異邦人街に設けられた、信仰のための地区。
異邦人たちが携えてきた信仰などを守るため、異邦人たちの信仰に合わせた宗教施設が立ち並んでいる。
また、この世界の宗教施設もここに多く並んでいる。
その宗教や信仰によって当然ながらその礼拝の仕方なども異なるため、施設は多種多様である。
祭祀の実行などは信仰を持つ者たちに任されている。
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Time:05:57:29 更新
ご案内:「新トリニティ教会 - 全世界大変容追悼式」からネームレスさんが去りました。
ご案内:「新トリニティ教会 - 全世界大変容追悼式」から藤白 真夜さんが去りました。
■藤白 真夜 >
「……そっか」
問い掛けが正解しただとか。
はじめて見るやられ顔にしてやったりだとか。
それでもやっぱり挑むことを続ける精神性だとか。
そのどれも、ヨかったけれど。
一番は、やっぱり……ここにはもう無いなにかを、想う姿。
それが誰かとか、なにかとか、聞こうとはしない。知ろうとも。
ひょっとしたら……世界と時をも飛び越えた先の、だれか。
その想いは……決して、永遠に、届くことはない。
……だから、綺麗に思えるのだ。
少し、羨ましいくらいに。
真夜ならともかく、わたしじゃこうはいかない。
交わらない認識。だからこそ見えるキレイなものを、わたしは信仰しているのだけれど。
「……へ?
うわぁ~……それ結構タイヘンだ……。この島に閉じ込められてるから、なんだけどなぁ。
……まぁ、いいや。鎖を外す──とはいかないけど。いざとなったら悪いコトするから」
そっちのほうが大事……とは言わないけど。それくらい、魅力的な罪のりんごであることにはまちがいなかったから。
「……ん。
よく生きてて、えらい。……次の一年も、ね?
踏み外したくなったら、いつでも待ってるから」
あれだけの熱量で、死を覚えている。ずっと、意識してる。じゃあ、あるはず。まだ、その願いが。
永遠に届かない別離。それを終わらせる唯一の方法は──
……まあ、目下島を出る方法を慌てて考えるくらいには、その線は望み薄なんだけど。
「ちょっと早いんだけどなあ。
でも、ぼんやりふんわりなつもりだったのに……すごく、綺麗なものが見れたきもち。
……ありがとう」
手と手を重ねる。ほんのすこしの、熱。でも、もっと熱いものを確かに感じた。
「──おやすみなさい。
あかい川の底まで、夢が届きますように」
一年も、あとすこし。
でも、そんなお目出度いものはわたしの中に無かった。
いつか見れる、その夢を……心待ちにして。
■ネームレス >
問われてみると。
「……………………」
眉根を寄せて、瞼をさげて、黄金瞳がじっとりとその顔をみつめる。
端的にいえば……ものすごくいやそうな顔をした。はじめて見せる顔だ。
そして、肩をわかりやすく上下させて……ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
正解だと、このうえなく正直にその顔が語っていた。
美味しくいただかれると考えると、ちょっとおもしろくない。ふんだ。
「いまのボクならと思うケド、その反面。
まだ、理想には届いていないだろうから――どうだろうね」
あのとき。
はじめて歌った、路地裏の記憶。
そのとき問いかけたこと。求めたもの。この存在の根幹ともいえる餓え。
「けっきょく、ずっと埋まらない空白だ。
後悔と痛み――絶望もまた、ボクを形作る構成要素なんだ。水のように。
その大切なひとたちのかたちをした虚から、ボクは力を引きずり出してる。
……なにせ、キミが尊ぶ死に様すら、ボクは知らないままなんだから」
気づかぬうちに、離れているうちに、死んだという事実ばかり。
慰霊碑に刻まれた他人事のように、事実が伝えられただけ。
交わしたい言葉も、聴かせたい歌も、問いたい疑問も、もう届かない。
死は永遠の別離であり、剥奪だった。
決着などつけられようはずも、ぬぐえようはずもなかった。
傷口から血が流れ続けて、停まらない。生きているから。血はめぐるのだ。
殺し甲斐のある人間でありたい。そのために磨き続けられた魂だった。
ずるいよ。
そう、誰かに向かって、叫ぶような。
ずっと、ずっと木霊している。
