2024/07/23 のログ
ご案内:「落第街 路地裏」にポーラ・スーさんが現れました。
ポーラ・スー >  
 ――ego sanctuarium deus est.(わたしこそが理想郷)

 女の小さな一声と共に、そこに居合わせた違反者たちは、一人残らず倒れ伏した。
 それこそ夢の中に堕ちたかのように、穏やかに胸を上下させながら。
 カツン、と小さな納刀の音。

 島内の生活全般を司る生活委員会とはいえ、武力行使は勿論、殺傷が認められる事は滅多な事ではない。
 たとえそれが無法者たちであっても、生活委員会に出来るのはせいぜいが通報と、よくて現行犯逮捕及び、緊急の場合の制圧だ。
 今回はたまたま、緊急の制圧の必要性を説明できそうだったから手を出せた、というところだった。
 それでも、この後は風紀委員への通報と事情説明など、細々と手続きが必要になるのだが。
 

ポーラ・スー >  
「お仕事が被っちゃうのが嫌よねえ。
 でも仕方ないわよね、『偶然に居合わせちゃった』んだもの」

 はぁ、と悩まし気なため息を吐く。
 倒れているのは、違法な人身売買を行おうとした違反部活、または組織、もしくは個人の集まり。
 当然、人身売買である以上、その商品は――

「――はぁい、愛しい子猫さん。
 ごめんなさい、驚かせちゃったかしら?」

 そうかがんで声を掛けた相手は、まだ年端も行かない幼い女の子だった。
 目の前で起きた事にあっけに取られているのか、おびえているのか、呆然としたまま、倒れ伏した人間たちの中に座り込んでしまったままだ。

「心配しなくて大丈夫よ。
 信じられないと思うけど、わたしは、あなたを助けに来たの。
 んー――ちょっとニュアンスが違うかしら?」

 そう言いながら、場違いなほどのんびりした口調で、首を傾げた。

「うん――そうだわ!
 愛しい子猫さん、わたしとお友達になりましょう?
 そうしたら、美味しいごはんと、柔らかなお布団があなたを待っているわ」

 そんな唐突な事を言い出す女に、女の子は事態を呑み込めずやはり、ぽかんとして女を見上げていた。
 それもそうだろう。
 突然初対面の相手にこんなことを言われて、明朗に答えられる方が恐らく希少種なのだ。
 

ポーラ・スー >  
「まあ、とっても不思議そうなお顔ね!
 でもいいのよ、世の中って時々、とぉーっても不思議な事があるものだもの。
 だから、今日はそんな不思議なお話の、ほんの一つに過ぎないの」

 そう言いながら、困惑する女の子の手に、一枚の小さなアルミ製のカードを握らせる。
 それは、女の子が暖かな『方舟』に辿り着くための、ほんのちょっとした片道切符。

「その場所はわかるわよね?
 そこに行くと、とーっても怖い顔のお兄さんがいるの。
 お兄さんを見つけたら、そのカードを見せてあげて?
 そうしたら、後はなぁんにも心配いらないわ」

 そう言って女の子の身体を支えるようにして、ゆっくりと立たせる。
 座り込んで汚れてしまった、お世辞にも綺麗とは言えない服から塵芥を払ってあげて。
 とん、と背中を押した。

