2024/08/25 のログ
紫陽花 剱菊 >  
「……私としては、此れを礼節と唱えるのは罷りならぬのだが……
 余儀無き腹の探りより、胸襟を開くので在ればつつがなく、朗らかでいたいものだ。」

其の風体は見紛うこと無き戦人。
然るに、剱菊の根底は静寂と泰平を愛する素朴な男。
折しも見せる辟易とした表情が本質を物語る。
いわんや、二律背反たるは同時に己が身分を弁えている証左である
()()りとて、也。

「気遣い、痛み入る。……、……。」

静かに耳朶に、言の葉を染み込ます。
(うろ)の目、或いは戦人ととして機敏か。
内包されし本流、有り体に言って力。
潜在性は認めようとも、斯様持て余すじゃじゃ馬也。
さもりなんと、騎手は名馬を欲する。
無愛想な表情にも、ゆくりなく僅かに強ばろう。

「……ただの生徒、で在れば不要で在ろう。
 私も異邦人、流浪の身成れば生活委員会に世話に成っている。
 ……完全とは言わぬ。だが、泰平を噛みしめるには十二分な天道の下……。」

斯様な暗部に脚を踏み入れねば、そらんじる事も無くば事足りぬ。
(うろ)の双眸、両目を射抜く。
斯様、鉄のように冷たく、刃のように鋭い視線。

「────畢竟(ひっきょう)、力などと体良くいようと、つど殺しの御業ぞ。」

唯身の回りを豊かにするに非ず。
求めし在り様、汎ゆるこんなを打ち払わんとする。
本質の根源は全て暴力。他者を踏みにじる所業也
自らが戦人故に、根底から目を逸らさぬ。
故に、飾り気も無く言伝う。ただの生徒には無用の長物。

「……其方(そなた)の活躍は卒爾(そつじ)乍音に聞く。
 個々の問題は在れど、其れ以上求めてなんとする?
 只々歩むべき者を守るだけなら此より先は必要無し……。」

「自らの言の葉通り、ただの生徒として生きるが良し。
 何故(なにゆえ)自ら(ちから)等と今更欲せん?」

エルピス・シズメ >  
 警戒が礼節足り得る場で生きて、本来の礼節も身を護るもの理解する。
 落第街の住人としてのエルピスは、そういうものを抱えて生きている。


「そうだね。僕も最初はそうするつもりだったみたい。ただの生徒として転生して、一生を過ごす。
 でも、そうはならなかった。だから……半分は、腹芸。でももう半分は、ほんきだよ。」
 
 表情を強張らせた彼を見て、剣吞な意を察する。
 冷たき視線に怯む様子もない、ある種の覚悟がそこに在る。

「その通り、好きな人と居たい。此処で生きるには、此処よりもうちょっと先が欲しい。
 どうにもならない時に、暴力を以ってでも風穴を通したい。
 踏み躙る罪の覚悟は、朝ご飯を食べてる時に決めてきたよ。」

 揺れてはいるが、覚悟はある。
 陽の当たる一生徒として一抜け出来ないと、言外に主張している、


「……それこそ破壊神の異名を持つ風紀委員の気まぐれや、
 風紀委員や公安委員すら手を焼く『異能殺し』にも向き合えるだけの力が欲しい。
 いちばんは……まだ終わってなかったもの(赤き怨敵)に引導を渡したい。」

 詳細は紛れさせて、伏せている。
 ……つもりなのだろうが、どうしようもなく強い本音が紛れている。
 その上で、好きな人と一緒に居たい──単純な理を通すには足りないと答えた。

 

紫陽花 剱菊 >  
「……単純にして明快……真理でも在る。
 共に歩みたいと思う気持ちは、推し量る事も出来よう。」

私にはもう、久遠の彼方で在ろうが。」

歩もうとした黄昏刻も最早、更生の彼方。
如何にしようと罪には罰。
何時ぞや現れるかも分からぬ夕刻の待ち人。
羨望ではある。おくびには出さぬ。
(うろ)は僅かに、彼方を見た。
つづろ、双眸映りしは小さくも力を求めし者。

「…………。」

静寂。言葉も帰らず、微塵も動かず。
生温い夏の夜風が互いの肌を吹き抜ける。

端倪(たんげい)にすべからず……故に……。」

紫陽花 剱菊 >  
 
                     「己が旦夕(たんせき)を見誤る。」
 
 

紫陽花 剱菊 >  
静寂は動かず、刹那の風薙。
一足、つづろ音も無く黙然。
殺意も端を発する事も無く、宵闇にさえ煌めかぬ。
手元の凶刃は一直線に脳天に迫る。
一切の躊躇は無く、確実に殺める小刀の一突き。
動作も無く、殺気無く、ごく自然と出す暗殺の御業。
止める気等毛頭無い。死すれば其れは詮無き事。


