2024/06/15 のログ
焔城鳴火 >  
「なるほど、確かにそりゃあメリットだわ。
 それに今の世の中なら、外見が変わらない事くらいは大して気にされないしね」

 外見年齢が変わらない人間も、人外も、異邦人も、現代となっては無数に存在する。
 旧時代では隠れ住むのも難しかっただろうが、現代でなら自由に動けることのメリットは無視できない。

「まあ――調べると言っても私は学籍情報を確認しただけよ。
 これでも公安の方に伝手があるもんだからね。
 後ろ盾って、本当に大丈夫なところ何でしょうねえ?」

 なお、これは純粋な心配である。
 この時代に後ろ盾になってくれるところなど、利用する気満々ですと言うような連中がごろごろしている。
 少しだけ眉間にしわを寄せつつ、爪楊枝を山芋に突き刺した。

「――んで?
 なんでわざわざその姿なの?
 しかも女にしたって美少女なくらいの、美少年じゃない。
 男子女子問わず、言い寄ってくるやつが多くて面倒そうだけど」

 山芋をしゃりしゃりと齧りつつ、不思議そうに尋ねた。
 なお、山芋は薄っすらとした醤油味だ。
 

風花 優希 >  
「見た目も、定住しなければ案外なんとかなるからね。
 ま、こんな世の中になった今じゃあ、その必要もないですけど」

嬉しいやら哀しいやら。
何とも言えない顔で苦笑を返して。

「この国で生まれ育って長いので、まあそれなりに。
 だから、大丈夫なとこですよ…たぶん」

日本で生まれ育ち、長くから…と。
肝心なところは言わず、言葉を濁す。
その辺りはあまり表立って口にする気はない部分なのだろう。

「で、見た目の方は何と言えばいいのか。
 単に前の使い手がこうだったので、ってだけなんですけどね」

そして、容姿についての問いにはそう軽く答える。
缶を開ける事もなく、彼は平然とした顔でここまで問へ返していた。

焔城鳴火 >  
「ああ、名前からしてそうだろうとは思ったけど、本土産まれなのね。
 故郷はどの辺?」

 世間話とも言うような軽さでたずねた。

「ふぅん――いやいやいや。
 え、なによ、それじゃあ前の持ち主もそんな個性的な外見だったわけ?」

 はぁ、となんとも言えない顔をした。

「――というか飲まないの?
 ああ、もしかして、飲酒はしないクチだったかしら」

 それなら申し訳ないな、とばかりに、『よっこらせ』だなんて声を掛けながら立ち上がる。
 残念女ポイントがさらに加点だ。
 

風花 優希 >  
「んーと…今だと京都?」

少し曖昧な返答。
確実に其処だとは恐らく断言できないのだろう。
それくらいに、古い書物という事か。

「そういう事になりますね。
 流石に『若かりし頃は』って前置きが付きますけど」

ともあれ、容姿に関しては都合の良いサンプルデータがそれであった、という事らしい。
なにかしら思い入れがあっての事なのか、丁度よかっただけなのかは定かでないが。

「流石に今の身体は男子高校生なので。
 そのままだと酔っちゃいますし」

くつくつと苦笑して、缶はそのまま脇へと置いた。

焔城鳴火 >  
「今だと、って。
 想像していたよりも、よっぽど長生きしてんのねえ」

 『敬意とかみせたほうがいい?』なんて事を言いながら。

「はぁ、いいわねえ、見目麗しくございますこと」

 肩を竦めてやれやれと首を振る。

「なによ、別に十代にもなれば酒くらい飲むでしょうに。
 ちょっとまってなさいな」

 そう言いながらキッチンに行くと、冷蔵庫を開け閉めする音がして、すぐに戻ってくる。

「ほらこれ。
 うちにあるノンアルってこれくらいなのよね」

 そう言って薄い黄金色に氷が入っている、二リットルほどのボトルを持ってきて、テーブルに置いた。

「トウモロコシ茶。
 母方の実家が農業もやってるもんで、毎年大量に届くのよね」

 そしてまた座ると、少年がわきへと置いた缶を手に取って、タブを開けた。
 

風花 優希 >  
