2024/06/21 のログ
ご案内:「商店街」に緋月さんが現れました。
■緋月 > ブーツの足音を鳴らし、商店街を歩く人影がひとつ。
暗い赤色の外套を纏った、書生服姿の少女だ。
気が付けば、日が落ちてしまっている。
「はぁ……。」
ここ最近、色々と考えることが多い。
特に大きかったのが、先日に話をした風紀委員の少女の件である。
「私の、望みと覚悟――――。」
真剣に悩むが、それでもどうにも同じ場所をぐるぐる回るような思考に陥ってしまう。
人が出て騒がしい場所が嫌という訳ではないが、今は少しだけ喧噪から離れたかった。
ふ、と目に入った、人通りの少ない通りへと足を踏み入れる。
ご案内:「商店街」に『毒蝶』さんが現れました。
■『毒蝶』 >
――少女が路地に足を踏み入れる。
――少女の横を子供たちが走り抜けて、表通りに出ていく。
――傾いた陽は路地を照らさず、影が濃くなっていた。
――こんにちわ
少女が知らず、路地の中まで進んだ時。
突如、そんな声が夏に揺らぐ陽炎の様に耳へ届くだろう。
そして同時、首元を撫でるような殺気が少女を抱擁する。
鋭さとは真逆、纏わりつくような殺気。
それは少女に、白刃で撫でつけられたような錯覚を感じさせるだろう。
■緋月 > 「――!?」
突然響く声。奇妙な、陽炎のように揺らぐ声。
首元に迫る殺気。研がれた刃で撫でられたような、奇怪極まる感覚。
(曲者!?)
反射的に縮地法を発動し、一足で殺気から余裕を持てるレベルで離脱する。
同時にその一足の間に素早く体の向きを変え、手にした刀袋の紐を解いて、現れた刀の柄に手を掛ける――!
■『毒蝶』 >
「――あら」
そんな気の抜けた声と共に、翁面を付けた黒づくめの女が、路地の影の中からにじみ出るように現れる。
途端に殺気は幻のように消えうせ、翁面が少女に向く。
顔は隠しているが、その声には喜色が滲んていた。
「隠れていたつもりなのに、気づかれちゃったわ。
あなた、とぉっても強いのね?」
そういう女の左手には、ひと振りの刀。
そして、その柄に右手をそっと乗せる。
「気づかれなかったら、斬っちゃうつもりだったのに。
仕方ないわねえ――剣士さん、どうぞ御立合い、如何かしら?」
そして再び、先ほどの様に粘性を感じるような、まとわりつく殺気。
それは重さすら伴うように感じられるだろう。
いつの間にか、路地からは不自然なほどに人気が消えさっている。
表の通りからするはずの喧騒も――聞こえない、静寂。
■緋月 > 「な、何奴……!?」
構え直すと共にその姿を確かめ、その異様さに思わず息を飲む。
体格からして、恐らく女。だが、能に使う面を被っている為に素顔が分からない。
強いて分かる事と言えば、その声に滲む喜色位か。
(刀――となると、辻斬りの類か…?)
翁面の女の手にある刀に目が向く。
刃を落とした模造品などではあるまい。あそこで逃げなければ、あの刃の餌食になっていた筈。
(……様子がおかしい。
何処かに助けを求めることは…無理か。)
翁面の女から放たれる、粘りついて来るような殺気。
その気配は、先日受けたばかりの別の殺気とは、真逆といっていいものを感じる。
ひどく、身体が重苦しくなったように感じる。
加えて、いつの間にか消え去った人気や喧噪。
これでは、誰かに気付いて貰う事も出来ないだろう。
つまり、この場で選べる選択肢は、
(…自力で切り抜けるしか、ない!)
殺気に絡め取られそうになる右手を何とか動かし、愛刀の柄を握り、抜刀する。
何を仕掛けて来るのか、面の事もあってまるで読めない。
無意識に、受け側の意識に回ってしまう――。
■『毒蝶』 >
「何奴――そうねえ」
抜刀した少女に合わせて刀の柄を握る。
けれど、その声は場違いなほどに、穏やかとも言える。
「『毒蝶』、と名乗りましょう?
