2026/02/23 のログ
火倉 刹那 >  
「何を───」

此処でなければダメだと。
そう口にするサロゥの背後。
無数の紫色の糸が迸り、更地となった地面へと次々に突き刺さってゆく。

──何のつもりか。
瓦礫が巻き上げられ、その視界の奥へと駆け出した、その姿が見える。

「…風紀委員から逃げるとは」

今は異能を展開していない。
超知能とも呼べる並列思考、はその力を十分に発揮できる。
視界がグリッド分解され、知覚領域が加速する。

「追わなければいけないではないですか」

──TARGET TRACKING : ACTIVE

v₀ = 初速         a(t) = 加速変動  Φ = 恐怖係数   
    β = 選択傾向       T(x,y,z) = 地形関数
 G = 重力定数   Rₙ = 落下物質量     Hₙ = 落下高度

落下予測式:Fₙ(t) = Hₙ - 1/2 Gt²
衝突時刻:tₙ = √(2Hₙ / G)
衝撃範囲:Iₙ = √(質量Rₙ × 速度²)

t = 6.3秒
座標 (12.4, -3.1, 0)

確定回避成功率 = 80.8%───。

追うようにして、地を蹴る。
凶悪甲種不明犯との衝突によるダメージは回復しきれていない。20%程度の不安が残った。

───解、確定。
外乱込みのターゲット逃走成功率 = 30%

[ EXECUTE : COLLAPSE ]───

運動能力に秀でてはいない。
瓦礫の落下地点、破片の飛沫角度と速度を完全に計算し、安全なルートのみを辿り、サロゥを追跡した。

サロゥ > 「あれ?撃たなくていいの?」
「当たっちゃうかもしれないよ」

走り始めると同時に、少女の耳元にサロゥの声が届くだろう。
先程までの会話と同じ程度の声量だ。

そして、サロゥは一度も振り向いていない。
視界の端に少女を捉えられる向きで走ってはいるが、頭を動かす様子など微塵もない。
迷うこと無き全力疾走のまま、地下へと駆け抜ける。

その最中、再び音叉のような音が鳴り始めた。
音の高まりを見せるに連れて、サロゥの両腕に糸が生じ、魔力が集っていく。

そうして綿あめのように纏わりつく糸の群れを連れ、地下に飛び込もうとする寸前。

「行けっ!」

左腕を投げ出すように少女に向ける。
やはり今度も振り向かぬまま、
音叉の鎮まりと同時に糸の群れが解き放たれる。

解き放たれた糸はまたしても地中に潜れば、今度は微細な振動を始めた。
微細と言えど、人間が問題なく感知出来る程の振動。
その正体は、

―――共振崩壊。

少女の脳裏に、そんな言葉が伝わってくるだろう。

周囲に散らばった瓦礫がみるみるうちに砂と化していく。
その余波は地下までは及ばず、しかし異常な速度で周囲へと伝播する。
周囲一帯、言葉通り均してしまう魔術は近隣の崩壊していなかった建造物にも及ぶ。
しばらく待たずとも、コンクリートの軋む合唱が周囲に響き始める。

即座にではなくとも、余裕はない。
放置すれば、倒壊によってここ近辺を巻き込む破壊をもたらすだろう。

そうしている間にサロゥは地下へ。
右腕に残った糸を解き放ち、何やら近辺を漁らせ始める。

火倉 刹那 >  
速度計算の通りならば、間もなく捕縛できる範囲に追いつくことが出来る。
面倒な…とは思いつつもそれも職務。

「…あいにく、銃器の類は携帯していません」

そして、戦火の異能を発動すれば、思考偏差演算は使用不可能。
面倒な制約だ。異能抑制用のチョーカーなど捨て去ってしまいたくなるが、これは自らつけているものという矜持がある。

足元が揺らぐ。
計算式が乱れた。

「っ…こうまでして…?」

そのような"お宝"がこの地下などにあるとは思えない。
周囲の建造物が軋みをあげる。──この辺りに住んでいる人間…否、住んでいる者などを気に掛ける必要はないが。
そうでなくとも、足元の揺らぎは一時的に前に進む力を奪う。

「───…あれを連行したのは…大神先輩でしたか」

先程の学生手帳のスキャンでそのログも確認していた。

「監督不行き届きと言わざるを得ませんよ、先輩」

恨めしげにそう呟きながら。
辺りのことは構いもせず、サロゥを追うようにして地下へと踏み込んでゆく。

サロゥ > 「このままだとあなたも潰れちゃうけど、いいの?」

地下へと踏み込む少女の少し先、剣士の間合いでサロゥは立っていた。
少女の方へと向き直れば、目を丸くした驚きの表情が見て取れるだろう。
声色にも少しばかしの驚きが滲んでいる。

