2024/10/12 のログ
武知一実 >  
「はっは、ホントおもしれー淫魔(ヤツ)

犬の様に唸っていたかと思えば今度は猿みたいに。
見てて飽きないと言うか、何と言うか、動物園に来てる気分になる。
まあ、オレが行くと動物、避けてくんだけど……それはおいといて。

「へえ……本当だ。 良かったじゃねえか、誰かから貰ったのか?
 けどまあ、それで転んでちゃ世話ねえな、次は気ぃ付けろよ」

見せ付けられた絆創膏は明らかに対象年齢が一回りくらい下の子供向けだったが、嬉しそうな顔に揶揄う気すら起きない。
いや、元から揶揄う気なんて無いが。 宝物、大事に思える物なんてそれこそ人それぞれだろ。
ふと先日見た夢を思い出して、少しばかり目を細めてしまった。

「利子は付けねえが、それでも負債で首回らなくなっても知らねえぞ」

得意げに胸を張れば、ナース服でも分かる程のデカさが揺れる。
その柔さを知ってる所為か、戸惑うよりも先に目を逸らしてしまった……あれ?

「オレの興奮の度合いか……ちっと自信ねえんだよな、正直。
 こないだは、どうなるんだろうって正直ワクワクしてたが、二度目となると……な?
 別にアンタに差し出す分には、献血みてえなもんだし……いや、行先の判らねえ献血よりはよっぽど意義がある気がしてんだけどよ」

説教を聞き流すことは慣れたもの、伊達に風紀に怒られ慣れていない。
が、それ以上に無意識のうちに自分の口に飴玉を放り込んでしまったというショックがデカい。
え、知らない内にリリィの腹ペコが伝染してたのか……?

「あ、いや、これは完全に無意識と言うか、正直マジスマンというか。
 ……あー、ええと……要る?」

申し訳なさからどうしたもんかと考えを巡らせる。
自分らしくない凡ミスのショックを引き摺ってる所為か、ろくに回らない頭で弾き出した答えは。
口に入れた飴でも平気かどうかを訊ねる事だった。小さく口を開け、舌に乗せた飴を覗かせてみる。 レモン味。

リリィ >  
「くっ……わたしの所為で淫魔=面白いの図式がかずみん様の中で確立してしまう……!
 ちがうんですからね!ほんとうに、ほんとうは怖いんですよ!
 ガブッて食べられちゃうんですからっ!」

土まみれで鼻血を拭いてもらったポンコツが言うには説得力はなかろうが、
それでも語気を強めていつもは困ってばかりいる眉を吊り上げて淫魔の恐ろしさを説かん。

直後に女児用絆創膏を自慢したら台無しなんだろうけども。

「はい!いっぱい貼ってもらったんですが、これ以外はシャワーの時にとれちゃって。
 ……? かずみん様?どうかしましたか?」

自慢げな様子が一転して残念そうに肩を落として絆創膏を撫でる。
と、何やら元気がない?様子。
首を傾げてじぃっと見つめてみるが果たして。

「既に若干そのケはあるんですよねぇ……。
 御恩が積み重なって二進も三進もいかなくなる前に働きたいんですが、如何せん住所も戸籍もなくって。
 いっそ学園に籍を置けば身分証明にもなっていいんでしょうか。確か、異邦人への奨学金援助みたいな制度ありましたよね。」

困った様子で腕を組む。当然のように乳が乗っかる。
何故住所不定の新参者が学園の制度を知っているのか、っていったら――なんでだろう?ってこのポンコツ淫魔は首を傾げるのだそうだ。

そんなことよりも、だ。
困惑するばかりだった男子高校生から気まずさのようなものを見て取れば、
同じようにあれ?って感じで首を傾げた。

「じゃあ尚更だめじゃないですか~!
 前も言ったけど、わたしの糧になるのは血そのものじゃないのでしれっとされると……
 こういってはなんですが、あんまり意味がないというか……。」

あ、聞き流してる。
気付いてしまうとフンスと気色ばんだ息が鼻から抜けた。
それよりも、腹ぺこどころかポンコツも感染してないだろうか。

いる?って言われてぽかんと口を開けて固まってしまった。

ぐるぐると瞳に渦巻き浮かべて、
飴玉――ではなく、その舌を唇を凝視。喉が鳴る。

「~~っ淫魔を誘惑するなんて、命知らずにも程がありますよっ!
 知りませんからね、わたし!」

さんざ忠告はした。
ので、涙目の赤ら顔だが開き直ることに。

だって、いい加減に――お腹がすいて仕方がなかった。
ずりずりと這うようにしてにじり寄る。

武知一実 >  
「安心しろ、面白いのはリリィであって淫魔じゃない。
 そこの線引きはしっかりしてっからよ」

勝手に他所の淫魔を巻き込むな。
とはいえはっきりと淫魔だとオレが知ってるのは、リリィしか居ないわけで現状、淫魔=面白いとして成立してるのは間違いない。
まあ、他の淫魔をこうやって揶揄うつもりはさらさら無いが。少なくとも、初対面では。二度目以降?知らねえな。