ふふ――油断のない綺麗な構え。
でも、どうして先手をとらないのかしら。
後手の方がお得意?
――それなら、とても有難いわ」
そう言いながら、ゆっくりと刀を抜いていく。
「――ego Desidero amplec est.」
引き抜かれていく刀の刃に色が浮かぶ。
青白い色から――
「――she odium pugnare continued.」
光を返さない、青黒い色に染まった刃が抜かれる。
それと同時に、重苦しい殺気は、憎しみの色を伴いだした。
それは深い絶望から生まれたような、憎悪の感情。
殺気を感じ取れる少女ならば、その憎しみの重さもまた、感じられるだろう。
「それじゃあ――遊びましょう?」
少女が飛びのいたのは、刀の間合いには遠い距離。
そこを、ゆらりと揺れるように歩を進め、大げさとも取れる動作で刀を大上段から袈裟に振り落ろす。
それは緩慢な動作に反して、鋭く重い斬撃だが、けして早くはない。
受けるも避けるも、容易だろう。
■緋月 > 「くっ…妖言を!」
明らかに本名とは思えない名乗り。
人を斬る事を好む性質の者だろうか。
思わず、片方の足がほんの僅かだけ、後ろに摺足を取ってしまう。
「何を、奇妙な事を――
――っ、こっ……!」
聞いた事のない、奇妙な言語。
何かの歌かと思ったその直後、能面の女の手で抜き放たれた青い刃が、その有様を変えていく。
(これ、は――憎しみ…! 重い…心の臓を、鷲掴みにされるようだ――!)
そんな事を考える間に、間合いを詰めて来た女からの一太刀。
動作は大げさ、速度も速くはないが――
「く、おぉ――っ!」
手にした愛刀で以て、何とか受け流す。
其処から生まれる隙を狙い、刀を首に――
――私が危惧したのは、貴女の甘さや未熟ではなくて…。
貴女が反射的に"彼"を斬ってしまうことへの危惧──それは、貴女の望むところではないんでしょう?――
(――!!)
先日の言葉が、脳裏に蘇る。
思わず、放った突きの切っ先が狙いを外してしまう――。
■『毒蝶』 >
「――ああ」
おお振りの一刀は、綺麗に受け流される。
後手有利――先手の隙を付いて、必殺。
必殺であれば、確実に勝負を決する事が出来る、急所を狙う。
それは頭であり、胸であり――首。
しかし、少女の刃が突き立ったのは、女の左肩。
深々と刺さり、重傷は免れないが――致命傷ではない。
「まあまあ――優しいのね?」
右手を柄から、刀身の根元へ持ち変える。
刃が手の平を裂くが、刀身が短くなるため突き込まれた間合いでも機能するように。
受け流された刃が翻り――今度は暗色の刃が、少女の首へと迫る。
■緋月 > 「――ぁ、」
刃が人を裂き、貫く感触が柄越しに伝わってくる。
致命傷とはならないが、それでも重傷には違いない。
過てば、殺してしまっていた。
(何を迷う、相手はこちらを――恐らく殺す気で来ている!
心の迷いは、刃の迷い――)
戸惑ってしまう間に、更に能面の女は――あろう事か、刀身を掴んで突きを放ってくる。
まるで己の身体を顧みぬ攻撃。
暗い刃が、容赦なく己の首へ迫る。
「く、ぅぅっ!」
必死に首を動かし、その一撃を躱すが――薄皮一枚、斬られた感触。
歯を食いしばりながら能面の女に突き刺さった切っ先を抜きつつ、再度間合いを取り直す。
「貴様――一体、何者だ…!
何ゆえ、このような真似をする――!」
斬られた薄皮を押さえながらの、叫ぶような、問い掛け。
掌に血が滲む感触、首には小さいが鋭い痛み。
■『毒蝶』 >
「い――たぁい」
少女の刀が引き抜かれれば、同時に傷口が広げられ、鮮血が飛び散る。
それすらも、どこか楽し気な声で痛みを訴えれば。
間合いを取り直した少女を見て、首を傾げた。
「あらあら?