サロゥの言うように、穴の外から聞こえる合唱は次第にその勢いを増していく。
魔術の振動は地下に入るとぴたりと収まったが、少し見上げれば地表が揺れていることが分かる。
地表では未だに共振破壊が続いていることが容易に推察出来るだろう。

ここに破壊が齎されるまで、そう時間はない。

「早く逃げた方がいいよ?」

心配を滲ませて話しつつ、後退し少女から距離を取る。
それと同時に再度聞こえる音叉の音。
今度は少女の頭上と足元。
即座には発動せず、紫の糸が集うのみ。

事前に放たれた糸は少女にもサロゥにも関与しない。
ただ、周辺の物品を集めてはどこかへと運んでいる。
集めているのは、破損した機器や液体の僅かに残った容器、解読不能なほどに焦げた紙資料など、研究設備の残骸だ。

火倉 刹那 >  
「もちろんそうならないよう…疾く、貴方を補導するつもりですが」

見上げる先…建造物の振動は収まっていない。

「危険なのは貴方も同じこと。そうならないよう、早々に離脱してください。
 ……そのようなモノを集めて、どうしようというのですか」

これらが、サロゥの言うお宝だというのだろうか。
特に何かの役に立つ物品達には思えわず、片眉を下げる。

「そしてこの音と糸…貴方の力なのでしょうが、この期に及んでまだ何かをしようと?」

一時失効しているとはいえ、学生手帳を提示した。…となれば生徒であることには間違いない。
どうにも律儀な性格を崩せないらしい少女は、怪訝な視線を向けつつもその返答を待つ。

サロゥ > 「さっきも言ったでしょ?知的好奇心」
「ただそれだけ」

周囲を見渡すように視線を動かしつつ、じりじりと距離を取る。
地下は瓦礫が一掃されたとはいえ、広い訳ではない。
背水の陣は望まないのか、後方に避ける余裕を残して止まり、右足を前に出す。

「あなたたち風紀委員会に捕まるとやりたいことが出来ないから…」
「だから、ここで捕まるつもりは無いんだよね」

肩を竦めて、にへらと笑う。
その頃には糸も集い、音も止む。
足元の糸はやはり音もなくと地面に潜り、頭上の糸は地下の天井にあたる高さで這うように広がっていく。

「あとねー……」

そこまで済めば、右手で前髪の先を触りながら呟く。

「あなたに死なれると困るから……」

「ここで諦めて欲しいな」

地中に潜った糸が飛び出し、2人を避けながら天井と地面を縫うようにつないでいく。
数秒もすれば、地下全体に幾本も、紫の柱が並び立つ。
触れれば分かるが、非常に頑丈。しかしそれだけ。

倒壊は迫っている。
サロゥは少女の出方を伺っている。

火倉 刹那 >  
「言い換えれば、その知的好奇心とやらを満たすためであれば風紀を乱すことも厭わない…ともとれますが」

捕まることを望まない。
縛られることを望む者はいないだろう。
しかし風紀委員が誰かを連行するのには必ず理由が在る。

「それこそ、余計に知的好奇心とやらを満たすことが出来なくなると思いますよ」

逃げ続ける…ある意味では監視されている以上の制約だ。
そして、あらゆる異能犯罪者を追う風紀委員の手配を掻い潜り続けられるとも思えない。

「私に死なれると困る、と言うのであればそれこそ身を委ねることですね…」

「生憎、私は死を恐れるという感覚が壊れているようですので。それは交渉にはなりません。
 ……知的好奇心を探求するにも、逃走犯より監視対象のほうがまだ自由ではありませんか?」