「いや、大したことじゃねえ。
 良かったじゃねえか、人に自慢出来るほど大事なものがあって」

一方オレは、とどうしても考えてしまう。
まあ、無いからってそれを引け目に思う事も無いんだが、果たして一人の子供として健全なのか、と疑問は抱く。
こちらをじぃっと見つめてくるリリィへと、フンッ、と笑みを返す。

「だろうな……まあ、誰でも誰かの世話になる事なんてあるもんだ。
 そのことに胡坐かいてふんぞり返ってなきゃ、良い方に転がってくもんだろ。
 なんだ、やたら詳しいじゃねえか……そうだな、あったなそういう制度。
 オレぁ異邦人じゃねえから地道に自分(テメェ)の学費稼いで、ってしてるけどよ……まあ、良いんじゃねえか? 生徒になってみんのも」

少なくともナース服姿で徘徊する野生の淫魔よりは、
学園を徘徊する学生服の淫魔の方がまだ世間的にもお見せできる気がする。
……あ、いや、淫魔の性質上学校に入れるのは仔山羊の群れにライオンを放り込む様なもんでは……?
そんな事を考えながら改めてリリィを見たら、組んだ腕に何か乗っていた。ほー、と眺めてから我に返り、目を逸らす。
……少しだけ顔が熱い。何だコレ。

「まあ、その、何だ……上手くは言えねえけど、オレは前よりは上手く行く気がしてんだ。
 アンタの言う“興奮”ってのがどういうもんか、ちょっと分かったし、確かにあン時は……してた、んだと、思う」

いまいち実感のなかったその手の興奮を、あの日初めて自覚したのは否定出来ない。
それを確かめるという意味合いも持たせたかったが、さすがに言い出せずにいたわけだが。

「なんて、さすがに冗……? お、おう。
 要るんならちょっと待て、今洗ってく……いや、え?」

オレがいつ誘惑なんぞしたというのか。
さっさと口から飴玉を取り出して、水道で洗って来れば良かったものの、涙目で這い寄るリリィの迫力に身が竦む。
飴玉一個で必死過ぎん?とポンコツまで感染していたオレが訳も分からずにいる内に、もともと近かった距離を更に詰められてしまい――

リリィ >  
「ならよかっ――……いや、よくないですね?わたしも一応とはいえ淫魔なんですが??」

ほっと安堵の息を吐きかけて急ぎ飲み込む。ごっくん。
解せぬと眉間に浅く皺が寄った。
自称淫魔だと思われている可能性に気が付くも、今はそっと胸の内に秘めておくことにする。
丁度この後に、自称を拭い去る機会がくることだし。

「かずみん様もあるじゃないですか。
 自慢していいと思いますよ、“お人好し”。」

にんまりと、このポンコツ淫魔にしては珍しく悪戯っぽく口許を歪めた。
揶揄めく調子ではあるものの、その人の好さに助けられているのが此処に居るわけで。

「ふんぞり返ったりなんかしませんが……できませんが。
 それにしたってと思うんですよ。今だって、立てずにいるわたしに合わせてくださっていますし。
 って、もしやかずみん様は所謂苦学生というやつ、なのでしょうか?」

やさしい人が多すぎる、と。少しだけ困った様子で微笑んだ。
次いで、目付きの悪さでわかり辛いが、未だ未だ親の庇護の下に居てもおかしくないような年頃に思える少年が
自立を口にしているのに瞬いた。そんな子からこのポンコツは飯をタカっているというのか。
そんなポンコツを学園に放っていいのか。大丈夫なのか。

兎も角、本人がヨシというならば。
――そう、これは唯の食事だし。お礼は、今はツケだけどいつかするから、
――いつか誰かが教えてくれた、取引、ってやつだ。
と、胸の内でごちる。

当然飴だけで済ます気なぞ欠片もない。
ポンコツのポンコツたるポンコツっぷりを見せつけたけども、
悪魔は元来欲深なモノ。

にじり寄ることで距離を削って、この手はその身に届くだろうか。
しな垂れかかるように身体を寄せて、叶うのならば袖でもちょいと捕えたい。
控えめな手だが、それは確かに逃がさないという意思の下。

繰り返すが、腹ぺこで力はない。跳ねのけるならばそれは容易。
但し瞳を見つめなければ、の話だ。
潤む瞳はいつしか妖しく光を湛えていた。惑わせ、捉える、魔性のひかり。
魅入ればすぐに動きを、意思を――奪うだろう。
そうしてそれは程なくして伏せられる。同時に、柔らかな感触を唇に知ることになるということ。

武知一実 >  
「へいへい、淫魔淫魔」

解ってますよー、と手を振って尚も揶揄う。
勿論本心でリリィの事を淫魔だと思っていない何てことは無い。
ただ返って来る反応がいちいち面白いもんだから、つい、というやつだ。
……オレも最近、人から言われたがこういう事か、と納得してしまう。

