2024/07/24 のログ
メア > 「………」

誘われている
独特の歩法なのか、うまく距離が縮まらない
平原等ならいざ知らずここは足場が多すぎる
今も当然の様に遊ばれている

「おばあちゃん……」

足元の注意をしてきた老婆の前を通り過ぎ、考える
このまま追いかけるだけでいいのかと…

「…だめ……」

例えば、辺りの足場を建物ごと破壊していけば?
例えば、先程の老婆や目に付く人間達を使えば?
例えば、たとえば、タトエバ………

声を払う様に頭を振って前を飛び跳ねる彼女に視線を集中する
何も考えずこのまま進んで追いつけばいい
耳を傾けるのはどうしようもなくなってからでいい

ポーラ・スー >  
「んー――やっぱいいい子ね」

 女の子から逃げたり、身を隠したりとしながら、女は呟く。
 この島で。
 この街で。
 この場所で。

 年端も行かない女の子が、こうして堂々と出歩けている意味は。
 この街を知っている者なら、誰だって想像できるものだろう。

「うーん。
 そろそろいいかしら」

 そうして、最期に曲がった角の先は袋小路。
 秩序の番人も、悪意の手先も、目が届かないような入り組んだ路地の盲点。

「はーい、妖精さん、ここがゴールよ。
 約束通り、『コレ』はあげるから、こっちにきて?」

 そう言って、袋小路の奥で立ち止まって振り返ると。
 女は自分の目の前に、『剣』の入ったアタッシュケースをそっと置いた。
 そして、近づいてもらえるように手招きをして女の子を待った。
 

メア > 「…すごく、奥……」

鬼ごっこの終点
マップが無ければ出る事も難しい程の奥地
こんな場所まで来て何をしたいのか…彼女の真意は一旦置いておく

「もらう…」

置かれたアタッシュケース
取りに来いと言われれば手から降り、とことこと近付く

あと数歩、そんな場所で立ち止まる

「手を伸ばす……邪魔しないで…」

足元からまた黒い手がアタッシュケースに向けて伸びる
必要以上に近付きたくない、言葉よりも行動でそんな気持ちが滲み出る

ポーラ・スー >  
「あら――もう、そんなに警戒しないで?」

 片手に持っていたお金のケースもぽいっと投げ。
 腰にあった刀も鞘ごとぽいっと投げ。
 丸腰になって両手を広げる。

「ここなら、誰にも見られない、聞かれないわ。
 だから、もう少し仲良くしましょ?」

 そう言いながら、女の子の方へそっと、一歩近づく。

「あまぁいキャンディがあるの。
 折角だから、一緒にだべましょう?」

 そう言って差し出された女の手の平には、飴玉が一つだけ乗っていた。
 

メア > 「無理……」

武器を捨て、武器になりそうなものを捨てる
この街でその行為が一体何の保証になるというのか?
1歩近づかれば少女の歩幅で2歩下がる

「お姉さん、怖い人……」

アタッシュケースは黒い手に掴まれ少女の足元へ引きずられる
沼地に沈むように影の中に消えれば少女は少し安心し…

「ここで、何がしたいの…お姉さん……?」

差し出された飴玉を受け取る様子は無い
警戒心むき出しの視線、彼女の言動一つ一つが少女の目には好意的には映らない

どう表現すればいいのか分からない、けれど気味が悪い…そんな感想を抱いていた

ポーラ・スー >  
「そんな――酷いわ」

 よよよ、と泣き崩れるように地面へと崩れ落ちる。
 芝居がかった様子は、本気でショックを受けているわけではないのがまるわかりだろう。

「ううん、怖い人に見えちゃうのね。
 反省しないといけないわ。
 ねえ、妖精さん、お姉さんのどういうところが怖い人だったのかしら?」

 そう、着物が汚れるのも構わず地面にぺたんと座ったまま。
 口元を袖口で隠すようにしながら、不思議そうに首を傾げた。

「それに何がしたいかって言われても、そうねえ。
 あなたと、お友達になってみたい、じゃあだめ?」

 そう、両手を合わせて、やはり少しだけ上目遣いに。
 その言葉は警戒心が強いほど、感性が鋭いほど。
 女の子が感じた通りに――気味が悪いほど、本心であるのが分かってしまうだろう。
 