その言葉通り。
諦めるもなにも、と言った平然とした表情とともに、手を差し向けた。

サロゥ > 「……困ったなぁ」

言葉通り困った様子、サロゥが困り顔を見せた。
腕を組み首を傾げ、薄目で眉間に皺を寄せる。

天井に空いた巨大な穴、天井を這う糸が覆っていない箇所へ視線を向ける。
すぐに視線を少女に戻す。

「悪いけど……私も捕まる選択肢は無いんだよね」
「それに、あなたを死なせる選択肢もない」

倒壊は間近に迫っている。
外から聞こえるのは合唱ではない、地鳴りだ。
逃げ出すのなら、今がラストチャンスだ。

「今後捕まるつもりもないし、私にとって逃亡生活は苦じゃないの」

ゆったりとした速度で歩き始める。
チャンスは迫る。その歩みを追い越す速度で迫る。

「この島の風紀委員が凄いのはよく知ってるけど、私が止まる理由にはならない」

既に無事で済む時は過ぎ去った。
それでも、サロゥの歩みは緩やかだ。

「そろそろお別れの時間かなあ」

二人の死は既に確定したように思える。
天井の穴から、倒壊が覗く。

両者近距離で向かい合う。
手遅れの状況だが、サロゥは差し出された手を掴む。
差し出すのではなく、少女の手をがっちりと掴み、放さない。

火倉 刹那 >  
「風紀を乱す者を困らせるのが風紀委員の仕事ですからね」

仕方ないじゃないですかと肩を竦める。
こういった場所での出入りも含め、補導も含め。
別に仕事でなければどうでも良いことでも、今はその制服に縛られ腕を通している。
サロゥの前に立つ少女が、融通がまったく効かない相手だというのは最早知る通りである。

「それでは仕方ありませんね。
 捕まる理由があるならば今後も追い回されることでしょう」

差し出した手を取られる。
しっかりと掴まれ、離す様子もない。

しかしその行動と口調は真逆である。

お別れ、と言いつつなぜ手を取ったのか。
天井の穴からは倒壊が始まったことが伺える。

──さて、これからどうすべきか。計算をするには、自らの手を握る存在の定義が些か緩い。

サロゥ > 二人の手が握られた時点で、地下で飛びまわる糸が全て姿を消した。
地下に散乱した設備の大半はどこかへと持ち去られ、残るのは小さな瓦礫と張り巡らされた紫の糸ばかり。
糸の張り巡らされた地下空間は、まるで数多の柱と鉄筋で補強された建造物のようである。

そんな堅牢な状況下で、唯一無防備な場所がある。

二人の立つ、天井の穴の下。

「風紀委員、舐めてた」

悔しそうに笑い、少女の手を強く引き寄せる。
圧倒的怪力。
その容姿やここまでの戦い方からは大凡想像出来ない、人外の膂力。

サロゥは引き寄せた少女を自身に密着させると、その体を解いて糸と化す。
そのまま少女を巻き取り、残した両手で少女を投げ飛ばす。
天井のある、安全な場所へと。
糸は一時的にそれを避け、少女の通り道を空ける。
そして元の位置に戻った時。

轟音が鳴り響いた。

倒壊が到達したのだ。

穴の真下に居たサロゥは、抗うことなく巻き込まれ潰れた。

そして地下に巻き起こる巨大なエネルギーの嵐。
凄まじい暴風と殺傷能力を秘めた瓦礫。
人体など容易に破壊せしめるエネルギーを持つが、この地下ではどれもが打ち消される。
張り巡らされた紫の糸は瓦礫を止め、少女へ到達させない。
暴風も和らぎ、破壊力を削がれる。
圧倒的質量を受け止めた筈の天井は軋むだけで崩れること無い。

結果として、少女は助かり、サロゥは潰れた
地下は砂煙に満たされ、少女に巻き付いていた糸はデロりと解かれる。
地下に張り巡らされた糸は残ったままだが、いつまで保つかは分からない。
潰れた筈のサロゥの血痕はどこにも無い。

天井にあった穴には人一人程度なら抜け出せる穴も残されている。
そこから出られるだろう。

火倉 刹那 >  
「…?」

どこか悔しそうな笑みを浮かべる、サロゥと名乗った少女。

「何を…? …大丈夫です。計算さえ間に合えば──」

言葉、そして思考が一旦寸断される。
強く手を引かれ、普通の身体である少女…刹那は引き寄せられ、堅牢な天井の下へと身を投げ出される。

「──!」

どういうつもりであるのか。
理解、計算が及ばない。

「待───」

自然、喉から出た声は崩落の音に掻き消された。
圧倒的質量が降り注ぎ、衝撃が吹き荒れる。

「………っ」

目の前で彼女は瓦礫の中へと消える。
理解が及ぶまで、数秒を要した。

その光景を薄紫の瞳はただ見ていた。
やがて崩落が、自分には怪我の一つもなく、終わる。

けたたましく鳴る端末の通信音に、はっと気づくように、辺りを見回す。
──なぜ? 彼女は自分を安全な位置へと移動させ、自分は瓦礫に飲まれていった。

「……わからない。これも貴方の言う、知的好奇心に寄る行動だったのですか」

恐らく誰も答えないだろう、瓦礫に向けそう言葉を零す。
なぜこんな行動をとったのか、答えは出ないまま、空いた穴から地上へと抜け出る。──辺りを見回す。もしかしたら、彼女の姿がそこにあるかも知れないと──。