「都が其処にあった頃の産まれなので、まあそれなりに?」
 
「今更でしょうよ、敬意なんて。
 なにより本ですし、古いだけですし」

今はそれ以前に学生と先生だ。


「そりゃあ昔ならもう成人でしょうけども」

今の法じゃあ学生なので、と顔を背けて苦笑い。
ボトルで運ばれてきたお茶のほうに、軽く手を伸ばす。

「トウモロコシ茶とはまた珍しいものを…。
 麦茶とかだと思ったら、まさかのもろこしとは」

焔城鳴火 >  
「古いだけって、謙遜が過ぎるんじゃない?」

 人間の『古い』と、書物の『古い』じゃ意味合いも価値も全く違うはずだ。
 長く残っている書物ともなれば、それだけ稀少であり、歴史的価値も高いだろう。

「私は麦茶のが好きなんだけどね。
 えーと――ああ、あった」

 散らかっている中で、辛うじてゴミ山ではないところから、未開封のプラコップ(20個入り)が出てきた。
 当たり前のように未開封のまま、少年の前に置いた。
 残念ポイントさらに加点。

「母の実家、前に話した穂宮(ほのみや)神社なんだけど。
 コノハナサクヤを主神にしてるだけあって、豊穣にもご利益があるらしいのよね。
 そんなだから、神社の裏手には畑があるし、敷地内に田んぼもあるし。
 近隣でも農業が盛んなのよねえ」

 だからこうして、色々な農作物や、その加工品が定期的に届くのである。
 恐らく、もうじき大量の西瓜が送られてくることだろう。
 

風花 優希 >  
「ボクとしては普通にしてるだけですし」

長く存在している自覚はあるが、それはそれ。
今は人の姿をして生徒として存在している以上、それに従っているのだから。
変に目上に見られるのも、居心地が悪いのだ。

「コップまで使い捨てとは…」

本当に私生活がダメなタイプなんだろうなぁと、認識強化。
ともあれコップを一つ取って、お茶を注ぐ。

「あぁ、それでトウモロコシ……。
 季節的にはまあ、旬ですもんね、今ぐらいが」

「して、納得しました?
 ボクの事情、大体そんな感じですけど」

焔城鳴火 >  
「なによ、使い捨て出来るものって便利じゃない。
 衛生的にもいいし、いちいち洗わなくて済むし」

 利便性と効率を求めた結果、自堕落になる典型例かもしれない。
 さて、少年もとい、魔導書の事は多少分かったところではあるが。

「まあ――正体についてはおおむね。
 ただ、そんなのが、どうしてここに長居してるのか、って所は気になるわね。
 なにか探し物?
 それとも、使い手を見つけに来たとか?」

 たんに学生生活を楽しみに来ている、というのも考えられたが。
 それにしては気になる所が多すぎた。
 

風花 優希 >  
「いやまぁ、利便性はその通りですけど」

魔導書の自分の方が真っ当な生活をしてるのでは?と正直思う。
同じ寮暮らしではあるが、同室者がいるので相応に部屋は真っ当なのだ。

「さっき言ったメリットが、そのまま主な理由ですよ。
 …って言っても、それじゃ納得はしませんか」

それだけならば、学生をする理由までは無い。
この島である理由はないし、自己保存をするにはここは少々危険な場所だ。

「使い手探しというのは、確かに理由の一つです。
 ただ、もう一つの理由は……ボクが『封じるための魔導書』だから、ですよ」

焔城鳴火 >  
「いや、それだけでも納得は出来るけどね。
 樹を隠すなら森、って言うし」

 自分の正体を隠し自己保存しながら、過度な制限を受けずに生活できる。
 それを考えれば、多少の危険はあっても学生は、極端に悪い選択ではないだろう。

「――へえ?」

 興味本位の問いから、面白い答えが返ってきた。

「『封じるための書』、ときたか。
 だからあんなに禁書を気にかけてたわけね」

 委員会の仕事にやたら熱心だと感じた理由に合点がいく。
 あそこには、本来なら正しく封じるべきものは多くあるだろう。
 もちろん、最低限の処置はされているとはいえ、だ。