メア > 「………」

ここまで話した内容、行動を見れば彼女の言動は好意的に見える
追いかけっこに付き合わされはしたものの約束通り荷物はもらえた
今も仲良くなりたい、とこちらに歩み寄ろうとしてくれている

ではなぜ少女はここまで警戒し、嫌悪の感情を向けるのか

「気味が悪い………」

人に安心感を与える笑顔も子供相手に警戒を与えない行動も
全てが計算された言動を見ているとあの人を思い出して吐き気がする

「お姉さん、友達……居なさそう……」

ぽつりと、そんな事を口にした

ポーラ・スー >  
「そ――それは、流石にショックだわ」

 気味が悪い、と言われるのは別に何ともなかったが。
 友達が居なさそう、は中々にクリティカルヒットだったようだ。
 本当にショックだったのだろう、口元を隠しながら伏せた瞼からは、ほんのり涙がにじんでいた。

「と、友達はちゃんといるわよ?
 それにっ、ちゃんと慕ってくれる子だっているものっ」

 きっと女の子が思った以上に、必死な様子で言うだろう。
 ちょっと泣いちゃいそう、ではなく。
 既に半泣きだった。

「もうっ――妖精さんって、意地悪なのね。
 でも、とってもいい子。
 きっとその気になれば、もっと乱暴に、もっと早く、わたしからケースを奪えてたでしょう?」

 そう言いながら、涙目で女の子を見つめ。

「そんな、優しい子だから、お友達になりたいのよ。
 本当に、とぉっても愛らしくて、愛おしい女の子なんだもの」

 そう話す言葉には微塵も――ほんのわずかにも悪意や打算が含まれていない。
 悪意に過敏な女の子であれば、今の言葉も、これまでも、一切の悪意が感じ取れなかっただろう。
 女の言動、そのどれもが善意と愛情だけに彩られている――それこそが気味の悪さを助長しているのかもしれない。
 

メア > 「居ないんだ………」

友達が居なさそう、というのはただの想像だった
本当に居ないのなら少し可哀そうだったかもしれない

「乱暴に取ったら…面倒そうだから…」

少なくともここで取引をしていた連中を無傷で制圧していた彼女
戦いになればどうなっていたかも分からない以上、それを避けるのが合理的だった

「お姉さん…子供が好きなんだね……」

小児性愛者?
違う
そういう悪感情は感じない

ただ子供が大好き?
違う
そんな純粋なものではない、ずっと感じていた気味の悪さ…
アレと同じいびつな感覚

「子供は、すぐに信じるから…好き…?」

母親と同じで気味の悪い彼女に問いかける

ポーラ・スー >  
「い、いるもんっ!」

 子供のような反論。
 むすーっと半泣きでむくれているあたり、本当に子供みたいかもしれない。

 けれど、女の子の問いかけには、一度目を丸くして。
 とても意外な事を訊かれたかのように、不思議そうな顔をした。

「えっ、うーん?」

 少し、口元に手を当てて考える。
 首をかしげて、雰囲気こそ緊張感の欠片もないが、その間の長さから、真剣に考えている事は伝わるだろうか。

「もちろん――子供『も』好きよ」

 そう、答える。

「だって、子供たちは、あらゆる可能性の種だもの」

 女の子が何を感じ取っているのか、女にはわかりはしないが。

「子供たちには無限の可能性がある。
 それは芽吹くかもしれないし、芽吹かないかもしれない。
 蕾になるかもしれないし、花開くかもしれないけど、枯れてしまうかもしれないし、もしかしたら摘み取られちゃうかもしれないわ」

 子供たちが豊かな可能性の花を、自由に咲かせられるほど、現実は優しくない。
 けれど。

「それでも、わたしは何時か芽吹いて蕾を付けて、彩とりどりの可能性の花を咲かせてほしい。
 それはきっと、とても綺麗で、とっても鮮やかな、楽園のよう。
 星の海にだって負けないくらいに輝かしい、可能性の楽園」

 そう、穏やかに、楽しそうに語る女は、どこか夢見る子供のような無邪気さで。

「――もちろん、その先で、わたしを想ってくれたなら嬉しいわ。
 でも、それは、ただの『結果』で良いの。
 わたしを信じても、信じなくても、子供たちはいつか、本物の楽園を見つけてくれるわ。
 そんな種が、蕾が、花が――わたしは愛しくて、愛らしくて、たまらないの」

