2024/07/23 のログ
■紫陽花 剱菊 >
剱菊は此の応酬一つ、感嘆も言葉も一切合切表にも言の葉にも出さない。
戰場を駆ける刃成れ。刃に言葉も感情も不要。
即ち、狩人の狩り続けた武具同様、畢竟殺しの為の道具。
言の葉を交わせば情けが生まれ、感情を出せば情を抱く。
刃足れば、何方も不要。其の姿は殺しの姿としては一種の完成形であり
異能混ざれば紫陽花剱菊自身が武具と言うべきに相違無い。
「(げに恐ろしき剣気……自ら狩人に成るのも頷ける強さ……。)」
一進一退。一閃一閃、見誤れば死、あるのみ。
紛う方無き実力者。幾度も研鑽を重ねた末の御業。
薄氷の間合い。一つ、一つと数刻の隙間を埋める度に耳を劈く金切り声。
より早く、より多く。単純明快。足らぬならば足せば良い。
斯様な暴力ほど才か研鑽無くば辿り着けず、良くぞ効く。
然れど此方も幾度も戰場を駆け巡ってきた。
二十と剣撃を増やすのであれば、其の速さに合わすまで。
互いの鋼が削れ合うと錯覚するような削鉄音。
間合いに咲くは止めどない線香花火。
空を裂き、暴風めいて流転し、大気を、地を、揺らしていく。
「(!止めた……否……。)」
一突き、止めたのは素手ではない。
手応えは鋼では無く、何らかの術。
否、"刃"だ。蘇芳めいたおどろおどろしい刃。
刀では無い。恐らくは、魔術等と呼ばれる手合い。
剣の狩人。扱う剣の種類も多種多様。
一体幾つの剣を、技を持っているのか。
否、如何様に持っていようと、此方とて其れは変わらぬ。
武芸百般の戦人。一進一退、止まらず加速し続ける打ち合いに水を差す。
「……!」
狙うは、足元。
弾き、一突き、更に一手。其の足元目掛けて踏み込む。
単純明快に、狩人の片足を踏み抜くを狙う。
唯踏みつけるだけ。幼子でも出来るような行為。
然れど、岩盤一つ容易く踏み抜く一足だ。
備え無ければ、人を容易く踏み潰す。
文字通り、其の足元から崩しに掛かる。
剱菊は戦人成れば、如何なる技をもってしても奪命を狙う。
秘境などという感情は当然有り得ず、返って純然とも言えよう。
■九耀 湧梧 > (――此処まで増やしても、対応するか…!)
倍に増やした剣閃でも尚、受け止めにかかる。
戦慄すべき実力だと言える。その在り方は正しく。
(この男自身が、敵対者を討つ為の、絶殺機巧!)
こちらが剣閃を増やせば、あちらはそれを止めて来る。
あちらが致命の一撃を狙えば、こちらがそれを逸らしにかかる。
拮抗状態、千日手の様相。
それを崩しにかかったのは、絶殺機巧の青年。
足を狙った踏み込み。
放置すれば足を砕かれる。避ければ姿勢が崩れ、其処を衝かれる。
悪辣な、しかし戦場の理に非常に適った二択。
その二択に対し、黒いコートの男は、
獰猛な、笑顔を浮かべる。
選んだのは、「第三の択」。
狙われた足を大きく振り上げ、青年の顎を狙った蹴り上げ。
それも一撃ではなく、二発。
宙返りを行うように両脚での連続の蹴り上げ!