「別にそら性根だ、オレぁただ普通にしてるだけなんだけどよ。
 そもそも自分の人の好さを自分で自慢する奴ぁ大抵ロクな奴じゃねえだろ」

相手がどうこう思うのは勝手だし自由だが、オレが自慢しちゃいけねえだろと思う。
そもそも自慢する様な事じゃねえだろ、誰でもこれくらいはするぞ。

「アンタの場合、ふんぞり返ったらそのまま後ろにスッ転びそうだからな。
 ……あァ? こりゃ別に立ってたらいちいち下向いて話さなきゃならなくて面倒ってだけだ。
 前に言ったろ? 割とハード目な人生だって、身寄りがねえんだよ、カッコつけて言やあ天涯孤独ってやつだ。ま、親は死んじゃ居ねえと思うがな」

親切なんてもんは受ける側が思ってるよりも施す側は大したことと思ってねえもんだ、と困った様に微笑む(わらう)リリィへと告げる。
オレの身の上に関しては、まあ隠し立てする事でもねえし、前にチラッと言っちゃいるが、テメェの食い扶持はテメェで稼がなきゃならん理由を答えて。
いずれ皆嫌でもやらなきゃならねえ事を、オレはちょっと早く始めてるってだけだと思っているが。
まあこのまま働き口を探すにせよ、学生になるにせよ、この淫魔には苦労が絶えないことだろう。

―――なんて、呑気に考えていたオレだったが。

淫魔(人外)の威圧感に気圧され、身動ぎすら出来ずにいる内に、淫魔(リリィ)の顔が間近に寄る。
そんなに急がねえでも飴くらいくれてやる、と口を開くより先に、垂らされた前髪の奥、妖しく揺らめく瞳と目が合った。
途端に思考は靄が掛かったかのように朧になり、身体も電池が切れたかのように動かなく―――

―――むしろ、動いてはいけないかのように硬直する。
リリィ(淫魔)の瞳に捉われた一実の意思は掌握され、その身は供物の様に捧げられていた。
(獲物)の五感がただ感じられるのは、今から食事(捕食)を始めようとする淫魔(リリィ)の感触のみ。
己を捕らえる手、身体に当たる胸、そして唇に触れる――それぞれの柔らかな感触。

ぞわり、と以前も感じた悪寒にも似た痺れを一実が感じると共に、淫魔が求める精気が先よりも濃密にその口腔へと注がれることだろう。

リリィ >  
雑にあしらわれてムキになったのかもしれないし、
自慢にならない、当たり前のことだという、ある種度を越したお人好しに対する警告だったのかもしれない。

兎角、何かを語るには今は口が塞がってしまっているので。


唇が重なれば、飴を頂くという口実に則って、当然のように柔らかい舌がその口を侵すべく蠢く。
つんと尖らせた舌先で合わせた唇の隙間をこじ開けてはその奥へ。

甘く香るのは飴だろうか?

歯列をなぞり、たっぷりと唾液を注ぎ込む。効果の程はご存知の通り。
飴玉を寧ろその舌に押し付けて転がして、よぅく味わうことにする。

――嗚呼、ひとのあじがする。

これこそが我が糧である、と。
恐らくは少年が感じているものとは全く異なる痺れが淫魔の脳髄を灼く。
空っぽの器に満たされていく心地がなんとも言えず甘美で、
もっと欲しい。もっとたくさん、いっぱい欲しい。
そんな人外の本能は、飴が一回り小さくなるまで止まらなかった。

から、
とろりと蕩けた眼差しが垣間見え、離れていく頃には幾らかの気怠さを覚えるかもしれない。
それこそ、腰が抜けちゃうような。
精気とは、つまるところ根源であるからして。

「……あ。 だ、だいじょうぶですか……?」

熱っぽい吐息を濡れた唇から零して余韻に浸ること数秒。
はっと正気に戻ったポンコツは、つやっつやになった顔を今更ながら心配そうに歪め、
恐る恐ると少年の状態を確かめるのだった。飴玉は結局、少年の口の中に残った侭だ。

武知一実 >  
頼り無さげで、抜けている印象が強くとも淫魔は淫魔。
少年はその事を今改めて思い知る。 されど思考は術中にあってまともに働かず、文字通り身体に刻み込まれる形ではあるが。
けれども、何処かそれを諦めていたかの様に、僅かに動いた腕が、己の精気を啜る淫魔の背へと回されて優しく、撫でた。


抵抗の意思を削がれたまま、そもそも抱く暇すら無く柔らかな舌を口内へと迎え入れる。
靄のかかる思考の隅で、飴玉の味とは異なる甘さを確かに感じ取る。

淫魔の唾液が注がれ、口の中へと広がれば加速度的に興奮は増し、時折ピクリと身体を震わせては淫魔を満たす精気が増す。
ぼんやりと焦点を失っていた瞳はそれでも惚ける様に蕩けて。
先の吸精に感じたものよりもより強い快感に、逆らう事無く興奮は増していく。

