学生街にある24時間営業のファミレス。部活の一種で学生の経営だが、島外のファミレスと遜色はなんら存在しない。
「ニルヤカナヤ」とは琉球地方に伝わる他界観、ニライカナイの異称の一つから来ている。
ニライカナイは日本の「常世国」との関連性も折口信夫などによって指摘されており、海の彼方の神の世界である。
外装としてはごく一般的なファミレスである。名前の元が南国のもののため、多少南国風にされている。
店内は広めで、テーブル席、ソファー席などがある。
メニューも一般的なもので、昼にはランチなどもやっている。
ドリンクバーもあるので、一種の学生のたまり場であり、長時間いても特に何かを言われることはない。
テスト期間が近づけば自習などに来る学生の姿も散見される。
売りにしているのが、常世国からタヂマモリが持ち帰ったという「時じくの香の木の実」、いわゆる橘を用いたデザート類である。
食べれば不老不死になれるなどとメニューに書かれているがもちろん冗談である。
ただ橘は食用に適さないので実際に使われているのはみかんなど他の柑橘類である。
店員なども随時募集しているとのこと。
風紀委員など学園を警備する者たちの立寄所ともなっているため、特に安全性は高いという。
なお、学生街以外にも店舗があり、歓楽街、異邦人街や開拓村などにも出店中である。
※ここでは学生街の「ニルヤカナヤ」としてご利用ください。
参加者(0):ROM(1)
Time:23:24:20 更新
ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」から青霧在さんが去りました。
■青霧在 > 「どうと言われ……ああ」
「これは……」
言われて気づいた。
俺の肩と後頭部がぐっしょりと濡れていた。
きっと怪異のせいだろう。
「……大したことじゃないですよ」
どう応えればよいかさっぱりわからない。
怪異に憑かれていたという訳にもいかない。
何とか誤魔化そうとして、店員もあまり関わりたくないのだろう。
注文通りのピザを置いて会釈して去って行った。
「食べるか……」
正直食事の気分ではないが、注文した以上食べない訳にもいかないだろう。
特別なことをと考えはしたが、こんな特別は要らなかった。
ピザを食べているうちにシーフードサラダが到着して、それほど時間を置かずに祭祀局の術者二人がやってきた。
術に反応があったことと、雨が降っていたことを察知して駆けつけてくれたらしい。
丁度いい所に来てくれた。俺はその場で二人に頼み、怪異の影響が完全に取り除かれるまで保護を受けることとなった。
■店員 > 「お客様……ど、どうされたんですか?」
■青霧在 > そんな祈りが通じたのか、それとも元々一時的なものだったのか。
雨足が急激に弱まり、降り注ぐ一切の水滴が消失した。
狐の嫁入りかそういう類だったのだろう。
雨が止むとその瞬間、背後の気配が消える。
一瞬の間に全て霧散し、遠くへ移ったようだった。
ゆっくりと慎重に振り向くが、そこに怪異はいない。
代わりに、ピザを手にして怪訝そうな顔をした店員が立っていた。
■青霧在 > 明るく幼い声と共にレインコートの怪異の手が迫る。
見ずとも感じ取れる。
すぐそばにいる。
テーブル席のソファに上ってきているようだ。
その手から逃れようと少し奥に詰める。
気休め程度でしかなく、迫る手から逃れることは適わない。
異能を使って逃れることも考えたが、無駄だと直感で理解出来る。
だからと言って代替案が浮かぶわけでもない。
怪異の手が肩に触れようとした時、赤い光が小さく弾け、怪異の手を跳ね除けた。
小さな手はその衝撃で爆ぜ、解けてしまう。
祭祀局の術者が施した術だ。
回数には制限があるが、護ってくれると言っていた。
術が無事発動したことに安堵するが、状況が改善した訳ではない。
怪異が再び手を伸ばす。
そして再び弾かれる。
その間、ひたすら外を見て祈る事しか出来なかった。
いや、もう一つ出来たことがある。それは、不注意を後悔することだった。
これが終わったら、大人しく保護を申し出よう。
問題ないと宣って出歩こうとせず、結界の中で安静にする。
(だから、止んでくれ…!)