 そう、それこそ花のような笑顔を咲かせて、暗い青色の瞳を輝かせる。

「でも――そうね、贅沢を言えば。
 そんな楽園を、わたしが作ってあげられたなら――そんなふうには思ってるわ。
 だから、そうね、妖精さんの質問に答えるなら――」

 また少し、間をおいて、じっと女の子の瞳を見つめ。

「わたしは、未来がすきなの。
 可能性が、成長が、誰もが歩く一歩一歩が。
 なによりも、どんなものよりも大好き。
 それを一番多く見せてくれるのが、子供たち、って言うだけなのよ」

 美辞麗句で飾り立てた言葉でない、それがこの女の、邪気の混じる余地のない純粋な想いである。
 それは、間違いなく狂気的な愛情。
 この世のありとあらゆるものを愛しているという宣言に他ならない。

「だから、わたしはあなたが花を咲かせるところを見てみたいの。
 友達になれたら、他の人よりも少し近くで、見ていられるでしょう?」

 そして両手を合わせて、再び満面の笑みを咲かせるのだ。
 歪なほどに、純粋な。
 

メア > 「………」

饒舌に語る姿はとても嘘とは思えない
未来を愛する、子供は無限の可能性に満ちている

そう語る彼女の姿を見る目には疑いや警戒の色はもう無い
純粋な望みを聞いて少女は確信したのだ

「気持ち悪い………」

あぁ、この人はどうしようもなく歪んでいるんだと 
彼女に似た人種を表すなら狂信者、殉教者辺りが似合うかもしれない
歪み切ったせいでもう絶対に元には戻らない、そんな人種

「可能性が、奇麗なんて…傲慢……神様にでも…なったつもり…?」

気味が悪いと感じていた、今は気持ち悪いとまで思う
遥か上から見下ろして勝手に自分達を値踏みして勝手に期待する
違和感が悪い方へ矯正され、彼女の目を見つめ返す

「私は、お姉さん…嫌い…私は、花でも人形でもない……」

カリカリと頭の奥で音がする
耳障りな声が何度も響く

上から見下ろす偉そうな奴には一度地に足をつけさせてあげようと…

少女の目は黒く濁る

ポーラ・スー >  
「ああ――そうね」

 気持ち悪いと言われ、傲慢と言われ――それでも女は笑う。
 そんな感情の発露でさえ、女が愛する一歩に他ならないのだから。

「神様に――」

 チリチリと何かが焼けるような感覚があった。

「■■■■■■――ふふ、あはは――そう、わたしが――」

 異界の音列が響く。
 頭の中で何かが千切れては、繋がり、砕けては、新生する。

「いいの、あなたがどれだけわたしを嫌いでも――」

 無邪気に輝いていた瞳は――深淵の如き蒼に濁る。

「わたしが――とこしえにあいしてあげるもの」

 一歩。
 濁った瞳は視線を逸らさないまま、踏み出す。
 

メア > 「ふぅ…あっそ、じゃぁ代わりにはっきり言ってあげるよ。」

先程と少し違う、流暢な声音
黒い瞳が蒼の瞳を見つめる

「可能性を見たい?未来を愛してる?
言ってることは立派でも今を見てない奴の御高説は今を生きてる奴には届かない。」

舌を出し、中指を突き立てる
侮蔑一色の笑みを浮かべて

「キモイんだよおばさん、未来が大好きなら青いロボットでも探してきなよ。」

足元の蔭から一直線に黒い槍が飛び出す
明確な殺意を込めて

ポーラ・スー >  
 何の警戒もない一歩。
 その陰から突き出された黒い槍は、殺意を象徴するかのように、女の胸を貫いた。

 ――それは即死を免れない致命傷だ。

 みぞおちを貫き、背中まで貫通した槍は、間違いなく命を奪う一撃だ。

「あ、は――」

 けれど、女は死なない――否、死ねない。

「あは、ははハハはハハは――!」

 めちゃくちゃな音階の哄笑。
 右手が自身の胸を貫く、槍を握る。

「痛いイタイイタイ痛いイタイイタイイタイイタイ――!」

 そして、槍を支えにするように、体を起こして――黒い槍を引き抜いた。
 本来なら、濁流の如く溢れ出すはずの鮮血が、女からは滴る程度にしか流れなかった。

「ああぁァァぁぁああ――ちが、いっぱい――しんじゃう――」

 血に染まった槍が貫いた先にあったのは、虚ろだった。
 そこにあるはずの――人間の熱を産む芯が無かった。

「あ、は――あいしてる(しんじゃえ)