サロゥ > 少女が外を探るも、そこにサロゥの姿は無い。

共振破壊の止んだ地表には、砂と瓦礫ばかり。
そしてしばし待てば、地下の崩落が始まるだろう。
地下に張り巡らされた糸が消えつつあるのだ。

しばらく経てば、地下は完全に崩落する。
少女による圧倒的火力の爆撃と、建造物の倒壊による追い打ち。
それを無理やり補強しただけで、長時間保つとは考えにくい。

火倉 刹那 >  
「………」

なり続ける通信音。端末を手に取り、受ける。

「…火倉です。
 申し訳ありません、まずこちらから報告があります────」

違反組織群の地下施設を壊滅させた報告。
そして、その場で遭遇した少女のこと。
あらゆる事実をそのままに伝えてゆく。

己の命を顧みない選択行動は恐らくお叱りもあるだろうが。
普段なら面倒だと思うそれすら、今はどうでも良かった。

「…エリアの崩落の危険があるため離脱します。──後ほど生活委員へ派遣要請し、現場の保全を行います」

通信端末を仕舞い。…もう一度、自身が抜け出た穴のある地下…彼女がいた筈の場所を一瞥し、踵を返すとその場を離脱する。
やり場のない、妙な蟠りは一旦。彼女を最初に連行した彼にでも向けることとしよう。

サロゥ > 少女が居なくなった頃、少し離れた場所の地面に異変があった。
紫の糸が幾本も、地中からすり抜けるように出て来ていた。
そしてそれらは集合し、一つの球のような形を形成したのだ。

それは遺伝子のような螺旋構造が絡み合う糸の集合体。

これが、サロゥの正体。

目的は二つあった。
一つ目は、地下施設にある物品から知識欲を満たすこと。
ただ単にそれだけ。

二つ目は、死んだと思わせること。
風紀に捕らわれるより、追われた方がマシ。
この発言に偽りはない。
とはいえ、妨害は邪魔だ。無い方が良いのは自明。

であれば、死んだことにしよう。
途中で思いついたことで、結果的にも上手くいかなかった。

あの風紀委員が途中で離脱するでも、慌てて捕縛を試みるでも、何でもよかった。
安全地帯から崩落により潰れる自分の姿を見せれば良いのだから。
しかし、死を厭わぬあの精神性が、計画を狂わせた。

おかげで、死の偽装が半端な結果となった。

あそこで風紀委員を殺していれば、追撃はより一層激しくなる。
死はどの世界でも重たい。治安維持組織の命ともなれば、軽率には奪えない。

だから、正体を明かす危険を冒してでもあの委員を死から引き離した。
おかげで潰れた際の血痕すら残せず仕舞いだ。


とはいえ、最大の目的は達成した。
収集した資料の中身を知ることが最優先だ。
死の偽装など、どうでもいい。
対策は、後で考えるとしよう。

とにかく、今は知識欲を満たしたい。

―――糸の塊は再度解れ、空気中に溶けて消えた。

ご案内:「違反部活群/違反組織群」から火倉 刹那さんが去りました。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」からサロゥさんが去りました。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」に紫陽花 剱菊さんが現れました。
紫陽花 剱菊 >  
風花が吹き抜ける。小春の兆し。
打って変わって、諸行無常の夢の跡。
跡にとどめるものは無し。静寂の上で剱菊は佇む。

「…………。」

因果応報。業は何れ巡り合う。是非も無し。
然れど、あえかなく者々が跡に留まる事に非ず。
幽世の島の影法師。之もまた因果か。

「……然るに、残火か。」

故に剱菊は知っている。此の光景を。
刃と相対した鉄火の支配者。斯様な有り様を。

紫陽花 剱菊 >  
声無き嘆きが耳朶に染み付く。
端無くも、有象無象と踏み潰して良いものか。
否、生命は生命。何よりも奪ったが故に、知り得ている。

「……鉄火の残り火成れば、見過ごす事は出来んな。」

何れ、大鉈を振るわねばならぬか。
一入、表情は強張った。

「…………。」

然は然りとて、残火が遭遇した謎の御人。
豈図らんや、事故に巻き込まれたと囁かれる。
潰えた、とは考えづらい。

「まこと、問題が尽きぬ。」

軍事非ずも、火種はそこかしこに燻っている。

紫陽花 剱菊 >  
待ち人の身成れど、立ち止まる暇は無し。
静寂は何れ、姿形もありはせず。

ご案内:「違反部活群/違反組織群」から紫陽花 剱菊さんが去りました。