その有り様が、より愉しませてしまうのか。
食まれるばかりのリンゴであるのは、悔しくもあった。
「………そういえば。あっちで一位獲ったから。
死に様を観るためには、海を超える覚悟が要るよ」
さらりと。まぁ別に不安はなかったけど?当然の結果ですけど?みたいな顔をして、
差し出された手に対しては、どこか得意げな様を見せるものの。
それを問うのは、殺人鬼にだけ。
どこまでも追いかけてきてね、という我が儘だ。鎖に繋がれている相手に。
「うん、また会おうね。
あれからいつでも死を感じてはいるけれど……
やっぱり、ホンモノには敵わない」
手を、――重ねた。
手のひら同士をあわせる。ぐっと押しやって、指と指を組む。
いまはそれをつなぐナイフはない。サイコなシュミは、ちょっと場違いだから。
「おわかれの言葉は、あれがいいな」
とても優しい、あの言葉。
この殺人鬼をみて生まれた歌。
きっとそろそろ、おねむの時間だろう。
■藤白 真夜 >
「……ふふ。わたし、少食だから。
メインだけあれば十分なの」
叫ぶような沈黙。聞こえない怒り。照れ隠しみたいな微笑。
その全部、立派にメインディッシュだった。
「……そっかぁ。ちょっと意外だったの。
嫌な言い方だけど……あなたに、そんな余裕あるのかな、って。
死者を悼むような、余白」
もっと……前だけを見て、進んでいく存在に成れている。
ノーフェイスの、……名前を捨てた彼女を、そう信じていた。……強いところばかりではないことくらい、わかっているつもりだけれど。それを押しやる完全性を、身につけていると。
でも、違った。
「でも、違ったんだね。
……当てよっか?
──『ボクのうたを識る前に死ぬな』……じゃない?」
想像よりも、もっと前を向いているからこそ、その喪失を悔やむことが出来る人間。
ただ、過去を振り返るような追悼ではなくて。前を向きながら、どうしようもなく切実に、自分の世界だけをみれるひと。
死を、終わりではなくて、機会の損失と捉えられる強かさ。それだけならただの冷血漢だけれど、あの怒りがそれを否定する。
「…………あ」
一瞬、きょとんとした。──今、別の女のこと考えなかった? なんて、詰め寄りそうになるくらい、硬直してから。
……酷く、親しんだ感情に触れた、気がする。
やわらかい微笑みと、全く別のもの。でも、ちがう。……わたしにそれは、酷く甘いものとして届くから。
「……ほんとぉ? 葬式で再会を祝うなんて。ほんとにホラー映画みたい。サイコパスが出てくるやつ~」
だから、ちょっと拗ねた。
だって、それ別の女宛てだから。ふくざつなきもち。
素直に嬉しいのと、露骨にうれしいのと。
なのにわたしに届いてないのも、それをカンジれることも。……ぜんぶ。
──だから、見つめ返した。
優しさとか甘さとか、どこにもない。す、と目を細めて。
あの微笑みは、ただの“煽り”。さっきの意趣返しだもん。
「ううん。また会おう、よ。
……でしょ?」
それは、ただ求める瞳。
自分の知らないものを、自分の求めるものを。
……私に無いものを、与えてくれるものへの感情。
「……ほら。やくそく。
再会の」
そんな感情は、す、と引っ込めて、……代わりに、握手を求めるように手を出した。
……にっこり。受けてくれるでしょ? って。
■ネームレス >
「さてね」
なんのことだか、と誤魔化した。
――可能性には思い至っても、あのとき殺人鬼は自分に語りかけてきたが、
自分からは、そうした干渉をした覚えも、覗かれた自覚もない。
なにが視えた、と問い質す藪蛇は、すくなくともいまではない。
……つねに頸を狙われてるとわかったうえで、晒している。いまはタイをきっちり締めてはいるけれど。
狡猾な蛇よろしく、その牙が剥かれた時に応じられるかは――いまは、判らない。
「現地人だよ、ボクは」
そりゃ詳しいさ。
いまでもメモリアル・デーはあるだろう。
戦没者のなかに、第三次大戦と電流戦争の兵役のぶんが書き加えられた違いはあれど。
――明らかな韜晦だった。
「近代国家、なんてモノになってからはデメリットのほうが明らかに大きい。
成すならばテーブルの上で――なければ、ならなかったんだけど。
まあ、やりたくてやる戦争ではなかったんじゃないかな、どこも、だれも」
それでも無為にせぬように、人々が歩んできた時が今なのだろう。
