2025/01/03 のログ
ご案内:「常世神社」にエルピス・シズメさんが現れました。
ご案内:「常世神社」に紫陽花 剱菊さんが現れました。
■紫陽花 剱菊 >
藹々と天道登りし昼下がり。
凡その参拝を終え、客人もいっかな、絶え絶えと朗らかな冬風。
さゆる肌寒さあれど、いやさか温かな陽の陽射し。
「…………」
斯様な静寂こそ好ましい。
泰平の一片に身を置ける僅かな幸せ。
本殿の縁側にて、一人坐禅を組み不動。
おしなべて景色の一つのように、只々佇む居住まい也。
斯様、剱菊の膝下で小鳥が囀る。折節、正しく自然と一つ。
■エルピス・シズメ >
今日は常世神社でのアルバイト。
初詣に来た参拝客を誘導したり、案内するかんたんなお仕事。
……何故か巫女服を渡されて、訂正しようにも『ノースリーブの方が良かった?』と押し切られて今に至る。
流石にノースリーブは冷えるので、今は一般的なデザインの巫女装束。
参拝客の流れが一息ついたところで、髪を纏め直しながら休憩に入る。
その途中、見知った顔がくつろいでいたので声を掛けることにした。
「剱菊さん、お久しぶり。初詣?」
ご案内:「常世神社」にエイリーさんが現れました。
■紫陽花 剱菊 >
虚は閉じて虚ろの底へ。
心ならずも行住坐臥は戰場足れば某の姿気がつこう。
「……エルピス」
名を、囀る。
静寂、響かぬ音が名を呼んだ。
ゆるりと開く虚の双眸が映し出す少年の姿。
露ばかりか衣服に……否、得もすれば個性的。
「……、……あけまして、おめでとうございます」
先ずは学び得た挨拶を一つ。
口元に二本指を立て、一礼。異邦の作法。
「……参拝客がいわんや多いのは知っていたが、成る程。
得心が行った。斯様な文化であったか。……然るに、見当違いだ」
「斯様、天道の膝下。一時の静寂が私を癒やしてくれる」
即ち、お気に入りの場所。
■エイリー > 「…もう1年の始まりかぁ…」
神社に着く際、2人の人影を見つけた。後ろの木に隠れ会話を見守る。
■エルピス・シズメ >
「ん……あけましておめでとう。今年もよろしくね。」
和やかに微笑みながら年始の挨拶。
そういえば、彼と会うのも久しぶりな気がする。
「日向ぼっこがお気に入りなんだ……初詣、知らなかったの?」
目を丸くする。
エルピスの知る剱菊の所属や振る舞いから、一般的な文化や催し物への理解がない事を意外に思ったのだろう。
特に誰かが見ているとも気付くことなく、剱菊に近づいて話を続ける。
■紫陽花 剱菊 >
静かに、頷く。
衣擦れも聞こえず、ただ艶やかな黒糸がはらり、はらり。
「異邦の地より罷り越し、早数年。未だ慣れぬ文化も多い。
斯様、新年の挨拶も面映ゆい限りだが、ついぞ知った」
然るに、此方の地でも俗世と触れる機会の少なさを物語る。
一入、武人剱菊にとっては如何様な気配も見過ごさぬ。
虚の双眸を動かすこと無く、一息。
「──────そこな人、遠慮する事に非ず。とって食おうという気も無し」
静寂より、空に波紋を描くか如く、エイリーへと語りかける。
■エイリー > ふっと笑い、木から出る。
「そんなに緊張しなくていいのに。…大丈夫。私は戦いはしないわ。…こんなところでね。」
2人に歩み寄る。
■エルピス・シズメ > 「戦……?」
茶色のショートヘア、左目がくすんだオッドアイ。ワンピースの上から白衣。
近寄ってきた足音の主を確かめる。どうやら女性らしい。
