2024/09/25 のログ
■紫陽花 剱菊 >
頭と共に、黒糸は揺れる。
虚は紅を見据えた。
「然り。泰平を望むのは皆同じ。
然れど、影に身を落とすのは其方の役目では無い。
我等は互いに、さやかに各々の意味を持つ」
「故に、其方が唯囁くだけで良い。
此の紫陽花剱菊の名を。如何様にでも、駆けつけよう」
武威のみでは暴威と成り下がり、
言の葉だけでは風に流され露と消えゆく。
真に理解し、腰を据えし玉座には無用。
鉄火場のみならず、懇ろと民草を思いを馳せる。
で、あれば玉座から降りること罷りならぬ。
残るべしは、鞘なき刃の役割也。
片手を立て、一礼。口元には微笑を。
「自らが思い知ったのだ。二度、なおざりにはしまい」
違えた時、血潮で語らうのみ。
然は然りとて、気難しく眉間に皺を寄せる。
「……ならぬ。私はばばろあが良い……」
駄々こねましたよコイツ。
不満げな顔をしても出てこないものは出てこないよ。
■神代理央 > 「とはいえ、平和と安寧を望む心に影も光もあるまい。
役割として社会に顔を露にするか否か、という差はあれど、それを影と呼称するのは私は好かぬ。…まあ、結局言っている事はお前と同じであるがな」
影、と呼びたくはない。されどそれぞれに役割があり、それが影と呼称される事は致し方無い面もある。
であれば、これは子供の我儘か、と。自分で言っておきながら苦笑い。
「…………」
しかして、彼の名を呼べとの言葉には思案顔。
そういうのが嫌、という訳では無い。寧ろ風紀と公安の連帯感をアピールするには良い事だ、という打算もある。
されど。
「で、あれば。私の後輩達を宜しく頼む。私は…まあ、自分で言うのも何だが、多少は無理が利く。そういう異能で、そういう魔術だ」
ココアを一口。少し冷めてしまった。
「しかし、未だ卵の殻を被った様な者達はそうではない。才能がある者は良い。覚悟がある者も良い。しかし、全てがそうではない。風紀委員会は他者を倒す力だけを求めないが、風紀委員を打ち倒そうという悪意は厳然と存在する」
「故、私の事は気にする必要は無い…と言えば、友の言葉を無碍にするか。しかし…そうだな。もっと気にかけて欲しい。雛達を。私達の後に続く者達を」
別に、後に続く…と偉そうに言える様な年齢でも無いのだけれど。
「私が友である君に望むのは、それだけさ」
と、穏やかに微笑むのだろう。
「ところで剱菊。無い物ねだりは宜しくないと思うんだが。妥協したまえ妥協を!抹茶プリンが嫌ならばバナナババロアで良いでは無いか!」
空気、台無しです。抹茶プリンとバナナババロアがあるのなら、抹茶ババロアの材料だけはあるのではないか?
しかしそこになければ無いのだ。御客様は神様ではない。悲しいね。
■紫陽花 剱菊 >
立ち所に、虚が冴ゆる。
朗らかな茶屋の空気に、似合わぬ鋭さ。
たりとも、刃足らしめる、殺気に等しく。
「──────私は人足りえど、足らしめるものも今や無し」
冴やけさ、深々と耳朶に滴る凍える音色。
此撚り席のみ、しとどに粘る殺気の泥土。
「私は何時でも其方を殺せる。
否、其方で無くても、一切合切を斬れる。
凛霞も、あかねも……躊躇いなく」
結果では無く、気の持ち様也。
如何なる合縁奇縁に恵まれようと、
如何に苛まれようと、然りと斬れる。
うべなるかな。一切の偽りは無く、
挟みし机と対面は、正しく光と影の汀也。
「泰平に私の居場所は無く、
泰平を望みし心は語るに及ばず。
……後進の育成で有れば、其方の仕事。
私に出来るのは、其方を、彼等を、影として守る事」
故に、涅槃の帳でしか生きられぬ。
然りとて此処は乱世に非ず。
血染めの刃は、泰平に似合わず。
如何に世に、日常に馴染もうと、
黄昏れ刻は、既に無い。
故に、此方が唯一の生きる道。
影たらしめる所以は、其処に有り。
解くべきと、たまゆらに殺気も消え失せよう。
あっという間の出来事也。
「…………」
まぁ、でもそれはそれ、これはこれなんだよね。
腕を組み無言の抗議。致し方ないな…とまるで向こうが悪いみたいだよ。
■神代理央 >
向けられる殺気を、涼しい顔で受け流せる程人が出来ている訳でも無い。
受け流せる程強くは無く、受け止められぬ程初心でも無い。
黒を見据える紅が、僅かに細められる。
「今更、その在り方を変えよ、とは言わぬ。何より"それで良かろう"とされた時代は、確かにあった」
剣客の価値観を。刃の世界を。向けられる殺気を。
それは、紫陽花剱菊という男を形作る要素の一つであり、安易に、かつ拙速に変えられるものでも無かろうと。
「では何が変わったのだろうな。戦の理由など、今も昔も大差無い。国が欲しい。土地が欲しい。資源が欲しい。理念を、理想を、大義を叶えたい……戦など、始まる理由も終わる理由も、下らぬものだ」
かちゃり。空のカップがテーブルを叩く。
「変わったのは殺し方だ。殺す数だ。家では虫1匹殺せない者が、ボタンを1つ押せば数億人が死ぬ様になった。棒切れ一つ振るえない者が書類にサインするだけで、国が幾つも滅ぶ様になった」
自分も同じだ。例えば、木刀を握って目の前の男と剣道の試合などしてみよう。万に一つ、億に一つと勝てる見込みは無い。
こと一対一、白兵という場面において、風紀委員会の中でも神代理央は下から数える方が早い。
鉄火の支配者の武威は、従える異形の火力によって成り立っている。
