2025/01/22 のログ
東山 正治 >  
「『そうしたかったから』『知らなかった』……人外(オマエラ)が使う常套句だな。
 それが罷り通るなら、法律(ルール)なんざ存在しない。……喋る知能があるのに、考えなかったのか?」

それをやったらどうなるか、なんてよ」

だからといって許されるのか、そんなはずがない。
犯罪と同じだ。決してそれは、許容されるべきではない。
ありったけの力で押しつぶすように地面に押し付けたまま、冷めた視線が人魚を見下ろす。

「……先ず、前提として種族や身体改造自体は同意の上なら問題ない。
 だが、どうだろうな。人外(オマエラ)は意思を捻じ曲げることだって出来る。
 一種の洗脳行為。"侵略行為"に該当するだろうな。既に、テメェのせいで二次被害も上がってるってよ」

小鳥遊日和の"治療行為"に当たったスタッフに被害が出ている。
勿論種族的特徴、制御不可の異能等、そういった問題は今でも存在する。
そういったものは仕方ない。その場その場で症状に合わせて対処するべきだ。
だが、意図を以て行った場合は違う。どんな理由であれ、人魚は人を変えた。
人ならざる、何かに。

「『そうしたかったから』……ね。
 小鳥遊ちゃんはさ、いい奴なんだよ。まぁ、それなりに良くしてもらってる。
 手も掛かる事もあるが、悪い付き合いとは思ってなかったさ。友人、そうだな、友人だ」

悪意に満ちた口元が、三日月を描く。

「なぁ、ちょっとは考えなかったか?
 変わり果てた友人を見る奴の気持ちとかよ」

睦月 ルメル >  
やったから、怒られたわ
 オリエンテーションで、ちゃんと聞いているわよ!」

既に理解はしているし、それを咎めたものがいる。
裁かれたものが、もう一度裁かれた(私刑)

「それを私に言って、どうするのよ……!」 

法の外にあるものが法の内に入る際に洗礼を受けた。
人魚を人に変えるプロセスは、学園の手続きの上では既に禊れている。
悪意のままに叩きつけられた人魚は、どうにか口を開く。

「だから、治療しているんでしょうに……!」

一方的に法を押し付けられることを良しとしているのは、
そこに人魚が持つ人間の憧れと、保護したものの丁重な意思があったもの。
ルールにあるものを覆えされて咎められれば、流石の人魚も困惑も見せた。

「ただ……怒っているのは分かったわ。悪かった、って言うの、よね。」

ただ、恐らくこの男は何を言っても許す気も認める気もないのだろう。
底知れぬ悪意が隔絶を作っている事は理解出来るし、発される言語は自然のものだろう。

「……ごめん、なさい。友人ってものは理解はできないけど、謝るわ。
 謝るってことも(ごめんなさい)、よく分からないけど──後で、考えるわ。
 人間さんの、ルールは大事だから……。」

友人も罪悪も自分にはよくわからないもの。
だが、プロセスとしてそうする様に説明は受けている。

理解のできぬものであれ、倣うべきだろうと考えた。
持ち得なかったものは理解できないし、持ち得てないことも分からない。
辛うじて、分からないことだけが分かっていた。

東山 正治 >  
 
                       ベキッ
 
 

東山 正治 >  
その内容無き謝罪の最中、遠慮なくあらぬ方向に右腕を曲げられた
容赦なく肉が拉げ、中の骨の破損、痛覚があれば痛みも伝わるはずだ。

だから、治療をしている……?」

淀み、冷え込んだ声音がため息のように漏れた。

「テメェがやったから、そうせざるを得ないの間違いだろ。
 良かったな、"優しい相手"でよ。いいか、よく聞けよ世間知らず。
 無断で人様を改造すんのは、"侵略行為"に該当する可能性があるんだよ。
 他者への侵害、立派なだ。罪には罰が用意されている。怒られるだけじゃすまねぇんだよ

同時に此れは歯がゆい所でもある。
この世間知らずの人魚にも社会は人権を保証する。
特にこの学園はそういう保護活動も存在するが、知らなかったじゃ済まされないのも法律だ
理不尽に思われようと知ったことではない。本来なら、こうなっても仕方ない行為だと身を以て教えている。