年齢的に学生だろうと思いながらも、不思議そうに女性を見つめる。
「剱菊さんのお知り合いさん……じゃないよね。」
一度会話を止めてエイリーに向き直り、小首を傾げる。
■エイリー > 「剱菊?…あぁ、この男の……」
少し肩をすくめる。
「…まぁ、知り合いではないわね…初めましてね。」
と、お参りをしながら。
「…で?あんたたちは何の用でここに?…さっきの話だと…初詣?」
■紫陽花 剱菊 >
横に首振り、否定の意を示す。
「初めて見る顔だが……いやしくも、私の居住まいが原因やも知れぬ」
行住坐臥は戰場を示す。
音も無き、気配も無く、静寂の中は猛禽の眼差し。
手練れ成れば戦の気配を感じても相違無し。
「失礼、私もエルピスも事を構える気に非ず。
ただ、泰平の一時を共に享受していた次第だ」
先ずはエイリーに一礼。
「……お初にお目に掛かる。
名を剱菊、姓を紫陽花。
此方はエルピスと申し上げる。以後、お見知りおきを……」
「時にエルピス……気のせいでなければ、斯様衣服は女子のものでは……?」
■エルピス・シズメ >
「ん、僕は年始のアルバイトで……今はちょっと休憩中。
僕はエルピス。エルピス・シズメ。白衣のお姉さんもよろしくね。
……お姉さんでいいんだよね?」
剣呑な雰囲気に流されず、自分のペースを保ちながら名乗りをする。
少し高めの、中世的な少年の声。
「あ。うん、アルバイトで来たんだけど……渡されたのがこの衣装で……。
……そのまま話に流されて……。」
女性と間違えられ、そのまま巫女衣装を着せられて初詣のアルバイト。
言及されると、少しだけ恥ずかしそうに視線をそらした。
■紫陽花 剱菊 >
「……、……災難だったな?」
疑問符。
否、事実淀んでいたのならばそうであろう。
然るに、妙に似合いすぎていた。
自ずと疑問符も浮かんでこよう。なんで?
「兎角、働き者なのだな。其方も。
……出会ったのも遠からず。困りごとは無いか?」
■エルピス・シズメ >
「困りごと?ううん、いろいろあったけれど……
お仕事以外は今のところは特にない……かな?」
ここ暫くは忙しかったものの、今のところは大過なく平穏な日々。
とは言え裕福ではないから、それなりに金策を考える必要はある。
「剱菊さんは……ううん、聞いちゃダメな困りごとの方が多そうだね……。
公安委員会の所属だと、言えないことが増えるのはよく知ってるし……。」
■紫陽花 剱菊 >
「仕事、とは巫女の事では無いか?
如何様にして何事とあろうか」
既に職務の身、成れば恐らく此度は本業に非ず。
畢竟、彼の事は何も知り得ていないのもまた事実。
丁度良い機会でも在った。人を知る、良き機会。
「……私の事は、良い。
時間でしか解決出来ぬ事もあろう。
兎角、其方の事だ。色々教えてはくれまいか?」
此方に、と縁側の隣を指す。
「案ずるな。私もそれなりに顔が利く。
私と話すのもまた、巫女の努めと思えば良し」
■エルピス・シズメ >
「事務所を構えていることは知っていると思うんだけど、最近正式に届出を出したからね。
それこそ公安委員会に怒られない様に、真面目におしごとはしてるけど……単純にお金回りかな……。」
公安委員に話さない方が良かったかもしれないと自省しつつ、
話の流れとして話題に上がれば、手堅く素直に答える。
いかに学費が安かろうと、何だかんだで経済面の不安は付きまとう。
「時間……なにかあったの?