 すると、女の子は戸惑いながらも歩き出す。
 そして無事に辿り着く事が出来れば――そればかりは、女の子の運次第だろう。
 

ご案内:「落第街 路地裏」にメアさんが現れました。
ポーラ・スー >  
「ふふ――あの子猫さんは、迷子にならないかしら?
 ねえ、あなたたちはどう思う?」

 そんな女の問いに、答えるものは居ない。
 倒れ伏した年も背格好も不揃いな連中の中にあるのは、大きなアタッシュケースが二つだけだ。

「ふんふ~ん♪
 さあさあ、中身はなにかしら?
 お金?
 それとも、こわぁいお薬?」

 そして楽し気に、いとも簡単にアタッシュケースのロックを外して、躊躇なく開ける。
 中身は、出所のわからない現金紙幣が、びっしりと詰まっていた。

「やったわ、やっぱり怪しいお金だったのね!
 あとは――あら、発信機も盗聴器もないの?
 不慣れなのかしら、不用心ねえ」

 そう言って一つのアタッシュケースを閉じ直し、ロックを掛けると。
 今度はもう一つに手を掛ける。

「それじゃあ、こっちはなにかしら?
 ――あら、魔術が掛かってるのね。
 それじゃあ、これを、こうして、こうかしら――えいっ!」

 かちゃん、と。
 ケースのロックが外れた。

「うんうんっ、わたしったらやっぱり何でも出来ちゃうのね!
 あ、いけないいけない。
 開ける前に、罠はないかしら?
 仕掛けは他にはないかしら?」

 一つ目のケースよりも慎重に、状態を確かめて。
 間違いなく危険が無いとわかってから、ようやくケースを開けた。

「――あら?」

 その中にあったのは、鞘に納まった幅広の西洋剣。
 不思議そうに首を傾げつつ、女は恐る恐る剣に手を伸ばしてみて――触れる前に止めた。

「特別な美術品かしら?
 それとも、魔剣や聖剣みたいな特別な物かしら?
 まあ――どっちでもいいわね!」

 刀剣に関して、女は武器として以外には美術品のような物がある、という程度の知識しか持っていない。
 正しくは、刀剣そのものには、さして興味がないのだ。
 今、問題なのは、この西洋剣がどの程度の価値を持っているか、その一点である。

「あとで祭祀局の人にみてもらいましょ。
 取引に使われるくらいだもの、きっとお小遣いくらいはもらえるわよね」

 そう言ってまたケースを閉めてロックを掛け直し。
 両手にアタッシュケースを一つずつ持って立ち上がった。
 風紀委員への通報はすでにしてしまっている。
 こっそりと怪しい物を持ち帰るなら、そろそろ立ち去らないと鉢合わせてしまいそうだった。
 

メア > とことこ、小さな足音が鈍く路地裏に響く
周りを見ても代り映えせず人影も殆どない
時折見かけても明らかに普通ではない空気を纏っている

土地勘もない少女は手元の端末をじっと見つめながら歩を進める
青い点は自分、赤い点が目的地

なんだかここに似つかわしくない自分と同じ位の子供がすれ違った気がする
けれど今は構ってられない、目的地はもうすぐそこ

「つい、た……?」

少し開けた路地裏の奥
死んではない様子で倒れる者が数人
両手にアタッシュケースを持った女性が1人

「……こんばん、わ…」

聞いていた情報とかなり違うので、状況整理も込めて挨拶を試みる
普通に返してもらえるかな?なんて思いながら

ポーラ・スー >  
「――あら?」

 小さな足音に気づいてそちらを見ると、なんとまあ、また幼い女の子。
 いや、幼いというより少々、発育不良か、そもそも小柄なのか。

「はぁい、黒い妖精さん♪
 とっても可愛らしいご挨拶だけど、こんなところでどうしたのかしら?」

 そう言いながら少しかがんで、女の子より目線を下げる。
 にっこりと花のように微笑んで、嬉しそうに蒼い瞳を細めた。

「ああっ、もしかして、わたしに会いに来てくれたのかしら!
 まあ、それはとぉっても嬉しいわ!
 でも残念ね、ここにはお菓子とお茶はないの。
 可愛い女の子とお話しするには、ちょっと寂しいわ」