「その『封じる』モノには、どこまで含まれてんの?
 あんただけで何とかやってけるもんなの?」

 興味半分、心配半分、と言った所。
 対象とする相手によっては、危険もあるだろうと。
 

風花 優希 >  
「おっと、それじゃあ藪蛇だったか」

失敗したなぁ、と頭を掻いて。
とはいえ、己の正体までは隠すことではない。

「ええ、だから図書委員の仕事はWINWINなワケです。
 普通に活動してるだけで、役割を果たせるので」

封印の維持、管理もまた役割の内。
禁書庫に押し込められている書物が、不用意に開かれなければそれでよし。
時には博物館の遺物管理も任されるのだから、まさに天職であろう。

「とはいえ、主人のいないボクにできる事は限られていますが。
 本来なら怪異やら荒魂の類も封じる対象なんですけどね。
 流石に今は、今ある封印の維持と点検くらいしかしてませんよ」

焔城鳴火 >  
「なるほどねえ」

 話を聞いてみれば、非常に納得のできる話である。
 そして、無理をしていない事が分かれば、ゆっくり頷く。

「凄い魔導書だこと。
 そういう事なら、あまり心配はいらなそうね。
 まあ――一番はあんたに認められるようなユーザーが見つかる事だけど」

 そうなれば、目の前の『書』自身の安全も随分と担保されるだろう。
 そして、『書』本来の目的を果たせるのならなによりなのだ。

「とはいえ、簡単に見つかれば苦労しないか。
 あんたとしては、ユーザーに求めるものとかあるの?」

 山芋に楊枝を刺して、少年の口元に向けた。
 

風花 優希 >  
「はてさて、そんな相手が居ればいいのですけどね。
 異能で事足りてる人も、多いですし」

需要が無ければ使われることもない。
なにより『封じる』事に同意ないし協力的な相手となれば、尚更だ。

「ともあれ、心配しなくても大丈夫ですよ。
 己の性能って言うものは、把握してますしね」

故に無理をしない、無茶をしない。
自己保全も自らの存在意義として、重要なファクターなのだ。

口元に差し出された山芋に眼を丸めて、けれども亜無理とそのまま一口。

「ん……出来立てならもっとおいしそうですね、これ。
 しかし求めるものですかぁ…そんな多くは求めませんけどね。
 勿論、魔術や扱う術式に才があれば言う事なしではありますけど」

「強いて言うのであれば、普通である事、ですかね」

焔城鳴火 >  
「異能が無いか、うまく扱えない上で、魔術に興味がある、か。
 確かにそう都合よくは――」

 そこまで言って、一人、ぽんと思い浮かんでしまったが。
 鳴火の個人的見解だけで言うなら、『彼女』はまだ大きな力を持つべきではない。

「性能ねえ。
 ――そりゃそうよ、なんだかんだ揚げ物は揚げたてが一番だからね」

 少年が山芋を食べれば、ふん、とどこか自慢げに鼻を鳴らした。
 少しだけ頬が緩んでいる。

「才能ねえ――は?」

 『普通であること』その言葉に気の抜けた声を出してしまった。
 幾星霜と生きた魔導書が、自身の所有者に求めるのが『普通』と。

「魔術の才能、って言うのはわかるけど。
 『普通である事』ってのはまた、意外な答えね。
 あんたの言う『普通』ってどういうもんよ?」

 この時代において、『普通』とい概念は多岐にわたる。
 それは『平凡である』とイコールとは限らない。
 

風花 優希 >  
「心当たりのある人でもいました?」

途中で止まった様子を見て、目聡く尋ねる。
とはいえ、彼女も誰これ構わず答えないのだろうが。
それも分かった上で、ダメもとで突くのだ。

「次は揚げたてをお願いしますよ」

などと、冗談混ざりにそう告げてから
彼女の問いに少し言葉を纏めるように言葉を止めて。

「普通であることを、普通という価値観を持つ凡庸さがあるといい」

「普通で無ければ、何故に封じるべきなのか、何を封じるべきかを理解できませんから」

顔色一つ変えず、真直ぐにそう答えた。

「ま、あくまでもそうだといいな、くらいの話ですけどね。
 ボクは悪魔でも魔導書なので」

焔城鳴火 >  
「んー、まあ、いるにはいる。
 ついでに言えば、ちゃんと力の使い方を導いてくれるヤツが居てくれると安心できるような子」

 推薦していいものかは悩みどころだが。
 そういう子がいる事までは伏せるつもりはなかった。

「――あんたが来ること、寝る前までは覚えてたのよ」

 少しだけばつの悪い顔をして缶を呷る。
 まるで酔った様子がないのは、単純に量の問題か、そもそも強いのか。

「なるほど。
 まいったわね――それこそうってつけの人間に心当たりがあるにはあるわ」

 この時代に置いてある意味時代遅れとも言える『普通』さと、穏やかな価値観を持ち、異能を持て余していて、魔術に積極的な興味がある。
 ――偶然にしては出来過ぎかもしれない。

