2024/08/26 のログ
ご案内:「落第街大通り」にギジンさんが現れました。
ギジン >  
夕陽。行き交う人は様々な表情を顔に貼り付けている。
ここは欲望の街、落第街。

僕は街角の壁に背をつけて煙草を吸っている。
落第街、リバティストリート。
ここには誰かがどこかから持ってきた一本足の灰皿がある。
それだけが理由。

チョコレイトのような香りの紫煙を吐き出す。

ギジン >  
ここは少なくとも誰もが幸福である天国ではない。
かといって骸転がる地獄でもない。
言ってしまえば境目のような場所なんだ。

携帯デバイスを取り出す。

常世学園納涼祭は終わったのだね。
流し素麺に氷柱割りに、委員会の方々はいろんなことを考える。
お祭りに行く気分でもないので足は運んでいないけれど。
写真と共に様々な情報が流れてくる。

ギジン >  
街角に白黒の仮面の男が見えた気がした。
ギフト、か。
後天的全能型虚妄における袋小路のモデル。
誰もが優れた力を得たいと願う、異能社会のスキマにあるもの。

僕にはあまり関係はなさそうだ。
怪我人が増えても、僕は医者じゃない。
仁の心も、持ち合わせてはいないのだから。

ギジン >  
数ある事務所……か。
便利屋を営んでいたエルピス、という少年が“帰って”きた。
そんな話が噂になっている。

今は何をしているのかはわからないけれど。
彼は今、幸せなのだろうか。

こと、SF小説において。
帰ってくる者が全て歓迎されるとは限らないのだから。

ギジン >  
ゾーク《Zorch》。
大凡、危険性について他の追随を許さない違反部活。
異能者が他に合わせることを是としない彼らは。
反体制デモが可愛く見えるほどだ。

危険思想が形になり、強大な異能という力を持つ彼ら。
さて、どんな行く末に辿り着くものやら。

煙草の灰を灰皿に落とした。
吐き出した煙が夕暮れに消えていく。

ギジン >  
Doctrineの香水ブランド『SIN』か。
秋口の新作が気になるけれど。

僕に合うものかはわからないし、
何より香りが落第街に似つかわしいかもわからない。
それでもつい情報を追ってしまう。

やれやれ、これじゃガラスの向こうのトランペットを眺める少年だよ。

ギジン >  
深夜の学園で動物や人の影に襲われる事件、か。
只事ではなさそうだね。
あまり夜まで学校に残ることは避けたほうがいいかも知れない。

ただ、誰かが対抗しているのかも知れない。
最近は行方不明者が減ってきている、という。
噂について回る噂だから、真偽はわからない。

ただ、世の中には善と悪、陰と陽のように
強い力には反発する逆ベクトルの力がつきものだ。
そういうこともあるだろう。

ギジン >  
テンタクロウの逮捕から二ヶ月。
彼はあまり落第街では暴れなかったから印象が薄いけれど。
“脳神経加速剤”と“悪魔の心臓”を使ったという話だ。
まだ生きているかどうかは怪しい。

骨を折る。それが彼にとってどんな意味があったのか。
僕には察することはできない。
ただ、それが彼の自己表現であったならば。

運命は残酷だ、と思う。

ギジン >  
あの手の存在で思い出すのは。
斬奪怪盗ダスクスレイ……まぁいい。
彼の話は。忘れるに限る。

ギジン >  
死神の十三神器……ね。
そういうものがある、という噂が僅かにネットの底にある程度。
でも、実在するのであれば。

人が死を握れることになる。
それは宗教と文化に対する篝火であろう。

……燎原の火にならないとも、限らないけれど。

ギジン >  
紫煙を吐き出してスワイプする。
麺処たな香……?
ああ、異邦人街の。

あそこって帰り道に見えてるけど実際に入ったことはなかったな。
美味しいらしいけれど。
そもそも僕が一人でラーメン屋に入っていいものだろうか。

ふわふわとした妄想は、ラーメン屋入店許可証という形に脳内で結びついた。
あったら嫌だね。

ギジン >  
紅き屍骸の騒動。
感染する殺意、厄介以外の何物でもない。
早いところ根絶されてほしいけれど。
悪疫と悪意はなかなか消えてはくれない。

僕は会ったことがないし、会うようなところにも行かないけれど。
未来は誰にもわからないもので。

ギジン >  
煙草の灰を落とし、吐いた煙は夕暮れの空に消えていく。

別に情報屋をやっているわけでもないのに。
無駄にネットに転がる情報に目を通してしまうのは。
僕も噂好きの女子たちと大して変わらないということなのだろうか。


僕に普通なんて似合わない。滑稽だ。

ギジン >  
灰皿に煙草を押し付けて火を殺し。
そのまま雑踏に紛れるように歩いていった。

ご案内:「落第街大通り」からギジンさんが去りました。
ご案内:「『紅の酒と晩夏の月』」に女郎花さんが現れました。
女郎花 >  
――一年前の、晩夏。
薄暗い店内に流れるノワール・ジャズ。
点描的に紡がれるアンビエントな旋律が奏でられ、
店内は退廃的な情調を伴っている。

