2026/02/02 のログ
ご案内:「異邦人街」にカタストロアさんが現れました。
カタストロア >  
満月の夜。
異邦人街に騒ぎが波のように広がる。
誰かが夕飯を買っていたであろうビニール袋が放り出されている。

「良くないな……」

鼻を鳴らして置き去りの袋を見下ろす。

「この匂い、味を見るまでもない」
「花椒の効かせすぎだな」

「案外……買った者は食べなくて正解だったかも知れないな」

昨日の歓楽街での戦闘の傷跡、何一つなく。
巨躯の爬虫人類が騒ぎの中を歩く。

誰かが叫んだ。
逃げろ、と。

鼻歌と共にマズルに乗ったサングラスの位置を指先で直す。

ご案内:「異邦人街」に大神 璃士さんが現れました。
カタストロア >  
狼狽したまま動けずにいる少女がいる。
常世学園の制服。それに白杖を持っている。
哀れな、弱視ゆえに逃げ損ねたか。

「そこのお嬢さん」

スーツ姿の異形は紳士的に声をかける。

「ここは危険だ、早く逃げなさい」

その声の位置から相当な上背の相手だと察した少女が白杖を手に硬直する。

「カタストロアという悪党が出たそうだ」
「それは口が大きく裂けていて」
「凶悪な牙と爪を持っている」

「それらはお嬢さんなら触れただけでズタズタになりそうな……」

語りかけながら震える少女に手を伸ばす。

風紀委員 > 『落ち着いて下さい、皆さん落ち着いて避難を!』

甲種不明犯、通称カタストロアの出現に、風紀委員会も手を拱いているわけではない。
巡回を増やしたり、いつもよりも厳重な装備の携帯が許可されている。
勿論、厳重な代物である分、使用には許可が要るのだが。

そして、今日この時間、異邦人街での巡回のシフトに当たっていた委員達はある意味では「幸運」だった。
問題の怪人の出現に、即座に対応する事が出来たのである。
もしも此処の巡回時間が少しずれていたら、より大きな被害が出たか、混乱からの怪我人が
増加していたかも知れない。

「不運」であったのは、逃げ遅れた学園の生徒が居た事。
即座に手を打たなくては、対処が遅れる。
上への許可だの何だの、そういったものを伺う間に犠牲が確実に増えてしまうかも知れない状況だった。

『――現場判断だ、責任は俺が取る!
即時狙撃――!』

その指示を聞いた委員も、ある意味優秀ではあった。
用意されていた狙撃用の銃…使用許可を得た上で発砲しなければならないそれを、
担当の班長の現場判断指示で即座に構え、迷う事無く巨躯のリザードマンに向けて発砲。
それも、最もダメージが期待できそうな箇所に向けてである。
訓練を重ねた狙撃手である事が分かるレベルであった。

(…効果が出なくても、注意がこちらに向けばいい!
生徒の保護と、この場から離脱するまでの遅滞戦闘を仕掛けられれば――!)

カタストロア >  
「!!」

伸ばす手が少女を引き裂くことはなかった。
着弾、気の抜けた音と共に片目と心臓、太腿と次々と銃弾が貫く。

「フゥゥー………」
「やれやれ、いつも手早いことだ」

緑色の血が足元にボタ、ボタと粘着質な音を立てて落ちる。

「ダスクスレイで初動の遅れを、テンタクロウの時に手段の甘さを指摘されていたが…」

凶悪な面構えで破顔一笑。

「なかなかどうして」

再生を始める瞳が色のない風景を映す。
青霧在の時にも彼らは連携を怠らなかった。

……前衛(アタッカー)がいる。確実にいる。

風紀委員 > 『今だ、生徒の確保を――!』

班長を務める委員の号令。
予め用意されていたように、加速系と思しい異能の持ち主が一挙に距離を詰め、
白杖を持っている女子生徒の保護にかかる。
その顔色は青いを通り越し、ともすれば紙のような色であった。
生徒の保護の為とはいえ、巨躯のリザードマンの近くまで一気に距離を詰めなくてはいけないのだ。
恐怖心を持つな、という方が無理だった。

――更に言えば、実際はこの時、このチームに前衛担当はいなかった。
正確には、恐るべき膂力と理外の再生能力を持つリザードマンと真正面から戦闘継続が
可能な程の身体能力の主がいなかった、と言う方が正しいだろう。
複数名で当たれば何とか…とは思われたが、数の差が活きる相手であるかすら怪しい所。
寧ろ、複数でかかった場合に援護射撃が難しくなる可能性すら存在し得た。

だから、ほんの少し。
ほんの少しの時間を、稼ぐ。

それだけを、班長は行えば良かった。

そうすれば――「奴」が到着する。

欠けている「前衛」を務められる、この場に真っ先に駆け付けられる者が。

《――ルプス1、現場到着。これより甲種不明犯との戦闘行動に突入する。》

その通信が届いた事で、班長の心臓の鼓動は幾分か収まる事になる。

(――頼むぞ!)