僕のこと、聞いていて楽しいのならいいけれど……。」
ううん、と、唸る。
世間話かと思えば、少し違うような。
あるいは機密でない何かがあったような惑い。
剣菊から僅かな違和感を抱きながらも、会話を続ける。
■紫陽花 剱菊 >
「数ある事務所……まこと、世知辛いな」
綺麗事だけで余は回らぬ。
金は天下の回りもの。少なくとも俗世で生きる上では必須。
斯様、自身のような俗世とかかずらうのが希薄であればこそ、無縁の悩み。
「金だけであれば私のものを使ってくれても構わぬが……」
一入、斯様な問題では在るまい。
金貸しの問題は公安でも幾らか案件で出会う事もある。
俗世慣れはせずとも、構造は理解している。
故に、身近故に難しい問題だ。
「……私は、其方と違い俗世慣れはしていない。
斯様、戦事ばかり上手くてな。戦ばかりと逞しゅう反面、
千々に思うば、俗世とかけ離れていく。」
「此方の島に馴染むには、俗世とかかずらう必要がある。
即ち、追憶を知り、人を知る。即ち、其方の事を知るのが恰も良し」
即ち、こうしている合間にも剱菊の悩みは解決へと進む。
俗世、民草との会話を交わすことに意味がある。
■エルピス・シズメ >
「受け取ったらいろいろ不味い気がする……。
……そうでなくとも甘えているとといざというときに困るかもしれないし、自分たちでなんとかしてみる。」
生きていれば何かと費用は掛かるし、
日の当たるところで生きるのならばそれは綺麗な金でなくてはならない。
援助の申し出は他意はないのだろうと苦笑しつつ、やんわりと断った。
「そうかな……そうなんだ。
確かに、いきなり仕掛けられたときはびっくりしたけれど……」
かつての邂逅を少しだけ懐かしく思い返す。
最近は力を求めることも、焦がれることもめっきり減った。
「『人を知る』、かぁ……それが僕でいいのかな、と思うけれど……
……それで剣菊さんが何かつかめるなら、協力するよ。僕の出自はちょっとだけややこしいけれど……。」
■紫陽花 剱菊 >
「左様か……否、わかっている。
俗世で生きるのは、まこと大変であろうな」
日銭を稼ぐためにあくせく汗を流す。
尊ぶべきことである。己のような日陰者とは違う。
今を生きる民草であればこその理屈。他意など無く、天晴と頷くばかり。
「……畢竟、修羅道とは刹那の見切り。
誤れば死、あるのみ。力を求めし者は、何れ皆、同じ破滅を辿る」
「私とて、例外無く」
一切過去の行いを悪びれる素振りは無し。
戰場に生きる以上、理は必定。
見定め、身を引くのもまた道であり、討ち倒されるのであれば、その程度の話。
戦人であるが故の、俗世と乖離した冷たき思想。
平然と語ることこそ、剱菊を戦人たらしめる。
「……構わぬ。私も大層、変わり者。
私以上の変わり者もそうはいまい。
ついぞ、この間は色々と聞く暇もなかったのでな」
「……其方の人となり、其方は何故、今を生きるのか。
何ぞ、誰が為にと働くようにも見受けている。……違うか?」
■エルピス・シズメ >
「剣菊さんは違うの?」
疑問のまなざしを向ける。
公安委員の役割がある以上、俗世離れしようとも学園に縛られる筈。
その仕事の後ろ暗さや薄暗い面はあっても──意図して背かない限り、俗世から外れることは難しい。
落第街で事務所を構えて正規の学生証を持てぬものを多く相手にしたエルピスにとって、
剱菊の振る舞いは、少しばかりのズレのあるもの。
「……ううん、それはそうだと思うけれど……。
常世島で生きている限り、その修羅道を避けるのはとても大変。」
困り顔。
気を払って遠ざけてはいるけれど、事故や災禍は向こうからやってくる。
できれば、この島そのものが地獄だとは思いたくはない。
「そうだね。エルピス・シズメはイーリスのために頑張ってる。
自分のため……と言うのも無くはないけれど、胸を張って言語化できるのは、やっぱりイーリスが好きだからかな。」
何気はなしに左手を太陽に翳す。
その手の薬指に嵌められている藍色の指輪も、イーリスから贈られたもの。
■紫陽花 剱菊 >
「……是非も無し。かかずらう一方で、
自らの不慣れさを実感する。民草を守り、泰平を守り、武を磨く。
……自ずと俗世からは遠のいた。ままならぬとわかっていても、だ」
影よりて、者々を守りし剱菊の在り方は武力。
力を以て脅威を除くば、自然と居場所は戰場。
常に脅威の影は付き纏えば必定。元より斯様な生き様のみで生き抜いた。
一重に、自ら俗世と遠のかんとす甘んじているのも折節垣間見えよう。
「自ら関わらなければ、其方が思うよりも災禍とは降りかからぬ」
時として自然の脅威、事故もある。
然れども、発端が人手あれば話は別。
豈図らんや、凡そは道を踏み外す事が発端也。
只々それが意識か無意識かの違いだけ。
「……其方が想い人だろうか?
