異邦人街の落第街境界付近に学園草創期から存在するアパート。
不自然なほどに家賃が安く――
概要(クリックで展開)
怪異や妖怪がアパート内部で出現し、霊障や心霊現象なども頻繁に発生しており、このために「怪異を封じたアパート」「化物集合住宅」などと呼ばれることもある。
まさしく事故物件的集合住宅であるといえるだろう。
日本の極めて古風な二階建てアパートといった外観をしているものの、これは祭祀局と万妖邸内部による偽装結界による虚像であり、実際には混沌とした多層構造を持ち、頻繁に内部が変容し新たな部屋が生成されるなどの「妖怪屋敷」「幽霊屋敷」的性格を持っている。
住人の多くは妖怪や悪魔、吸血鬼、異世界の亜人種などであるが、人間の住人も存在する。
頻発する怪異の出現や霊障などに対応することさえできれば、人間であろうと問題なく居住が可能である。
正規学生・教職員も二級学生も区別・差別なく受け入れており、居住において出自を問われることはない。
万妖邸に仇なすような存在でなければ、住人として居住すること自体は容易である。
アパート内の管理は「管理組合」の複数の「管理人」によって行われているものの、住人の自治性も強い。
部屋の改造やアパート内の増築・改築も許されており、住人による自由な改造の結果、建物内は極めて混沌とした状態となっている。
結界の外から見れば二階建の建物であるものの、上述の通り実際にはそれ以上の階が存在している。
万妖邸の「公式」の共用施設・設備は1~3階であり、談話室や食堂、大浴場、遊技場などが存在するものの、実際にはこれらの階層以外にも共用設備・施設は作られている。
地下最下層にはとある「要石」を擁する空間があり、「要石の間」と呼ばれている。
万妖邸そのものがこの要石と連動する形で、この土地の極めて危険な「門」を封じ込めており、「管理人」や一部の住人によって封印が常に行われている。
封印された「門」の向こう側から出現しようとする危険な怪異が「要石の間」に出現することもあり、その際は「管理人」や住人達による戦いが行われることとなる。
無許可で作られた違法建築であるが、とある理由により常世学園との間に協定を結んでおり、学園による撤去を免れている。
【PL向け情報】
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概要(クリックで展開)
怪異や妖怪がアパート内部で出現し、霊障や心霊現象なども頻繁に発生しており、このために「怪異を封じたアパート」「化物集合住宅」などと呼ばれることもある。まさしく事故物件的集合住宅であるといえるだろう。
日本の極めて古風な二階建てアパートといった外観をしているものの、これは祭祀局と万妖邸内部による偽装結界による虚像であり、実際には混沌とした多層構造を持ち、頻繁に内部が変容し新たな部屋が生成されるなどの「妖怪屋敷」「幽霊屋敷」的性格を持っている。
住人の多くは妖怪や悪魔、吸血鬼、異世界の亜人種などであるが、人間の住人も存在する。
頻発する怪異の出現や霊障などに対応することさえできれば、人間であろうと問題なく居住が可能である。
正規学生・教職員も二級学生も区別・差別なく受け入れており、居住において出自を問われることはない。
万妖邸に仇なすような存在でなければ、住人として居住すること自体は容易である。
アパート内の管理は「管理組合」の複数の「管理人」によって行われているものの、住人の自治性も強い。
部屋の改造やアパート内の増築・改築も許されており、住人による自由な改造の結果、建物内は極めて混沌とした状態となっている。
結界の外から見れば二階建の建物であるものの、上述の通り実際にはそれ以上の階が存在している。
万妖邸の「公式」の共用施設・設備は1~3階であり、談話室や食堂、大浴場、遊技場などが存在するものの、実際にはこれらの階層以外にも共用設備・施設は作られている。
地下最下層にはとある「要石」を擁する空間があり、「要石の間」と呼ばれている。
万妖邸そのものがこの要石と連動する形で、この土地の極めて危険な「門」を封じ込めており、「管理人」や一部の住人によって封印が常に行われている。
封印された「門」の向こう側から出現しようとする危険な怪異が「要石の間」に出現することもあり、その際は「管理人」や住人達による戦いが行われることとなる。
