2024/07/05 のログ
コミン > 「えーっ……サービスって違う意味でしたか? そうしたらなんて言えばいいのでしょう?
 ボランティア? うーん……慈善ともなんか違うような? ……まあこの際ですのではっきり言ってしまうのです!
 この『家事』は僕の趣味であり、暇つぶしなのです! 生業なのです!
 その過程で他の人も幸せになってくれれば嬉しいなとは思うのですけど!……どうでしょう?わかってもらえます?」

自分がこの島に辿り着く前にいた地域は、『家事代行』の押し付けを気さくに受け入れてくれるおおらかな場所であった。
それが常世島に拠点を移してから、家の面倒事よりもプライベートを気にする者のほうが増えたように思う。
もっとも現代においてはそっちのほうが普通なのであるが、コミンにとってもやや住みづらい世界ではある。
かといって妖精としての習性、さらにいえばアイデンティティを簡単に変えることもできず。

「……むぅ。笑顔さえも売り切れですか。そんな人にははじめて出会ったのです。
 ご主人様から笑顔をもらうにはどうしたらいいでしょうねぇ……? くすぐったら笑うでしょうか?
 まあ、今は手がびしょびしょなのでくすぐるのには向いてないですが」

頭を抱えるカエルムとは真逆に、コミンと名乗ったメイド服の少女はデフォルトが笑顔といった様子。
声色ではしょぼくれていても、顔は常に何らかの笑顔。はにかみだったり、苦笑だったりと微妙に色は変わるが。
家主である少年に自分の所業を止められないのであれば、ごしごしと他人の衣服を清める手揉みの洗濯作業に戻る。
その手つきは慣れたものであり、てきぱきと片付いていく。
1つを手にとり、微量の洗剤をまぶして泡立てて揉み洗いし、水ですすぎ、ぎゅっと搾って脱水。

「調子狂う……えへへ、よく言われます。狂った調子はどうすれば元に戻るでしょうか。
 僕にお手伝いできることがあれば、これが終わった後であればなんなりとお伺いします!
 ……っと。終わりました。あとは干すだけですよー」

もとより少ない量の洗濯物。片付いてしまう。

カエルム > 「じゃあせめて許可を取って貰える?」

見られて困るようなものがあるわけではないがやはり不法侵入というのは気分が良くない。
…冒険者になる前の生業を考えると強くは言えないのだが。

「生憎だけど次期入荷予定もないよ」

笑顔は相手を挑発するときの道具くらいにしか使わないのでお出しする気はさらさらない。
少女の笑顔を崩さない様子に、これも性分ってやつかと再びため息が出る。

「一人になれば戻るから。気にしないコト」

思えば冒険者時代からお人好しの知り合いが多かった。
苦手だ苦手だと思うから余計に気になるのだろうか。

コミン > 「一人になれば戻る…ってことは、僕はご主人様の笑顔は頂けないってことですね。しょんぼりです。
 まあでもそういう人もこの島には多いのです。無理強いはしません! くすぐるのもヤメにしておきます」

にへへー、と口に出しながら下卑た笑い顔をつくり、水に濡れた手を彼の眼の前でわきわきと蠢かせてみて。
もちろんそれは仕草だけ。すぐに元のはにかみの笑みに戻り、脱水済みの洗濯物で満たされたカゴを両手に抱える。
そして、風呂場の入口に陣取るカエルムの側に歩み寄って。彼の脇を通らないとベランダに向かえない。

「笑顔は頂けないとしても、せめてお名前くらいは頂戴してもよろしいですか?
 あとできればケータイの番号とかメアドとかSNSのIDも!
 そうすれば今後もしご主人様がお手伝い必要になった時すぐに駆けつけられますから。
 許可が必要と言うのでしたら今後はなるべく…できるだけ…極力…最大限の努力で…勝手に入るのは我慢しますので!」

自分より少しだけ背の高い、しかし歳のころからすれば小柄と言わざるを得ない、そして不安になるほど細っこい少年。
彼の眼の前に立ち、上目遣いでまんまるの瞳を向けながら、優しい笑みを向けるコミン。
抱えた洗濯かごの上で、エプロンドレスに包まれた胸がむにゅりと強調される。
さわやかな、そして主張の強いミントの香りが漂う。ハッカ油を直接香水代わりに使ってるんじゃないかと思わせる香気。

「そして、ご主人様……お洗濯物を干したいのですが、ベランダに向かってもよろしいでしょうか!」

許可を要求してくる少年に対し、当てつけがましく、次の行動に対するお許しを乞う。

カエルム > 本当にやる気だったら足が出るところだった。すんでのところで思いとどまる。
今はまだ学校の治安維持を司る人々に眼をつけられたくはない。今後の動きに関わる。

「…はあ」

名前とその他諸々を聞かれて教えるかどうか…というより、教えるのと教えないのと、どちらが面倒が少ないかを天秤にかける。
…こういうお人好しは教えないほうが面倒だろう。