大神 璃士 >  
そして直後。

アンブッシュは、「空」から降って来た。

巨躯のリザードマンの脳天を目掛けて振り下ろされる、槌のように重く、それでいて鋭い一撃。
強烈な勢いの、踵落とし。
それが、白杖を持つ女子生徒を保護した委員が離脱しようとするタイミングで、空から降って来る。

それを放ったのは、黒いレザージャケットを着た風紀委員の男。

カタストロア >  
直後、疾風。
加速異能。
風紀委員によくいる身体加速α型類似異能。

──アクセラレイター。

意識の間隙を突いたか。
さすがに異能の街で治安維持が役割の奴らは違う。
“持っている”な。

だが。

左手人差し指の爪を抜いた。
緑の濃血が流れる。
だがこれを弾けば二人諸共貫通だ。

ハラワタぶちまけこの世にサヨナラ。
ヒーローごっこはあの世でやりな。

加速して退避しようとする風紀に指弾を放とうとした。
瞬間。

カタストロア >  
脳天から衝撃。
重撃というにも生温い超越者の一撃。

微動だにせず。
しかしダメージは大きい。
なるほど、もう初動の遅れも手段の甘さもない。

「だいそれたことをする」
「誰だお前は」

「通りすがりなら慈悲を乞え、正義の味方なら名を名乗れ」

砕けたサングラスの、辛うじて繋がっているだけのフレームを投げ捨てた。

大神 璃士 >  
リザードマンの脳天へと踵を叩き込んだ者は、すぐさま宙返りを伴う跳躍を行いながら距離を取る。
やけに軽い着地音と共に地に足を着けたのは、風紀委員の制服の上から黒いレザージャケットを
着込んだ、シルバーメッシュのウルフヘアの男。

「生憎、」

ぎち、とやけに大きく、手を握り込む音が響く。
レザージャケットの袖口から見える手には、曲線的なラインの何処か和風な形状の篭手らしい、
金属板を重ねた防具のようなものが手の甲を覆っている。

「通りすがりでも、正義の味方でもない。
ただ、この島の風紀という秩序の守護に当たる者だ。」

ぎらり、と、鋭い視線が怪人に向けられる。

「甲種不明犯、識別呼称カタストロアだな。
傷害・騒乱・その他風紀違反行為により、拘束の通達が出ている。
速やかに投降しろ。お前には黙秘権及び弁護士依頼権が存在する。」

定型文めいたその宣言には、しかし、刃の如き鋭さ。
そして、その宣言を素直に受け容れるとは思っていないのか、その身からは戦意がゆらりと立ち昇る。

カタストロア >  
シルバーメッシュが煌めいた。
身長180cm…いや178か。
蹴りに靭性と粘るような衝撃。
パワー型とやり慣れている。

篭手。
白兵戦が得意な。
膂力だけじゃなくて技術もあるタイプ。

でなければショートレンジにしか使えない武装など。

「これはご丁寧に……名乗る手間は省けたようだ」
「黙秘権は行使しない、オレは会話を楽しみに夜の街に来ている」

「弁護士はそうだな……島選弁護士にワニがいたら頼みたいところだ」

肩を揺らして笑い。

「時に風紀委員……君は人の善性を信じるか?」
「秩序の守護をしているのだろう? 守るべき秩序は…」

「人にあるのか、という話だよ」

ノーモーションで先程引き抜いた爪を指で弾いた。
常人なら即死は免れない鋭爪弾。

大神 璃士 >  
「詭弁だな。」

辛辣な一言。
その瞬間にも、鋭く迫り来る爪弾を前にして、黒いジャケットの風紀委員にはそれを避ける素振りすらなく。

「秩序は、求めるものではない。
人を獣にしない為の、律する為の、規範だ。」

瞬間、迫る爪弾に対して翳されたのは、二本の指を立てた右手。
敢えて言うならば、ピースサインを取ったような。
無論、この場面でふざけ半分にそんなポーズを取る程、この男が腑抜けている訳ではなく。