無許可で作られた違法建築であるが、とある理由により常世学園との間に協定を結んでおり、学園による撤去を免れている。
参加者(0):ROM(1)
Time:16:38:44 更新
ご案内:「万妖邸・霽月之室」から緋月さんが去りました。
ご案内:「万妖邸・霽月之室」からネームレスさんが去りました。
■緋月 >
「――武の道であれ、表現の道であれ。
決して、楽しいばかりで済ませられる事ではない、ですね。」
図らずも、その言葉にかつて星の骸に見せられた夢想の事を思い返す。
己に向き合うという事は、きっと、そうした弱い所や醜い所とも向き合っていく事、なのだろう。
己以上に「創る者」として自身に向かい続けて来た血の色の髪のひとならば、
それを厭という程思い知っているのだろう。
それでも、思い描いた理想の己を標に、弛む事無く挫ける事なく歩き続ける様は、さながら苦行の道行く
求道者であろう。そういう面では、修行というものに通じるものがあるのかも知れない。
「ええ、約束します。公演を見た時は…先達から何かを学び取る機会だと思う事にしますよ。」
心が折れるのは”楽な方”だ。そんな簡単な末路を選ぶわけにはいかない。
例えどれだけ遠く大きく、高い壁を見せつけられる事になっても、其処から学び、得る所は必ずある筈。
ただ見上げているばかりではいけない。飢える事を忘れないようにしなければ。
そんな風に心を引き締め直した所で、耳に届くのは、祝いの言葉。
修行、また修行の日々で、すっかり忘れ去ってしまった生まれた日だが、それでも生まれた事を
祝って貰える事は、少しばかり面映く、それ以上に嬉しいものだった。
「………ありがとうございます。」
短くそう返事をすると、ゆったりと眠りに向かう隣のひとに向けるように、もう一度、中阮の音色を震わせる。
心なしか、その音色は先程よりも深く、穏やかに聞こえた、かも知れない。
買ってくれたケーキは、明日の朝にでも一緒に食べる事にしよう。
一度練習に区切りをつけ、己にもたれて眠るひとを小さく眺めてから、
着物の少女はそんな事を思うの尾だった。
■ネームレス >
「自分以外のだれかにふれることで、自分は豊かになっていく。
それがたとえ、痛みをともなう出会いを繰り返すのだとしても……」
愛別離、怨憎会、などと言うのだっけ。
そんなことをぼんやりと覚えていた。あの、絵。"苦"の連作を鑑賞する際に、八の苦まで学んだ気がする。
要するところ、刺激を得ることで、変わる――成長するのだ。
「……対面した自己の、悍ましきを目の当たりにするとしても、」
たとえば幼少、弱く、賢くなかった自分――あの海辺の街、過去の姿で見せた" "であったり。
あるいは、あの星骸に見せられた、"家族と仲良く過ごす自分"というif――緋月という少女の中にある弱さであったり。
自己との対面というのは、醜い部分にも直面してしまうことだ。
そうやって、歌ってきた。戦ってきた。それだけの話。
「理想の己を、空に瞬く星よりも確かな道標として」
それを失ってしまわなければ、穢してしまわなければ。
変わりゆくことは悪いことではないはずだと、静かに。
「……日本語は難解でややこしいケド」
この存在が歌うのは、すべて英語だ。
「"音楽"という言葉、とても素晴らしいと思う」
見合わせた瞳をゆっくりと細めて、硬い指先で、少女の唇をそっと撫でる。
「ずうっと先になるだろうけど、言ったからには聴かせてくれよ。
……そのまえに、ボクの公演を観て、心が折れちゃわなければいいケド」
そして、目を瞑る。
彼女によりかかって、眠るのだ。間近に迫る公演のため。
「練習、してていいからね。朝は起こしてあげる……」
異端であれ不器用であれ、理想を目指して足掻く欠けた者を、肯定する。
表現を音楽に宿すなら――
「…………Happy Birthday to You……」
祝されるべき生誕である、と。
自分だけは揺るぎなく。
茜色に色づく季節、ちょうどそんな日頃だった。
冷蔵庫のケーキ。コートのポケット。
誕生日を祝す、とても有名な歌。
意識が途切れるまで、静かに口ずさんでいた。
■緋月 >
ぞく、と、背筋が震える。
恐怖ではない。これは恐れに非ず、畏れだ。
まだまだ日が浅いとは言え、楽器と言うものに触れ、音を楽とし、形にする事に触れた事で、「それ」を
感じ取る事が、今、出来るようになった。
ただ「それだけ」で、曲を奏でるように、震わせ、響かせられる。
その強さと美しさを、其処に至るまでに重ねた研鑽の重さを。