そして、そのまま。
淫魔がその唇を離すまで、初めての法悦に彩られた精気を提供し続けたのだった。

―――ぼんやりとだが視界が戻り始める。
最初に見えたのは、意識が途絶える前に見たものと似た、けれど異なるぼやけたイエローの瞳。
はぁ、と口から息を吐けば、途端に全身に気怠さが押し寄せる。
頭がくらりとして体勢を留めていられず、オレはその場に座り込んだ。
……なるほど、なあ。と確かに疲労を覚える体とは対照的に、頭の方は納得に満ちている。

「癖になったらどうすんだ、って今回はさすがにオレに非がある。
 ……飴、持ってかなかったのかよ、まあ……いいけどさ」

こちらを心配するリリィへと、軽口を返す余裕はある。
元々夜通しで怪異とドンパチするだけの体力はあったから、これくらい……まだどうにかなる方だ。

「それで、腹は満たされたかよ?……って、聞くまでもねえ顔してんな」

つやっつやしてやがる。あー、クソ。なんだ、……可愛いなコイツ
知らずの内にリリィの背に回していた手に力を籠め、当てつけの様にギュッと抱き締めた。

リリィ >  
少年が反応したことに先ずはほっと安堵する。
唇を介した吸精ならば、余程此方の理性がぶっトンでなければ死に至らしめることはないとはいえ、やはりそれでも心配だった。
なんせ先日この少年から頂いた精気以外で口にしていたのは本来の糧には成り得ぬ人の食事ばかりだったから。

その所為もあって、我慢が利かなかったわけだけども。

「ちゃんと忠告はしましたよ? わたしにこそ気をつけて、って。
 おかげさまで、飴はもう必要ありませんから。」

苦笑いを滲ませる。
崩れ落ちるように座り込むのを見て、罪悪感が胸を擡げた。
かつてない程艶々なポンコツ淫魔が土下座せんと姿勢を正そうとした折に、
その手は我が身を抱き寄せるのだろう。

「えっ、わっ、か、かずみん様?
 あああのあの、えっと、その、あの、……えぇと??」

散々苦労人たる少年の口を吸っといて、密着するだけで顔を真っ赤に染めて狼狽える。
ポンコツ淫魔は淫魔だけれども、やっぱりポンコツなのだという証左。

だがしかし、まあ……
ハード目な人生を送っている少年らしいし。
ものすごーく恥ずかしいけれども、此方からも腕をまわして、
あやすようにその背をトントンと軽く叩くことにする。

「お家、帰れますか? 立てそうになければ送ってさしあげますよ。
 結構いっぱいご馳走になったので、今ならかずみん様を抱えてお空も飛べます!」

武知一実 >  
吸血、接吻、とこれで二通りの吸精方法を試したわけだが。
淫魔の体液(リリィの唾液)による催淫効果があったとはいえ、確かに性的な快楽による興奮を感じた。
程度の差はあれど、同種の高揚と恍惚を感じたのだから、ほぼ間違いないのだろう。
なるほど、同級生の男子が挙って語るだけのことはあるし、
……遠い遠い限りなく原初に近い記憶、朧気ながらも憶えている、母親と父親ではない男の交わる姿。 母親が、色に狂ってしまっていた理由も、理解出来た。
―――出来てしまった。


「ああ、確りと聞いてたぜ。だからアンタを責める気なんて毛頭無ェよ。それに、後悔もしてねえしな。
 ……そうかい、じゃあこのまま幾分か疲労回復の足しにさせて貰うか」

やっぱ疲れには糖分よ。残った飴玉を口の中で転がしながら、柔らかな身体を腕の中に感じる。

「悪い、まだなんか変な感じが残ってやがってさ。 
 離れんのは口惜しいなーって思って……っし、もう大丈夫、ありがとよ」

背をあやす様に叩かれ、オレの心の内などリリィは知る由も無いだろうにと笑ってしまう。
コイツなりに気遣ってくれての事なんだろう。まったく、ホント面白い奴だな。
とはいえこのまま抱き合っててもいずれ気恥ずかしさに押し潰されそうなので、まだ少し名残惜しいが腕を離してリリィを解放してやる。

「心配無用だっての、少し休みゃ歩くくらい楽勝だ。
 ……そもそも抱えて飛ぶ、って万一人に見られたらそっちの方が立てなくなりそうだしな」

それに、体勢にもよるだろうけど、でっけぇのが家に着くまで当たってるって事だろ?
それはちょっとソソられ……いや、そんなことない。ないったらない。

リリィ >  
武知一実少年の過去も胸の内も知らぬポンコツ淫魔はといえば、
漸く手に入れた、満たされている、という感覚に何処か浮ついた様子。

腹が満ちるというのはこうも幸せなことなのかと。
そう思えば我が身を抱き締めた少年の想いは知らずとも
多少の気恥ずかしさは呑み込むし、抱えて飛んでいくのだってお安い御用ってな具合なので。