そのあたりは、わからない。戦争についてはともかく、当時のことは想像で推し量るしかない。
いま悲しい顔をしたって、それはきっと、傲慢で白々しいものだから。
「…………今晩のおかずにでもしてくれるの」
覗き込まれた顔は、いつもほど演技がうまくなくて。
つくったような冷静さが張り付いていたから、傘をさしていたのだ。
まだ、未熟だった。十代のこどもは、割り切れない感情を武器にするモノは。
少しだけ、沈黙のあとに、くく、と肩を震わせた。間髪入れず、
「ずっとだよ」
遅れて、さっきの問いに応えた。
「忘れたことなんてないよ」
だから、思い出すということもない。
視線は、葬列に。静かに、しかし、現在を見つめていた。
憤懣もなにもかも、その益体のない感情を蓄積し続けながら。
「ボクにとって死や喪失は公平でも平等でもない。
いまこのとき、どこか遠い国で誰かが死んでも、どうでもいいことだ。
第二次世界大戦のときだって―――第三次世界大戦のことだって。
けっきょく、ほとんどの死者が、他人だから。
ただボクは、ボクが想うのは、ボクの認識から……
永遠にいなくなってしまったひとたちのことだけ」
きっと、誰かが忘れて押し込んでしまっているもののような。
きっと、今すぐ忘れて前を向いて生きていくほうがずっと楽なこと。
でも、自分はきっと、そうして失うまでは――あの葬列のなかにいる者たちと同じだった。
多くの現代を生きる者たちと同じだった。
そして、久しく。
「また会えて嬉しいよ」
無事でいてくれてよかったと。
柔らかく、優しく、甘く。
藤白真夜に、微笑んだ。
■藤白 真夜 >
「……ふふふ。たのしみ。
そっか。……キミにも視えてたんだね」
あの、水底での回想。
それは、忘れてたなんて言ったらそうもなる。
楽しみだけど、それこそ、真夜の問題だ。わたしは、愉しむだけ。
己の過去から来る喜悦が、何をもたらすのか。
絶望するか、超克するか。そのどちらだとしても。
(てことは、わたしが視たことバレてないのかな。
……結構気まずいんだよね、あれ。……相手に倣うか。一番イイとこで──)
悪企みは、そこで途切れた。
まるで歴史の教科書みたいな喋り口に。
「……なんか、詳しくない?」
特段疑うわけでもなく、純粋な感想。実際、この女なら有り得る。とにかく人間としての標準機能がいいところ。素で覚えてる、が説得力を持ってしまうから。
「……でも。そこが人間の……醜いけど、いいとこなんじゃない?」
目前の、細雨にぼんやりした葬列を眺める。
葬式、なんてシステムがそうだ。
そのときだけ、都合よく死を思い出して。ハレとケで、日常と非日常で分かつ──その傲慢さ。
「死を踏み越えていく傲慢さ。
戦争なんてやらなきゃいけないときには、そういうものでも使えてしまえる。
……確かに、綺麗とは言い難いけどね。
醜くても、前に進もうとしてるの。わたし、そこはやっぱり好きかもだ」
生き残ることの意味も。死んだ人間の沈黙も。
死をどう評価して値踏みしようが、気にせず色の無い瞳で見下ろした。どうあったって、過ぎたものだから。
人間の生き汚いところ。そんなとこを見せられるから、すぱっと終わらせたくなる愛しさを、見出していた。
「……ぼんやりしてるのが嫌なんだね。
だから戦争なんて良いことないって言われるんだ」
正直に言うなら、嫌いじゃない。
粗雑に散りゆくそれを、それでも嫌とは言えなかった。言葉のない数多の悲劇があったはずだった。そのどれも。目に見えないほど、小さくなってしまうくらい、遠いものでも。
……想いを馳せるには、十分すぎるほどの華だった。
「……」
目を閉じたカオを、ちらりと見やる。瞳が見えないのに、燃えてるようだった。
「あなたには、ピントがあってるんだ、たぶん。
……今日は、思い出す日なんだよ。死んだなにかを。
あなたのそれも、……わたしからみると、好き」
まるで、焼きごてを押し付けるみたいな、思い出し方。
怒りとともに、刻みつける感情。
何が出てくるかな、なんてつついてみたくもあるけど、……きっとその感情も、いつか音楽に載って聞こえてくる。
だからただ、その燃え立つ祈りのような回顧を、愛でた。目を閉じてるのを良いことに、じ、とその顔貌を覗いて。
■ネームレス >
「……………」
ゆるし、というよりは。