 その言葉と同時――女が捨てたはずの刀が、青黒い流体へと変貌して、地面を這う。
 そして、その流体は、女に刺さった槍と同じように、少女の中心へと鋭い刃先となって襲い掛かった。
 

メア > 「きんも…バケモンじゃん。」

しっかりと突き刺した、手応えも十分
しかし結果としては血が数滴
果たして今のがどれ程相手のダメージになったのか

「こんなバケモンに愛だの可能性だの語られてたと思うと寒気がする。
やっぱあんたの事嫌ってたの正解だったみたいだね?」

影から生える手が幾重にも肉壁代わりに流体を受け止める
水流の様な武器、使い道は自分と似た様なもの…ならばどう打開するか?

「どうせすぐ死ぬような身体じゃないんだろ?」

足元から黒い槍がいくつも飛び出る
狙いは適当、質より量…されど致命傷には至らないだろう

ポーラ・スー >  
 流体の刃は鋭く、無数の影を貫くが――少女には届かない。
 まるで流体自体が意思を持つかのように、周囲の影を刃となって切り払うと、女の手の中におさまり、青黒く輝く刀身の刀となった。

「いや――いやなの――しにたくないしにたくないしにたくないしにたくない――もうしなないで(ころさないで)――!」

 女の足元から飛び出した槍は――その全てが、『壁』に阻まれた。
 無数の亀裂が入ったその『壁』は、女を中心にドーム状――いや、球状(・・)に広がっていく。
 地面すら抉りながら、その『壁』は少女すら呑み込もうと迫る。

「やだいやちがうやめてわたしは■■■■■■に――アアアああぁ!?」

 そして明らかに錯乱している女は、めちゃくちゃに刀を振り回す。
 半径四メートルほどの『防壁』の中心。
 その内側から、細く伸びた刀身が、『防壁』の外を滅多切りにしていく。
 それはもはや、すでに少女を狙うでもなく。
 ただただ、周囲を無差別に斬りつけ破壊していた。
 

メア > 「死にたくないねぇ、良いじゃん。
そうやってわめいてる方が高感度高いよ。」

球状の何かが迫る
確かあれは先程足場に使われてた何か…
そしてその中心では滅茶苦茶に刃が振るわれていてとてもではないが

「近付くのは無理、か…」

壁の外へと下がる、刃を防ぐ事自体は先程よりも楽に感じる
破壊力は有るが適当なだけあり動きは素直、いなすか防げば脅威ではない
しかし防壁の中に入るのだけはだめだと思考ではなく勘で理解する

「はっきり聞こえないんだよおばさん!
言いたい事あるならはっきり喋ってもらえますかぁっ!?」

神にでもなりたいのか、そう言ってから明らかにおかしくなった
奇麗に地雷を踏み抜いたのは間違いない、もしくはトラウマの瘡蓋でも引っ搔いたのか

どちらにせよまともに近づけない上体を傷つけても止められない以上言葉でどうにか打開策を見つけるしか手立てがない

ポーラ・スー >  
 少女の直感は正しい。
 この『防壁』は、徹底的に敵性の存在を許さない(・・・・・・・・・・)一種の『聖域』だ。
 見た目通りに無数の亀裂によって崩壊しかけているとしても、その本質は変わらない。
 崩れかけた『壁』の一部を壊して中に踏み込めたとしても、『聖域』の中ではあらゆる理不尽が襲い来る。
 これが女の持つ異能――その、歪に壊れた成れの果てだった。

「ちがうわたしは■■■■■■じゃない――■■■■■■はわたしが――わたしが■■■■■■――」

 錯乱した女から漏れ聞こえるのは、明らかにこの世界(地球)の言語ではなかった。
 異様な、異界の音。
 辛うじて少女にわかるのは、それが何かの名詞である事だろうか。