「……人魚(テメェら)に仲間意識があるかは知らんが、
 ある日当たり前のようにいた奴が理不尽に消えてんだ。
 確かに法律(ルール)は大事だが、言ったはずだぜ?」

俺自身の意思だってな。……奪われたら、報復される。
 自然でも、ある日狩る側か狩られる事だってある。で、意味もわからず謝った人魚さんはよぉ……」

どうやって俺に失くしたもの返してくれるんだ?」

尽きぬ憎悪。淀み、暗い表情。
この教師の中に内包され続けている、燃え続けている怒り。
一人の友人を、勝手な悦により変えられたそこはかとない感情の吐露。
もし、同じ感情を持ち得るのであれば理解するだろう。そのどうしようもない殺意。


謝って許されるものでもなければ、自らが踏み込んでは行けない域に手を出したことを


自然界において、縄張りを荒らせばどうなるか、わかっているはずだろうに。

睦月 ルメル >  
 
「……い、た……ぁッ!!」


  
 

睦月 ルメル >
このものの感情は認めても、理屈を認めない方が良い。
一を言えば十を返せる力がある。そう判断してしまえば口を閉じた。

が、この人魚にも骨の様なものはある。
力を加えられば、内に溜まったもののゆらぎと共にへし折れる。

閉じた口が反射的に開き、二度目の悲鳴となる。
それ以上を喋ることはしなかったが、音は漏れる。

「…………。」

殺意、怒り、激情。
自然界の掟として、このものの踏み込むことが逆鱗となる領域に手を出したのだろう。
当然、彼の疑問に答える言葉は見つからない。

だが、だからこそ、

(やり返さない、わ……私は、ルールを守ると決めた人魚だもの……!)

やり返さない。暴力を行わない。
それがルメルの知った、人間社会との約束である。


東山 正治 >  
反論はない。反撃もしない。
東山自身は勿論此れが明確な犯罪行為だと知った上で行っている。
反撃行為をしても、正当防衛はほぼ間違いなく認められるだろう。
元々弁護士である東山が、他者の機敏に疎いはずもない。

「……言いたい事はあるが、やり返さねぇってか?
 結構、知識じゃ間違いなくお前には負けねぇからな」

尚の事、その賢さを理性に活かせなかったのかね?」

そう学んだの今だからこそ、というのもある。
そうであっても、やりきれない。憎悪の理由は幾らでも沸く。
ゴミを放り捨てるように折った腕を放り投げ、その髪を引っ張り上げた。
文字通り目前、互いの鼻先がかするような距離。
有り体に言えば、"圧"。憎悪の激情に駆られた眼差しが、その両目を射抜く。

「『そうしたいから』やった……お前が言った理屈だよな?
 俺ァな、人様の法律(ルール)を、生活を滅茶苦茶にした人外(オマエラ)が嫌いだ。
 どうしようもなく殺してやりたい。そうしたいと思っている。常々な。なァ……?」

美しい髪を掴む手に、更に力が滲む。
自身の指を傷つけ、鮮血が滴るほどの憎しみ。
何をせずとも、堆く積み上がった憎悪は並大抵のものではないと理解出来るはずだ。
怒気を込めて吐き捨てる端々は、全てその顔に投げつけられるようだ。

「お前を殺してもいいか?『そうしたい』んだよ、俺は」

────お前自身が述べた理屈だ。文句でもあるのか?

睦月 ルメル >  
「…………。」

答えることの出来ない詰問。
論理の外で生きていたものだからこそ理解できる直感。
このものを納得させるものはないから、向き合うなら殺し合うしかない
それはしたくない。

人間さん(たかなしさん)なら、寄り添えたのでしょうね。)

彼が自身を殺すためにどれだけの時間が要るのだろうか。
彼の持つなにかは奇妙なものだし、膂力も技術も自分を超えるものがある。

ただ、自分に死を齎すにはたぶん……時間が掛かりすぎるし、それで終わる保証もない。
すごくすごく痛いし、無限に続くかもしれないが、続いてしまう。
そして……逆も然りだ。

そして何となく、それを言えば彼はもっと怒るだろう。
彼を刺激しても理はない。そんな気がする。

(もう少し……考えてみましょう。)

幸い、自分は頑丈だ。
どうしようもなくなったら戦うしかなくとも、まだ時間はある。
良くも悪くも決着を付けるには途方もない時間が要る。

(どうすれば……おわる?)