今だからこそ、より強く実感できた。
(………凄い。)
ごくり、と思わず唾を呑み込む。理解できるからこそ、畏れを抱き、そして尊び敬う事が、出来る。
思わず飛びかけた意識が、「回答」を耳にして戻って来る。
決して長くはない言葉、しかしそれを理解する強さのある言葉であった。
「自己との、対面――――」
手が重なる。自分のそれとは異なる固さを持つ手だった。
指先の固さも左右で違っている。今ならそれが「奏者」の手だと、実感を持って理解出来た。
「……私は、」
少し掠れた声で、言葉を口にする。
「此処に来るまでの間に、「自分」はただ…常識の中でも異端であるあの郷に在っても尚、「異端」であると…
ただ、それだけを「自分」だと、思っていました。
抜かれれば斬れる、刀の刃のようなもの。それが、自分だと。」
その意識は、完全には消え去ってはいない。
己の根本は、やはり刃なのだと。異能そのものがそれを現していると。
「だけど、」
しかし、それ故に。
「常世島に来て、あなたや椎苗先輩、あーちゃん先生…他にももっともっと、沢山の人と会って……
世界は、自分が思ったよりも広いんだって、思うようになりました。
この島ひとつでも…まだまだ広すぎる位に。」
右手の指が、弦をひとつ弾く。妙に響く、よく通る音。
「阮をはじめて弾いた時、「楽しい」って、思いました。
きっと、以前の私だったらそれを「無駄」だと思っていた。」
ほんの少し、ネックを握る左手に力が入る。
「あなたの言う通り…私は、自分が知りたくなったのかも、知れないです。
昔は「無駄」と思っていたかも知れない事を「楽しむ」ようになった…自分が、不快という訳ではないですが、
鏡に映る顔がいつの間にか、知らない内に変わっているような、そんな気がして。」
其処までを言葉にして、大きく息を吸って、吐く。
少し緊張が解れたのか、血の色の瞳が黄金の瞳に向けられる。
「……こういう楽器を弾いてると、弦を押さえる方の指の先が固くなるんですね。
今まで知りませんでした。」
まるで新しいものを見つけた子供のように、小さく笑う。
■ネームレス >
「ボクが目指す理想は、そういうものだからね」
まえに言ったろう、と。
目を閉じたまま、緩やかな声が流れる。
そう静かに呟いただけなのに、そこは確固たる決意がある。
自分はそう生きるべきなのだと定義した、揺るがぬ芯がある。
静かな一言のなかに決然とした響きが混ざる。
――それが。
それ自体が、表現の業であった。
空気の振動で鼓膜を、骨を震わせ、響かせる。
この存在そのものが天上の楽器であり、歌でもって表現する。
骨身に、魂にまで染み付いた技術であり、生き方。
存在証明。
「ボクが思うに」
世界の真理ではなく――、と、彼女の言葉を受諾する形で。
「やり方なんて十人十色だし……意識も方法も人それぞれ。
それに商業とか絡むと、単純な話じゃなくなるケド。
ボクは――自己との対面こそが、その大原則だと考えている」
自分というひとつの世界を、現実や他人という異世界にむかって出力するという行為。
それが、己を彫り込み、確かにするという一連のプロセスが成す奇跡だとすれば。
「まるで、星の位置がぴたりと揃うように……
ちょうどいい手段が、そこにあった」
ネックを握る手に、その手を重ねた。
大きさでいえばふたまわりは優に大きく、指の長さも確かだ。
右と左で指先の固さが違っていた。なぜ左だけが硬いかは、今となってはよく知れるだろう。
「キミは、自分のことも識りたくなったんじゃないか」
ボクに飽き足らず、多くの他人に飽き足らず。
あるいは最も謎多き隣人である、己のことさえ。
■緋月 >
「ぐぅ。」
痛い所を突かれて思わず潰れたような声が出てしまう。
まあそれも自分の業なので、もっとこう手心とか、などと甘えた事は言えない。
「何のために…誰が為に、ですか……。」
違う女の子が誰かについて突くのはやめておいた。
というか、出来なかった。血の色の髪のひとが語った言葉は、己に向けての問い掛けにも
聞こえる所があったからである。
「向ける方向性の違い、ですか。自分だけの為、内へ内へと…あなたは、確かに外へ外へと、
世界を覆い尽くそうとしてしまいそうに広がっていきますよね。」
冗談、などではない。時間をかければ、文字通り世界を覆い尽くすのではないか、と
思えてしまえる「何か」を、時折感じる事がある。
「……今の私には、むつかしい問題ですね。