 そしてやはり少女の考えは正鵠を射ている。
 少女とのやり取りの中で、なにかが、女の理性を壊した。
 そして、女自身でも制御できない狂気が外に溢れ出している。

「やめて――けさないで――いやだ誰も傷つけないで(みんなしんじゃえ)――ちがう■■はもう――だめだめだめいやだいやだやだ――!」

 しかし錯乱した無差別の斬撃も、そう長くは続かなかった。
 女は刀を放り出して、頭を抱えだす。
 まるで何かを恐れるように――頭を抱えて悶える。

「■■■■■?
 ■■■■■■!?
 ■■■■■■■■■■■■――!!」

 悲痛な叫びは、誰もその意味を理解できない。
 その意味を理解できるのは■■を持つものだけ。

 主の手を離れた刀は、再び流体となって、『聖域』の中を暴れまわる。
 主の制御を離れ、主と同様に暴走しているのは一目瞭然だった。

 ――それでも。

「――いや」

 壊れ果てた『聖域』が、ほんのわずかに本来の役目を果たす。

「わたしは――■■■■■■じゃ――な、い――」

 それは自我と言うにはあまりに弱く、狂気に打ち勝てるものではなかった。
 けれど――

「――たす、け、て」

 狂気に抗う僅かな声が、微かに少女へ届くだろう。
 

メア > 「精神病とか悪魔憑きかよ、何語なんだよそれ!」

そもそも言語なのかと言いたくなる
何か同じ単語を繰り返しているのは分かるがそれ以上は理解できない
発音も、おそらく無理だろう

「これはあれだ…無理。」

防壁の中に入るのは論外、外でさえ今は斬撃の嵐
説得もそもそも謎の言語が出てきてそれどころではない
最適解は放置してこの場から離脱する事
恐らくだが放っておいても自滅か、流石に周辺の住人達が放っておかない

そうと決まれば一刻も早く逃げてしまおう
そんな時に、聞きたくない言葉が聞こえる

「……チッ!くそっ…さっきは気持ち悪いって言ってただろ!」

ついさっきまで嫌悪していた癖に助けを求められただけで手を差し出せと声がする
頭を掻き、声を振り払おうとしても止まらない

「あぁもうっ…!……おいおばさん!助けてやるからあんたも自分で何とかしろ!」

2つの巨大な黒い手が防壁に伸びる

ポーラ・スー >  
 巨大な暗闇が、防壁を押さえつけるように伸びる。
 その大きな手は、防壁の亀裂を確実に大きくしていく。
 断続的にガラスが砕けるような音が連鎖し、『聖域』の壁は、確実にその崩壊をを始めていく――だが。

「ぅ、ぎ――ガぁああぁっ!?」

 女がそれまでと違う、明らかな苦しみの声を上げた。
 それと同時に、暴走した流体金属は、蒼黒く光りながら、鞭のように少女を襲うだろう。
 それは刀よりも鋭く、斧よりも重い斬撃――
 

メア > 「っ…成程?」

不規則な動きが乱れ、規則的な動きが見えた
流体が明確にこちらを狙っての攻撃
反応が遅れ防御はしたが方から肘にかけて浅くない傷を負う

だが、少女の顔は笑みを浮かべる

「あんな状態で流体操作なんて真面に使える?
答えはノー、お前誰だ?」

彼女の意志での攻撃ではなく別のナニカの行動と断定する

「とりあえず、一旦大人しくなってもらおうか!」

黒い手は防壁への圧力を強める

ポーラ・スー >  
 強まった圧力に、破砕音が連続していく。
 亀裂はすでに壁が白く染まるほどに広がっている。
 そして、その脆弱性を補うためなのだろう。
 防壁は圧力に負けるように、徐々に、しかし確実に、その大きさを小さくしていく。

 ――半径三メートル

 蒼黒い流体金属が、無数に分裂し、一つ一つが突撃槍のような破壊力を持つ小さな礫となって、雨のように少女へ降り注ぐ。

 ――二メートル

 防壁は着実に崩壊へ進んでいく。
 それは聖域の崩壊と同義だ。

「あ、あああ、ぎ――■■■■■■――■■――わた、し――だ、れ――?」

 女は涙を流しながら、悶え、苦しみ――しかし、それでもほんのわずかな抵抗を諦めない。
 少女に降り注ぐ、雨のような礫は、どれもが辛うじて急所を外していくだろう。
 そして、防壁自体も着実に、その強度を失っていく――
 

