていたこと。
そして、今日の彼の凶行を…きっと彼の意思が止めた…ということ。
話せることは決して多くはなかったけれど…少しでも、苦悩の渦中にあるだろう彼の助けになったなら…そう思った。
■蒼空 奏 >
───後日。
『ニュースを見て具合を悪くしていた男子生徒です。
ちゃんと会って返せなくてごめんなさい。
あの時はありがとうございました。』
そんなメッセージの記された手紙と共に、あの時彼に渡したハンカチが返ってきた。
洗濯され、綺麗に折りたたまれて返ってきたそれに視線を落としながら、思わぬ再会を果たした彼のことを想う。
自分に出来ることは多くはない、けれど──どうか無事であってください……と。