その答えは、「創り出す人」の数だけありそうな気がします。」
変に勘繰ったり、頭を熱暴走させず、感じた事を素直に口に出す。
その問いに胸を張って答えられる時は、自分が曲りなりにも「創造する者」となった時、のような気もする。
■ネームレス >
「うん。人にははっきり言葉にしろって言うくせにね」
頷いて思い切り肯定した。微笑んだまま。
最初から器用な生き方など期待していない。出会った時からそうだったのだから。
「…………。
前に……、あっ、違う女の子の話になるんだケドね?」
彼女の言葉を、情念を、間近で見つめた後に。
何かを言おうとして、慌てて一応、補足をした。
――違う女の話をして刺されたことがある。
「表現は何のために。芸術は誰が為に。
その子は、自分のため……自分だけのものとしていた。
ボクとは違うひとだ。世界にむかって解き放ち、交わろうとするボクとは。
……それがすごく刺激になって、いまも胸に棘みたいに刺さってる」
少しだけ力を抜いて、しなだれかかった。
彼女によりかかりながら、ぼんやりとした声で。
「創造の大原則って、なんだかわかるか?」
■緋月 >
「――ありがとうございます。」
ただ一言の、穏やかな労い。返すは、ただ一言の素直な感謝。
楽器と一緒に来るように声をかけられれば、しっかりと中阮を抱えて素直にそちらに向かう。
そうして、二つの問いをかけられれば、軽く首をかしげて小さく思慮。
「…さっきの話題を蒸し返す形になりますけど、今の曲は言ってみれば「手段」なんです。
この曲を、つっかえる事が無い位にはしっかりとこの子を弾きこなせるようになりたい。」
その為の、練習曲。勿論、これだけを練習し続けるだけでは駄目だというのは理解はしているらしい。
そういう意味では自分に課したひとつの「課題」とも言えるのかも知れない。
「私は……何て言うか、言葉で何かを表現するのが、下手くそなんですよね。
最初にお店で試し弾きをさせて貰った時……自分の手で、音を出して、それが拙くても、ひとつの形に
なっていくのが…そう、面白いと、思ったんです。
もっと、この子を弾きこなせるようになれば…言葉に出来ない、何かを…自分の手で、
音として、形に出来ないだろうかな……と。」
今はこの通り、まだまだよちよち歩きですけれど、と苦笑い。
だが、その目だけは笑っていない。
まだまだ、此処で止まれない。どうすれば、もっとよく音が出せるか、詰まらずに形に出来るか。
飢えにも似た光が、小さくも確かに、燃えている。
■ネームレス >
(……加工が難しい黒檀を、こんなに細緻な狼面にね……)
見たところ、メーカーロゴのようなものもないし、一点ものか。
生臭い話になるので、あえて口には出さないものの。
職人の手筋を感じる。質流れか、あるいは……手放さざるを得なかったもの、とか。
いくらでも推測はできる。
――だが。
その来歴に、意味はなかった。付随する価値でしかない。
楽器の真価を問うならば、如何なる音を奏で、空気をふるわせるか。それだけ。
「そこらへんはセールストークの上手さもあると思うケド――ふふ。
なんだったら、名前でもつけてみるかい?、――」
そんな軽口も、阮が構えられれば自然と閉ざされた。
口を挟むこともなければ。
彼女の手がとまるまで、黙して清聴した。
その間、視線はずっと注がれたまま。
「おつかれさま」
拍手はなく、賞賛もなく、穏やかに労った。
「おいで」
ぽんぽん、とベッドの隣を叩く。
「阮も一緒に」
置いて、ではなく。
「いまの、独奏用の曲だよな。
……それを、弾けるようになりたいの?」
柔らかく、穏やかに、微笑んだまま問いかける。
首を傾ぐ。その曲のために、阮を買ったのか。
それとも、単に教本に書いてあったから、弾いてみているのか。
その先になにかを見ているのか。
「それとも、なんか表現したいことがある?」
■緋月 >
「弦を、ですか。」
言われれば、確かにしっかり張ったままだ。
構造も似ているのだし、恐らく保管方法もギターと似た所があるだろう。
「今度から気をつける事にします。締め直す時の、調律の練習にもなるでしょうし。」
アドバイスを素直に受け入れると、ケースの中から中阮をそっと取り出す。
「そんなに、ですか…。確かに随分と良いお値段ではありましたが、それなら納得です。」
美しさを求めるが故に伐採され続けた植物。
絶滅に瀕したというならば、成程、その価値が値段に、同時に希少性に跳ね返る事は何らおかしくはない。
