2024/07/29 のログ
Dr.イーリス > 「ふふ。どうやら、私の優秀な発明品に恐れをなしたようですね。ところで、鼻からビームという設計にして自爆しなくなったのはいいのですが、お鼻の穴は下に向いてますからビームも下方向にしか発射されないのが欠点なんですよね」

腕を組んで自慢げに、そして楽し気にどや顔していた。
どこか無邪気に勝ち誇っているようでもあった。

「廃品回収している人をピンポイントで狙った罠説は案外近いではございませんか。使い方次第で、盗みを行いやすい技術ではありますね。記憶操作もできるなら、さぞ人を集めるにも便利でしょう。風紀委員さんなら、野次馬している場合でもございませんよ」

野次馬するには、この場には風紀委員さんとイーリスしかいない。
あまり呑気に野次馬をしてられる状況でもないだろう。

「はい、やめません。今、中々にいいところでございますからね。そうですね、治安と安全のため、風紀委員としてのお仕事、頑張ってくださいね」

そう話している間に、廃品がまた消えた。
無事にナノマシンも飲み込まれて、イーリスは微笑む。
そして、再び虚空に映るモニターに触れてタッチ操作を再開した。

「この島の住民が安心安全に暮らすのは、風紀委員さんにかかっていますからね。空間系超常犯罪の主犯格さんの捕縛に精を出して励んでくださいね。あるいは、あなたの言動を見る限り、捕縛ではなくて面倒だからとさっさと破壊してしまうのでしょうか」

転移に加えて記憶の操作まで行う犯人。
さぞ、逃げるのが得意だろう。
狡賢さもあるようだし、とても厄介そうな相手だ。

「責任とは、随分な言いようですね。とは言え一度乗っかった船です。協力しましょう。あなたの言葉から察するに、ごみ処理とは凶悪犯まで消し去ってしまうのですか。協力の条件とすれば、極力その犯人を殺害しない事です。逃がすぐらいなら殺害も止む無し、というのは分かりますしそこまでは申しません。しかし、凶悪犯としても必要以上に殺傷する必要はありません」

条件が一つ、という事で指を一本立てた。
捕縛すればいい相手をわざわざ死なせる必要までない。

「よく考えてみてください。スラムの貧民である私が廃品を回収していたらどこか知らない場所に連れ去られてました、な事もある案件です。これからも廃品を集めるのでしたら、この事件を早期に終わらせた方が私にとってもメリットがありますね」

再び、風紀委員さんに視線を戻した。

「言動から察するに、あなたにはここの廃品を消し去って破壊する力があるのですね。それも、空間の歪みごと消し去る破壊の力……。なるほど、ごみ処理係とは言い得て妙なわけです」

この廃品の山。普通に破壊しようとしても、早々できるものでもないだろう……。
風紀委員さんの言葉を聞く限り、歪みを探し出してそこをピンポイントで破壊する、というわけでもなかった。
なら一回か、あるいは複数回に分けてこの廃品の山を全て消し去ろうとした事になる。
エネルギーに換算すれば、おそろしいものになるだろうか。

蒼い影 > 「……ごめん。正直理解したくなくって鼻から云々の話頭の中から転げ落ちてた。」
「鼻からビームってなんだよ」
「"あの時の私は少し愚かでした"じゃないんだよ。」
「愚かさのポジションが変わってるだけで愚かなのは変わりないんだよ」
「それにビームってのはね、」
「こういうもんだよ!!」
「キミこそ私を恐れろ!」

指先から無彩色の魔法光のレーザーを打ちあげた。
鼻から出るビームってもうそれ鼻水かなんかだろう、想像しただけでかっこ悪い。
妙なところで張り合う。
この蒼色の正体は破壊神。
生きるために"承認"と、"恐怖"を食ってるんだ。
逆にナメられるのはあまり、いや非常に嬉しくない。
…だから、分かる。どう見られているかって。