詳しく聞かせてはくれまいか。私もまた、懸想を抱く身成れば、気にもなる」
虚が一瞥する、藍色。
如何様な文化か存じ上げぬが、思い言葉と一目で伝わる。
静寂の中、何処となく朗らかに口元を緩め、言問うた。
■エルピス・シズメ >
「……ままならないよね。」
俗世や平穏を望むものが居る一方、
そのようなところでは生き難いものも居る。
常世はそういうものかもしれないと、ため息をついた。
「僕は、そうは思わない。
そう言い切ってしまうのは、少しばかりデリカシーがないと思うから。
択べる立場になかったり、知れぬ立場にある方がよっぽど多い。」
首を横に振り、真っ向から相違を示す。
何が災禍であるか、避けるべきものは何か。
択べる立場にないものと、知らぬ立場にあるものを多く見てきた。
それらに対して関わらなければ──などとは、とても思えない。
災禍と関わらぬ様に生きるには、高いコストと恵まれた立場が居る。
金銭・教養・立場。それらがなくては択べるものもないというのが、エルピス・シズメの見解だ。
「うん。……でも、どこから話そうかな。
ひとまず、イーリスは保護制度と更生プログラムを活用して一般生徒になって……
……秋から冬にかけては二人でいっぱい勉強したり遊んだりしたけれど……。
……今まで得られなかった人並みの幸せや学生生活にとても喜んでいるイーリスは、とっても幸せそうで大好きなんだ。」
■紫陽花 剱菊 >
「……斯様、其方が知り得るほど力を持ち得たからに過ぎず。
多くの民草は斯様な事を深くは考えない。視野の違いに過ぎぬ」
畢竟、持ち得し者の意見也。
即ち、何よりも剱菊がむべるかな。
冷ややかな思想に思われようと、社会性は傍から見ればそうも見えよう。
有り体に言えば、傲慢にしか過ぎぬ。
力を持ちえ、得てして人理の守護者たりえし者の目線。
「其方は戦いには向いてはいない。
然るに、その心映えこそが俗世に生きる上で必要なのかも知れぬ」
語る虚は何処を見よう。
エルピスを見る双眸は優しく、甲斐甲斐しさに頬も綻ぶ。
「……日陰で暮らす者同士、惹かれ合ったのだな。
其方は今、イーリス殿と入れて幸せか?」
徐ろに、言問うた。
■エルピス・シズメ >
「そうだとしても……死人に、口はないからね。
僕たちは、死んでいない人か生き残った人の視野しか認識できないから。」
生き延びていなければ。力を持ち得てなければ。
このようなことを口にすることしか出来ない。
声をあげられぬものと、力なく死んでいったものの視野は含まれてない。
そのバイアスを捨てぬ、一つの目線。
「向いてないことと、しないことはまた別だからね。
……これからもきっと、そういうことは避けようがないと思うし……。
イーリスやみんなのことは、束縛できないから。」
自覚はあるのだろう。
向いていないことを否定しない上で、避けられぬものであるとの認識を口にする。
同時に、災禍が飛び込んで来ることや巻き込まれることも避けてはならないことだろうと。
「そうだね。とても幸せ。
僕やイーリスは、好き好んで日陰で暮らしていた訳じゃないから……
……険しくても、日向の道を二人で歩めていることがとても嬉しい。」
■紫陽花 剱菊 >
「死者を尊ぶ事を、悪いとは言わぬ。
ともすれば、私もそちら側ではあろう。
……自らが選んだ苦渋の決断、逃げることも出来ように……」
哀れと思うても、口に出すことは罷りならぬ。
彼の矜持を傷つける事は、本位に非ず。
何くれど、自らが業を背負おうと言うのだろうか。
故に、言問う。
「……で、あればこそ、共に分かち合う事も出来よう。
束縛に非ず。分かち合い、共に生き、支え合う。……斯様こそ在り方なのでは?」
孤独ではなくば、得てして必定であろう。
決して逃げ道に非ず。苦難さえ分かち合う絆だ。
「私も木の俣から産まれた訳では無い。
私自身にも家族はいた。何よりも大事な人々だった。
……其方の言い条も、共に理解せり……」
「……エルピス」