「いえ、謝るべきはわたしの方ですから。
 わたしの温もり程度じゃお礼の足しにもならないでしょうが、
 お好きなだけどうぞ!」

努め明るい声と笑顔で応ずる。
すこしだけ尖った耳の先は赤いので、恰好はつかない。

離れていくのにあわせて抱擁を解くとして。
顔色を確かめるようにじっと見つめる。当然、洩れ出ていた魅了の魔は既にない。
何処かぽけっとした平和ボケた色味があるだけだ。

「ほんとうですか? 無理はしないでくださいね。
 肩を……お貸しするのも、オトコのコケンに関わるのでしょうか。」

冗談めかしてほの笑う。
おんぶだって抱っこだってお茶の子さいさいなのである。


さて、そうして少年が立てるようになるまでは地べたに座り込んだまま、
軽く雑談にでも興じていたのか。
「ご馳走さまでした。」とか「とっても美味しかったです!」とか。
きっとポンコツ的には褒めてる心算なのだろう。

呑気な、だけど幸せそうな、ふくふくとした笑顔であったそう。

ご案内:「常世公園」からリリィさんが去りました。
武知一実 >
オレの胸中なんぞ察しもしていないかのようにリリィはどこか浮ついている。
まあ、この島に来て初めて淫魔として充足したのだろうし、大目に見てやるとしよう。
やっぱりどこか犬っぽい……さっきまでは小型犬ぽかったけど、今は大型犬っぽいと言うか。

「別にアンタは腹減らしてただけ、生き物――つって良いのか分からねえが、生きてんなら当然のことだろ。謝んじゃねえよ。
 ……別に、今のがお礼って事でチャラにすりゃあ良いものを。アンタも大概人が好いよな」

まあ抱擁くらい挨拶みたいなものだし、好きなだけどうぞと言われたら言葉に甘えるくらいはしよう。
別に“今だけ”とは言われてねえし。

……まあ、今は恥ずかしくなってきたからこれくらいで勘弁してやるが。
リリィの耳同様、オレの耳も赤くなってる気がするし。

お互いに抱擁を解いて離れれば、リリィが顔色を気にするかのように見つめて来る。
すると何故か急に気恥ずかしさが込み上げて来て落ち着かなくなり、ふい、と目をそらしてしまった。
……いやまあ、これが普通だと自分に言い聞かせる。

「べ、別にそんなんじゃねえよ。
 運ばせた先でまた腹ペコに戻られちゃ困るってのもあるしな」

どんな運ばれ方でも間違いなく回避出来ないであろうソレ。
どうしても気になってくる。そんな自分に内心苛立ちつつ。

結局、オレの足腰が回復するまでの間、他愛無い雑談を重ねて。
この、らしくない淫魔との仲が一つ深まったのを感じながら家路へとついたのだった。
ていうか、コイツ……前もだけどナース以外に服持ってねえの……?

ご案内:「常世公園」から武知一実さんが去りました。
ご案内:「常世公園」に笹貫流石さんが現れました。
笹貫流石 > 「ハァ~~…本当、勘弁してくれっつーか…なーんで俺が毎回こういう役目になるんだかなぁ。」

と、そんなぼやきを発しながら、常世公園のベンチで端末眺めながらぼやく風紀の制服姿の少年が一人。
丸型のサングラスの奥、糸目が端末の文面を読み進めて…憂鬱そうに溜息を一つ。

「…廬山の旦那と茉璃姐さんの間で”やらかし”とか、勘弁して欲しいぜ本当…一歩間違えたら大惨事だろ…。」

その報告を受けた時は流石に肝を冷やしたものだ。何でこう、一級の人達は…。

(…追影の旦那は、何かちょっと”変わった”って聞いてるし…つるぎの姐さんはまぁ、相変わらずだよな。
…んで、廬山の旦那が”ちょっかい”出して…後の二人が――)

一人が所在不明とか、管理は大丈夫なのか本当に…もう一人はそもそも姿を見た事すらない。

「…”監視対象を監視する”なんて、貧乏くじ以外の何物でもねーじゃんよ…。」

誰か変わって欲しい、切実に。そういう自分も一級に次いでやばい奴認定されてるのは納得いかん。
…あ、ハイ。以前やらかしたので何も言えませんね僕。…ちくしょう!

笹貫流石 > 「…響歌ちゃんはまぁ、落第街で何とかやってんだろうけど…そろそろ誰かちょっかい掛けないか心配ではあるなぁ。」

――うん、廬山の旦那辺りはもう既に行ってそうだな…間違いない。
あと、気になるのは――…

「…朱鷺子姉さんはまぁ、危険性は別として人格まともだからすげぇ俺としては有難い…うん。
…で、最近監視対象認定されたのが――…」

四級に二人追加。【狂狼】と【禍津華】。片方が血の気が多くて、片方が元・祭祀局らしい。

(……三級に引き上げられない事を願うぜーご両人。…後は…)

もう一人居る。そう、俺が一番苦手な相手だ。――同じ準一級監視対象【化外殺し】。

コイツが多分一番アレだ。何がアレかって俺は何度かコイツに殺されかけた。洒落にならんわ!!