メア > 「悪いけど、来るとさえ分かってればどうとでもできるさ。」

防壁を押し込み、流体金属は同じく無数の手が受け止める
貫かれても少女自身に届く前に止めればどうということはない
届いても命にかかわらなければ大きな問題ではない

あともう少し、最後の一押し…

「誰?そう言えば自己紹介もしてないのか…後で素面の時に教えてあげなよ。
少なくとも聞いた事もないような音の名前なんかじゃないんでしょ?」

防ぐ礫からは明確な殺意を感じない
真面に防げば全て止められる、そんな最後の抵抗を黙殺する

「とりあえず、喋るのに邪魔なんだよねこの壁…だから、ちょっと壊すよ。」

最後の一押しを、押し込む

ポーラ・スー >  
 ――一メートル

 いよいよ壁の亀裂は、圧力に耐えられず崩壊を始める。
 至る所からガラスの砕けるような音が鳴り響き、破片となって周囲に散って、消えていく。

 ――そして

 ひと際大きな破砕音と共に、防壁は砕け散った。
 壁によって区切られていた『聖域』はその力を失い、少女の暗闇の腕は、『聖域』の中の女を、確かに掴み取るだろう。

 しかし、それは最後の抗いか。
 流体金属はその質量を圧縮させ、一つの小さな矢じりのように、空気を砕く速さで少女へと飛んだ。
 その破壊力はこれまでの比ではないだろう。
 直撃すれば即死は免れない。
 それだけの脅威が正確に少女の身体を狙い撃っていた。
 

メア > 「ほらきたぁっ!」

防壁が崩れる瞬間
恐らく最も油断が生まれる瞬間に飛び出した流体金属を黒く染まった自身の腕で受け止める
ぶつかり合う音は金属同士のそれに似ていた

「やりきった瞬間、勝ったと思った瞬間に来ると思ったよ。
お前このおばさんと全く別物の生き物か意志があんだろ?」

ガリガリと削れるそばから闇が矢じりを覆おうとする
彼女が暴れる時から感じていた、この武器そのものの意志
流体金属の壊し方など知らないが暴れる怪物を押さえつける位ならばできない事もない

「大人しくしてろよ別に殺したりしたいわけじゃないんだから、さぁっ!」

ポーラ・スー >  
 黒と蒼がぶつかる。
 しかし、競り勝ったのは黒だった。

 流体金属は勢いを失うと、普通の液体のようにその場で流れ落ち、少女の足元で、蒼い刀身の――しかし、刃はぼろぼろのナマクラ――になって転がった。

 黒い手の中に捕らえた女は、呼吸こそ弱弱しいが、確かに息がある。
 そして、もう暴れる様子もないようだった。

「あ、り、が――」

 浅い呼吸を繰り返す中で、掠れた声がする。
 それは確かに、先ほどまでの狂った悲鳴とは違っていた。
 

メア > 「…流石にもう、大丈夫だよね?」

勢いの収まった蒼い刀を黒い手で突いてみる
ついさっき殺される所だったので油断はせず…反応もないのでとりあえず遠ざけた
大丈夫とは思っても近くに置きたい物ではない

「もう暴れないでよ、おばさん?
また同じことやれって言われたら迷わず逃げるからね。」

ゆっくりと彼女を地面に下ろす
拘束する気は無い、けれどあまり近くには近づきたくはなさそうである

「気絶されたら困るから先に聞くけど、あれどうする?
とりあえず真面な人通りの多い所までは連れてってあげるけど。あのキモイのもってく?」

こんな場所で瀕死の女性を放置すればどうなるか等想像するまでもない
安全な場所に運ぶにしても問題はあの刀である

ポーラ・スー >  
 地面に降ろされた女は、朦朧とする意識の中でも不思議なほどに落ち着いていた。
 当然、暴れる様子も無ければ、そもそも動く様子もないだろう。

 ――頭の中が妙にすっきりとしていた。
 それが、いつの日かぶりに、自分が正気を取り戻しているのだと確信するのに、僅かだが時間がかかった。

「だい、じょう、ぶ」

 それが何に対しての返答だったのかは、自分にしても少女にとっても曖昧だっただろう。
 そして、自分の記憶もまた、あの日(・・・)を境にほとんどが曖昧だった。
 今自分がどうしてこの状態にあるのかすら、ぼんやりとしか思い出せないほどに。

「あな、た、は――?」

 掠れた声で、少女に聞いた。
 恐らく、自分を助けてくれた少女であるという事は、辛うじてわかった。
 しかし、それ以外は何も思い出せない。
 初対面だったのか、顔見知りだったのかさえ。
 