故に、名を呼び、手招き。来なさい、と。
■エルピス・シズメ >
「物言えぬ死者が少なくなるのが、一番なんだけどね……。」
ままならないこと。
大変容前は少しだけマシで、比較的平和かつ自由に生きられる時代だったとは聞いているが、
今を生きるものとしては、どのような時代だったかは想像し難い。
「……うん。勿論そのつもり。
だから、幸せも苦難も分かち合いながら生きていくことになると思う。」
大変であれ、独りよりもずっと良い。
災禍を避けれても孤独であっては意味がない。少なくとも、エルピス・シズメにとってはそうだ。
「剱菊さんにも、家族が居たんだね。
産まれの話なら、僕は木の俣から産まれたようなものだけど……
……剱菊さん?」
手招きの意図がわからぬものの、呼ばれれば距離を詰める。
とは言え、以前のこともあるのでほんの少しだけ警戒は残す。
(さすがに、この流れでいきなり襲ってくることはないと思うけれど……)
■紫陽花 剱菊 >
「……此の程度であれば、自然の摂理の内にて……」
乱世の世を生き延びたが故の価値観。
即ち、大きく俗世と乖離する要因が一つ。
必定、日常的に相まみえた故の煤けた価値観。
さもありなんと語る様が、剱菊の故郷の過酷さを表している。
ゆるりと近寄るエルピスの身体が、ふわりと浮いた。
敵意は無く、手繰り寄せるように小さき身体はお膝元。
互いに縁側にて、朗らかな陽射しに当たっている。
「然るに、そうであれば問題は無い」
細い指先が、エルピスの髪をなぞる。
「……既に皆、死んだ。殺した」
あっけからん、と。
「其方も特殊な出自のようだな……差し支えなければ、伺っても……?」
■エルピス・シズメ >
「そうなのかな……?」
多くのことを自然の摂理と断じた彼の価値観。
理由は分からずとも過酷な何かを生き抜いたのだろうと、漠然と読み取る。
産業革命から始まり、ハーバー・ボッシュ法の普及。
自然を克服した技術の発達によって人間の人口は寿命は格段に延びたと聞いた気がする。
それらの文明そのものが不自然で、過酷な命の取り合いが自然の摂理だと言われれば、野性と思えど否定できない。
「わっ、……?」
気が付けば膝元に寄せられて縁側で髪を漉かれている。
その意図が読み切れぬものの、危機はないと判断すればなすがままに。
「何処まで踏み込んで良いかわからないけど、剱菊さんにもいろいろあったんだね。
……僕は、うん。故エルピス……沈目言正って呼ばれる少年の、模造品を産まれとするものなんだ。
今は僕は僕と思うし、故エルピスの想いも継いでいるけれど、
正しい摂理の生まれではないと言う意味では、木の洞から産まれたのと大差はないのかな、って。」
■紫陽花 剱菊 >
沈黙。静寂のままに、刻は過る。
「……否、忘れてくれ……」
然るに、此度を固定してしまえば現世の社会性の否定と成り得る。
いわんや、自らもまた乱世に染まりすぎたが故の価値観。
ふつふつと内に湧き上がる自己嫌悪に、僅かに表情が暗くなる。
目前、思いとどまったのもまた、縁が紡いだ僅かな人心の結果か。
「私の話など、大層詰まらぬ事ばかりだ」
故に、聞きたいのであれば聞かせよう。
一切合切、何者も保証はせずとも。
「……模造……造られし生命……」
即ち、此の髪も、体温も、全ては造られしもの。
自然より賜る生命に非ず、うなべて禁忌。生まれし生命。
然るに、どちらも得難く、平等に生命であろう。
ゆるりと手慣れた指先が、愛らしいお団子を紐解いていく。
「……其方自身が自らの生命をそう定めるのであれば、何も言わぬ。
何くれど、迷うのであれば何時でも言うと良い。私とて、明かり程度の役割は果たせる」
先達者の、定め也。
解いたエルピスの髪を眺め、品定めするように手に乗せて。
戦人。殺戮者。少なからず戦いに身を置いたのであれば、
僅かに漂う隠しきれぬ血の匂いが鼻腔をくすぐる。
されど、同じくして、漂うのは朗らかな陽の香り。
何方も剱菊の本質を表すものであろう。