「…アイツもう一級にしていいと思うんだよな…明らかぶっ飛んでるし…。」

何か独り言兼愚痴パレードになってきたので、端末を見るのを止めて軽くサングラスをズラして目元を解した。

笹貫流石 > 「大体、俺だって身動きあんまし取れなくなってんのに、主要な連中の監視とか無理だってーの…。」

んーー!と、軽く今度は伸びをしてから首や肩を回した。何か骨がバキバキ鳴ってるわ…整体行った方がいいかこれ。

「ハァ…お陰で身に付けたくもないパシリ技能と隠密技能がスキルアップしてる気がする。」

端末はもう見たくないのでポケットに捻じ込んで。サングラスを引き上げる――前に。

ゆっくりと糸目を開いて世界を見る――ここに『死の気配』は見えない。まぁ、そりゃそうだ。
再び糸目に戻りながら、サングラスを押し上げて目元を隠しつつ。

笹貫流石 > ところで、風紀で慰安旅行があったらしいんですが…俺、行けてないんだよね…どういう事なの…。

「くそぅ、出会いのチャンスを盛大に逃した気がする…!!」

何か追影の旦那と廬山の旦那が女風呂を覗いたらしいと聞いたが、アンタ等羨ましすぎるぞ!!俺も見たかった!!
何か、あの”風紀の二大巨頭”の裸体を拝んだと聞いたが、事実かどうかは知らん!事実だったら?…死ね!!

「……いや、でもあの二人だと反応淡泊そうだなそれぞれ…。」

いや、それはそれとしてやっぱ羨ましい。俺も拝みたかったです…。
おかしい、気分転換のつもりが余計に落ち込みモードなりそうだぜ…。

笹貫流石 > 落第街方面は、単独だと行けない等級になってしまったので直接はあまり見に行けてはいない。
…まぁ、何か例の怪異さんとかギフト騒動で大変らしいけど、最近は落ち着いてきたんだろうか?

「…まぁ、俺は問題児達を見守る嬉しくないお仕事があるから…そっちまで手が回らんけど…。」

人格は割とまともな人も多いけど――ま、俺も結局問題児になる訳で。喉が渇いたので近くの自販機にちょっと足を運んで飲み物ゲット。
……何か伝説の『おしるコーラ』あった気がするけど俺は何も見なかったんだ…うん。

ちなみに、買ったのはフツーのお茶です。蓋を開けて一口飲んでほぅ、と一息。
もうちょい学生らしい青春エンジョイしてもいいよなぁ、と思いつつ。

ご案内:「常世公園」に伊都波 悠薇さんが現れました。
伊都波 悠薇 >  
「ふぅ」

一息。今日も風紀委員のお仕事。
ボランティアついでの見回り。
自分が出きるのはこれくらいで。

自販機により、シャカシャカゼリーそーだーを買おうと思っていた。
近くの少年には頭を下げて、失礼します……とぽちり、押そうとしたとき。

「あっ」

そのまま、となりのボタンを間違えて押してしまった。
その名『おしるコーラ』。

手に取り、その題名を呆然と見たあと、キョロキョロ、あたりを見渡すと。
視線があった。

「あ、えとちがくて! 飲みたかったわけ、では!?」

恥ずかしくなり弁明。特にする必要はなかったのだけれど。

笹貫流石 > (おや、風紀の人か……何か見た事あるような無いような…?)

自分も同じ風紀なので、多分どっかですれ違ったり顔は無意識に合わせた事がもしかしたらあるのかも。
ともあれ、じろじろ眺めるのは失礼だ。少女の会釈にこちらも気さくに会釈を返し、邪魔にならぬよう自販機から離れる。

…が。

「……へ?」

何か「あっ」という声が聞こえたので思わず振り返ってしまう。
どうやら何か飲み物を間違って購入してしまったらしい…まぁ、偶に自分も経験ある。
が、その間違って購入した飲み物が問題だった――『おしるコーラ』…である。

(え、よりによってソレ!?チャレンジャーどころじゃねぇぞ!?)