思い出せば、確かにこれと同じような深い黒の阮は売っていなかった、と思わず言葉に出て来る。
「ありがとうございます。まあ、朔がやたら強く推して来たし、店員さんにも勧められたので。」
似合っている、という言葉を貰えれば素直に小さく微笑む。
この深い色と狼の彫刻は、何だかんだで少女も気に入っているものだった。
「勿論ですよ。ただ見せびらかすだけじゃ、楽器が可哀想でしょう。」
姿勢を正し、丸い胴体が滑らないような姿勢を取って、演奏の構え。
ふぅ、と大きく大きく息を吐いてから、左の手が棹を滑り、右の手が4つの弦を震わせる。
曲、というには少々拙い雰囲気。だが、揺れ、震える弦が、確かにひとつの形を見せている。
アコースティックなギターに似るが、何処か異なる音色。
激しさはなく、どこかゆったりとしたペースの曲調。
夜の水面に揺れる、花を思わせるような。
「……ふぅ。」
一段落つくと、緊張からか大きく息を吐く。
「時間がある時に練習はしてるんですが…分かっているとはいえ、一朝一夕には上達しないものです。
ましてや、自力で何かを表現する、となると……曲を作れる人がどれだけ凄いかを実感してしまいます。」
教本から学んだ簡単な練習曲、らしい。
まあ、詰まる所、音と言うもので自分が表現したいものを表現する難しさ、というものを
痛感していると言う所であった。
■ネームレス >
「なぁんだ。違うの」
あてが外れるや否や、唇を尖らせて拗ねてみせた。
――顔に何発も喰らった時よりは軽傷ではあったが、流石に無意識に頭をさすってしまう程度には記憶に残っているらしい。
あれから無茶はしていないが――時折やはり幻覚に沈む意識は、安定とは程遠いのだけれども。
手伝えることは手伝って、ある程度の身支度も終えた後。
ベッドに腰かけて、封を解かれた楽器を一瞥する。
「弦を……」
開口、一言。
「しまってる間は、少し緩めといたほうがイイかもな。
あんまり緩めすぎても良くないケド……」
じぃ、と目を細めて……。
「黒檀の切り出しなんて、また豪勢だな。
こんな綺麗に真っ黒なの、今じゃそうそうお目にかかれない」
21世紀前後、この美しい黒を求めて伐採され続けた木材のことを語る。
大変容を経てなおどうにかたくましく生き残ってはいるものの、絶滅に瀕した種なのだと。
視線はそこから躯体から琴頭に。
量販されている型では――なさそうだ。中国に狼形の神格はいただろうか。
由来は定かならずとも、なるほど運命的な出会いではあったのだろう。
「クールだね。キミたちによく似合ってる。
見たトコ反ったり割れたりもしてないし、状態も良さそうだ。
へんなものを掴まされたワケじゃなさそうだよ。大事にしなね」
そして、首をゆっくりと傾げた。
「……それで?ただ見せびらかしたかったってワケじゃないんだろ?
いや、ボクなら見せびらかすケド……キミはそーゆーんじゃないし、な……?」
■緋月 >
「うーん、そう言われると少し困りますね…。」
お箸を止めて軽く首を捻り。
「私が修めている技も、結局は「常で斬れないモノを斬る」事を証明するための、言ってしまえば手段ですし。
今では伝承の方が主眼になってる事は…まあ、否めませんけれど。」
風を、流れを、空を――ひいては神を。
斬る事が出来る、と証明できても、後代に引き継げなければ、それはなかったも同じになってしまう。
そういう意味では、元々「手段」であったものを伝え、継ぐ事が「目的」になってしまっている事は否めない。
逆転してしまってますね、と苦笑するように言葉にする。
「うーん、確かにあなたが音楽家として、楽器を演奏する者として、尋常ならざる実力者だとは
理解しているつもりではありますけれど…。」
あまりに自信たっぷりに言うものだから、ついつい苦笑してしまう。
「…どちらかというと、暫く前…ほら、夏に大目玉喰らわせた一件があったじゃないですか。
あの時、お仕事だとはいっても、下手したら危ない事になってたのに、しっかりギターを持って帰って来たのが、
色々と印象に残ってまして。」
怒られた本人には文字通り頭が痛かった一件であろう。
危ない真似をした事には怒ったが、それと同時にそこまでして安否確認の為にギターを持ち帰って来た事、
ひいてはギターの元の持ち主がそれを手放さなかったであろう事が、少なからず気にかかったらしい。
「ああ、それは――っと、ご飯を片付けてからにしますね。