耳にすれば、照明の中で立ち上る紫煙の香りと共に、
胸の内で燻る火群(ほむら)の如き高揚感を
掻き立てられる者も居よう。

テーブルに集うのは、二級学生や不法入島者達。
彼らによる喧々囂々の間に、
先の旋律がするりと入り込んでいる。
それが、暗澹たる空気の中に、
耳にうるさくない程度に活気の入り混じった、
独特な色彩を生み出しているのだ。

店内の最奥部には、使い古されたオーク材のバーカウンターがある。
よく磨かれているが、お世辞にも美しいとは言えない。

所々にある、隠せない傷。
無論、この『地獄の門』で繰り返された暴力の歴史を、
深閑の内に物語っているものである。
ナイフに抉られた跡や、打撃による罅割れなど、
傷の数は枚挙にいとまがない。

それでもこのバーカウンターは、厳かに。
そこに、在り続けている。

女郎花 >  
「月かげに 涼みあかせる 夏の夜は――」

その声は、何処までも柔らかく、そして甘い囁きのように放たれた。

「――ただひとゝきの 秋ぞありける」

バーカウンターの片隅、窓に最も近いその縁で、
カウンターを拭く人影が一つ。

近場にある窓の外から顔を出す薄月はやけに冷たく、
そして薄雲越しにも眩しく見えている。

その月光の傍らで、その人影は静かに尻尾を踊らせていた。
そう、尻尾だ。
人影からは二本の猫の尻尾が生えており、
しなやかにゆらゆらと、緩慢なリズムで揺らされている。
それは、ノワール・ジャズの気まぐれな旋律を
指揮しているかのようであった。

その隣で、
痩身の中年男――この店の店主が、無心でグラスを磨いている。

いつも通りの風景だ。
時計の針も、静かに欠伸をしているようであった。

女郎花 >  
女郎花(おみなえし)、また詩か?』

入口から入ってきたのは、巨岩と見紛う大柄な男であった。
擦り切れた黒のレザージャケットを着込んだその男は、
髪を短く刈り上げている。

違反部活『紅色の鷹』の幹部の一人、轟雷の(ウェイ)である。

盛り上がった左腕や首元には、
数多の派手な入れ墨が所狭しと描かれていた。
対して、右腕は漆黒のサイバーアームである。
黒光りする炭素鋼(カーボンスチール)製の凶器を放り出すように
カウンターに乗せると、男はカウンターの向こうに居る人物の顔を覗き込んだ。

月影に踊り、バーカウンターを磨いていた()の人物である。

女郎花(おみなえし)

そう呼ばれた人影は、ふと顔を上げる。
白く、瑞々しい肌の妖――猫又であった。

艶のある茶の髪は、彼が首を傾げると共にさらりと流れた。
そうして茶の髪からぴょこりと生えた猫の耳が僅かに左右へと動かされる。
小刻みに動くそれは、遺憾に思っていることがあることを示す独特の動きだ。

「ふむ。詩といえば詩じゃナァ。
 先の詩は、藤原良経の詠んだ和歌じゃよ。
 涼しげな夏の終わりの夜の月に、秋を感じる、そんな歌じゃ」

女郎花はカウンターを拭くのをやめて、新たな客の方へと向き直った。
ぱちりと開いた琥珀色の瞳は、魔性の宝石の如く煌めいた。

『さっぱり分からんし興味もねぇが、
 声だけは良かったぜ』

岩と見紛う巨腕でその黒い単発を雑に掻き毟りながら、
衛は顔を顰めた。

「雅趣を解する心は、人生に潤いと彩りを与えるというニ。
 乾ききった御身(おみ)の感性を潤すため、
 今宵も酒を入れてやらねばならんか」

女郎花の柳眉はくい、と下がり。
琥珀はじぃと細められたが、口端は緩やかに上向きの曲線を描いている。

女郎花 >  
「しかし、久々じゃノォ、衛よ。
 どうじゃ、御身の為に改めて弄ってやったその(クローム)は。
 悪くないじゃろう?」

そう口にして、女郎花と呼ばれた猫又は、
カウンターに置かれた鈍く輝く黒を見やった。

轟雷の衛の名は、
この腕に搭載された雷撃を放つ妖術の機構(ギミック)を由来とする。
それは、女郎花が自身の妖力を込めて手掛けたものであった。

『あぁ、最高だ。
最初はサイバネの技術と妖術を組み合わせて
俺の腕にぶち込むなんざ、ちょいと抵抗があったんだがな。
今はもう、こいつ無しの戦いは考えられねぇよ』

衛は肘を曲げ、
己の義肢(クローム)を見せびらかすように五指を握ってみせた。
少し遠くのテーブルに居る何名かが、
ハッとその様子に気づき、顔を突き合わせている。

彼の(誇り)とテーブル席の客の様子を見やれば、
改めて女郎花は顔を綻ばせた。

「ふむ。
 近頃は、落第街(こちら)でそこそこ名をあげているようじゃノォ。
 もう四年前になるか。あの雨の夜のことは、はっきりと覚えておるぞ。
 右腕を失って転がり込んできた何者でもなかった男が、
 二つ名で呼ばれるようになる程度の時間は、経っておるのじゃナァ」

『いつもお前が言ってる、ソーカイなんとかってやつだな』

女郎花の笑みを見た衛もまたフ、と静かに笑い、
そのように返した。
背後であれこれ己について口にされていることは、
全く気にしていないようであった。

彼の視線は、女郎花のみに注がれていた。