2024/11/21 のログ
女郎花 >  
「おや、詳しいのじゃナァ。
 スパゲッティ・アラッサッシーナ。
 そう、俗に言う暗殺者のパスタというやつじゃ。

 全く茹でずに麺をフライパンで焦がすやり方もあるようじゃが、
 少しだけ茹でてから焦がしに行くのが発祥元の味らしくてノォ。
 少々真似てみたのじゃ」

おそろいと言われれば、ふっと飛ばすように笑うのだが、
それでも少し機嫌良さそうに、緩急をつけて尻尾を振る女郎花。

女郎花 >  
そして、その一口をオルニスが食べようとしたその瞬間。

「――黄泉戸喫(よもつへぐい)

女郎花は、目を細めて笑うのだった。
その笑いは、これまた今までにない。
妖の雰囲気を纏った、埒外魔性の笑いである。

「幽世の食べ物を口にしたら最後、現世には戻れなくなるという話がある。
 
 ま、実際はパスタ一皿で戻れなくなるようなものでもないがナ。
 
 それでも、老婆心で伝えておいてやろう。
 浅瀬を歩くのは止めぬ。
 じゃが……深入りすればどうなるか分からぬぞ?
 
 後戻りするならじゃ」

そう口にしてから、ふっ、と。
普段通りの悪戯っぽい笑みを浮かべる。

さて、パスタを口に運ぶのであれば。
辛みと――そして、濃厚な旨味がググッと
舌から口中に広がる感覚があるだろう。
辛みの壁をどう感じるか、それは食べた者次第であるが、
少なくとも辛み以上の旨味が、そこにはぎゅっと凝縮されている筈だ。
辛いものが少々苦手な程度なら、どんどん口に運んでしまえる程には。

オルニス > 「むぐ……むぐ、ぅっ……!?」

一口入れた途端に伝えられる言葉、そして口の中にちょっとばかりの辛みを感じる。
とはいってもこの小鳥にも耐えられる程度の物で、決して食べられないようなものでもなく。
パクパクと食べ進めて行く。
辛いけれど、トマトと香辛料のうまみと香りが食を進めて行く。
こどもらしく口の回りをトマトのソースで汚しながらもぐもぐと勢いよく。
きっとそれはそれはおなかが減っていたのだろう。
あっという間に食べきってしまうほどに。

「よくわからなけど……」

ご馳走さまです、というのは案外早かった。
オルニスは本来小食で食べるのもゆっくりだったからこそ、この食事はとても美味しいものだと思った。
自分の世界ではきっと高貴な人が食べるものなんだろうな、と思ったりして。

「深入り……後戻り。
 こっちの世界に来ちゃった時点でもう後戻りも何もないよ。
 今更平和な世界に住みたいってわけでもないし。
 なにより……」

すこし手を止めて、貴方の顔を見て。

「向こうは平和だけど、ちょっと退屈だもの。」

平和すぎて、刺激がなくて。
友達は少しはできたけど、楽しいと思えるような趣味もなく
どこに散歩に行っても刺激的な遊びも見つかりはしない。
すくなくとも、自分の知っている限りでは。

「……わたし、おかしいかな?」



女郎花 >  
あまり大食いには見えない相手が、
あっという間に平らげてしまう様子を、何処か嬉しそうに見た後。

「――然らば、ようこそ吾人達の住む落第街へ。
 この街は、刺激を求める御身を、きっと歓迎することじゃろう。
 そう、刺激には事欠かぬ街じゃからナァ……」

カウンターからしなやかに躍り出て、皿を掴むついでに
もう一度顔を覗き込んで。

「御身のようにまっすぐで、可愛げを見せる者は嫌いではない。
 
 命がある内は、いつでも来ると良い。
 一店員として、腹が空いたら飯と飲み物は用意してやろう。
 困った時は、相談にも乗ってやろう。
 これでもこの街の相談役として、それなりに名を売っておってナァ」

そう口にすれば尻尾を揺らし、
カウンターの奥に引っ込んで行きながら、
最後にふと立ち止まって、そちらを振り返り。

「……ま、相応の対価はいただくがノォ?」

妖しげな笑みを残して、そのまま奥へと去っていくのだった。

オルニス > 「命があるうちは……か。
 それは何とも……刺激的な話だね?」

くすり、と笑ったその瞳はかすかに紅に染まる。
刺激を求める自分はきっとやっぱり、この世界にはなじめ切れないんだろう。
どこまでいっても裏側を知る人間は、表になじむことは難しい。
表側の刺激では足りなくなった、裏側の日常に入り込んでしまっているのだから。

「可愛げ……かわいいと思ってもらえるなら、うれしいけど。」

ぇへ、と笑顔を浮かべて、口の周りをふいてから立ち上がる。
きっとまたこの店には足を踏み入れるのだろう。
たぶん、ご飯を食べに来るのもあるけれど、貴方に会いに来ることが刺激の一つになっているのだから。

「相談役……うん、憶えておく。
 それなりに近いうちに相談?しに来るかもね、そんな重たいものじゃないだろうけど。
 普通にお話もしたいからさ。」

ありがと、とあなたに伝えてから、ぎゅとハグを一つ。
それはオルニスの精いっぱいのお礼の印。
その間に懐にお代もを少し多めに入れておく。
チップみたいな渡し方だけれど、ここではそれがよく似合っている気がしたから。

「ふふ、相応の対価……今日の分は支払っておいたからね。
 またこんど、だよ。
 オミナさん。」

此方もご機嫌そうに、その姿を見送ってから店を後にした。
次に来るときはどんな話をしよう。
どんな相談を持ち込もう。
どんな土産話を持っていこうか、そんなことを考えながら。
黒い翼の外套は闇に紛れて消えていった……

ご案内:「落第街 違法パブ『地獄の門』」からオルニスさんが去りました。
ご案内:「落第街 違法パブ『地獄の門』」から女郎花さんが去りました。