此の程度の児戯を否せぬようでは、絵空事で潰えるのみ

エルピス・シズメ >  
 流れを読んだ(死の報せを認めた)

 腕は動いた。
 鉄より肉で受けるべきだと、生身の左腕を動かした。 
 腕ごと脳天に届いても、致命でなければ良いと。
 
 ただ、結果は両者共に予想外のもの。

「……いた、い。」

 ひかり(まほう)
 白にも虹にも見える光が、彼の肉の内で、『そんなものはありえない』非合理そのものの魔力が刃を拒んだ。
 当の本人は、自覚のないまま喋りつづける。恐らく、脳天に刃が届いてでも達者な口を止めなかったであろう。

「殺めること、生きること。傷付けること。罪を一緒に背負うこと。」
「……それに、殺生だけが業じゃない。未熟かもしれないけど、ずっと向き合う事になると思っている。」
「僕と、皆が犯した罪は、向き合えなくても、背負う事にはなると思う。」
「……罪のない人間なんていない、なんて屁理屈は言わないよ。」

 腕を降ろす。
 魔力の兆しに気付かぬまま、加減されたのだろうと思っている。

「ううん……剱菊さんを問答で満足させられるぐらい『出来』ては、いないけど。」
「未熟だから悩んでいるし、特別でないから努力している。……いまはそれじゃ、だめかな。」
 

紫陽花 剱菊 >  
異能によりて空よりまろび出し銀の小刀。
特別なものではない。唯鋭く、唯固く、刃として十二分。
故に戦人。つとに斯様、エルピスが心知れた友垣(ともがき)であろうと行った
戦人足らしめる心の、殺しの機敏。たりとも、刃は届かず。
恐らく、彼の者に内包されし力の本流。
虹の奥、彼方の力が凌いでみせた。
如何なる理由で在れ、防いだのは事実。
力の見定めは重畳。憂う事に、才は在る。

「…………。」

残るはそう、居住まいの所存。
ゆるりと刃を下ろし、手の内から霞と消えた。
そして、嘆息。否、己のやり方の不手際だ。
案に違う言葉に静かに首を振る。

「……流れに流され、たどり着いた幽世(とこよ)の島。
 此の箱庭の外でも、内でも、大小兼ねて争いは絶えぬ……。」

「如何様に綺羅に飾ろうと、其方(そなた)が手にしたいと願うのは……理不尽
 自らが口にした暴力とは、うなべう事無く他者を虐げる。老いも若きも、人も神も……。」

かかずらう諸共血に伏せよう
 少なくとも私はそうであった。友も、家族も、一切合切を斬って捨てた。」

手中に収めんとする力自体を罪とは問わぬ。
糾弾されるべきは其の在り様。
なべて、暴力(わがまま)を貫き通すとは
畢竟(ひっきょう)自ら惨劇の坩堝(るつぼ)成り得るもの。

生温い夏風が運ぶ、鼻腔を擽るくすんだ鉄の匂い。
否、血の匂い也。黙然、目の前の男より漂う夥しい程迄の血。
異能殺し、破壊神、刀剣狩り。千々(ちぢ)に跋扈せし実力者は数知れず。
並び立つかはそも知らぬ。然れど、目の前の戦人。
数多の戦を駆け抜け生き延びた生粋の殺人者
立ち塞がる悉くを斬って見せた。人も、鬼も、家族も。其の悉く。
目の前にいるのは人であり、刃成れど、身の毛のよだつ異邦人(このよならざるもの)


「……泰平とは真逆。共に歩むと願う道とは正反対。
 然れでも尚、血風の中に並び立つを望まんとするか……?」

並び立てば最後、同じ末路を辿りかねん。
頂きを目指すとは、望まんとする力の高さの一つ也。
畢竟(ひっきょう)、男は何処まで言っても刃成れば、言の葉の伝え方も不器用なのであろう。
語るべき視線は哀憐を隠せず、身を引く事を望んでいよう。

エルピス・シズメ >   
 二度の失敗で魔力が目覚めていたからこそ、起きた奇跡(軌跡)
 奇跡が無ければ、命を賭けていたことだろう。
 
 其れが当たり前なのは、彼の危うさでもある。
 非力が故に格上に対し、その身を危機に晒して生を拾うことが当然になっている
 
「どこも大変で争いが絶えなくて、ここもそう。
 座学の上では学んだつもりだけど……現実はもっと大変。
 そのおかげで産まれた技術や才能も、いっぱいあるけれど……。」