まるで煽るような、蠱惑的な物言いだ。
冷たい炎が、じっとその様子をみつめていた。
「そりゃ、ね――いきなり突っ込もうなんて考えてない。
公演直後くらいブッ飛んでなきゃ、段取りも雰囲気もちゃんとするぜ、ボクは。
普段はしっかり、反応をみたいタイプだもの。
だから、真っ暗なのはあんまりスキじゃなかったりするんだ。
息遣いも音も、それだけでいいものだけど――そうじゃない」
ふ、とこぼれた吐息が、未明の冷気に白く凍った。
「いちばんイイとこを突かなきゃ――」
二度も、三度もやれることじゃない。
そして、他の誰にも譲るつもりはなかった。
藤白真夜は、この手で――
「……さすがにボクもだよ」
苦笑した。もう百年以上前に終戦した大事件である。
文字でだけだ。歴史の授業で習う過去、まさしく歴史だった。
「大変容のずっと前から、合衆国には――
五月の暮れに、戦没者を悼む日がある。ちょうど今日みたいな。
たしか、もっとむかしの……南北戦争が興りだったかな。
……その追悼の日には、式典の会場に真っ赤なポピーをたくさん飾るんだ」
まるで実際に見てきたかのように。
綺麗だったな、とでも言いたげな述懐だった。
視線は、ふたたび弔問の葬列へと。
「……きっと。
第二次大戦から50年以上経った、大変容直前の世界も。
こんなふうに――白々しく悼んでたんだろう。
ずっとむかしに戦没した、多くのひとのこと……
なんとなくそうだったんだろう、って、遠いむかしに、思いを馳せて……」
眼を瞑った。
思い出したかのようにあの事件を悼むのだ。
何の了解もなく間引かれた、世界の半分を。
未来へ歩もうとするこの世界の人類にとって、尊い犠牲だと言わんばかりに
ふざけるな。
「だから……なにも、言えないよ」
あの葬列に対して、好きも嫌いも。
ここで、確かな言葉として、紡ぐことはできない。
だがそれでも、今日が初めてではない――きっと、この島に来てから、毎年。
まるで自傷行為のように。傷をより深くして確かとするように。
瞑目は祈りではなかった。煮立つような感情を、押し留めようとした。
解き放つ場所は墓碑ではない。
それでもまだ、沈黙を雨音に晒してしまう程度には、腹中におさめるには熱すぎる。
■藤白 真夜 >
「──。
……ふふ。
わたしは、こんなだから、単純に考えちゃう。
どうすれば、一番鮮烈になるか」
聞こえた言葉に、不思議な合点がいく。でも、それこそ確証は無い。今のわたしには。だから……、
「ずっと、ずっと、大切に……想って、しまい込んで、大事にしていたものを。
……気づかず、忘れて、足蹴にしてたとき。
それが、一番効くとおもうんだ」
いつか来るとき。……きっと、そう遠くないとき。
その鮮やかな過去までの時間は、彼女に何を与えてくれるのか。
想像したら、口元が緩まずにはいられない。
……どう転んでも、わたしは愉しめるから。
「──花を摘むように、ね。
戦争は……それこそ、義務でしょう?
だからこそ見えてくるものも、あるかもしれないけど」
途切れた言葉の後を繋ぐように、囁いた。
失われるものの美しさと意味を、……。
また、ふと思いに耽りそうになって、我慢する。今はそうではないのだ。
「ん。知ってるよ。
……それこそ、文字として、だけど」
真夜はそういうのをかっちりやるタイプだ。基本、忘れようとしない。
今のわたしは、そういうのをついでに見てるだけであって、ただ情報として知っているだけだった。
■ネームレス >
「忘れもせずに?」
にじみかけた失笑を、乾きかけた喉に飲み込んだ。
……あの記憶が、事実なのだと確証もないのに。
胸に滾る嫉妬と羨望。それを核とするのは、自分の唯一の友人のほうであるのに。
どうしても、この顔と声に掻きむしられる。藤白真夜に。
「キミの芸術だったな」
彼女の、彼女自身――あるいはその死との間にある、もの。
自分だけの灰色の空間。殺人鬼の抱く美しさ。
今はシャツの襟に閉ざされた首に、僅かばかり意識が行く。
「個人の死に様を思い浮かべるには大きすぎる。
戦争の実録も、キミ好みじゃなさそうだな。
まるで草を刈るようなものよりは――なんだろう。
ひとつひとつを大事にするタイプだろ。じっくりと、じゃなくて――」
軽妙で浮薄な色のようでいて、存外重たい女と感じていた。