名乗ったと思うけれど、いけなかったかしら」
そんな事を言いながら、刀の柄を再び握り直す。
女のだらりと垂らした両腕からは、赤い血が滴っている。
「それに理由なんて――わかるでしょう?」
ゆっくりとまた大上段に刀が持ち上げられると、再びねばつくような殺気が――憎しみが、少女を絡めとるように。
傷つく事、傷つけられる事すら嬉しそうな声に反して、その殺気は明らかに暗い感情によって生み出されていた。
■緋月 > (こ、この者――正気を違えたか、あるいは剣鬼の類…!)
会話でのまともなやり取りは判断できない。
更には苦痛さえ快楽とするかのような口調。
――まっとうな手合いとは思えない。
(理由だと……この、粘り付くような殺気、否、憎悪が!?
だが、口ぶりからではとてもそうは思えない――!)
知らぬ間に、息が短くなる。焦りが、先に来る。
よくない兆候だ。
このままでは、絡め取られて斬られるか――
(……斬って、逃げるしかない…!)
――その選択だけは、絶対に選んではならない。
いくら相手が不審極まる辻斬りだとしても、己を居候させてくれている人や、相談をしたあの人の立場が悪くなる。
否、それだけなら兎も角、最悪自身がこの街の治安に追われる結果になる。
(――――「知る」しかない。
「斬って」、「知って」、その上で殺さずにこの場を凌ぐしか――!)
あまりにも急すぎる状況。
それでも覚悟を決めざるを得ない。
「――――――。」
短くなっていた息を、何とか意識で整え直す。
冷静さを取り戻す為に、危険ではあるがこの場での調息を行う。
ホォォォ、と、奇妙な呼吸音が響く――。
■『毒蝶』 >
「――焦っているのね?
追い詰められたような顔色に見えるわ」
声音だけは変わらず、ひたすらに穏やかだ。
穏やかで、体温すら感じ取れるような声音。
しかし、伝わるのは、異質な殺気。
「あら――それはダメよ」
心を落ち着かせようとするかのような呼吸にあわせ。
また影の中を滑るかのように歩を詰め、真正面から刀を振り降ろした。
■緋月 > 「っ!」
二度目となれば、対応も選択肢を選べる。
再び真正面から来る刀を、今度は体を回転させるような体捌きで躱し、直後にがら空きであろう
胴に目掛けて蹴り込みを叩き込む。
威力は重視していない、集中の為の時間を稼げれば充分。
(「知る」には――この「殺気」を、振り払わねば。
本質は常に、包まれるように隠されているもの!
――――出来るのか、今の私に……
……否、やらねばならない!
やってみるは要らない、やらねばいけない!)
再び、奇妙な呼吸音。
同時にゆらりと書生服姿の少女の手の刀が持ち上がり、八相の構えを取る。
■『毒蝶』 >
「――まあ」
隙だらけの身体に、躊躇いのない蹴りが刺さる。
しかし、ガツン、という硬質な音。
少女の蹴りと女の身体の間に『ヒビ割れた板』が顕れ、壁、防壁となって受け流してしまう。
「そんなに、逃げないでちょうだい?」
蹴りの反動で開いた間合い、それをまた一歩詰め、斜めに右下から刀で切り上げる。
先ほどの『防壁』に頼り切っているのだろうと思えるような、隙だらけの緩慢な動きだ。
■緋月 > (透明な板!? 異能の類…否、術法にも思える。
だが、今は――!)
シィィィ、と息を吐き出しつつ、翁面の女が繰り出す斬撃を跳ね上げる形で捌く。
これでまた、隙が生まれる筈。
長引かせては駄目だ、此処で決めなくては。
再度素早く一歩を退き、距離を稼ぐ。
僅かな時間で、充分。
(…彼奴は恐らく、あの「壁」に頼っている面もある。
ならば、その隙を突くのが最善手――!)