デザートは、お話が終わってからで。」
流石にまだ食事の真っ最中。此処で持ち出す程はしたない事はしない。
そんな訳でご飯を食べ終わり、食器を下げてから、改めて部屋の隅に立てかけていたケースを
大事そうに持ち出し、その蓋を開く。
「阮咸…今だと略して、阮と呼んでいる、大陸の方の楽器だそうです。
これは大きさが3種類あって、丁度真ん中の中阮と呼ばれるものだそうで。」
開いた中から出て来たのは、何処かギターに似た雰囲気の楽器。
丸い胴部に空いた音孔は三日月型。側板や胴部から伸びるネックと言っていい部分は黒檀でも使っているのか、
黒に近い暗い色が特徴的だった。
弦は4つ、特徴的なのは狼の顔の形が彫り込まれた琴頭。
ちょうど、少女の内なる友人の元々の形を想起させる…というか、恐らくその本人が
その装飾を気に入ったのだろうと推測できそうだ。
「何となく、ギターに似ていたので…つい気になって、買ってしまったんです。
店員さんに勧められたり、試し弾きをしたのもありますけれど。」
■ネームレス >
「どーなんだろ。いままではこんなコトなかったから。
去年の夏……あたりは、スランプを感じてたんだケド、むしろ逆で……なんていうのかな」
特有かというと、ありふれているのか、自分だけなのか。
悩ましい顔をしているあたり、何かをすれば解決、というわけでもないようで。
「技術は手段でしかない――……なんてボクごときがいうのは、烏滸がましいかな」
戯けたように。彼女の剣は理外に足を突っ込んでいるように思えている。
武術のことなんてさっぱりよくわからないが、剣を振ってれば彼女が望むようになるというものでもないのだろう。
そんな単純作業の連続の末に斬られてしまっては困るというのもあるし。
「見てない。ていうかお風呂から上がって気付いた」
スプーンですくったスープの、温かさと滋味を味わう。目を伏せて答えると……。
「いやぁ――――」
やけに上機嫌そうに、唇が緩んだ。
「そうだよねえ、素直に言うのは恥ずかしがるよな、キミは。
でもそれはしょーがないコトだ。必然といっていい。このボクが間近にいるんだもん。
極星へのあこがれをこじらせて、とうとう、楽器をその手に取ってしまったんだよなッ?」
まいったなぁ、と言いたげに自信満々な振る舞い。
だいぶ思い込みをたくましくはしているものの――
「イイんだよ。欲しいって思って、それ買えるなら、買っちゃえば。
ショーウィンドウのむこうの憧れに、遠慮とか気後れで手を伸ばさないの。
そっちのほうが気持ちの無駄遣いじゃないか?」
そんな言葉は、実感の籠もったもの。
はじめて買う楽器。それはとっても大事なものだと。
あんまり無駄遣いしないタイプの少女が、衝動に身を任せた結果を、これは是とした。
「……でもこれギターじゃなくない?なに?」
首を傾げる。もちろん小型ギターなんていうのもバリエーションとしてはあるが、
それにしてはどこかずんぐりしたケースのシルエット。
もしかして買うものを間違えてしまったのだろうか――
■緋月 >
「ああ…つまり、表現者・創造者特有の悩み、というものですか。」
奇しくも以前、あの濁水の竜との戦いの真っ最中に目の前の人が口にした言葉と似たような言葉。
勿論、そんな事が身体を共にする友人と目の前の人物との間で交わされていたなどとは知らない。
その周辺の事は大雑把な説明だったので省かれていた所である。
「昔だったらさっぱり分からないですけど……今は…どうなんでしょう。
烏滸がましいかも知れないけれど、少しばかりは、分かるような…そんな気がします。」
環境を変えて気持ちを一変させたいといった所か。
かく言う少女の方も、行き詰まる事があれば少し修行などから外れて気を休めたりしているため、その辺は
似たような所であるとも言えなくもない。
「それで突然、お風呂を借りに来たと。」
はむ、と餃子を一口。辣油とポン酢が合っていておいしい。
ちらちらとハードケースに視線を送られているので、流石にちょっとばつが悪い雰囲気だが改めて口を開く事に。
「………その、何と言いますか。
この間、帰り道で偶然、異邦人街にあった楽器店を見つけて…「お仕事」のお給金もありましたから、
つい…買ってしまったんですよね…。」
衝動買いで高い買い物してしまって気まずい雰囲気の子供のような調子で、そんな事を口にする。
「……まさかとは思いますけど、中、見てないですよね?」