 農業区では徹底した効率化の元に生産が行われていると聞く。
 そのことを思い出して平静を取り戻し、呼吸を戻す。

「……大事な人を手に掛けたくはないから、それはやだ。
 でもそうすると、色々足りない。……ままならないや。」

 短い事実に裏打ちされた、多くの意。
 冷たい血と、鉄と、殺めること、そこに対する無感動。
 どれだけ悍ましい旅路を経たのか。

 その気配は、異能を用いなくとも強く伝わるほどであった。

 だから、思ったままに嫌だと答えた
 道を経ていない、未熟者の傲慢と、特権。

「……剱菊さんが、とても大変な道を辿ってきたのは、わかった。
 強さが欲しいからって、そうなりたいとは、言えない。だけど、えっと……」

 ぺこりと、頭を下げる。

「警告して、慮ってくれて、ありがとうございます。剱菊さん。少し、頭は冷えました。
 みんなに頼る所は、頼って……頑張るのは、無理しない範囲にします。できるだけ……」

 それでも多分自分は、無茶をすると思う。
 だけどそれはそれとして、今の事実と無茶が当然になってはいけないと、
 自分を戒めるためにも、言葉にする。
  

紫陽花 剱菊 >  
無論、仮に力を手中に収めたとて、同じ末路を辿るとは限らず。
飽くまで目の前に佇む刀は、一つの結末也。
ぞっとしない話でも、そらんじさせる訳にも行かず。
ぞんざいに徒情を掛けることは罷りならぬ。
刃故に、人故に不器用。一本の刀として斯様な術しか知らぬ。

「…………。」

纏う空気、相好(そうごう)が崩れた。
あいも変わらず、無愛想な無表情。
然れど、何処となく朗らかな夏風は戻りてきたり。

「誤解を招きたくは無い。其方(そなた)もまた、幾度の試練を超えし(つわもの)
 紅き怪異を引けし、迷えし人々を其の隣へと収めんとする天道の如き温もり……。」

如何なる暴力よりも強き志也。」

求めんとした理不尽(ちから)は唯塵に還すばかり。
名にし負うは負の残滓。人となり向き合えば、のたうつのみ。
斯様、受け入れ生み出す絆の縁に比べれば一入り無用。
彼の個人の器成れば、値千金と言えよう。

「……其方(そなた)が彼女等に手を回してる事も存じている。
 今は私個人は動く理由は無い。然れど……其の業は何れ精算せねば成るまい。」

斯様此の島は居場所無き者を受け入れる。
流浪の己さえ受け入れた。堆い功徳。
然れど、其の身に一度業に染まれば文目(あやめ)も分かつ刻はしかと来る。
斯様、然るべき"罰"が無ければ、秩序も社会も罷り通らぬ。
あらずもがな、直視すべし現実はしかと告げよう。
目の前に在る刃は、影の目の一つ故に。

紫陽花 剱菊 >  
「…………。」

黒糸はざんばらに揺れる。

其方(そなた)が礼を言うべきことはない。
 私は唯、立ち塞がり、退いた。其れだけの事……。」

瞬く間に演じてみせた理不尽。
其れを己もまた返しの刃を出さず、留まった。
即ち修羅道。人であらんとするので在れば、留まる事が吉で在る。

「手荒な真似をした私こそ謝るべきでは在ろうよ。
 ……然り、まま成らぬ。志のみでは、人を護れぬ。
 時に(わがまま)を通す力も、いわんや事実。」

何故、志のみでは行かぬのか。
まま成らぬ事実に、視線の憂いの色を見せた。

「時に人を頼り、時に自ら矢面に立つ。
 修羅道に堕ちるのではなく、人のまま自らの才覚を極めんとする。
 ……斯様な打診で在れば何時でも請け負うぞ。」

「武しか芸無き男。一助程度には成り得る。」

エルピス・シズメ >  
 もしも、その道を歩んでしまったら。
 そのようなことが起こった切っ掛けも忘れて、ただただ刀剣を奮うものになっていた。
 少し道を違えれば(想い人を喪っていれば)、そんな自分が居たかもしれない。
 少し前の出来事を思い返して、背筋が冷えた。
  
「えっと……ありがとう。
 実感は、あまりないけれど……。」

 何かしらを見出して、賞賛されていることは理解が出来た。
 実感が薄いか、、当然と思っているのか、理性では理解していないのか。
 おそらく全ての理由で、自覚が薄い。

「うん。いずれ、清算しなければいけない時は来る。
 そのカタチがどうあるかは分からないし、理不尽な清算にはさせない。
 ……少なくとも、想い人は生きた人は殺めていない。」