術が怪異の手をはじく音が聞こえる度に、焦りが強まっていく。
既に5回は弾かれている。あと何回もつか―――
■レインコートの怪異 > 「あーそぼっ」
■青霧在 > 背中を撫でる感覚が頭や掌へと波及していく。
悪寒も嫌悪もなく、親しみすら覚えてしまいそうな程に優しい。
しかしながら、直接触れに来ない辺りこれ以上は近づけないのだろう。
窓から見る限り、雨足が強まる気配はない。
降水確率0%から生じた霧雨だ。所詮降っているだけということだ。
(これ以上降り始めたら……考えたくないな)
祈る日が再びこようとは。祈ることは二度とないと思っていた。
暗い空模様を眺めながら一刻も早く晴れるよう、これ以上雨足が強まらないようにと祈る。
そんな祈りが通じたのか、雨が少し弱まった様な気がする。
相変わらず空は暗いが、降る前もこんな調子だった。
―――そう、思ったのだが。
降り注ぐ雨の勢いが突如強まる。
あの日程ではないが、明らかに雨足は強まり、目を凝らさずとも降り注ぐ様が見えるようになった。
(まずい―――)
そう思ったのと同時、強まる雨と共に背後の気配が強まる。
否、近づいてきている。
ぱしゃん、ぱしゃん。
水たまりを踏むような軽い足音が耳元に届く。
空調の効いた店内にもかかわらず、妙に湿度の高いような感覚。
レインコートの怪異が青霧のすぐそばに迫っていた。
■青霧在 > 祭祀の術者が言うには、俺についているのは怪異の残滓のようなものらしい。
しかしながらその性質や権能は本体と変わらないという。
だから、雨が降り始めたことで本領を発揮してきたということだ。
店内には当然雨など降っていない。
にもかかわらず、怪異のレインコートは雨に晒されていた。
滴っても滴っても、雨がそのレインコートを濡らす。
青霧の方にモザイクに覆われた顔を向けながら、ゆらゆらと上半身を揺らしていた。
「逆にこっちが安全になったな……」
通路と反対側の窓から外の雨を眺める。
先程まで怪異が居た外には何も居ない。複数体に分裂するようなことはないようだ。
視線を逸らしていても、怪異の気配は消えない。
水滴を滴らせながら此方を見ている感覚が背中を撫でる。
(相変わらず……悪意とかそういうのがない……!)
気持ち悪い感覚だ。
つい振り向いてしまいそうになるが、振り向けば次は無いだろう。
周囲の客は何とも無さそうにしている。
やはり、この怪異の姿は周囲から見えていない。
俺に触れていれば見えるようになるとは言われたが、ここで誰かに触れられることはないだろう。
■青霧在 > 厄介なことに、彼方から視線を合わせに来ることがある。
彼方からこれ以上近づくことが出来ないようで、此方から近づいてくるように仕向けているのだろう。
幸い視線の扱いには長けている。そう簡単に引っかかることはない。
……と言いたいが、一度だけ危ない瞬間があった。
「たまには……」
ピザはあまり注文しないが、たまには良いのでないだろうか。
経緯を考えると喜べないが、極めて稀な大型連休の折り返しだ。
意味がある行為ではないが、少し特別な気分に浸るのも良いだろう。
「ダブルチーズピザと、それから―――」
店員を呼んで注文を伝える。
注文内容はダブルチーズピザとシーフードサラダ。
注文を確認した店員が去っていく。
……その去り際が妙にスローモーションに感じられる。
僅か一秒にも満たない時間が引き延ばされ、引き伸ばされた時間の中で有り得ない筈のものが視界に写り込む。
「!?!!!!?」
声なき悲鳴を堪えながら、慌てて視線を前方に向ける。
そこに居たのは、レインコートの怪異。
水滴が滴る音が聞こえる。店内は人に溢れ、数多の話声で騒がしいというのに、その音は異常に鮮明に脳裏に響いてくる。
まさかと思い外を見れば、降っている。
微かに、目を凝らさなければ分からない程度だが。
雨が、降っている。
降水確率0%の筈だというのに、確かに雨が降っていた。
まずい。
■青霧在 > ここ数日、常に見られている。
気のせいであってほしいが、残念ながら事実である。
「土日休んだのなんていつぶりだ……?」
日曜の店内は昼過ぎでもまだ賑わっている。
相席をお願いするかもしれないと伝えられるほどに。
卓上のメニューを手に取りながら、窓の外のあるものへと視線を向ける。
直視だけはしないようにと注意しながら眺めた先には、黄色くて小柄な―――
「周りには見えてない……んだよな」
―――レインコートの怪異。
少し曇っているが、雨は降っていない。
にもかかわらず、あの日以来あの怪異に付きまとわれている。
対策は施されているし、あと数日もすれば見えなくなると言う。
それでも交信に繋がる行為は控えるようにと強く言われている。
直視してしまう前に視線をメニューへと向け、注文する品を選び始める。