「故に、個人を斬る覚悟も無い癖に、書類上で億の民を殺せる者が世を支配する。ならば剱菊。決して世界に泰平など在りはしないのではないか?幾千年も前から皆が平和を望みながらそれは叶わぬ。殺し方と殺す数が変わっただけで、何も変わっていないのだからな」
小さな溜息。
「私は、懐に入れた者を撃てぬかもしれない。お前の様に、躊躇いなく顔と名前を知る者を撃つ事は出来ないかもしれない。しかし私は…顔も名前も知らぬ多くの者を屠って来た。それは…書類上必要だったからで、規則や規約に違反しないからで、必要は無いが不要でも無かったからだ。それを誇りもしないし、今更懺悔が間に合うとも思わないがね」
個人の価値観は、目の前の男と自分は確かに異なるのだろう。
名前の在る者を。名を知る者を斬って尚、平然と泰然と出来る男。その境地にはきっと自分は至れない。
だが、今の戦は名を知らぬ者を。顔を知らぬ者を。如何に効率良く殺していくかを競う戦であるのなら。
それを是としてきた自分は、今更日向には立てる筈も無い。
「だから剱菊。繰り返させない為に、私達はまだ手を血に染めていない者を、気にかけてやる必要があるんじゃないか、と思うのさ。
新たな紫陽花剱菊が生まれぬ様に。第二の鉄火の支配者が現れぬ様に」
宵闇に足を踏み入れぬ様に、門兵を勤めるのは互いの義務じゃないか、と。
細められていた紅は開かれて、くすり、と笑う。
「だからな、剱菊」
「いい加減、何か頼め。そろそろ店員の目が辛い」
お冷で粘られても…メニューにあるものなら何でも奢るのに…。
我等一応常世の公僕ぞ、剱菊。ここはひとつ常世苺スペシャルスーパーアルティメットデラックスインフィニティミリオンゴッドユニコーンビッグオーシャンパフェで我慢してはくれないか。
■紫陽花 剱菊 >
斯様、支配者の語りくさも是也。
「…………?」
摩訶不思議と、眉を潜める。
「今、私の眼の前に煙は立たぬ。水平の向こうに、火は立たぬ。
……然り、些事である。即ち、斯様の行いを引き込ません為に其方がいるのでは?」
「私に出来る事は、武芸のみ。神も、仏も、国も、人も。
必要とあらば斬って見せよう。既に歩んできた道だ」
価値観が違う。
指先一つで数億死す、
ややもすれば紙面一つで飛ぶ命。
果たせる哉。全てが燃える世で無くば、
細々とした戦など、大局的に些事であると言い切った。
如何にして乱世の世にいたか、然もありなんと言う。
故に、"異邦人"である。根本的に持ち得し力も、思想も異なりし異形也。
同時に、無償の信頼である。
政は不得手成れど、
理央の手腕には友としても信を置く。
故に、平然と宣うのだ。其方なら出来る、と。
「……が、其方の言う通りではある。
二度、我等と同じ轍を踏ませる訳にはいかぬ」
刃も、鉄火場も、この世に一つと充分だ。
静かに頷き、黒糸も揺れる。
互いに歩んできて歳月。
支配者は前に、然れど、刃は止まった。
夕暮れにて待ち人と也、停滞を良しとした。
人足りえども、刃は未だ、鞘を持たず。
「…………」
「……頼まなくては、ダメか?」
ダメに決まってんだろ。
メチャクチャ不満そうに頬を膨らませる二十五歳。
此の問答は、後三十分ほど続いたという……。
■神代理央 >
「…………」
沈黙は長かった。
それは思案の沈黙。価値観の差。違い。相違。
男と自分に違いがある事は理解している…が、今その言葉を受けて、改めて自らの血肉とする為に咀嚼する為の沈黙。
「…それは…何と言うか、過剰な評価じゃないか?」
結局、互いに生きて来た世界も時代も違うのならば。
意見を出し合う事は出来ても、真にそれを理解し合うには時間が必要だ。
とどのつまり、神代理央という少年は紫陽花剱菊という剣客から向けられた無償の信頼に、困った様に笑ってみせる事しか出来なかったのだ。
「私は…まだ17だ。大人の様に振舞ってはいるが、経験も実力もお前の様に真なる強者に及んでいるとは思わない。それを誤魔化す為に、背伸びしているだけさ」
「だが……」
だが、だが。
過剰な信頼と思えども。今の自分が幼く、未だ人の上に立つ資格が無いと思っていても。
「それでも、やらねばならない。お前の信頼を頼り、守らなければならない民を守る為に」
それを、彼に宣言すると言う事は。
「神も仏も国も人も。斬り捨てよ、とお前に告げよう。
されど、それが大義無しとお前が思うのなら。
お前が常に私に言う様に、私の首を一刀の下に斬り捨てよ。
私が、何が必要かを示す。そうなれる様に努力する。
民を守護するダモクレスの剣。王座の天上では無く、悪へ振り下ろされる剣。そしてその刃は、私が過てば首を落せば良い」
信頼に応えよう。今はまだ、それが叶わずとも。
彼が斬るべきものは、世界の為に正しい事だと示せる様に。
それを指差出来る様な男に、なってみせよう。
…まあ、お前は私がああだこうだと言っても。
事も無げに神も悪魔も斬り捨てて────
「……頼まなければ、駄目に決まっているだろうが!」
神も悪魔も斬り捨てて、きっと今と同じ事を言うのだろうな。
全く、もう。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から紫陽花 剱菊さんが去りました。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から神代理央さんが去りました。