「さすがに、私がお見合いみたいに薦めるわけにはいかないけど。
 それなら意外と、見つかるんじゃない?
 まあ、能力がないのと価値観については、私も該当しなくはないだろうけど――いかんせん、魔術には全く才能がないのよね」

 そう言いながら肩を竦めて。

「私にあった才能なんて、アレくらいだったわね。
 それも、本物の才能の前には霞む程度のもんだったけど」

 そう言いながら、視線をサンドバッグに向けた。
 料理も医術も格闘技も、鳴火は天才とはほど遠いところにいた。
 それこそ、『現代の普通』からすれば、その水準を大きく下回る所に位置していると、自己認識している。
 

風花 優希 >  
「それは確かに、持って来いではありますね。
 …まぁ、そういう言い方をするってことは、慎重に行きたいんでしょうけど」

そういうところは教師らしいと、素直に思う。
少なくとも手放しで任せられるほど、己も自意識過剰ではない。

「あははは、酔いつぶれて忘れちゃったらおんなじですよ。
 なのでええ、また次に」

くつりくつりと肩を竦めて苦笑する。
悪気が無かったのは分かっているから、それ以上は言わなかった。

「ともあれ、魔導書としては是非とも紹介してくださいって感じではありますよ。
 無理は言いませんけどね、魔導書を扱う事が必ずしも良いとは言えませんし」

それが不幸に繋がる事だってある。
否応なしに”普通”からは、関わり続ければ遠ざかる道でもあるから。

「才能なんかは、結構二の次でいいですしね。
 流石に欠片もないってのは、ちょっと難しいですけど」

そして、教師のその言葉には目を伏せながら冗談めかして。

「ただ、その他に才がないのなら、魔術は選択肢の一つになりますから」

焔城鳴火 >  
「まあ、機会があれば紹介してもいいけどね。
 あんたの事は信用してるし、本人にその気があるなら私が止める理由もない」

 もちろん、あくまで本人次第だ。
 ただ、本人にその気があるのであれば、適切にマッチングするのも仕事の内ではあるだろう、と。

「いやいやいや、酔いつぶれるとかないから。
 ――いやほんと、ないから」

 一度否定してから、手元の酒を見て、ゴミ山の空き缶空き瓶を見て。
 急激に語気が弱まった。
 説得力があまりにも皆無である。

「――残念、欠片でもあればあんたの使い手とやらも面白そうだったんだけど。
 私が使えるのはせいぜいが、こういう小道具止まりよ。
 それも、完全に外付けだから扱えるってだけだしね」

 ベッドの上の下着の下から、小さな獣の爪を引っ張り出して、無造作にテーブルの上に転がした。
 『書』から見れば、それがかなり高度な魔術を込めた『魔道具』である事が一目でわかるだろう。
 

風花 優希 >  
「そこはもちろん、その子次第ですよ」

少年としても無理強いする事ではない。
機会が訪れ紹介してもらっても、最終的には当人次第なのだから。

そうして説得力のない否定の言葉を軽く笑いつつ、首を竦めて。
追求だけはやめておいた、何処まで行っても追い打ちにしかならないのは分かっている。

「それもまた、正しい魔術の扱い方だと思いますよ。
 ま、ちょっと常人が使うには、過ぎた代物にも見えますけど」

机の上の獣の爪を一瞥する。
下着の下から出てきたことには、流石に目を反らしたが。

焔城鳴火 >  
「一応、本人には聞いといてあげる」

 あとはコトの成り行き次第だ。
 損得が一致しても、当人同士の相性がいいとも限らない。

「私は自分でも驚くくらい『無能者』だからね。
 これくらいのモノがないと、身を護る事もままならないのよ。
 ――さて、と」

 言いながら、億劫そうに立ち上がり。
 ぐ、っと大きく背伸びをした。
 当然、あちこち見えそうになるのだが、気にする様子は当人にはなかった。
 加点が止まらない。

「風花、あんた普通の食事はどれくらいいけんの?
 ちょっと早いけど、夕食くらいはご馳走するわよ」

 そう言いながら、ベッドの上を漁り始める。
 放り投げられる部屋着、下着、その他――。
 

風花 優希 >  
「…あぁ、異能も魔術もなければ、モノを扱うしかないと」

部屋に置かれた、使い込まれた形跡の見えるサンドバックを見る。
腕っぷしだけなら中々な気もするが、やはり持てる”武器”が違う。
ならばせめて、相応に獲物を使うのは当然といえば当然か。
何より彼女は生徒ではなく、教師なのだから。

