2024/07/04 のログ
ご案内:「常世寮/男子寮 部屋」にコミンさんが現れました。
■コミン > 男子寮、誰かの部屋。
静謐な部屋に突然、パシュッ、という炭酸飲料の封を開けたような音が鳴る。つづいて、
「おじゃまします!」
…と、はつらつとした少女の声が響く。
部屋に現れたのは、小柄なメイド服の女の子。白のエプロンドレスに濃茶色の上下。
しかし下はスカートではなく短パン。白く細い生脚がすらりと伸びる。
ボーイッシュなショートヘアの両サイドからはエルフめいた長い耳がにょきっと生えている。
おじゃまします、とは言ったが、彼女は玄関から入ってきたわけではない。
部屋の中の物陰から突然、ひょっこりと現れたのだ。
彼女の異能である瞬間移動能力は、誰にも見られていない場所にのみ転移することができる。
そのため、適当に転移先を選んで異能を使うと、高確率で『他人のプライベート空間』に侵入することとなる。
空き巣に類する、一般的にはよくない行為である。コミン自身には全く悪気はないんだけれど。
「ここは……男子のお部屋ですかね? 男子寮?」
自分でどこに転移したかすらも把握していないコミン。
空き巣ならともかく、危険な場所への転移さえもありうるたいへんに刹那的な行動。
しかし彼女の妖精としての本能から、ついそのような「暇つぶし」を働いてしまうのである。
きょろきょろと周囲を見回す妖精少女。その部屋の主は在宅中かもしれないし、外出中かもしれない。
もし家主が居て、突然の侵入者に腹を立てたとしても、謝ってすぐ退散すればいいのだ……と彼女は考えている。
■コミン > 幸い(?)、この部屋の主はいまは不在のようだ。
まだ日の高い時間帯だが、消灯されカーテンの閉められた部屋は薄暗く、静かである。
白靴下の足でぺたぺたとリビングを歩き、部屋の様子を検分するコミン。すんすん、と鼻を鳴らして。
「ふーむ。なかなかにキレイなお部屋なのです。掃除も行き届いてます。
これでは僕がやって来た甲斐がないというもの……なにかやるべきことはぁー……うーん?」
生活感が充分にありつつも、わざわざ掃除するまでもない程度には整っている誰かの自室。
暇つぶしに足る「お手伝い」のネタがないかと、リビングを離れ、探りまわり始める。
そしてお風呂場の扉をがちゃりと開けると。
「ん。洗濯物発見なのです!
量は少ないようですが……せっかくなのでお洗濯してあげましょう! 今日は天気もいいですし!」
そう言うと、コミンはメイド服の袖をまくり上げ、靴下を脱ぎ、ずかずかと脱衣所に入っていく。
洗面器に水を汲み、腰に下げたカバンから衣類用の洗剤を取り出すと。
カゴに脱ぎ捨てられた男物の衣類を1つ1つ手にとっては、洗剤をつけてごしごしと手揉み洗いを始めたのだ。
この程度の量であれば洗濯機を使うよりも手で洗ったほうがずっと早く終わる。
「♪~~~ ♪~~~」
鼻歌を歌いながら、ごしごしと布地をこすり合わせる。泡がたち、汚れが清められていく。
1つ洗っては丹念にすすいで、搾って脱水。
シャツやバスタオルはもちろん、どんな者が着けていたのかもわからぬパンツも下着も、躊躇なく。
ご案内:「常世寮/男子寮 部屋」にカエルムさんが現れました。
■カエルム > ずるり、とノートパソコンの画面から手が出て来る。
「この方法、出るのが大変なん…」
…人の気配?