■エルピス・シズメ >
「う、うん……。」
自己嫌悪の様相が見えれば、深くは追及せずにそのまま流す。
それでも、心の中に漠然とした疑問が一つ浮かぶ。
振る舞いを見るにそれなりに長く生きてそう。
「……そういえば、剱菊さんって何歳なんだろう?」
故に、心に浮かんだ疑問を一つ投げかけた。
本人的には、他愛もない雑談のつもりだ。
「あっ、そ、それはだめ……
まだお仕事中だから、作り直すのに結構な時間が……」
お団子を紐解こうとすれば、慌てて制止の声を入れる。
それなりに毛量が多く、熱の通った髪の毛。
ささやかだが、力の流れのようなものがある。
お団子にしてなお余る程に伸ばしている事には、少しばかり何かの名残がありそうな。
「とはいえ、僕も深いことは分からないんだけどね。
この記憶も経験も引き継いだもので、産まれたてのふたばみたいなものは確かだと思う。
それをネガティブに思うことはないけれど……過去がないのは、ちょっとだけさみしいかな。」
■紫陽花 剱菊 >
「……己が数えたことは無いが、齢二十五、のはず」
然程、自らの年齢に意味は無し。
暦を合わせれば確か其の程度のはず。
斯様にエルピスを見下ろす表情は、穏やかなもの。
「其方が懸想に思う人がいれば、手入れはせねば。
案ずるな。己の手で、手入れは充分に心得がある」
事実、手慣れた手つきであった。
熱を帯び、生命を宿すかのような艶やかさ。
懐に取り出した楕円形の容器。中にはとろりと、液体一つ。
香る匂いは健やかに、気を落ち着かせる木々の香り。
ひんやりとするそれを手につけ、長い、長い髪を撫でる。
さゆるような感覚だが、妙な心地良さもある。
「然るに、過去とは基盤では在るが、現在に劣るに非ず。
がらんどうと思う成れば、勝る現在を作り上げるが良い。
其方には、斯様其れを担う隣人もいよう」
刻を遡り作り上げる事は出来ぬ。
然れど、不要とも必要と諌める事も無し。
現在を生きる者々の活力は、何よりも勝ろう。
「……さやか、変わった髪質な。暖かく、力強さを感じる」
■エルピス・シズメ >
「……25……。」
思ったよりも若い。
振る舞いにギャップを覚えながらも、嘘ではないだろうと一つうなずく。
「あ、う、うん……。」
この後に仕事があるため、解いて結い直すのは少し時間が掛かると懸念していたものの、
解きはじめてしまえばそのまま委ねる。
何かしらを取り出して染み込ませ始めれば、香りからヘアオイルの類だろうかと推察を付けた。
「そうだね。僕もそうしたい……と思う。」
未練はあるが、どうにもできないこと。
割り切って、今を積み上げていく方が良い。
「短くしない方が良いみたい。多分、僕の長い髪エネルギーの排熱も兼ねていたんだと思う。」
■紫陽花 剱菊 >
「齢ばかり堆くとも、意味は無い。
畢竟、自らが成し得た事柄が影と成る」
全てを積み重ねた上で、寿ぐ。
過去に現在を積み重ねよ、と。
斯様、眼の前にいる武人の血の匂いは其の証左。
此の体たらくに成るのでは無く、天道を歩めと案に予言とする。
「……排熱……成る程、此方の絡繰りか。
興味深い構造をしておられる。人とは違う、在りようか」
唯の生の生命とは異なる熱。
何方も生きている事に相違なし。
懐より取り出したるは紺色の櫛。僅かに金箔の菊が咲く古い櫛。
然れど、何よりも大切に、丁寧に、綺羅を保つのは一目瞭然。
斯様、慣れた手つきで髪を解く。柔い手つき、細い指先。
宛ら母より賜りし髪の手入れ。心地良さは、陽光にも劣らず。
■エルピス・シズメ >
「そうみたい。……人と違う、かぁ……」
ゆっくり櫛で髪を漉かれながら、言葉を反芻する。
人と違う。そのことばが発されると、少しだけ眉を下げる。
方便や仕組みのこととは理解しつつも、どうしても気がかり。
「……『人』の形って、何なんだろうね。」
ぽつり、と、言葉が漏れる。
何かを人と足らんとするものは、生物学的な構造か、知識か、理性か。
あるいはその生き様の結果なのか。
