2024/08/06 のログ
水仙 倫太郎 >  
「……その、なんだ。あんまり興味なかったり、するか?
 や、興味無いなら無理させてたら悪いからさ。ちょっと、な?」

────思い返せば彼女は能動的とはいい難い。
物静かといえば聞こえはいいが、なんとなくだが"興味がない"雰囲気さえ感じる。
彼女がどういう出生かは聞いた上で、夜の姿を見ていると思う。
禍津狩りの血筋。狩人。血に塗れる存在。
特に彼女の過去は、壮絶だ。心だって閉ざして当然だ。
……自分が思う以上に多分、その胸中にはどす黒いものが渦巻いている。

今日の夜はたまたま平和だったからこうして遊ぶ事もできた。
本当に偶然と諸々が重なった結果とも言えるだろう。
そうだ。こうして積極的に遊びに誘って、部活も立てて、学生らしいこと。
年相応の事を年齢相応に、無い頭を捻って考えている。

「(……こんな可愛い顔してんのになぁ……)」

夜風に髪を撫でられて、林檎飴を齧っている。
こうして浴衣姿で楽しむのが、普通の少女だ。
いや、そうあるべきではずなんだ
何とも言えない面持ちのまま、遠くの景色を眺めるように祭り囃子を眺めていた。

「いや、だってそりゃ……しょうがねーだろ。
 なんかずっと暗い顔してんの見ててイヤだったし、襲は笑ってりゃカワイイしさ!」

なんだかからかわれているような気がした。
それはこっちも同じだ。そうなるとは思ってなかった。
ただ、お節介な少年心。預けられたウチで暗い顔されてるのも嫌だった。
だから、無理矢理にでも外につれて、色んなところを回って、笑い合って。
そうしたら……──────。

「しょうがないだろ!好きになっちまったんだからさ!
 ほっとけねぇって!一人でそんな……傍にいたいだろ!?」

惚れてしまった。惚れた弱みだ。放っておけない。
だから何処にだってついていく。地獄の底でも何でも、それくらいの覚悟はある。
思わず声を張り上げてしまうくらいには顔を熱くて、赤くて、羞恥心にがしがしと自身の頭を掻いた。
改めてこういうこというのはその、やっぱり恥ずかしさがまさる。畜生。

竜胆 襲 >  
「そんなことはないです!」

少し、声を張った。
興味がなかったり、無理をさせられたなんて、そんなことはない。

「その…一人でこういう場所に来よう、とか…。
 誰かを誘って、行ってみよう…というとか…そういうのが難しいな、と…思うだけです」

ちょっと大きな声で反応してしまったことを恥じてか、視線を落とし俯いて。
折角誘ってくれた彼に、そんな言葉を言わせてしまったということもあるけれど。

「倫太郎くんのおかげで笑うことは増えましたよ?それに…」

次の言葉が出てくるのには、少し時間がかかった。
ほんの少し、勇気が必要だったから?かも…。
でも誰も見ていないし、彼しか自分の言葉は聞いていないから。

「私も倫太郎くんのことを好きだと思います。
 でなければ、こうやって手を繋いだり、一緒にお祭りに来たりしません」

彼ほど強い言葉を使うことはしないけれど、それは単なる性分で…。
パートナーのために這いずってでも、なんて泥臭い覚悟は、そう簡単には見せられない。
でも、きざそういうことが必要になったら……自分も、彼を失いたくない気持ちはある。
ただ、それを伝えるのは、難しい。
彼のように真っ直ぐなら、簡単なのに。
何か一つくらい、彼に真直伝えられる言葉が欲しい。
そうでないと、彼ばっかりが私に…。
不公平になってしまう。

「倫太郎くん」

祭り囃子と、太鼓の音色が遠くに聞こえる。
打ち上がった花火が時折、互いを明るく照らす。

「キス、したいです」

彼ばっかりに踏み出させて、恥ずかしがるような言葉を口にさせるのはアンフェア。

水仙 倫太郎 >  
「おわっ!?」

まさか声を張り上げるなんて思わなかった。
そんなに彼女の強い言い方、部活動以外で聞いたこと無いかもしれない。
思わず目を見開いてしまった。豆鉄砲食らった鳩の気分。
だけど、続く言葉に思わず吹き出すように笑ってしまった。

「おいおい、何いってんだよ。何のために部活動やってると思ってんだ?
 そりゃあ、怪異と戦うためでもあるけど、全員学生なんだぜ。
 全員と仲悪いワケじゃねーんだろ?だったら、アイツ等を誘ってやりゃ、きっと二つ返事だぜ。」

「もっと"仲間"ってのを頼ってもいいと思うぜ。
 皆、お前のこと好きなんだからよ。」

それは決して"自分のおかげ"とは言わない。
確かにきっかけを作ったのは自分かもしれないが、事を進めたのは彼女だ。
自信がないなんて言うなんてとんでもない。
後は彼女の一歩次第。それの後押しをするのが自分。
だから次は、彼女たちと仲良くすべきだと背を押した。
そういう"繋がり"が、より彼女を留めてくれると信じているからだ。

