2024/10/02 のログ
『流れ』 > 「そりゃ凄い。」

流れるまま、何も違和感なく語られる言葉に素直に頷いた。
解説は確かに曖昧だ、が。

「力。パワー…純粋なる力を、惚れた相手に全て与える…か。」
「人によって、顕れ方は様々で――」
「だが以前と違った力が得られるって事は、明白なんだろうな」
「……相手の持ちうる何かしらのパワーを良いほうに変えられる力、かね……」

定義することは難しい。
……だが、異能の多くはそうだろう。
原理を探ったり、理由を探る事の方が愚かしい。
故に男はこう考える。
異能だろうが何だろうが、
人生をより楽しく豊かにする方法はないだろうか、と。

「……その溢れ出るパワーの使い方は、…どうも多岐にわたるようだ。」
「異能力、筋力、魔力、魂、運気――すべては、異質なもののはず。」
「にもかかわらず。」
「顕れ方が多様で、変換が可能。」

現段階で、分かっていない事は多いけれど、
……凄まじい可能性を感じてしまうような気がした。
条件はあるけれど……

「いやしかし…つまり、それだけいろんな人に惚れて来た事を、意味する…?」

話すのに夢中になって、好物のいちごシェイクを飲むのも止まりかけてしまっている。
食べる手だって止まってちょっと考え込んでしまうくらい。

恋ヶ窪 あい子 >  
男が至る結論に「あ。」って間抜けに口を開いた。
気まずそうに笑みを歪めて、眉を僅かに下げる。

「言ったでしょう?“よく振られちゃう”って。
 惚れっぽいの、あたし。反省はするんだけど、してるんだけど。」

今だって、反省して、自制している真っ最中。
そんな余計なことは――それこそ流れを制御されない限り口にはしないけれど。

「でも、ちゃんと毎回、好きになるんだよ。
 全部全部捧げたくなるの。なんでもしてあげたくなるの。
 それで、あたしのことも好きになってほしい。
 だから、言葉は少し悪いけど、あたしのそういうチカラが目当てで近付いてこられるのは嫌で
 普段はこんな話――……あれ?」

そこで違和感に気付く。
なんで自分は会って二度目の、しかも気になっている人に話しているんだろう?

不思議に思いながら考え込む男を見つめる。

『流れ』 > 「――おや。」
「であれば…カッカッカ、聞いてもらいたかったのかもしれないな。」
「…初めて会った時も…思い悩んでいたようだから。」

違和感に気付いたところで、
また新たな流れが、違和感を波のように攫う。
指摘したところで、それがおかしいだなんて確信するのは、
水を握りしめるように難しくって。

「気付いたら流れるように話してしまうって事も、あるだろうさ。」
「全部全部、捧げたくなるとはね。」
「あい子みたいないい子にそうされて、振っちまうとは贅沢な奴らだ事。」
「そうか、ケジメをつけて別れて、一途に愛して、好いてほしいって思って――」

自分とは、ある意味真逆かもしれないな。

「でも、……でもよ。」
「本当に悪い奴は、振る事すらせず、お前のその素敵で一途な献身的な愛情を弄び」
「程々に利用しながら真っ当に愛することもなく偽りの愛を囁く事だろうぜ」
「その力を、目当てに。」

クズだから、クズの事はよく知っている。
そして、そんなものは簡単に破綻する事も知っている
故に男は偽りの愛を囁くことはしない。
長く、楽しく、心地よく―― 一方的に利用しよう、などとは決して考えない。

「お前はちょっと良いやつすぎる。」
「だが、…良いなあ、やっぱり。」

薄暗いタチの自分には、ちょっと眩しいくらい、一途だ。

恋ヶ窪 あい子 >  
キョトンとした丸い瞳で男を見ていた。
確かに見て、その違和感に――まるで自分の意思とは異なる空白地帯に気が付いた――のだけれど、
さり気なく、然し実にスムーズに新たに流れ込む水に、微かな違和感は容易に浚われてしまった。

「そっか……そうなのかも。
 友達はラブが惚れっぽすぎるのがいけないんでしょ、っていうから。
 まあ、あたしもそう思うんだけど。」

薄らと苦笑いを滲ませて、鉄板に焦げ付くソースを肉で掬う。
小振りなハンバーグを、時間をかけて着実に減らしていく。

男の言葉に身に覚えがあるのか、口許に笑みを湛えたまま
翡翠の瞳だけが悲しげな色を宿す。ほんの束の間の揺らぎ。

「そうだね……でも、例え嘘でも、好きな人に好きだって言われたら信じちゃうかな。
 信じたいものを信じている間って、幸せでしょ?
 ――よくないな、って、終わったら思うんだけどね。」

そうして反省しても、同じことを繰り返す。
そうしてこの愛に生きる少女はその道をひた走ってきたのだった。

「良いやつっていうか、ぶっちゃけちゃうとあの、おバカなんだと思う。えへへ。」

気まずそうに、恥ずかしそうに、笑顔がすこしばかり歪んだ。

さて、そうこうしている間に鉄板もスープカップも綺麗になっていた。
きっとポテトも話しながら二人で食べていたらお皿は空っぽになっているだろう。

「そんなことよりっ!
 流れくん、デザートは?食べる?お腹いっぱいかな――。」

仕切り直しとばかりに意識して声を弾ませ、話題を切り替えてしまわんと。
ついでに男の胃袋の容量や好みなんかの具合を把握すべく努めたりして。

――もう暫く、楽しいお話をしていよう。

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