思わずサングラス越しとはいえガン見してしまったが、きょろきょろ見渡す少女と視線がエンカウント。

「あーうん…まぁ落ち着いて落ち着いて。そんな慌てんでも間違って買っちまった感じなのは分かるんで。」

と、苦笑気味に一先ず弁明を慌ててしている少女に落ち着いた声色で声を掛ける。

伊都波 悠薇 >  
「え、あ、いや……その、捨てるわけでも、ないんです、けど」

ぽそぽそ。
落ち着いて、と言われると慌てて、そう返す。
でも、その、明らかにぎょっと、していた、気がしたのでつい、否定してしまった。

前髪を整えて視線を隠しながら。

「えっと、風紀委員、の方、ですか?」

服装を見て、そう判断。
とりあえず、おしるコーラのことはあとで考えるとした。

あまり、『見覚えがない』ような。

笹貫流石 > 「…まぁ、間違って買っちまったとしても捨てるのは勿体ないよなぁ。…うーん…俺のお茶で良ければ交換しようか?」

流石に捨てるのもアレだが、しかしソレに女の子がチャレンジはかなり覚悟が要るのでは?
まぁ、俺も飲みたくはないけれど…。ぽそぽそとした少女の口調も特に気にしない。

「ん?そうそう風紀の一般委員。2年の笹貫流石(ささぬき ながれ)。よろしくー。」

流石に監視対象云々は変に警戒させたり何か変人扱いされそうなので黙っておきつつ。
少女が見覚えが無いとしたら、少年がそもそも”あちこち飛び回っている”せいだろう…多分。

少女が前髪で視線を隠しているのに対して、少年はサングラスで目元を隠していた。ある意味でメカクレ同士…違うか。

(冷静に考えて、いきなり初対面?で飲み物交換とかハードル高ぇよな…選択間違ったかもしれない…!!)

伊都波 悠薇 >  
「こう、かん……?」

一瞬の硬直。お茶を見る、開いてる。
さっき、飲んでいた、ような……?
ぽん……っ、顔が真っ赤になった。

「あ、えと、ダイジョウブデス」

片言になってしまった。
好意なのはわかるけれど、変なことまで考えた自分が恥ずかしくなった。

「……2年の、伊都波悠薇、です」

だいたい、覚えていたつもり。でもやはり見落としはあるんだなと思いながら。

「なにか、探し物をしていたんですか?」

『なんとなく』、そんな動きをしていたような気がしたから、聞いてみた。

笹貫流石 > (…可愛い……じゃなくて!!まぁ、そうだよな…うん、ちょっと無神経だったわ…反省!)

一瞬硬直した少女…こちらが手に持ってるお茶のペットボトルに目を向けてから顔を真っ赤にしていた。
…矢張り可愛い…いや、違うそうじゃない!!落ち着け俺!完全に変人と思われてしまう!

「お、おぅ了解。……っと、悠薇さんなー…ん、覚えた!」

笑顔をへらっと浮かべて頷いた。呼び捨てとかちゃん付けは流石に馴れ馴れしいかな…と、思った次第。
…何か苗字に物凄く覚えがある気がするけど、そこはあまり突っ込んだりはしない程度の空気読みはある。

「ん?探し物――…っていうか探し”人”かなぁ。…まぁ、ぶっちゃけ探すって程じゃないけど。」

居場所自体は大体把握してるから。…困るのは何をやらかすか分からないって所くらいで。

「そっちは委員会の仕事の帰りとか?もしかしてまだ仕事だったり?」

小休憩とかで立ち寄ったのかもしれない。当たり障りない会話というのは意外と難しい。
踏み込み過ぎたら警戒されたりしそうだし、浅すぎると味気ない会話で終わってしまう。

――折角面識が出来たのなら、少なくとも最初くらいは平和に和やかに行きたい…行けるか?俺。

(既に飲み物交換持ちかけた時点でやらかしてるじゃん…!!くそぅ、対応力が低すぎる…!)

まぁ、唯一マシな事があるとすれば、初対面の少女にも特に物怖じとかはしていない事くらいか。

伊都波 悠薇 >  
ひっひっふー。

深呼吸をひとつ。すこし落ち着いてきた。

「人、ですか? えと、迷子とか……」

だとしたら、大変だ。

「帰り道ついでに、見回り、くらいはと。雑用とかしかできないので。

なので、お手伝いできるなら手伝います、よ」

まるで。
姉のような物言いかも、と思う。
すこしは、慣れてきたのかもしれない。

だとしたら、黒條さんや、橘さんたちには感謝だな、と思った。

笹貫流石 > (深呼吸してる…うーむ、こっちも話し方に気を付けないとあかんねこれは…。)

馴れ馴れしすぎないように…だけど、腫物扱いみたいにならないように。この塩梅の難しさよ…!!
一先ず、少し落ち着いてきたように見えるので、努めて自然体を意識しつつ。

「いやいや、迷子とかじゃないって。顔見知り…というか同じ学生だしな。
あと、何というか癖が強い人たちばかりだから…多分、悠薇さんは関わらない方がいいと思うわ…。」

むしろ、その方が安心だ。あの連中と関わっても碌な事にならん……俺も含まれるじゃん!?
ちょっと自己嫌悪に陥りそうになるが気を取り直す。お手伝いの申し出は普通に善意だけに心苦しい…!!