「ご飯は人間が食べれるものなら何でも。
 というか…ホントに気にしてないんですね、下着とか」

そして言葉を返しながら、今更ながらにそれにツッコミを入れる。
一応男子高校生だぞ?という釘指しであった。

焔城鳴火 >  
「そういうこと。
 それだって、私くらい才能が無いと、コントロールできるもんにも限界があってね。
 それだって『使用者』と『使用条件』と『対象』を限定して作ってもらってるから、辛うじて威力を保って私が使える特注品になってるのよ」

 そう言いながら、わりとサイズのでかい薄桃のブラジャーを投げた。
 運悪く、少年の方に飛んでいく――。

「へえ、ほんとに人間――んあ?」

 気にしないのかと言われて、本気で不思議そうな顔が振り返る。
 もちろん、今ちょうど放り投げようとした白いパンツがその手には握られている――
 

風花 優希 >  
「なるほど特注…でもそれが扱えるって言うなら、
 別方向の才能がやっぱり高かったんですね」

少なくとも凡才ではないのだろう。
そうでなければ、教師などやってられないとも言えるだろうが。

と、そんな暢気に話していれば、突然薄桃の何かが飛んできて…

「ぶっ…っ、ちょ…
 一応身体は見た目相応なんですよ、ボクも?」

それがブラジャーで在る事に気が付けば、流石にそう突っ込む。
手にショーツまで握られれば、気まずいという他ない。
ブラはひとまずキャッチして、そっと横に置いておいた。

焔城鳴火 >  
「ああ、ごめんごめん。
 でも私なんかに欲情するほど持て余しちゃいないでしょ?」

 そう言いつつ、『いる?』なんて手元の下着を広げるあたり。
 恥じらいというものはどこに行ってしまったのだろうか。
 きっと格闘技で頭を殴られ過ぎて、脳から飛び出していってしまったんだろう。

「えーと――あったあった」

 そしてようやく、無造作に積まれた洗濯物の中からしわくちゃのエプロンを発掘した。

「――よし、なんか作るか。
 風花、なんか食べたいもんある?」

 そう言って正面を向くと、着ているもののかみ合わせが悪く、エプロンしか身に着けていない様にも見えてしまう。
 とことん、自分が女である事を意識していない行動だった。
 

風花 優希 >  
「そういう問題じゃあないんだよなぁ……」

思ず敬語が外れてしまった。
瞼を手で押さえて、ため息が出てしまう。
恥じらいという言葉を辞書で引いてきてほしい気分だった。

まあ、確かに欲情するほどに持て余してはいないが、色んな意味で気が気でない。
『いる?』という言葉には、手をひらひらと横に振る事で答えた。

「この流れでそれ聞くのか…その恰好で…。
 いや、もううん……ちょっと浮かばないから何でも…」

一先ず事が終わるまで、思考を少しばかり凍結しておこう。
そう密やかに心に決めた少年であった。

焔城鳴火 >  
「ん?
 ならどういう――」

 ここで首を傾げて眉をしかめる辺りでもう、救いようがなかった。

「なによ、別に普通の格好でしょうに。
 なんでもねえ。
 それなら、由緒正しい古書さんに、京料理でも挑んでみるか」

 そう言ってキッチンに向かった鳴火。
 残されたのはむごたらしい惨状の部屋。

 ――それからしばらくして。
 懐石料理、いわゆる京懐石が振舞われるのだが。
 この部屋で、少年が懐かしい味を堪能できるのかは、非常に難しい問題であったことだろう。
 

ご案内:「職員寮 第四アパート」から風花 優希さんが去りました。
ご案内:「職員寮 第四アパート」から焔城鳴火さんが去りました。