メア > 「本当だよね?信じるからね?」

念には念を、本当にまた暴れられたら洒落にならないのである
痛む腕を抑えながら一息つく

さぁ、大体の問題は解決したよ…

「っ……私は、メア……」

ぎゅっと傷口を抑える
少し涙が出るのは痛みが原因なのは明らかだった
数回ゆっくりと深呼吸、ぎこちないが傷を負った左腕も動きはするので多分大丈夫

「お姉さん…名前、は…?
ここがどこか……分かる……?」

自分よりも重傷であろう彼女に声をかける
さっきまでの彼女とは別人に見えた

ポーラ・スー >  
「め、あ――」

 聞き覚えのない名前だった。
 そして、続く問いには、弱弱しく首を振る。
 あの日(・・・)からどれだけ経ったのかも、どこに行きついたのかもわからない。
 そして、今があの日(・・・)の続きであるなら、名前は容易に口に出せるものではなくなっているはずだ。

「めあ、さん、こっちに――」

 力を振り絞るようにして、ゆっくりと手を伸ばす。
 まるで自分の身体ではないような、おぞましい違和感を覚えた。
 そして同時に、自分が正気でいられる時間が、あと僅かだとも悟った。
 伝えなければならない。
 自分と関わってしまったのなら――いや、今の自分を見てしまった少女には。

 ――少女から女を見れば。
 女に疵らしい傷はなく、胸に空いていた穴も綺麗に塞がっているのが分かるだろう。
 

メア > 「…なに……?」

近付き、差し出された手を握る
最初にあった時の彼女とはこんな事はしない
そうしたのは目の前の彼女は普通に見えたから

「傷、ない……」

傷痕らしきものも残っていないのは好都合
これなら体力が回復さえすれば特に問題もない筈と不安要素が減る

ただ、まだ特大の不安要素が2つ程残ったままなのだが

ポーラ・スー >  
「は、ぁ――」

 浅く荒い呼吸をどうにか落ち着かせながら、少女の手を弱弱しく握り返す。
 そして、すぐ近くの少女にだけ聞こえるように、本当に微かな声で囁いた。

「わた、し、は、■■■■■。
 めあ、さん、■■■■■■計画、と、■■■■教授、に、気を付け、て」

 今は意味が分からないかもしれない。
 けれど、関わってしまった以上、伝えておかなければいけなかった。
 今の自分(ポーラ)がどれだけ抗えているのかも、わからない以上は。

 そして、本来の異能の力を使い、少女の傷を癒す。
 傷口を塞ぐ程度の力しか扱えなかったが、今はそれが精一杯だった。

「すぐ、に、わたしは、かい、しゅう、されるから。
 めあさん、は、はやく、にげ、て」

 そう伝えている間にも、意識が曖昧に――いや、塗りつぶされていくように感じた。
 伝えないといけない事は、まだたくさんあるというのに、■■■■■の僅かに残った正気は、あまりにも非力過ぎた。
 

メア > 「分かった……しっかり、覚えた……」

彼女と、誰かの名前
そして聞いた事もない計画
分からないことだらけだが今必死に伝えられた内容を頭に刻む

「傷……ありがと……」

回収、逃げろ
そう聞けば立ち上がり後ろを向く
あの刀…回収している暇もないし危険だろう

「■■お姉さん……またね…」

それだけ伝えて、路地裏へと駆けていく
幸い傷は塞がっているので普通に動ける
路地裏の迷路から抜け出すのに問題はないだろう

ポーラ・スー >  
「ありが、とう――」

 少女の答えに何とか笑みを作って、吐息を零すように感謝を伝える。
 万が一関わってしまえば、アレは蛇のように絡みつき、何であっても呑み込んでしまう。
 少女が関わらないで済む事を願いながら、瞼を落とす。

「ええ――また、いつか――」

 願わくば、今の自分(ポーラ)がまだ抗えているのなら――。
 彼女の力になってくれればと、願わずにはいられない。
 ■■と、あの計画だけは――けして、存在し続けてはいけないのだから――。

 ――そして少女が去って間もなく。
 完全武装の集団がやってきて■■■■■を回収した。
 ■■■■■が次に目を覚ますのがいつになるのか――その日は、二度と訪れないのかもしれない。
 

ご案内:「落第街 路地裏」からポーラ・スーさんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」からメアさんが去りました。