ある意味でまっすぐではある。歪みも徹すればそうなる。
「キミは」
言葉を遮るように、こちらもまた視線を向けて声を重ねた。
「ええと」
そして珍しく、視線が泳いだ。
言葉を探したのだ。気遣いや、言葉遊びのためではなく。
そう、日本語だとなんて言えば伝わるのかな――……そういう間だ。
「キミの片割れなら、授業でやってるとは思うんだケド」
やがて、そう前置きして。
「第二次世界大戦を、知っている?」
世界中が巻き込まれ、これも1億人に迫る勢いの人間が死んだという。
――――たった1億人、といえるだろう。
それまではあまりに大きな事件であり、戦争であり、歴史の大きな転換点だったが。
今や歴史の授業では、大変容の、第三次世界大戦の前座に追いやられてしまっていた。
■藤白 真夜 >
「今日って、思い出しても良い日……でしょ?」
……無性に、この女の顔を見たいなと思ったけれど、我慢した。
触れると崩れてしまう美しさというものがあるのを、わたしは嫌と言うほど解っていたし愛していたから。
「だから、普段と違う服を着て、喪に服す。
それは日常じゃありませんよ、って。
うん。……そう考えるとわたしはちょっと腹立つかもね」
落ち着いた声で。声をかけるでもなく、自分の内側に声を投げかけて、広がる波紋を愉しむようだった。
「それを……ずっと抱えて、忘れもせず、刻み込む人もいる。死を想うひと……真夜がそのタイプ。
わたしはそもそも、悼もうとか無いからなんとも言えないな。
誰かが振り返るときの……そこに何も無いのになにかがある沈黙はキライじゃないけど、わたしじゃダメだ。
わたしは、そこに在ったものを思い浮かべてる。死に様、みたいなの」
弔いに集う人達にも、コレを見せれば絶対祈りだす真夜にも。
……隣に立つ喪服の女にも。
わたしは本当の意味で共感は出来ないんだろうな、と思い知っていた。
わたしにとって死は、死に繋がる記憶……ではなくて。死の瞬間をこそ、大切にしていたから。
「あなたは?」
……ピントが合う。
だって、ひとりきり。こんなところで、喪に服していたんだから。
「死は触れがたい。こういうときにだけ、思い出せばいい。
……それとも。
ずっと、──」
死を想いつづけること。
冷たく、触れがたいそれを想い続けるには、熱が要る。
今度こそ、目を向けた。
炎のような瞳の女に、その熱があるの?──そう、問いかけるみたいに。
■ネームレス >
「黙示録に語られた騎士が、四人で肩組んでやってきたって話だね」
ヨハネもびっくりだろう――と冗句を語る横顔に遊びはない。
戦争に各種超常災害および獣害、そして新種の病の犠牲になった者も多かった。
黒死病すら1億を殺せなかったというのに。
十年あまりで、その数十倍に迫るほどの死者が出た。
「……まるで」
盗み見られたことに、気付いたのか、そうでないのか。
「思い出したみたいだ」
そう静かに溢れた言葉に、忸怩たるものがこもっていたように思う。
この日に。この日だから。この日と決めて。
しまい込んでいた弔意を、思い出したように。
「……全員がそうじゃないってのは、わかってるケド」
あの災害に、あの事件に、あの戦争に。
意味を見出して、無為にしまいとして、戦っている多くのものたちが今もいるのだと。
知っている。知ってはいるが。ここにいる者たちはどうなのか。
この島のものはどうなのか。いま地球に生きているものはどうなのか。
「なんだろうね……」
ピントが合わない、とはまた違う。
しかし、その黄金瞳の炎が、どこか冷たい温度を宿しているのは。
弔問客の群れをみて、負の感情を抱いているのだろう。
好きだ、という彼女と、相反するわけでもないが、違う属性の、なにか。
「そういうものなのかな」
普段は、考えていたくないものなのか。
喪われたものを想う、ということ。
それは傷であり痛みであり流血であり病である。
忘れたいのか。埋めたいのか。死とは、墓碑の底にしまうものなのか。
白い頬は死蝋のようにして、表情はあまりに静かだ。
濡れ艶を見せる黒髪にすら、視線を注ぐいとまもなく。
■藤白 真夜 >
「え~。ここでヤッちゃうのはB級ってカンジ~。ひとが静かにしてるんだから、空気読まないとね」
ヤバいやつの自認たっぷりに、ここではやんないと否定しておいた。