 そう、心底残念そうに言いつつ。

「それに、もうすぐここに、こわーい人達がやってきちゃうの。
 わたしたちみたいなか弱い乙女じゃ、泣いちゃうかも!
 だから早く、ここから離れましょう?」

 などと。
 ここまで一人で、楽しそうに、ほんの一呼吸のような調子で、勢い止まらず。
 まったく場違いな明るい声が、路地裏をかろやかに跳ねまわった。
 

メア > 「お姉さん、には…用事、ないです…」

お茶とお菓子には少し惹かれるけれど、ここにはあくまで別の用事
視線は2つの…否、片方のアタッシュケースに向けられる

「お金は、要らないです……そっちの鞄、ください…」

指さすのは先程の西洋剣の入ったアタッシュケース
見た目ではどちらも変わらない、けれど少女はどちらに目的の物が入っているのか確信している

明るさの反対、無機質で暗い声
楽しそうな様子は無く義務感を滲ませる声だが同時に譲りそうにも無く聞こえる

ポーラ・スー >  
「――まあ」

 一度、目を丸く開いて、すぐに、悲しそうに目を伏せた。

「哀しいわ、すっごく悲しくて、泣いちゃいそう。
 うん、とっても哀しいから、泣いちゃおうかしら」

 そんな事を言いながら、お金の方のケースを置いて。
 両手で支えるようにしながら、少女に剣の入ったケースを見せた。

「うーん、これが欲しいのね?
 でもこれ、女の子が持つにはちょっと危ないものよ?
 どうして必要なのか、お姉さんにお話しできるかしら」

 そうちょっとだけ困った顔で悩んだ後。
 柔らかく微笑んで、女の子に訊ねてみる。

「もしかして、ナイショの事?
 女の子は秘密が多いほど魅力的だけど、ナイショだと渡してあげられないの。
 だから、お姉さんに、ちゃんとお話ししてほしいわ」

 そう上目遣いに女の子を見上げつつ、じぃっと蒼い瞳で女の子の答えを待つだろう。
 

メア > 「…先生に、持っていくの……」

喜怒哀楽の激しい表情
相手に不信感を与えない声音
どこか懐かしく……素直に目的を話す

「だめなら、奪っていきます…お姉さんがしたみたいに……」

ケースの奥の女性の瞳に視線が映る
期待と諦めが半分、そこに少しだけ別の感情が滲んだ目

断られるだろうか、けれどそこまで中身に興味もなく渡してもらえるかもしれない
そんな淡い期待はある

ポーラ・スー >  
「あらあら、お使いだったのね?
 えらいわね、こんな怖いところに一人だなんて。
 とってもすごいわ」

 奪っていきます、と言われても、なんてことなさそうにふわふわと笑って女の子を褒める。
 とはいえ、奪われちゃうのも女としては困らないわけではなく。

「うーん、困ったわね。
 はいどうぞ、って渡してあげたいけど、もうちょっとお話ししてくれないと、お姉さんが困っちゃうの。
 ねえ、その先生は、どうしてこれが欲しいの?」

 そう、女の子にアタッシュケースを半ば差し出すように見せながら。
 言葉の少ない女の子が、お話ししてくれるのをじっと待っているようだ。
 

メア > 「知らない……」

よくは知らない、少しは説明もされたけどよく分からない内容が殆どで理解も少ない

「沢山、人が来たら…面倒……
お姉さん、ごめんね……」

元々光の届きづらい路地裏
暗闇がまだ距離は有るが何かが沢山近付いてくるのを教えてくれる
耳元で急げ急げと声がする

少女の足元から数本の黒い手がアタッシュケースを掴もうと伸びる

ポーラ・スー >  
「まあ――あなたもよく知らないのね。
 そう、それじゃあ仕方ないわ」

 少女の反応は、おおよそ予想できたもの。
 その『先生』とやらは、おそらくこの少女の保護者か――利用している誰か。
 こんなところにわざわざ、女の子一人を回収に来させる辺りを考えれば、あまり大事にされているような印象は抱けない。

「あら――それはずるっこね」

 するり、と。
 屈んでいた女は、風に踊る花のように、ふわりと黒い手を避けて立ち上がり、両手にアタッシュケースを持ち直した。

「うーん、そうねえ――それじゃあ、お姉さんとおにごっこしましょう!」

 そう言うと、ひらり、と女の身体は高く舞う。
 地上から二、いや、三メートルほどの高さだろうか。
 そこに、半透明のヒビ割れた板のような足場を作って、立っている。

「わたしを捕まえられたら、あなたにコレはプレゼントしちゃうわ。
 だから、一生懸命、わたしを捕まえてみて♪」

 そう言って、女の子の頭上を飛び越えてしまう。
 そして、くるりと振り向きながら、こちらにおいでと言わんばかりに、踊るように路地裏を軽やかに駆けていく。
 ひらりひらり、と、時折、女の子がついてきているかを確かめるようにしながら。
 

メア > 「むぅ……」

薄暗い場所で不意打ちに近い手を躱された
残念と共にやはり何かしら警戒はしていたのだろう
鬼ごっこと言い何かの上に立つ彼女を見上げる

「捕まえる……追いかけて…」

地面から現れる大きな黒い手に乗る
指に抱き着くように掴まれば、手はそのまま彼女を追うように伸びていく
異様な追いかけっこが始まった

ポーラ・スー >  
「まあ、すごいわ!
 そんなこともできるのね」

 大きな手を作って追いかけてくる様子は、ちょっとしたホラー映画のようだ。
 けれど、その手に乗っているのが――

「ふふっ、こっちよ、愛しい妖精さん♪」

 愛らしい女の子であれば、女としては楽しい時間でしかなかった。

 女の動きは、早いようには見えない。
 むしろ、ゆったりと、時折、くるりくるりと、舞って見せながら進んでいく。
 だというのに、なぜかなかなか距離は縮まらないだろう。

「ほらほら、こっちこっち」

 心底楽しそうに、女の子を誘いながら、路地裏の角を曲がり、時に散らばったゴミを飛び越えたり。
 ふ、と突然、姿を消したと思えば、女の子の後ろの角から顔を出して、『こっちよー』と呼びかける。

「あっ、次の角は気を付けて?
 占い師のおばあさんが居るの。
 ぶつかったら、きっとこわーい顔で怒られちゃうわ!」

 そんな事を言いながら、目の前で角を曲がり。

「まあ、今日も元気そうねおばあさま!
 また今度、お茶をしましょう」

 そんな挨拶を交わしながら、より路地の奥へと進んでいく。
 背中の丸い老婆は、そんな女に笑って手を振り。
 女の子が、追いかけるようにやってくれば。

『足元には気を付けるんじゃよぉ』

 と、微笑みながら見送ってくれるだろう。