 とは言え、ここで生きているものとしての罪はある
 明るみに出るものとそうでないもの、清濁併せた清算の刻には備えている。

「風紀委員や公安委員を悪くいうつもりはないけど、色々あるからね。
 ……エルピスが公安委員を抜けた理由も、そこにあるから。」

 担当するものによって清算方法が大きく変わる事はよく知っている。
 過激なものや恣意・悪意のあるものには抵抗すると、言外に宣言する。
 
 気配が戻れば、気を取り直し。

「お礼は気持ちだけでも受け取ってくれると嬉しいな。
 僕の恩師のファレーマン先生も、そう言ってたから。」

 くすりと笑う。
 とは言え無理強いは出来ないし、彼なりの旅路があると理解している。
 言ってみるだけにとどまり、次の会話に移る。

「えっと、困った事があったら聞いてくれる……のかな。
 ……うん。その時はお願いすると思う。剱菊さんなら、個人としては凄く信頼できそうだし、
 公安委員の人としてもちょっとだけ信頼できそうだから。」

 エルピスの公安そのものへの不信は根深いものがあるらしい。
 それでも信じたいと、笑ってみせた。

紫陽花 剱菊 >  
其方(そなた)が自覚しようがしまいが……
 ……かてて加えて、自ずと周りが証明しよう。」

暴力も絆も、在りし日に鑑みる事に成ろう。
草分けたるや有象無象の髑髏(しゃれこうべ)か人かは当人次第。
けだし、絢爛(けんらん)たる日々で在れば案ずる事も無し。
黒糸揺らし、音も無く踵を返し、ゆるりと首が上がる。
暗雲、夏風に流れ満天の月明かり。月光照らす、裏導(うらしるべ)

「……落第街(ここ)で生きる事に罪は無し。
 精算すべきは、例えまま成らぬとも歩んできた道行き也。」

斯様、学園の暗部。
止め処なき受け皿、流浪の拠り所故詮方無き。
やんごとなき理由で在れど、道を踏み外せば付きまとう。
殺人の是非ではない。歩んだ道こそ、生き証人。
とも付かずにはさせぬ。是非も無し。其処は是正せねば成るまい。

「……私は幽世(ここ)に流され未だ一年程度。
 其方程成り立ちを知りえはしない。
 然れど、組織も、人も、物も、移ろいゆく。」

故に信ずるべきとは言わず。
斯様、広大な社会。ふつつかぬ場所も見えよう。
腑に落ちるかはさておき、社会を成り立たせる所以は在る。
悪政のみでは、此処まで育たたぬ。
(うろ)の視線は、目前の宵闇を見据える。

「……私に其の資格は無い。
 私に恩義を感じる必要も無い。
 其方(そなた)が見たのは影の一つに過ぎず。」

「端無くも私は其方(そなた)達の傍にいる。
 学園の脅威を、我が雷鳴を以て征する一本の刃。」

即ち者能わず、物に能わず。
其の気概は、其の方を取り囲む者々へ向けるべきだ、と。

「……然り。無論、強さを研鑽したいのであれば鍛錬の相手程度はしよう。
 其方でも、其方達でも……来るものは拒まない。」

「……何れまた、相見えよう。」

振り返ることも無く、音も無く、男の姿は宵闇に消える。
影も形も在りはしない。あたかも、初めから其処にはいなかった。
またぞろにして、縁在れば相見えよう。
綯い交ぜた影の語り部、此れにて一幕。

ご案内:「落第街 路地裏」から紫陽花 剱菊さんが去りました。
エルピス・シズメ >  
「……一本の刃……。」 

 去り際の言葉は、少しだけ理解が届かなかった。
 言葉通りに飲み込むにも、そう単純なものと認め難い。

 かの者が立ち去った後、言葉を販推する一人呟く。
 言葉はどうあれ、鍛錬も踏まえ──気に掛けてくれたことは間違いがない。

「歩んできた道……」

 そう言えば、彼女がどの様な道を歩んできたのだろう。
 彼女の道行きについて、ある程度は聞いたが詳細は知らない。

 公安委員が監視するような団体……

「……ぁ。」

 イーリスのもとには、多くのものたちがいた。
 背けるように、意識の隅に追いやっていた。

《常世フェイルド・スチューデント》
【ネオ・フェイルド・スチューデント】

 それらの道行きを指しているのか。
 あるいは、自分の知らない何かがあるのか。
 彼女すらも知らない何かがあるのだろうか。

「……考えてもしょうがない。行こう。」
 
 ギフトも絡み、状況が混迷を極めている。
 ここで考えても何も変わらない。

 思考を切り替え、帰路につく。
 窮地で生じた"まほう"らしきものについて気付くのは、腕の手当を済ませた後だった。

ご案内:「落第街 路地裏」からエルピス・シズメさんが去りました。