なるべく音を立てずにパソコンから這い出て様子をうかがう。
盗られるようなモノは部屋にないハズ、そもそもボクの部屋に侵入するだなんて所謂太え野郎というやつである。
そのまま気配を消しつつ部屋の中を進み…気配の主が居た。
「何してんの?」
出せる限りの低い声をかけた。
■コミン > いつ家主が帰ってくるかもしれない、白昼堂々の不法侵入。
帰ってきた者を驚かすことがないよう、玄関のほうには絶えず気を配り、帰宅の際にはお出迎えの挨拶をする腹づもりであった。
……しかし、家主が玄関ではなくノートパソコンから帰還を果たそうなどとはつゆにも思わず。
加えて家主の隠密能力の高さに、洗濯に熱中しているコミンが気付けるはずもなく。
声をかけられるまで、家主の帰宅に気付くことはできなかった。
「ひゃいっ!?」
かけられるドスの効いた声。心臓が飛び出るほどにびっくりし、風呂場にしゃがんだまま十数センチも跳ねてしまう。
洗っている途中の下着がぽちゃりと洗面器の水のなかに落ちる。
「はや、や、えっ、と……その、あのー……お、おかえりなさいませご主人様!
ぼ、僕はー……コミン家事代行サービスにございます! ご不在だったようですのでちょっとばかり軽い家事をー……」
焦りつつ、声の主のほうを向く。男子寮の住人であれば、そこにいるのも当然男子。
自分とそう背丈の変わらない少年だ。肉付きはコミンのほうが一回り以上良いが。
彼をこの部屋の主と判断し、未だびっくりで声が震えつつも、普段通りの挨拶で自分の今の所業を説明する。
……まあ、突拍子もない説明であることは否定しようはないが。要は家事代行の押し売りである。
■カエルム > 小さな、といっても己とそう背格好は変らない…女の子?
どうして男子寮に、だとか、なんでよりによってボクの部屋なんだとか、色々言いたいことはあるけれど。
「……いくら?」
仕事だ、と言われてしまい既に片付いているモノがある以上報酬を払わないわけにはいかない。
「あと、入室許可を出した人間がいるならソイツの名前と所属」
異能の類だろうか、と見当はつけているものの関わった人間が居るなら一度きっちり”お話合い”をしなければならない。ついでに不法侵入の謝罪もみっちり搾り取る。
■コミン > 「お代ですか? いえいえお代は頂きませんっ! 家事代行サービスですので……そう、サービスなのです!
しいて言うのでしたら、お客様の『笑顔』こそがお代です! えへへっ!」
家主の少年が二言目に問うてきたのは、コミンの仕事に対する対価の話。
頻度は多くないもののよく問われるFAQではあるため、彼女なりの誠意を声色に込めて、そう返す。
――タダより高いものはない、という格言は妖精の常識にはない。
「は、はいっ……不法入室であることは言い訳のしようもありませんです……。
誰に情報をもらったとかではありませんので! どこかに行こうと『跳んだ』らここにたどり着いただけなのです。
そしてやり残しの家事が見つかったら僕が片付ける……僕ってそういう性分なのです。
僕の仕事は僕ひとりだけの責任です、もし気分を害されたようでしたらできる限りの弁済はいたしますのでっ!」
不法侵入であることを言外に咎められれば、さすがに長耳をへたりと下げ、苦笑を浮かべつつ、申し訳無さそうな顔を作る。
とはいえ紡ぐ言葉は多分に言い訳めいてもいる。弁済するとは言うがどこまで本気なのかも伺いづらいだろう。
そして、言い訳もそこそこにメイド服の少女は再び風呂場にしゃがみ直し、洗濯物に向き合って。
「お、追い出すにしてもそれ以外にしても、まずはこのお洗濯を片付けさせてくださいませ…!」
……と叫ぶように言いながら、カエルムの下着を手に取り直す。
■カエルム > まくし立てられた言葉を飲みこむのに時間を要する。
眉間の皺が一層深くなった自覚がある。…頭痛がしてきた。
ぐりぐりと利き手の左手で眉間を押しながら言葉を紡ぐ。
「サービスってそういうコトじゃないと思うんだケド」
また”お人好し”か、と深いため息をつく。
スラムで育った身としては、悪意のない人類は文字通り別世界のイキモノだ。
「あと笑顔も残念ながら”売り切れ”」
開いた右手で二本の指を立て、折り曲げ。
「はあ…調子狂うな」
眉間を押す手が止まらない。お人好しとはなんと厄介な生き物だろうか。
これだけは、と言われた残った洗濯物が片付くのはありがたい、という気持ちがないわけではない。
それはそれとして状況があまりに奇怪すぎるのだ。