候補は絞ってある。どれにしようか。
ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」に青霧在さんが現れました。
ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」から青霧 在さんが去りました。
■青霧 在 > 「御馳走様でした」
食後の皿にしてはかなり綺麗な皿にフォークを置いて手を合わせる。
紙ナプキンで口元を拭き、コップの水を空にして食器類を通路側に寄せる。
席を立ち伝票を持って会計に向かう。
食後でも浮かないどころではない顔は据え置き。
むしろ足取りは重たい方。
食事で多少意識がそれたとはいえ、面倒事が消えた訳ではない。
風紀委員会は名誉挽回の為に要らぬ手間を強いられるし、活発化した違反部活の鎮圧は特別攻撃課の主たる仕事だ。
委員会内での内輪揉めや派閥争いは些細な噂すら火種とするだろう。
目に付く情報以外の情報も決して無視できない。
落第街の11体の死体の情報はきな臭さを感じさせ、違反組織同士の抗争の構図の変化だってバカにならない影響を生む。
ギフト騒動は未だ収まりを見せず、《インスティゲイター》の件も始まったばかり。
青霧が全てを把握し立ち回る義務はない。だが、全てが青霧になんらかの形で関与してくる。
把握を怠れば苦しむのは青霧だ。
とはいえ、休日まで潰されたくはなかった。
無人レジで手際よく会計を終えて店を出た。
「……ッチ」
時刻は14時半を回る。
既に昼休みと言える時間は過ぎ、人通りの少ない学生通り。
誰にも見られぬようにと、俯いて舌打ちをした。
■青霧 在 > 「これはかなりマシだな」
続く一件は風紀委員会の中でのとある噂。
済んだ一件に関連する噂らしいが…
「……」
青霧は微妙な表情を見せる。
第一級監視対象という肩書は、並大抵の物ではない。
それぞれが見合った咎を背負っており、相応の枷を嵌められている。
だから、青霧は自分と彼らを見比べた時、どう思えばいいのか分からない。
彼らに否定的な意見を持てば、本当に批難されるべきは自分なのではないかと考えてしまう。
だから、《凶刃》が銃を継承したと聞いてどう思えばいいのか、分からなかった。
慰安旅行でのある一件は参加した委員から聞いている。
それを加味して尚…青霧の心境は曖昧だった。
『お待たせいたしました。こちらの品で以上でよろしかったでしょうか?』
「……はい。ありがとうございます」
そんな青霧にボロネーゼを差し出す店員。
青霧とは対象的に笑顔を張り付けた店員は伝票を置いて去っていく。
その後ろ姿は仕事人のもの。客がどれほど接しにくい状態にあっても、明るい笑顔で対応し、乱れのない歩調で去っていく。
必要以上には我関せずの姿勢。今の青霧に足りない姿勢と言えよう。
「……俺には関係ないか」
携帯端末の電源を落とし、備え付けのケースからフォークを取り出す。
青霧は特別攻撃課だ。他部署とのかかわりがいくら多くとも、監視対象と直接接する機会は少ない。
つまり、意見を持つ必要はない。
そう結論付けた。
ボロネーゼの香ばしい匂いに少し心が透いた事も影響しているだろう。食は偉大だ。
手を合わせ、小声で「いただきます」と呟き、フォークで丁寧にボロネーゼを食べ始める。
食べきれる一口サイズで、必要以上に何も汚さないように。
丁寧にボロネーゼを食べ進める。
表情は相変わらず陰鬱なままだが、先ほどまでの度し難い状態からは脱したようだった。
■青霧 在 > 「俺にとってはこっちの方が問題だな」
続く情報は、とある違反組織と監視対象の衝突と、その周辺での出来事。
青霧を含む攻撃隊による制圧された2つの違反組織。
その跡地を巡った違反組織の争い。
そして、先日連行したばかりの監視対象がその場に居合わせ違反組織と衝突したという内容。
「葬式を爆破した連中。いや、張本人だな」
「活発な輩だ……」
問題点は別件と同じだ。
「舐められすぎだな」
風紀委員会の手が入ったばかりの場所に別の違反組織が姿を現した。
その行動はもはや風紀委員会をバカにしている。
風紀委員会という組織を舐め腐っている。
そんな風に取らざるを得ない。
夜見河が再びあの場に顔を出している事は……目を瞑ろう。
夜見河なりの生き方だ。彼なりに生きようとするのを青霧は否定したくない。
「こちらも監視の目を厳しくするべきだな」
「折角潰した分が大きくなってしまっては困る」
青霧が何も言わずとも、そうなるだろう。
風紀委員会が舐められている通りの組織ではないと思い知らせる必要がある。
一度両目を瞑り、感情を落ち着ける。
堪えきれない脱力感を抑えるのだ。
そして、瞼を上げればさらに画面をスクロールする。
まだある。