「名前はカエルム。情報は…あぁ。コレにだいたい書いてあると思う」

カードのようなモノを渡す。いわゆる名刺、というやつだ。何でも屋のようなことを生業にしている以上名前を売っておくのに損はない…といいな。

「洗濯物干すのはいいケド。それ終わったら出てってくれる?」

やはり自室に他人が居るというのは落ち着かない。
年頃の女の子だから尚更…というわけではないが。バレたら面倒なことこの上ない。
強調された胸元にも特に興味を示さず身を翻す。これが一般学生だったら大盛り上がりだったろうに。

コミン > 「カエルム様ですねー。ふむふむ、何でも屋? もしかして同業者みたいな?
 まあ僕は家事しかできませんけど! えへへ、もしかしたら僕のほうからご主人様を頼ることもあるかもですね!
 その時はよろしくお願いします! ちゃんとお金も稼いでおきますんでー……っと、失礼しまふよー」

洗濯かごを抱えたまま受け取った名刺を一瞥して、彼の人となりを把握し、好奇の視線を向ける。
しかし向こうのほうが迷惑そうな表情で視線をそらすなら、コミンもそれ以上は付きまとわず。
もらった名刺を口に咥え、ベランダの方へと向かう。

「んー、そういやここ男子寮だったでふね。女子がいるの他の人に見られちゃマズイれふよね……そしたら……」

自分の家のように無遠慮にベランダの窓の鍵を上げ、開く。しかしその開き方は20cm程度にとどめて。
洗濯かごを床におき、名刺を咥えたままそちらに視線をやると……絞られた洗濯物たちが、ひとつひとつ、宙に浮き始める。
大きな蝶のように、自ずと布地を開き、ひらひらと舞ってベランダの外に出て。
物干し竿にかかった洗濯ハンガーの洗濯バサミもひとりでに開き、洗濯物に喰らいつく。
これはコミンの妖精としての能力、テレキネシスの一種、『妖精のしもべ』。
ものの1分もかからず、窓から顔を大きく覗かせることもなく、コミンは洗濯物を干し終えてしまう。
それを見届けると、咥えていた名刺を改めて確認して、カバンにしまって。
薄暗いカエルムの自室にて、改めて姿勢をただし、彼に向き直る。

「ふぅ、ひと仕事終わりなのです。笑顔を頂けなかったのは残念ですが……またの機会にさせていただきます。
 結局押し売りであることには代わりありませんでしたからね。ご迷惑をおかけいたしましたっ。
 それでももし今後気が向きましたら、またコミン家事代行サービスをお頼りくださいませ」

両手を重ねて自分のおへその下に添え、ぺこりと90度のお辞儀。ふわり、とミントの香気が風にのって漂う。
再び顔を上げたコミンは、悪びれない……と言うには若干以上の申し訳無さを含んだ、苦々しい笑顔。

「カエルム様がどうかはともかく、僕はカエルム様の家の仕事をひとつこなせて、満足しております。
 お仕事をいただきありがとうございました。それではー……おじゃましましたっ!」

そう言うと、コミンは跳ねるように身を翻し、リビングの物陰へとさっと隠れてしまう。
シュポッ、というコルク栓が抜けるような軽い音が響いて。
……もしその物陰をすぐに覗いたとしても、もう謎のメイド少女の姿はそこにはない。

カエルム > 「ま、ボクも仕事は選ぶから言うほど何でもじゃないケド」
交渉事なんかはそもそも出来ないので真平御免である。

おそらくは言葉の通り本当にただのお節介、お人好し。だが念のために動きは目で追いつつ。
ひらひらと自ら干される洗濯物にいつもこうならいいのになんて思ったりもする。
…そのたびに自室を他人に踏み荒らされることとトレードオフなのが痛いところ。

「だから笑顔の入荷予定はないって。そういうのは他所で貰って」
とはいいつつも語気にはそれほど棘は無く。無意識ではあるが最大限の譲歩。

「はぁ。まぁ。別に、怒ってないし…あー、他にアテがあったらいつか紹介してあげるよ。…それが報酬ってコトで」
労働には相応の対価を。冒険者の基本だ。…冒険者じゃなくてもそうだが。
やはり何も渡せるモノが無いのは気分が良くない。

お邪魔しました、の言葉に返事を返す間もなくしゅぽんと可愛らしい音と共に少女は隠れ、消えてしまった。

「…なるほど」

不法侵入の方法もなんとなく納得が出来た。…それにしても疲れた。
今更ながらライトの電源を入れて椅子に腰かけ本を開く。…あればっかりは対策の方法が無いな……。

ご案内:「常世寮/男子寮 部屋」からカエルムさんが去りました。
ご案内:「常世寮/男子寮 部屋」からコミンさんが去りました。