■紫陽花 剱菊 >
然るに、隠密機動であり名を隠さず、身を隠さず、威風堂々足る理由。
武を以て威光に示す。即ち、力による抑圧を成す。
おくびをにも出さぬ御業が其の証明。故に、公安に身を置く。
「……!」
押して駄目なら引かず、更に押す。
「(血気盛んな……恐れ知らずか……。)」
さやか、武力とは単純であるが故に其れ以て成し得る行為は容易くは無い。
武具の回収。自らの腕を以て挙げようと言う自信、否、実力の裏付け。
斯様、獣の如し笑みを浮かべし姿は正しく狩人か。
取った選択に間違いはない。事実、踏み込みの際に足は浮く。
即ち、体勢を崩される暇を作りかねない。
文字通り、足元を掬われた。
踏み込んだ足を初撃で浮かされ、二撃目が胸部を穿つ。
重く、肌にめり込み、肉を、骨を軋ませる。
内蔵を軋ませ、苦悶に奥歯を噛み締めた。
「(…………!)」
剱菊の体が宙に浮くも、蹴りの威力を生かし半回転。
宙で受け身を取った。刹那、其の身が紫紺に稲光。
大気轟かす、雷光。一見違わぬ紫電が迸る。文字通りの落雷。
雷の速さを以て、打刀の切っ先を向け紫電落雷。降り注ぐ死────。
■九耀 湧梧 > シンクロニシティ、という言葉がある。
共時性、あるいは同時性とも呼ばれる、意味のある偶然の一致という言葉だ。
因果関係がない二つの事象が、類似性と近似性を持つ事であると、一般には説明される。
それは、全く以て奇妙な類似性、としか言いようがないだろう。
宙で受け身を取った青年に対し、男は空中で回転しながら居合の構えを取っていた。
同時に、切られた鯉口から小さく紫電が奔る。
取った行動、選んだ技の、奇妙なまでの一致だった。
ほんの少しの違いがあるとすれば、それは技の性質。
――斬雷――
聞こえぬ言霊と共に放たれるは、紫電を纏いながらの一太刀。
「雷を斬り断つ」、一閃。
中空を蹴り、その勢いと共に、降り注ぐ紫を「斬り裂きながら」、
表面が真っ黒に焦げた刃が、青年へと肉薄する――!
■紫陽花 剱菊 >
戦いに絶対はない。
幾度の戰場を生き残ってきた。
負け戦も勝ち戦も、全て、悉く生き残った。
故に、全て不条理であり、絶対はない。技、技術、武具。
自信を以ていようとも、全てが通ずる絶対など初めから持ってはいない。
「(……やはり、来るか……!)」
返す返す斯様狩人たるやの縦横無尽。
蹴り上げ間髪入れずの追撃に淀みも無い。
居合の構え。猛禽の瞳孔が捉えし剣閃。
否、剣気の質が些か違う。
「(……"斬られるな"……。)」
直感である。戰場で積み重ね上げた経験則。
鑑みるに、あの獰猛さ、絶対に"出来る"という自信の現れ。
何たる実力者。驥尾に付すような己とは真逆である。
感に堪えぬ気持ちは然れど、此れ死合いと定めたならば
敗北を認める瞬間など、絶命の瞬間まで有りはしない。
思惑通り、雷鳴を一閃。紫紺は花びらのように弾けて散った。
黒鉄が迫る。斬れぬ刃とは言え一撃必殺の剛力──────。
否、剱菊に一切の焦り無し。向けた打刀を咄嗟に"添えた"。
肉薄する一閃、互いの刃が触れた寸前。
「……!」
衝撃。其の目いっぱいの力を利用し、ぐるりと側転。
打刀を手中に梃子めいて黒鉄の上を取る刹那の判断。
曲芸めいた絶技を軽々と行ってみせねば、達人と立ち会うなぞ当然出来ぬ。
但し、怪力無双に差は有り。支柱と成った打刀は砕かれ、薄氷めいて銀が散る。
然るに此の異能の本領は此処。保持も保有も補給もいらず、即座に望む刃が手に入る。
黒鉄を滑り、既に握り込まれた新たな打刀。唐竹一閃。頭上目掛けて振り下ろす──────!