大変容を経て混迷とした今の時代に於いては難しいもの。
秋月秀顕博士著の『大変容』およびその講評の中で、
機構としての常世学園の見解としては論じられているものを見た気がする。
■紫陽花 剱菊 >
ゆるり解す指先は漣が如し。
一寸の淀みもなく、櫛は艶やかな川を渡る。
「……ともすれば其れこそ生き様、即ち"心"であろうよ。
エルピス。私は多くの生命を戰場にて奪った。
人も、神も、物怪も、家族も。一切合切、尽くを滅ぼした」
口先ばかりはものの平然と語り紡ぐ。
然るに其の目元を物憂げ成れば、"思う所在り"。
悔恨、懺悔、様々な感情が綯い交ぜとなった虚の眼差し。
「立ち塞がるもの全てを打ち倒せば、泰平の世になると信じていた。
結果、私は唯の怪物と謗られ、故郷を終われ、流れ着いた。私の生き様は"刃"。
今も其れは変わらぬ。然れど、島々の輩が、愛しき人が説いてくれた」
「人心、人の在りようを。即ち、私は自らを人としている。
そうでなければ、人として我が罪は贖われる事もないだろう」
朗らかな太陽の匂いに交じる夥しい程の血の匂いが証左也。
即ち、修羅道の極地。大義を信じた果ての流刑。
温かな島民により、今より至りて、自らの末路さえ、見えている。
殺戮者、人たらしめるのであれば、滅びもまた必定。
然れど、そう語る剱菊の表情は朗らかで、母の如く、優しく語る。
「エルピス」
するりと温かな髪を、刃の如し冷たい手がなぞる。
「其方の心は、何とするか。答えは既に隣に在るのではないか?」
■エルピス・シズメ > 「心……。」
平然と語られる命のやり取りと聞き届ける。
普段と変わらぬ素振りで語られる過去にどれほどの感情が秘められているのかは、窺い切れない。
やり直しがきかぬからこその、悔悟や後悔を強く読み取れる。
「僕は剱菊さんのことを深くは知らないから、そう思うのかもしれないけれど……
……こうやって人を知ろうとしながら、いろいろ考えている所を見てると……刃のようには、あんまり思えない。
そう思わない位、いろんなものを受け取って、そうふるまえているということなのかな……」
朗らかに、所業と定めを語る声。
太陽の香りに交じる血と鉄のような香りが、それが事実であることを報せてくれた。
「そうだね。既に決まってはいるけれど……
……その答えを確かなものにしたいから、もっと考えたいなと思う。」
左手を翳し、改めて指輪の霊石を見る。
燦々と輝くそれが、より確固たるものとなる様、思考を続ける。
「その回答を胸を張って答え続けられる様に、いろんな経験と勉強が要ると思う。
時には大変なこともあるかもしれないけど……それでも、ちゃんと揺らがないように。」
■紫陽花 剱菊 >
敢えて、剱菊は何も言わない。
其の一片を体験し尚宣うのであれば、其れも良し。
刹那に散る、終の美学。即ち此れ、刃也。
「其方もまた与え、そして受け取っているのだろう。
私もこうして、誰かを導けるのであればそれで尚良し」
きゅっ、最後に締め上げたお団子二つ。
ものの見事に解く前。髪色は鮮やかに綺羅を飾る。
「……では、思うままに学び、征くと良い。
呉れ惑う時は、また私の所に来ると良い。其方を導こう」
今度は自らが与えられた人心を説くべきだ。
冷たき刃の手。然れど芯には、僅かな暖かさ。
其の頬を緩く撫でれば、終わった、と軽く肩を叩く。
「さて、呼び止めて悪かったな。仕事に戻ると良い」
■エルピス・シズメ >
「あっ、もうこんな時間……うん、そろそろ戻らなきゃ。」
気づけば結構な時間が経っていた。
暖かな陽だまりを名残惜しく思えど、仕事は仕事。
お給金が減ってしまうのは困るので、体を起こして離れる。
「またね、剱菊さん。
色々考えながら……思うままに進んでみる。」
挨拶を交わしてからぱたぱたと走り、アルバイトへと戻った。
ご案内:「常世神社」からエルピス・シズメさんが去りました。
ご案内:「常世神社」から紫陽花 剱菊さんが去りました。