やるにしたって誰もいないふたりきりのときくらいでないと。パニックホラーはあんまりシュミじゃないのだ。
「んー。……デカいし、遠いし、みたいな」
その言葉もぼんやりしていた。しょうがない。自分にだってぼんやりしているんだから。
「すごい死んだんでしょ。全世界の半分とか、だっけ。デカすぎるよ、規模が」
数を言葉にして、まだよくわからない。ぼんやりしている。
人の数も、きっと、種類も。
たたかうひと。たたかわないひと。
元のせかいのひと。外から来たひと。
「いろんなひとが逝って……きっと、あのひとたちにはもっと多くのモノが見えてる。
長い……過ぎ去った時間が流れてる。無くなったものを、思い出すために。
そうかんがえると好きだけど……やっぱり、ぼんやりするの。……ピントがあわない、かも」
何も考えず、開けた場所で、ぼんやりと物思いに耽るような。
それが葬式で、追悼である以上……それも確かに、死の断片だった。
わたしの、すきなもの。でも、ちょっと遠すぎる。
「……」
ちらりと、確かに横に並ぶ女を見た。ぼんやりした、眠そうな瞳で。それがすこしだけ、ピントが合う。
でもまたすぐに、目を逸らした。
……静寂。何も言わない。邪魔はしない。
誰にだって、過ぎ去ったなにかを振り返る時がある。
だから、何も言わず、想いを馳せた。その、ぼんやりした想いに。……密やかな、雨の音に交じる、くちびるの音に。
■ネームレス >
「ボク好みの演目だと、木の股から首なし騎士が出てくるヤツとかな。
てことは大変だ。あのひとたちがヤバい殺人鬼の手にかかっちゃう」
褒めそやされるとこちらも微笑む。現金なものだ。顔面に、姿に、確かな自信を持っている。
不謹慎なジョークまで唇にのぼる始末だが、調子づいたわけじゃない。
いつもよりは――やはりおとなしい。
「ぼんやり」
復唱する。
「…………」
すん、と鼻を鳴らす。
雨の香り。草の香り。そこに交じる自分のバニラと、そして彼女の――
しかし、おそらくその匂い、ではないのだ。
もっと観念的な――気配、のようなものを、
「嗅ぎ分けることができないくらいに、か」
死を抱く、弔意の群れ。それが生まれる日がゆえに。
失われた空洞。どうかわってもその孔が埋まることはない。位相幾何学に従って。
「ボクらとおなじくらいのひとは、あんまりいないもんな」
過日の喪失を偲ぶには、それだけの時間が必要だった。
その黒い群れ、デカすぎる気配――森に、すこしだけ解像度をあげてみれば。
すくなくとのこの教会に弔問する者は、年配の――教職員だろうか――島民が多いようにも。
若く視える者も、ともすれば長命種に連なるものか、不老の某かを背負ったものか。
あるいは、遠い過去の喪失を受け継いだような若者が。未来を担う責任感のようなものを携えているのか。
本物の若者の多くは、きっと年越しの催しや初詣のほうに夢中な者が、大半なようにも。
「―――、」
すこしだけ。なにかを言おうとして、躊躇ったような。
赤い唇が僅かに動いて、静かに結ばれた。視線を避けるかのような密やかさで。
■藤白 真夜 >
「はあ、ホントに。夜型なんだけどね」
ふあ、と緩む口元を手で抑えた。……声に反応した一瞬の燃え上がる気配は、しかしぼんやりとした眠気のうちに紛れていた。
そのときではない、と。
「……そうかな。黒いのも似合うと思うよ?
葬列を眺める、雨の中の黒いすがた。
……どうみても主役は棺じゃなくて亡霊だもん」
横顔をちらりと見る。ちょっと茶化すように、同じ傘の下で楽しそうに微笑んだ。
つまり、その姿が映えていたことにご機嫌。──きっと、綺麗に棺の中でも主役をこなすだろうから。
「んー……今日。
なんか……ぼんやりしてるな、って思ったんだけど」
瞳は、葬列をみた。
喪服。沈黙。静寂。
そこに一般的に好意を得られるようなものは何もないように見えた。
「この時期、あの、なんだっけ。でっかい葬式みたいなのがあるの、思い出したからなの。ぼんやりしたの。あれ、かなりぼんやりする。デカすぎてね。
つまりね。
……誰かが、なにかの失われたものを思う距離……みたいなのが目に見えて、好きなんだと思う」
あの黒色は、その現れだった。
すきだからといって、はしゃぎもしない。いつもより、珍しく。
かといって、沈鬱というわけもない。ただ静かに、流れていく黒い傘の群れを眺めていた。