■九耀 湧梧 > (――成程、これなら、充分か。)
本気で放った斬雷の直撃を避け、尚も攻め手は尽きず。
恐るべき絶殺機巧であると同時に、類稀な戦人であると判断を下すには充分過ぎるものを見せて貰った。
故に、「終わらせ」にかかる。
剣を即座に用意できるのは対手だけではない。
再度幻魔剣を作り出し、振り下ろされる唐竹の一撃に対する盾とする。
咄嗟に作った分、皹の一つも入ろう。だが、それだけの間があれば充分だ。
そのまま、黒焦げの刀を素早く薙ぎ払い――
■九耀 湧梧 > 「――充分だ。
お前さんの実力と判断力は相応に把握した心算だ。
流石にこれ以上は命の取り合いになっちまう。」
とん、と、軽く叩くような一撃、否、戦いの終了を告げる合図の一音。
受け止められるか、胴に当たるか。
いずれにしろ、その刀は斬る事も傷を付ける事もなく。
黒焦げの刀身――否、塗装が、ばらばらと粉になって剥がれ落ちる。
その下から現れたのは、まるで黄金のような輝きを見せる、しかし確かな木目の露な、奇妙な木刀。
竹光、と呼んだ方が通りが良いか。
■紫陽花 剱菊 >
正しく一進一退であった。
一撃止め、薙ぎ払いは"蹴って"宙に舞う。
多くの武具を、異能の性質上出来てしまった審美眼。
故に、"斬れぬ獲物"と判断した故に出来たこと。
地に足が付くと同時に、打刀を構え。
「…………。」
……ゆるりと、下ろした。
「……其方を捕らえるにしろ、殺すにしろ、骨が折れる。
幽世の影とは言え、此処は民草が住む地成れば、徒に戰場には出来ん。」
然もありなんだ。
銀刃を地面に突き立てる。
同じくして、戦意無しを伝える意味合いを持つ。
たなびく黒髪。瞳孔は静かに、また虚の色へ戻った。
「しかし、意な事をする。殺意が在れど、武器は竹光相違無し。
……斯様、頑健さは目を見張る。不殺の武器とも言うべきか……。」
「ともかく、一度手打ち。あいわかった。」
■九耀 湧梧 > 「斬れる刀を使って手加減するなんて
大変な真似をするより、丈夫で斬れない刀を用意した方が手っ取り早いだろ?
人を斬るなんて、難儀なもんだ。」
小さくため息を吐きながら、木目も露な奇怪な刀をくるりと回し、鞘に収める。
同時に、赤紫の光の剣は硝子のように砕け、光の粒となって消えた。
「――さて、こっちから手打ちを申し入れた以上、事情は話さないとならんな。
スラムで遇った人間に聞いた話だ。不自然な斬殺体が見つかったと。
恐ろしく鋭い切り口でありながら、刃物で斬ったものと思えないという、奇妙な斬殺体。
それを起こした奴を、探している。
只の人違いという線もあるが…もし俺の想像通りなら、それをやったのは、俺が探している「女」だろう。」
つまり、人探しが目的だと。
しかも、人を斬り殺すような危険な相手を。
■紫陽花 剱菊 >
「……、……否、其の通りだ。
みだりに命を奪って良い理由は無い。」
撲殺も可能であろうが、斬るよりも手間。
一瞬の間は、剱菊の性質より殺しの本能。
斯様、殺して奪うほうが早いのに、よくもまあ難儀なことだ。
脳裏に過ったが故に、沈痛な面持ち。自己嫌悪。
心底に潜む獣等、あってはならない。
邪念を振り払うように首を振り、虚の双眸は再度狩人を捉えた。
「…………。」
…が、再度鎮痛、否、表情がより強張った。
何くれど、覚えがある。否、知っている。
「……もし、もし。私の知っている女であれば、此れは宿業か。
其方が何故、彼女を追っているかは知らぬ。」
「然るに、あの剣姫めは斬らねばならぬ。
……生かしておく理由は無い。目を合わせたあの日から、そう決めた。」
嫌な程に脳裏の記憶と合致する。
故に、其の女とやらが同一人物で在ると判断した。
確定した訳では無い。だが、殺しを楽しむあの風体。
人の形をした鬼姫成れば、必滅すべき存在だ。
静かな男の、唯一無二の殺意。然れど、笑うことは出来まい。
「……女探し、か。否、私も似たような立場成れば、此れも縁か。
女を探すもの、女を待つもの。……立場は違えど、形は違えど、振り回されている。」
「……いやはや……。」
未だ尚、雷鳴は夕刻にて待ち人を待つ。
然るに彼は、唯一の刃を探し求め集めている。
事情と形は違えど、斯様に似ているとも成ると、流石に苦い笑みも溢れよう。
■九耀 湧梧 > 「――――ほう。」
剣姫、という言葉に、思わず目が細まる。
如何な運命の悪戯か、恐らくは同じ女を知る男が此処に二人。
然して向ける感情は異なるもの、片や殺意、片や――――
「そう簡単に斬られてしまうのは俺が困る。
あの女を、まだモノにしていないからな。
身体も、心も。」
そう、敢えて言うならば恋慕。しかし向ける相手が相手、正気の沙汰とは思えぬ。
「ま、お互いの事情はさて置いて、惚れた女を持つ身は大変だね。
待つにしろ、追いかけるにしろ、だ。」
と、其処で思いだしたようにコートの中に刀をしまうと同時に、あの和綴じの本を再び取り出す。
「ま、あのお姫様を知ってるなら、その「お好み」も知ってるだろ?