「んー、見回りとか雑用も立派な仕事っしょ。俺も一般委員でよく雑用とかパシリとかさせられてるし。」

それしか出来ない、というが――それが出来れば十分すぎるだろう。と。
少なくとも、風紀を支えている屋台骨はそういう地道な活動なのだと思うから。

伊都波 悠薇 >  
いつもなら、あれこれ考えるが今日は、何故かすらすらと。

「関わらない方が、良い? ……えと、風紀委員の、人、です、か?」

そんな人いただろうかと、首をかしげる。
さらり、流れる前髪。覗く左目。

「そう、ですかね。そうかもしれません。慰安旅行に来ていた方々は、立派な人たちが多かったですから、ちょっと、卑屈、だったかもですね」

ほら、今だって。
胸中を口にして。苦笑なんて。


笹貫流石 > 「あー………。」

どうするか。誤魔化すか、監視対象の事を言うか。
勿論誤魔化すのが安パイではあろう。監視対象だって広く知られている訳ではない。
首を傾げる少女をサングラス越しに見遣り、首を傾げた拍子に前髪から覗く左目。

(――ま、誤魔化しとか嘘とか俺はそもそも苦手だしね。)

じゃあ素直に言おう。それで変に思われても、俺が変人認定される”だけ”で済む。

「――監視対象…って、知ってるかい?まぁ、そういう人たちが風紀に何人か居るんだけどさ。
俺はそういう人たちのお守り役…つーかフォロー役?だから、彼ら彼女らの動向はある程度見て無いといけないのよ。」

務めて何時もの調子で口にする――まぁ、俺自身もその監視対象なんだけど。
罪人に罪人を見張らせる――実に合理的で無駄が無い。お陰で俺の胃はマッハだが。

「慰安旅行なぁ…!俺も行きたかったけど、仕事のスケジュール的に都合が取れなくて…。
その口ぶりだと悠薇さんは顔を出してきたっぽい?…羨ましいな…。」

ここで慰安旅行の話題が出るとは。思わず羨ましいと本音が漏れてしまった。まぁ、それはそれとして。

「卑屈…というか。んー、確かに立派な人たちは多いのは間違いないし、組織としてはそれが良いとは思うけどさ。
…そういう人たちばかりだと息が詰まるだろ。誰も彼もが立派になれないし、なろうと思わない人たちだっているし。」

と、そこまで口にしてからハッ!?とした顔で。「悪い悪い、何か愚痴みたいにになった。」と苦笑いで謝る。

伊都波 悠薇 >  
「……姉が監視役してますから。知っています」

まさか、最近聞いたそれをまた聞くことになるなんて、と思う。

「じゃあ、笹貫さんも誰かの『鞘』なんですね」

納得したように呟いた。
確かに、役目をこなせる人にしかできない役目、だ。

「……いくつもりはなかったんですが、姉と、友人の誘いを断りきれず。

また、あるかもしれませんから、次は行けるように、しましょう」

気を落とさずにとフォローして。

「いえ、大丈夫、です」

ごもっとも。でも自分は、『アレ』から逃げ続けている。今も。

「少しは立ち向かえるようになればいいんですけど」

自分も愚痴のようなものを口にしてるからおあいこ、ですと付け足した。

笹貫流石 > 「姉――……あぁ…成程、そういう…。」

”勘違い”とか”気のせい”ではなく、そのものズバリ。
道理で彼女の苗字に覚えがあった訳だ…あの【凶刃】の監視役さんが彼女の『姉』か。

「あ、悪いけどそれは無い無い。俺はただの見張り役。ぶっちゃけあの人たちが何かやらかしても俺は何も出来ないって。
その人達を止めたり諫める強さも意志も俺には無いから。君の姉さんみたいには出来ないって。」

『鞘』という言葉に、きっぱりと手をヒラヒラと左右に振って否定する。
自分は誰かの『鞘』になんてとてもなれない。――なれる訳もない。
――【死線】を常に見続けているだけで精一杯。そこまで手なんてとても回らない。

「…うむ、次こそは行けると……いいなぁ。」

監視対象の人達が何か騒動を起こしたりしなけりゃいいけども。そこは何とも言えない。
会話の合間に、お茶を一口飲みながら気分を落ち着ける。

「そっか――…でも、立ち向かうのってさ。何に立ち向かうか、にもよるけどやっぱハードル高いんだよな。
…俺なんて立ち向かえねーもん…割と挑戦者のつもりだったけど。」

ああ、だから俺はその他大勢の”凡人”と何ら変わりないんだなぁ、と痛感している。
別に凡人が悪いとは欠片も思わない。誰も彼もが超人になれたりしないのだから。

伊都波 悠薇 >  
「……姉、ご存じでしたか?」

名乗ったときにあまり反応がなかったからてっきり知らないものだと思っていたけれどなるほど、と聞けば、ぱぁ、と口許を緩め雰囲気が明るくなる。

「……ーー」

なにも、出来ないと目の前の彼はいう。
しかし、果たして『そうだろうか』

逆に、こう、自分は思うから。

「……目をそらさず、見ていることは、それだけですごいことだと、私は思います」

その時点で、なにかをできているのだと思う。
だって逃げていないから。放棄していないから。

「挑戦、出来うるだけでも。それは、素晴らしいことだと、私は思います」