2024/06/25 のログ
赤塚 良治 >  
「はぁぁぁ…」

深く、深くため息を吐いた。
彼女はどうにも複雑な事情と関係にあると推察した。
そんなしがらみに関わることになりそうだ、という面倒くささ。

だが、そんなのはここで見逃していい理由にはならない。
俺は知る権利があるし彼女も俺に理由を説明しなければならん義務がある。

「下らん戯言を。…では望み通り無理やりにでも吐かせてやる」
「骨は何本か折れて激痛で泣き叫ぶことになろうがそれは俺の前で黙秘をした代償だと思え…」

ではここで叩きのめす。
剣は使わず掴んで叩き伏せて…

「……(通信か)」
「何…?分かった…ちぃ、連中がうるさいのなら俺も本当にしぶしぶ退かねばならんな」

ここで通信がなった。
耳元でかなりがなり立てられたようでどうにも"上"からの圧力で今すぐ戻ってこいの事だ。これは彼女にもうっすらと耳に入るだろう。
そうして良治も通信に嫌味を吐きながら通信を切り

「本当に不本意だ。お前を見逃せ、泳がせろ…だとよ。上の決定らしいな。」
「だから行け。気に食わないがたった今から俺はお前に攻撃でもされない限りは干渉できん事になった」

ぎり、と奥歯を噛みしめる。
謎を残したまま釈然としない決着に不満をあらわにする。
それとは別に良治の剣は背に納めて戦闘状態を解除する。彼女がたとえ背を向けて隙を晒したとて追撃などは絶対にしないであろう。

『毒蝶』 >  
「わぁ、素敵よ処刑人さん。
 それならわたしも、情熱的にならなくちゃ!」

 そう言いながらその左手に、鞘に収まった刀が現れる。
 その柄に右手をかける、が。

「――まあまあ。
 残念、折角の逢瀬なのに、無粋な事するんだから。
 ごめんなさい、あなたに不自由な気持ちをさせてしまったわ」

 そう申し訳なさそうな声音で言うと、いずこかへと刀は消え去る。
 代わりに、その左手には数枚の紙が。

「お互い、立場があると苦労しちゃうわね。
 これはちょっとしたお詫びのしるし。
 わたしの、あなたへの愛情だと思って受け取って頂戴♪」

 少年に向かって、無警戒どころか、親しい相手にするかのように軽い足取りで近寄り。
 少年へ、左手の紙を差し出した。
 受け取って内容を見れば、それがこの違反部活が利用していた流通ルートや、材料の入手ルートなどの情報が簡潔に資料としてまとめられている。
 

赤塚 良治 >  
上層部は見逃せといった。
そして彼女はたった今、情報をこちらに提供した。
つまるところそれは彼女は少なくとも敵ではなくある程度は信用できるといっていいだろう。
瞬時に判断する。

彼女が嬉々として応戦しようとしたのは見逃さなかった。

「ふん、余程戦いが好きと見える。戦いの何が面白いんだか…」
「このように密売のルートなどを手渡された以上は俺はもはや戦えんな。ああ、そちらが襲い掛かってくるならば"正当防衛"をもって撃退せざるえないが」
「ちぃ、喜べ。アンタはシロだ。どうにも納得できんが干渉はしない。情報は貰うが関係なく仕事をする。」

それが情報提供をした最大限の恩返し代わりと言っていいだろう。
推察するにどこかの暗部が秘密裏に動いてると見えるがそんなのは関係ない。彼女は彼女の事をやっているのだからこちらもこちらのやるべきことを。

毒蝶から資料を受け取る。
その際に彼女は悍ましいまでの良治の手を見ただろう。剣を振るいすぎて傷やらでぼこぼこだ。

「"そういう人間"であれば俺は黙って従うだろうな。危うく殺し合いになるくらいにはややこしいのが難点だが」
「お詫びの品はありがたく頂戴し、こちらで有効に活用させてもらう。愛情とかは他所でやってくれ」

此方もお詫びに彼女の手助けをすべきだろうと思うのは人情だがそれが許されない立場にあろう。
資料を受け取って次の仕事を果たす。淡々とそして確実にだ。

良治は行く。次なる悪を見据えて。

「今度はややこしくないように頼みたいな」

『毒蝶』 >  
「まあ、ちがうわ。
 戦いが好きなわけじゃないの。
 お互いの気持ちを伝えあうのが好きなのよ。
 それが戦いなら、喜んでお応えするの!」

 少年の職務と、己の正義への熱意。
 それを一番感じ取れるのなら、わざと、剣を交えられるようにするのだって厭わない。
 今回の協力者がそういう女であった事が、少年にとっては気苦労を増やす不幸だったかもしれない。

「ふふ――ありがとう、処刑人さん。
 あなたの手、とっても逞しくて素敵ね?」

 そう言いながら、少年を見たまま後ろへ下がっていき。

「誠実なところも、ふふっ気に入っちゃいそう。
 ええお願いね、わたし一人だと、そこまで手が回らないの。
 あくまで、諜報活動が専門だから、ね?」

 そう言いながら、能面の口元に人差し指を立てる。

「ええ、今度はもっと仲良くなれるように頑張るわ。
 ああもし――学園で会ったら、立場関係なく仲良くしてね?
 その時は、今日のお礼に美味しいものをご馳走しちゃうわ!」

 そう言い残して。
 黒づくめの女は影の中に滲むように、姿を消し――気配も消える。
 こうして、立場の違う水と油のような二人の出会いは果たされたのだった。
 

ご案内:「落第街 路地裏」から赤塚 良治さんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」から『毒蝶』さんが去りました。