魔剣の類を回収して回ってたもう一つの理由はその為さ。
お前さんが噂に釣られて、こうしてやって来た位だ。
あのお姫様が居るとしたなら、そろそろ噂が届いていてもおかしくはない。
刀集めが大好きなあの女が獲物になりそうなものを先に掻っ攫われて、大人しくしてられると思うかい?
――否だね。まず真っ先に「刀剣を狩る男」を狙って来る筈。」
つまり、撒き餌。それも、己自身を含めた、文字通り命がけの。
出来る限り他に累を及ぼさず、己に狙いを定めさせるための策。
「ま、安心して欲しい。お前さんが明確に俺を狙い撃ちしてきた事で、噂がそれなりに広まったのは理解した。
刀剣狩りは此処で一旦廃業にするさ。」
■紫陽花 剱菊 >
剱菊は感情の起伏は比較的薄い。
静寂を愛し、為人を静観するような男である。
斯様、植物めいた男であるが……。
「…………初めてやもしれんな。他人の頭を心配するのは……。
私も時惚れた女の趣味は良いとは言えんが、其方程では無いかも知れん。
私の伝手で在れば医者に勧める事も出来るぞ。然るに闇医者のが良いか?
何が其方の琴線に触れたかは皆目検討も尽かぬが、最近頭を打ったのであれば早く医者に往くのだぞ。」
困惑。よもや本物の恋慕を向ける男がいようとは思わなんだ。
然も、斯様剣姫に惚れていると来た。
其の衝撃たるや否や、顔に現れている。
今風に言うとコイツマジ???って顔で語る。
恐らく此の学園に来て一番喋ったかも。
「……私の惚れた女も大概我儘三昧、我の強い女であった。
故に、其方の気持ちを尊重したいが、約束は出来ん。あれは、この世にいてはいけない。」
最早物の怪の類と同視している。
少しは肩を持ちたいがあれは別だ。
特別視しているという意味では、横恋慕めいている。
はぁ、端無く漏れた吐息は呆れの溜息也。
「故に、其方の思い通りに行かず斬って捨てても恨まぬ事だ。
……万一、あの女が"改心"に至るのであれば、或いは……。」
刃を納めることも吝かではない。
最も、叶わぬ願いは見えている。
「……、……まるで、"火遊び"だな。
私も女の為に"馬鹿"をした身、責める道理は無い。」
聞いてしまえば呆気ないものだ。
然れど、理解しているからこそ何と言わず、踵を返す。
「一度、其の言葉は聞き入れよう。一時やもしれぬが、刃を交える理由は無い。
……もし、再び其方が狩人成り得るのであれば……再度刃を抜くのも厭わない。」
天道より、影から何時でも視ている。
隠密機動より逃れる術は無い。再び道交われば、其の時は刃も見えよう。
音なく歩を進めれば、其の姿もまた溶けて消えよう。
後に残るは、曇天ばかりの夜空のみ……──────。
■九耀 湧梧 > 「酷い言われ方だね。
ま、趣味が悪いのは自覚してるさ。それでも惚れちまったモノはどうしようもない。」
苦笑しながら肩を竦める。
自分でも、正気の沙汰ではないと思う。
「そりゃ、お前さんの感情と立場もあるわな。恨みはせんよ。
だが、俺も大概諦めってのが悪いからな。
治安機関に手は出さないつもりだが、易々あいつを斬らせもせんよう、頑張ってみるさ。」
この男は悪人ではないが、かといって完全な善性の者でもない。
故に、尊重はしても、自分の都合は優先する。
ある意味、この黒コートの男も性根が良くないのかも知れない。
「そいつは助かる。
なるべく早めにあのお姫様がこっちを狙ってくれれば助かるんだが。」
最後に、消えゆく青年の背に声を掛ける。
「名乗るのを忘れていたな、失敬。
九耀湧梧だ。また縁があったならよろしく頼むぜ。」
そうして、その背を見送ってから、黒コートの男も和綴じの本をしまい込み、地面を蹴って飛翔する。
まるで武侠映画の如き動きで落第街を駆け、その姿は見えなくなった。
ご案内:「落第街裏通り」から九耀 湧梧さんが去りました。
ご案内:「落第街裏通り」から紫陽花 剱菊さんが去りました。