「善性があるから守るのではない。」

ぱし、と、音を立てて、身体に突き刺さりそうであった爪弾を二本指で受け止める。
無論、そのままでは速度まで殺せたわけではないが――次の瞬間、ぐるりと手が裏返る。
黒いジャケットの男に向けられていた爪弾の矛先は、必然、リザードマンへと向けて。

「悪性に染まらぬように、身を正す為にある、規範だ。」

しゅん、と、小さく手首のスナップを利かせ、180度方向ベクトルの変わった爪弾が飛翔する。
必然…向かう先は、最初にそれを放ったリザードマン。

「……勧告拒否と認識。これより鎮圧に入る。」

そして、その爪弾を追跡するように、一息に黒いジャケットの風紀委員が距離を詰める――。

カタストロア >  
受け止、不可、投げ返───
咄嗟に両腕を交差させる。
左腕に刺さる鋭爪。ライトグリーンの鮮血が吹き出る!

駆け出してくる、対応ッ相手は反射神経に優れる!
爪弾を投げ返すほどに冷静で、それで!!

カタストロア >  


────ああ、もう面倒だ。


カタストロア >  
チマチマと爪を弾くだの。
相手の言葉にイチイチ反論するだの。

面倒になった。

迎撃に拳を振るった。
それはフォームとしてはテレフォンパンチに分類される。
武術など人のやることだ。
落石も事故を起こす車両もカンフーなど習得してはいない。


だが。
速度と威力は人を血飛沫に変えて余りある。
握った拳の硬度と、音を超える速度で轢き殺す。
至純の暴力。

戮撃。

大神 璃士 >  
大きな予備動作を挟んでの、凄まじい速度を伴った拳。
無論、其処に込められた力もまた尋常なものではあり得ないだろう。
人間一人を遺体すら残さず消し飛ばす位には、強烈な一撃。
獣、否、それ以上の人外の膂力の拳。

だが、それに対抗する為に、人というものは「知恵」を磨いた。
それは時に遠くから敵を倒す為の手段であった。
時に自身よりも力で勝る者に対抗するための技法であった。

故に。
「力」に対抗する為に「技」がある。
「知恵」で以て練られた術技が。

「――――ッッ!!」

音を超える速度と圧倒的硬度を伴った拳に、「返し」の技が繰り出される。
鋭い呼吸からの、逸らしの一撃。
迎え撃つのではなく、ベクトルを逸らし、放った者の意識を混乱させて隙を作り出す技。

無論、圧倒的な質量の一撃である。只の身体の動きだけで逸らせる筈がない。
だからこその「技法」もある。

逸らしの技が入れば、そのタイミングで炸裂するのは圧倒的な「力」。
生命力を力へと変えて放つ、「波動」を用いた力と技の融合。

――無論、迎え撃った男も決して無傷では済まない。
音速突破の拳が伴う衝撃波(ソニックブーム)が、頬に傷を作り、逸らしの一撃を
放った掌にも小さくない負傷を与える!
それでも尚、その掌は止まらず――

カタストロア >  
爆発と紛う炸裂音。
カタストロアの上半身の服が襤褸切れになり、
両者を中心に球形にエネルギーが弾けた余波が周辺の車両を揺らす。
割れる周辺の窓ガラス、降り注ぐ鋭利な雨。

盗難防止アラームがけたたましく鳴る中で。


カタストロアの切れた尻尾が一度だけビチ、と動いた。

「あーあ、服も尻尾も台無しだぜ」

獣性のまま放った拳が逸れた瞬間、胴体の前に靭尾を差し込んだ。
それで辛うじて防御が成立した、という形になる。

「やはり何があろうと名前を聞いておくべきだった」

切れた尾、ボロ屑になった服、そして。
向こう側が見えるのではないかと言うほどに穿たれた胴。
眼前の男に囁くように語る。

「今後の楽しみのためにな」

流れる血が徐々に赤に。いや。
不自然なまでの真紅に変わり始め。

直後に援護射撃が横からリザードマンのコメカミを撃ち抜く。

「ったく……無粋だな」

頭蓋は、銃弾を通さなかった。
すぐに血液の変化は止まり。

「お前はまぁまぁ楽しめそうだ」

そう言うと跳躍した。
満月に身を翻し、どこまでも跳ぶ。

数十分後。
緑の濃血の痕跡は拉げたマンホールの蓋の前で途切れていた。