「お、おおう……す、好きだと思……は!?」

なんだか煮えきらない言い方だったが、続く言葉にまた声を張り上げてしまった。
なんだって、今なんて言った。自分の聞き間違いか。
打ち上がった花火と、太鼓の音色で聞こえた幻聴だろうか。
……いや、そんな事はない、そんなはずはない。
煮えきらない言葉だなって思ったけど、ちゃんと互いに通じ合っている。

「あー、あ、まぁ、な……。」

それを理解してしまったからこそ、体の芯からじんわり熱くなっていく感覚があった。
心臓が早鐘を打っている。大きい音じゃないはずなのに、やたら喧しい。
思わず押し黙ってしまったのは恥ずかしいからじゃない。
違う、女性に言わせてしまった事の情けなさに後悔が募る。
自分が踏み込まないばかりに、彼女に迷惑を掛けさせてしまった。
でも、気まずさが流れたのは一瞬。不意に、彼女の肩を抱き寄せる。

「────────。」

打ち上がる花火が、二人を照らす。
その瞬間、間髪入れずに互いの唇が触れ合った。
柔らかな女性の感触に、永遠とも思えるくらいに一瞬の長い空間。
星空の明かりが消えたときに、ゆっくりと顔が離れていった。
真っ赤な顔のまま、気恥ずかしさに僅かに目をそらし……。

「オレも、まぁ、したかったし、な?キス……。」

竜胆 襲 >  
部活の仲間達。それは戦友とも言える。
彼もその一人…ではあるけれど、やっぱり少し…他とは違う。
特別に視てしまうのは、仕方がない。
彼の言う通り、仲間を頼っても良いのだろう。
それはわかっているけれど、その一歩は果てしなく遠いのだ。
だから、今はそう、頷きだけを返して。

言葉足らずだっただろうか。
うまく伝えられなかったかもしれない。
だから本当に伝えたいことは、はっきりと。

彼の体格に比べれば細身の肩を引き寄せられて、都合…互いの顔が近くなる。
顔も赤いし、心臓の音も大きい。
彼が緊張しているのが伝わってくる。
自分は?
不思議なほど、冷静にしてる。
なぜ落ち着いているのか、は…わからないけど。
相手が彼だから安心しているのかも…しれない。
だから何も心配せずに、そっとその瞳を閉じて、身を任せる。

互いの唇が触れる。
柔らかな重なりが数秒。
それだけのキス。
大人から見ればきっと拙い、微笑ましい。そんな行為だったけど。

「………そ」

「そういう雰囲気かな…って、思いまして…!」

数瞬前まで互いに触れていた、唇を思わず手で抑えて視線を逃がす。
終わってから、かっと顔が赤くなって、鼓動も早くなってきた…。

水仙 倫太郎 >  
「まぁ、多分……合ってる、と、思う……。
 他の女と付き合ったことねーからわかんねぇ、けど。」

そういう雰囲気といえば多分そうだと思う。
此れが初めての恋愛なんだから、どうと言われると答えは出ない。
ただ、恋人同士何だしなんにもおかしいことじゃない。
お互いイヤじゃなければ、凄いこう、何とも言えない良い感じだった。
何ならずっとあのままで良かったって思う位だ。
ただ、そう。それはそれとして恥ずかしい。凄く恥ずかしい。
もうずっとさっきから心臓が高鳴り続けて全然止まる気配がない。
顔もずっと熱いし真っ赤だし、男のくせにこれでいいのかと思うくらいだ。

「その、よ。もう少しこのまま、で、いいか……?」

でもずっと肩は抱いて、身を寄せ合ったまま。
柔い女性の体を、硬い大きな体で寄せ合っている。
恥ずかしいは恥ずかしいけど、今はこうしていたい気分なんだ。
やけに優しく、ちょっと涼しい夜風が妙に心地いい。

「や、なんかイヤならいいけどな……襲がイヤじゃなかったら……。」

竜胆 襲 >  
良かった。
彼の工程の言葉に安堵の溜息。
勇気を出したはいいけれど、違っていたらどうしようという思いもあり。
なかなか踏み出せないのは、そういう失敗を恐れているからという面もあったのかもしれなくて。

「…いいですよ。当然イヤではないです」

食べ歩きに付き合ってくれて、たくさん、きっと自分のために無理をして食べてくれて。
彼の本心としてはそんなところは見えてほしくないと思うのだろうけど。
そうやって自分の前で格好つけてくれるところが、妙に愛おしく感じたりもする。

「一休みしたら、あちらにも行ってみましょう。倫太郎くん」

そう言って、そっと頭を彼の肩へと預ける───。

夜。
夜といえば、自分にとっては怪異を狩る時間。
けれどそればかりでは、疲れてしまうから。
たまにはこういう夜だって、全然アリです。
そう心から思える、学園都市の夏の一夜───。

水仙 倫太郎 >  
「……そっか。」

その言葉だけで安心する。
相思相愛って言葉、気恥ずかしいけどそうだと安心する。
それこそ内心ガッツポーズだ。願わくばずっと、横にいたい。
彼女を傍でずっと支え合い、ずっと、ずっと──────。

「ああ、夜は長いんだし、付き合うぜ。」

平和な夜くらい合っても許される。
狩人じゃない。今は一人の学生、人間として。
ずっと、こうして、共に歩む。長い夜は、まだ始まったばかりだ。

ご案内:「常世神社」から水仙 倫太郎さんが去りました。
ご案内:「常世神社」から竜胆 襲さんが去りました。