ただ、それでも嫌なものは嫌だ。
抉れた腕の断面をもう一方の腕で押さえながら、目の前の人間さんをにらむことした。
 

東山 正治 >  
仮に殺し合ったともなれば、東山は負ける気はない。
己の異能、何よりもこと人外相手なら誰よりも経験を積んでる自信がある
殺せる自信があった。どれだけ時間をかけても、無限の苦痛を与えて殺す。
心が晴れないとわかっていても、やる。憎悪とはそういうものだ。
その理屈を通せれば、疾うの昔にやっている

「…………」

互いにじ、と。無言の時間が続く。
燃え上がり続ける憎悪のまま、先に口を開いたのは東山だ。

「"申し訳ございません"、だ」

ハァ、とため息混じりに発せられた。レクチャーだ。

「オタクが俺に言葉と知識で勝てると思ってねぇ。
 伊達に俺は教師をやってねぇし、オタクを殺す手段はゴマンとある。
 ……なんでこうなってるかは、レクリエーションで怒られてた理由は理解できたな?」

その理屈を通すのなら、こんな問答などしてはいない。
東山は、飽く迄教師なのだ。呆れた顔をしたまま、じ、と彼女を見ている。
未だ底に憎悪は燃えていても、殺意は消えていた。

「そういう時に、謝るんだ。
 いけないことをした、悪いことをした。
 その謝罪の中で丁寧な部類に入る言葉だ」

「いいか?ルメル。謝ったから許されるなんて思うな
 此れは要するに、"筋通し"だ。してしまった側が出来る数少ない行動。
 許すか許さないかは相手次第だが、してしまった側はせめて頭を下げるくらいしかねぇんだ」

それほどのことをしたのだ、と。

「……此処まで聞いて、返答は?」

睦月 ルメル >

(お互いに一番楽な道を……えらべない。)

お互いに人の真似事を辞めて自然に還れば楽なのだ。
だけれど、それがどうしてもえらべない。

自分はこの陸上に残りたいし、
目の前の彼もまだその手段をえらんでいない。

『お互いにちょっと不満は残りますけど──。』

(どこがちょっとよ、たかなしさん……。)

ちょっとどころでない不満と憎悪。
あの人間さんの尺度でいえば、これがちょっとなのだろうか。
そのことを、自然と悪態のようにぼやいていた。

「……。」

"申し訳ございません。"と言うらしい。
多分、この言葉はごめんなさいのより上位なのだろう。
これを言えば、多分このものは後1回か2回の暴力で手を下ろす。だが。

「…………。」

言いたくない。
痛い思いをしたし、納得しきれない。不満もある。

(痛い思いをして、自然の法則を持ち出して………)

正直な感情ではある。でも逃げの様にも思う。
それでも黙ったままにはしておけない。
長い葛藤の末に、口を開いた。

睦月 ルメル >  
 
「……もうしわけ、ございませんでした。」

 不服さを残しながらも、言葉を作ることにした。
 不条理に思っているのは……お互い様だろうから。
 

東山 正治 >  
ふ、と思わず吹き出すように口元を緩めた。

「テメェが痛い思いしたのになんで謝らなきゃいけないんだ?
 ……ってね。そうだな。理不尽だよな?不条理だよな?やってらんねぇよ」

「─────お前がやったことは、そういうことなんだよ

したいからやった。思ったから行動した。
物理的な痛みではない。喪失による精神的な苦痛。
今も尚、治療の際に二次被害が広がっていると言った。
自らのしたの事の重大性を、痛みを以てわからせたのだ
形の違いだ。暴力か、姿形を変える侵略行為かの違い。
まぁ、確かに私情を交えたのは事実なのだが。

「因みに、小鳥遊ちゃんを基準に考えねぇ方がいいぞ?
 アイツ、大抵のことは"いいよいいよ"しちまうからな。
 どーせ、オタクに変えられた事だって結局そういう風に受け入れ始めてんだろ。違うか?」

弁護士とは、人に寄り添う仕事だ。
その手のプロであった東山にとって、
他人の考えの機敏を見透かすのは難しい話ではなかった。

「…………」

その不条理さを堪えて謝った。
その気持は痛いほど理解できる。だから…─────。

「睦月ルメル」

東山 正治 >  
 
                    「俺は、お前を決して許さない
 
 

東山 正治 >  
自らの周りから、また誰かを奪った不条理。
決して許さない。許しはしない。許してはいけない。
ヘラヘラと笑う笑顔の裏で、どうしようもない憎悪が渦巻いている。

「全部がイヤになって、無責任に海に逃げ帰りゃ済む話だ。
 が、陸にまだ残りたいっていうなら話は別だ。なぁ、ルメル"ちゃん"」

そのままひょいっ、とその体を手繰り寄せた。
それは、人間を扱うように丁寧に両手で抱え込んだ形だ

「この先、多分オタクは何度も謝ることになるだろうな。
 きっと何度も"やらかす"。安心しな、皆そのへんは同じだ。
 馴染みねぇことを間違えるのは、人間も一緒。俺は止めない。決めるのはオタク」

