2024/07/17 のログ
ご案内:「常世渋谷 底下通り」に水仙 倫太郎さんが現れました。
■水仙 倫太郎 >
常世渋谷 底下通り。
所謂飲み屋通り、露店等がズラッと並ぶ下町的な常渋の穴場。
そういう穴場というのは、総じて光が届きにくい。"見えにくい"場所だ。
相応に面白いものも集まれば、それに乗じて小狡いことを考える奴だっている。
今、こうしてまさに行われている客引きだってそうだ。
物見遊山気分で現れた学生が一人、怪しいボロ布姿の異邦人に絡まれている。
ぬらりと濡れる爬虫類のような指先には、嫌に輝く怪しいペンダント。
いらないと拒否していても、その手に一つと伸びていく所を、がっちりと手首を掴んだ男の手。
「よぉ、そこのおっさん。その辺にしときな。
あんまりしつこいと商売出来なくなるぜ?」
手首を掴んだ青年はニヤリと笑みを浮かべてそう告げた。
相応に力が強いのか、ぬらりとする手首を離さない。
確かにやや無法地帯ではあるがそれなりに秩序はある。
どの世界でも、ルールを破るやつは村八分、御法度だ。
「よし、お前らもう大丈夫だ。あんまりフラフラとこんな場所……あれ?」
振り返れば生徒はいない。どうやら今の内に逃げたらしい。
間髪入れず振り返った隙にぬるりと少年の腕をすり抜ける。
「あ!?テメェ!?クソ、無駄にぬるぬるしてるからすっぽぬけやがった!
……無駄に逃げ足ばかりははえーな。ったく……まぁいいか、顔は覚えた。」
ああ言うやつほど逃げ足は早いらしい。
舌打ちをしながら適当にアスファルトを蹴り飛ばした。
■水仙 倫太郎 >
とりあえずさっきの奴の通報は後にしておこう。
こういう所から足首掴まれて穴に引きずり込まれる"落第"する生徒もいる。
そういうのは身の過ごせないし、小さな火種も市民の強力あってこそ、だ。
「にしても、やっぱり色んな人がいるな……。」
ちらっと周囲を見渡すだけでも老若男女どころか異種族満載。
人の形をしていない人物もザラだ。微不良少年倫太郎はこういうアングラな場所も詳しい。
そういう場所は得てして怪異だって湧きやすい。
今は昼下がりだから、滅多に出てくるとは思わないから一旦の下見だ。
だが、本当の目的はそこじゃない。ジャケットの裏から取り出したのは、一枚の紙。
綺麗に折りたたまれたそれを広げると、そこに描かれていたのは猫。
いや、猫ではない。猫のような何かがいっぱい書かれているカタログ。
"ネコマニャン"と呼ばれるその手の人々に人気なマスコットだ。
これはそのカタログ。と言っても、数年前のものだ。
「……ここにならあるはずだぜ。」
真剣な表情で見据えるのは底下の奥の奥。
この手のストラップは数年立てば手に入りづらくなってしまう。
そう、狙うはこの数年前の"限定版ネコマニャン"。この底下ならあるはずだ。
「っし、やってやるぜ……!」
一人気合をいれるように、拳と掌をパシッと合わせる。
愛する彼女の趣味であれば、こういうサプライズに気合を燃やすのが男と言うものだ。
■水仙 倫太郎 >
特に限定タイプともなると、もう正規の方法では入手できない。
こういった露店には度々そういった表のものだって流れてくる。
勿論、マニアの品は思ったよりも値は張るが、それだけの価値はある。
少年は何も臆すること無く底下の先を進んでいくだろう。
「確かに情報だと売っているはずなんだがな……。
やっぱネットだとガセも多いしなぁ……お、あれって……変容前の?」
立ち並ぶ露店はアクセサリーやら日用品。
それかから居酒屋になんだったりと統一感がない。
そういうとこが返ってアングラ感があって少年には少し落ち着く。
時折、物珍しいものに目移りするのもこういった醍醐味だ。
まぁ、それはそれとして玉石混交の闇市みたいな場所だ。
確か掲示板では売っているらしいとの情報があったが、一向に見当たらない。
所詮は虚構の情報なんだろうか。焦燥感に軽く後頭部を掻いた。
「……いっそもっと"奥"のがあったりするか?
いや、流石に落第街まで行くのはリスクだよな……。」
「つーか向こうでも流行ってるのか?ネコマニャン……。」
少年にはわからないがそういう魅力があるらしい。
恐ろしいぜ、ネコマニャン。
■水仙 倫太郎 >
「……お?おぉ!?」
目の前のカタログと周囲をにらめっこしているとついに見つけた。
隅っこの露店。ネコマニャン他多数のマスコット系ストラップ。
その中に忽然と輝く数年前のハロウィン限定、かぼちゃを被ったネコマニャン…!
っしゃぁ!と思わずガッツポーズして早足に露店へと近寄った。
そして迷わず、カボチャニャンに手を伸ばす手は────…"二つ"。
「!?」
ばっと横を向くとなんということだ、女子生徒がいるではないか。
どうやら狙っている獲物は同じらしい。
なんということだ。なんという不運。
獲物は一つなのに狩人は二人。おまけに少年のがたいは良い。
それに威圧されていったのか、女子生徒はおずおずと手を引っ込め始めるが……。
「おっと、待ちなレディ。
俺がコイツを探しているのは、君みたいなレディのためさ。」
「君みたいな人が手に入れるなら、俺がわざわざ手に入れる必要はない。
……ソイツは君が買うといい。それじゃあな、ソイツを可愛がってやってくれよ。」
ぴ、と女子生を指さして踵を返した。
あんまりにも歯が浮くような感じだから女子生徒もちょっと困惑していた。
が、本人的には"キマった"つもりらしい。
背中から聞こえるお礼を後に、伊達男はクールに去るぜ…。
「……くっ、すまねぇ……襲……!!」
でも悔しいものは悔しい。
ぐっ、と握り拳を作って一人謝り歯を食いしばるのでした。
こうして、人知れず男の戦いが一つ、終わったのであった。
ご案内:「常世渋谷 底下通り」から水仙 倫太郎さんが去りました。