2024/06/22 のログ
緋月 > (やはり、振り下ろしで来るか――!)

一挙に間合いを詰め、迫り来る刃。
鈍らである筈のそれは、振り下ろされれば己を殺しうるであろう殺意の刃。
だが――故に、ひどく合わせやすい

(恐らく、人目も喧噪も届かないのは此処が既にこの者の「領域」だから――あるいはそうなるように仕組んだか。
ならば、内側から食い破って逃げるのみ!)

絶殺の一太刀に対し、少女が選んだのは、真っ向からの迎撃。
降りかかる鈍ら(凶刃)に対し、振り払いの構え。
無論、それはただの振り払いではない。

(…この組み合わせは、初めてだ。
だが、これも試練。やるしかない、避けて通れぬ道行!)

コォォ、と短い呼吸音と共に、

『界断チ――――』

以前、かの機界魔人の電磁パルスのフィールドを「斬り裂いた」斬撃が、再び放たれる。

しかし、今回はそれだけに非ず。
更に重ねて、

『――――斬月――!!』

自身の異能、「斬月」と共に、界を断つ一撃を放つ。
理論上は、界を断つ斬撃が振り下ろしを弾き、天に向かってこの「領域」を――
展開されていれば、だが、斬り裂いて行く筈。

(唯では、駄目だ!
もっと、強く、強く、強く――――強く!!!)

激しい意志が、剣気となって少女の身から発せられ、更に刀に収束していく。
其処から放たれた一太刀は、

緋月 > 天へと向かう、界を断つ斬撃は、一太刀のみに留まらず、



その斬撃に沿ってまるで三日月のような多数の斬撃を纏いながら、界を食い破らんと、天に飛翔する。

『毒蝶』 >  
 少女の予想した通り、不自然なこの空間は、女が用意した『仮初の聖域』。
 かつて一度砕け散った『聖域』を形だけ取り繕った、不完全な防御空間。
 それを狭い路地に薄く広く広げて、空間を疑似的に隔離していたのだ。

 そして『聖域』は非常に強力な防壁であるが――それはどれだけ取り繕っても。
 すでに『壊れている』のだ。

「まあ――――」

 そんな気の抜けた声が、面の下から漏れた。

 ヒビ割れた『防壁』は一太刀目に触れただけで砕け散る。
 振り下ろしたはずのナマクラは、半ばから真っ二つにへし折られる。

 そして『聖域』に届いた斬撃は、取り繕われていた姿をあらわにする。

 ビルの合間、見上げる空に無数のヒビが入る。
 それは硝子が砕けていく直前の様に、空を真っ白に染めるほどの無数の亀裂。
 それは、路地の前後にも同じように広がった。

 それから二つ――三つ――四つ――無数の閃光を束ねた月は。
 『偽りの聖域』を完膚なきまでに破壊した。

「――よくできました」

 刀を、防壁を、聖域を、完全に切り裂いた、少女の月。
 それは狙いたがわず、女以外の敵性、全てを寸断した。

 斬撃の余波に体幹を崩されながら、少女とすれ違う。 
 すれ違いざま、少女の耳元には、微かな声が風に混ざって聞こえるかもしれない。

 少女と場所が入れ違い――少女の足元には能面が転がった。

「ああ――とてもきれいね――」

 少女の『月』を目にした、素直な感想だった。
 完全な敗北――しかし、それが気にならないほど、相対した剣士が愛おしい。

「あなたの勝ちよ――やさしい剣士さん」

 少女へは振り返らず。
 もし少女が振り返ったとしても――すでにその気配は消え去っている事だろう。
 

緋月 > 「――――――。」

天を仰ぎ、刀を振り抜いたままの姿勢で、少女は暫し固まっていた。
意志を以て、己が為した事。それに、間違いはない。
だが、今の「斬月」は。

(……まるで、三日月のような。多数の、斬月。)

今までは、一つの斬撃のみに留まっていた斬月。
しかし、今の斬月は、放たれたモノにより多数の斬撃が、まるで従うように、同時に放たれていた。

(これは――強い。強い、が――)

あまりにも、斬れ過ぎる
気を付けて使わなくては、斬るべきでないものまでも、巻き込んでしまう。

(――後で、元々のものが使えるか、試さないと。)

そんな事を考える間に、足元に何かが転がる音。
そして、すれ違う気配と共に己を称える声。

「まっ――――!」

反射的に呼び止めようとして振り返った時には、其処にはもう、誰もいない。

「………何をやっているんだ、私は。
元々、逃げる心算で放った技なのに…。」

きっと、あの声。
殺意の混じらぬ声が、引き留めようと身体を動かしてしまったのだろう。
そう思う事にしておいた。

足元を見れば、恐らくはあの女が落としたと思わしき翁の面。

「――――置き土産の、つもりでしょうか。」

少し悩んでから、その面を取り上げ、懐にしまう。
刀を袋に収め、紐で結び直してから、女が歩き去ったであろう方向とは逆方向に、脚を進める。

「……本当に、何者だったのか、何をしたかったのか…。」

結局は詳しい事は分からぬまま、去られてしまった。
印象に残ったのは、あの狂気的ともいえる程の善意と愛情。

「…今は、帰りましょう。」

軽く頭を振ると、書生服姿の少女は返って来た喧噪に向かい、外套を翻して歩み去っていく――。

ご案内:「商店街」から緋月さんが去りました。
ご案内:「商店街」から『毒蝶』さんが去りました。