「まぁ、紛いなりにも教師やってるからな。
 そうなる前に色々教えてやらねぇこともねぇ、が……」

自らが折った腕を一瞥し、気まずそうに肩を竦めた。

「悪かったな、腕折って」

先ずは謝罪、筋通しから。

睦月 ルメル >
でもその理不尽を返したら、ここにはいられない。
目の前の教師の言い分すべてには納得出来るものはない。

ただ、全部でなくても覚えるべきものはあるのだろう。

(どこからどこまでが理屈で、野性かは分からないけれど。)

理屈と感情を挽肉の様に混ざり合わながらも、ひとつの筋が通っているもの。
幾ら賢くとも、プロの弁舌によって編み上げられたものを分解できるほど彼女は人間の律を知らない。

「それは思いやりではないのかしら。分からないわ……。」

深く考えないことにする。
それにたぶん、本人に聞くのが一番手っ取り早い。

改めて名を呼ばれる。
真面目な切り出しに、無意識に背筋を伸ばした。

「そのことは……そのまま、受け取っとく。」

許しの概念も深くは理解していない。
ただ、どういうものであるのかは人間のルールからは推察が付いた。
だから、咀嚼せずにそのまま受け取ることにした。
 

睦月 ルメル >  
「私は許す……って言うのかしら。
 よく分からないけど、引きずる気はないわ。でも……」

「……私たちの中でのこの取り決めと、それとこれとは別よね。
 それはそれ、これはこれって言うのかしら。こういうの。」

複数の足音。
いくら人の気配がない店裏の路地と言えど、落第街のような無法地帯ではない。
騒ぎを起こせば通報されるし、ひとつの秩序が働く。

「東山せんせいは……こういう時にどうするのかしら。」

ほんの少し、意趣返しを込めて教師を見遣る。
自分が頑丈だからどうにかなっているものの、
抉れて放り捨てられた腕は、その痕から鮮血を垂れ流している。

人間さんのことだからどうにでも出来るのだろう。
特にこの人間さんは物知りの様にも思うから、任せることにする。

東山 正治 >  
「少なくとも俺は、お前を殺すつもりだったよ。
 ……ただ、最初に小鳥遊ちゃんの名前を出した時、
 お前は何とも言えない気持ちになったはずだ。後ろめたさ、負い目っつーんだよ」

「"自分でも良くないことをした自覚"って奴だ。
 ……それがなく開き直るような事を言い返したら、行方不明者にはしといたかもな」

弁護士とは、依頼者に寄り添う仕事である。
もしコレ(ルメル)がどうしようもなく、
人ならざるバケモノであれば容赦なく"退治"していた所だ。
だが、理解はせずともその気持ちを持っていた。
それは、一人の人間として、教師として見過ごせなかった。

「さぁねぇ、何ていうのかな?
 ま、"宿題"にしとこうか。何時かわかる日がくんだろ」

はぐらかすような適当な物言いだ。
くつくつと喉奥から笑い声を漏らすのはからかっているようだ。
感情論は理屈一つで理解できるものではない。
少なくとも人ならざるものとそうでないものの認知の差は大きい、よく知っている。
そのための常世学園なのだ。そのために導くもの、教師がいる。
少なくともその痛みを以て、自らの行いの意味を理解させるには十分だったと思いたい。

「……そ、好きにしな。その痛みを忘れないことだな」

毛頭此方は許す気はない。咥えた煙草から煙を吐き出し、虚ろな両目が見返した。
銀の霧が晴れる頃には、複数の足音が聞こえてくる。
はしゃぎすぎたな。まぁ、言い訳は幾らでも用意してる。

「とりあえず、と病院にでも行きますか。
 事情聴取は面倒クセェけど、仕方ねぇな……」

したことはきちんと受け入れる
罪には罰。そこはきちんとしている。
勿論彼女には言わない。大人だから、此処から先がずるいのだ。
ヘラリと笑みを浮かべたまま、抱えた人魚を腕に表へ歩き始める。

「困ったことがあれば、何時でもいいな。
 こと、ルールに関してはスペシャリストだからな。
 ルメルちゃんが"生徒"でいる限りは、幾らでも助けてやるよ」

それが、教師の責務なのだ。

「あ、因みに俺はどう引っ付いても"変わらねぇ"からな。
 オタクもひっつく気はないだろうけど、一応言っとく」

その後、仲良く大勢で病院へと搬送されることになる。
東山にとっても、面倒だが長い一日の始まりとも言えるだろう。

ご案内:「異邦人街」から睦月 ルメルさんが去りました。
ご案内:「異邦人街」から東山 正治さんが去りました。