奇妙な呼吸音と共に八相から体を素早く捻り、剣気を愛刀に収束させる。
その刀身から、ゆらりと陽炎のような剣気が立ち上り――
『――視エズヲ、暴ク――!』
その宣言と共に、一閃。
形ある、目に映るモノを断つ刃に非ず。
其は、目に直接映らぬモノ――殺気を斬る為に、放たれる一太刀。
(その殺意に隠されたモノ――暴かせて貰う!!)
■『毒蝶』 >
「――お上手」
大きく弾かれた刀は、手から離れなかったものの。
女はのけぞるように体勢を崩し、大きな隙が出来る。
その隙を作った少女は、刀を構え、洗練された剣気を放つ。
「――っ!」
初めて、女が驚いたように息をのんだ。
路地を這いまわっていた、影のように纏わりつく殺気は、一刀のもとに斬り祓われる。
物理的干渉を想定して女が纏った『防壁』は、意味をなさなかった。
なにせ少女が斬ったのは女ではない。
「まあまあ――それはイケないわ」
『偽造』された殺気と憎悪は、少女の斬撃に消え失せた。
女の持つ刀が、暗色を失う。
そこにあるのは、ただの、薄いハガネ。
刀とも呼べないような、ナマクラ。
しかし、少女が暴いたのはそれだけではない。
偽りの殺気と憎悪を切り裂いた一瞬、少女は直感的に感じ取るだろう。
曇りのない善意と――底抜けの愛情を。
その愛情は終わりのない深淵であり――少女の世界観で見れば、狂気的にも壊滅的にも感じられただろう。
ただ、それも刹那の間に過ぎない。
女の、くすくす、という笑い声にかき消される。
「やぁね、恥ずかしいじゃない。
――泣いちゃうわよ?」
そんな、緊張感とかけ離れた、弛緩した刹那の後。
背筋が凍てつく程の、『偽りない殺意』が路地に吹き荒れる。
吹雪の如く、暴雨の如く。
「あは、は――あいしてるわ――」
場違いな無邪気な声。
しかし、再びゆっくりと振り上げられたナマクラは。
本物の殺気を纏っている。
■緋月 > 「うっ――はぁ、っ…!」
――完全に、決まった。
粘着くような、本質を覆い隠していたタールのような殺気と憎悪は、「不視斬り」で斬り裂かれ。
ほんの僅かな間、能面の女の本質が、垣間見えた。
何処までも曇りのない、磨かれた水晶のような善意。
底の知れない、奈落の穴の如き深さの愛情。
凡そ、只人が持ちうる感情ではない。
恐らくは――
(――そう、この女も、本質は、「こちら側」――
まっとうなヒトには「狂気」としか思えないモノを、抱えて生きる者だ――!)
垣間見えたその本質はたちまちのうちに隠れ、今度は荒れ狂い、凍てつくような殺意が襲ってくる。
だが――
「――――礼を、申します。」
振り上げられた、殺意によって偽装されていた鈍ら。
それを、偽りなき殺意と共に振り上げる能面の女に、ただ一言、謝礼の言葉。
「何処の何者かは分からねど。
貴殿のお陰で――目を晦ますモノを振り払う技の、「知る為の斬撃」の、手掛かりが掴めた。」
その言葉と共に、再び八相の構えに映る。
「ですが、これ以上は互いに無事では済まぬ。
申し訳ないが、この辺りで暇乞いとさせて頂く――。」
■『毒蝶』 >
「あ、は――はははっ!
ここでお礼なんて――おかしなこ」
翁面の下で、朗々と笑う。
けれど、その殺意はわずかにも揺らがず、無秩序に広がっていく。
「うふ、ふふ――いやよ。
まだお別れには――はやいでしょう?」
右手一本で振り上げたナマクラの刀。
本来なら脅威にもならない刀は――確実に命を寸断できるだろう殺意を纏い、無防備な構えとも言えない構えを晒す。
そして――弛緩から一転。
僅かな揺らぎと共に、虚を突くような足運び。
そこからの致命的な一太刀が、まっ直ぐ、一直線に振り降ろされようと迫る――。