頑張って下さい、等という言葉と微笑みに関して。

「よーけーいーなーおーせーわーだーよ!」

「つーか風紀委員会ゴミ処理係って末端の窓際職なんだよ。」
「まじめに治安維持の仕事するようなエリート共じゃなくて!」
「まぁ適当にやるかー、これはめんどいから別の部署に投げるかー、くらいの」
「やってる感だけの部署!」
「"頑張ってください"じゃないんだよ。"頑張らない"んだよ私は!」
「治安も安全もどーでもいいんだよ!」
「そもそも今日キミがいなけりゃゴミをバシュンッと消し飛ばして帰ってんのよ!」
「仕事増やしてくれちゃってまあほんとにくったらしいわあ~」
「ってかさ。」
「なんで私が既にやることになってんの?」
「おかしくない?」
「私ゴミ掃除しに来ただけよ?」

捲し立てる。
破壊的で高圧的なもののいいよう。
だが、根底にあるのは極めて怠惰で適当な、さぼり魔の本性である。
こんなヤツでも風紀委員。ただし、末端の末端。

「まあ。」

一呼吸、置いて。

「乗るよ。」
「キミ、面白い子だしね」

野次馬根性丸出しの眼差し。

「殺害するなって?―――良いよ。」
「殺さないほうが都合がいい事もある」
「一生分恐怖してもらえるからね。」

「必要以上に殺傷はしない。ただし、最大限私を"恐怖"してもらう。」
「その上で逮捕だ。異能も、魔術も、全て破壊して、だ。」
「それでいい?」
「…理由の説明はいる?」

私がそういう種族だから、で分かるだろうけどね。
出された条件には乗る。
面倒ごともこの際乗っかろう。……面白そうだしね、この子。

「あとあれだ。ついでに居場所が分かったり、
異能について何か分かったら超常現象(ゴミ)レポート書いて。
それから私の代わりに報告文も書いて。
なんなら全部解決してきてくれてもいいんだよ。」

冗談半分だけど、にやにやした顔色であれこれ要求する。
多分私の見立てなんだけど―――この子、相当研究については熱が高いだろう。
つまり。
こういう超常犯罪者(ゴミ)の分析、かなり得意と見た。
解決は冗談にしても、分析文書はやらせても良さそう。
私ならすぐぶっ壊すからね。

「そうなんだ。……頭良いねキミ。
でも私みたいなのに協力する理由はないんじゃない?
言ってなんだけど私って相当胡散臭いでしょ。
…それに、報酬は出ないよ。」

目先の事に囚われて、今だけ自分だけ…という考えではないように思える。

「まっ、協力しないとか言いやがったら風紀委員会権限で出頭させてやってたけどね~」

元から拒否権を与える気はなかったらしい。



「ああ、やっぱわかる?そうだよ。私ね、ちょっと世界を綺麗にする」
「破壊神なんだ。」
「なんでも破壊する魔法を使えるんだよ。……なんでもね。」

指をくるんと回してから。
廃品の山に置かれた、何年も前の型式のテレビを片手で投げ上げて。

「誰も必要としないようなゴミを」

蒼色の、幾重にも重なる淡光が、球となり、爆ぜて。

「こんな風に」

跡形もなく、消した。


「ね?」

ウィンク。

Dr.イーリス > 「……うぅ。じ、自爆するよりは少しだけ、マシ、ですよ……? ビームだけは正常に出ます。下方向にだけですが……。素晴らしいレーザー魔法ですね、《二宮二号》の鼻からビームとは比べ物にならないこれぞレーザーという素晴らしいレーザーです」

ぱちぱちと、手を叩いて賞賛交じりに、尊敬の念。
賞賛と尊敬の念という事で、“承認”ならば満たせるものではないだろうか。

「窓際部署でございますか。風紀委員というのも世知辛いのですね。その割に扱っている案件が大きいようですが、そこは窓際ながら実績と実力があるのでしょう。体よく低賃金で重要な案件を任されている、という風にも聞こえてしまいますが……」

窓際部署、他の部署に比べてさぞ低賃金なのだろう。
それでいて、今回のようなわりと重大そうな案件を扱っている。それだけの実績と実力がある。
……なるほど、風紀委員にとってとても便利そうな人材だ。

「そこは、あなたもまた巻き込まれてしまったので仕方がないですね。風紀委員であるあなたが責任者で、私はしがない民間協力者です。責任者さんがしっかり事件に取り組む必要が出てきますね」

野次馬根性丸出しな眼差しの風紀委員さんに、釘をさすようにそう告げた。

「恐怖させて屈服させる方針でございますか……。あなたの方針がそうであるなら、そこは特に口出ししないでおきましょう。理由は、気になるという事で聞きましょうか」

きょとんと小首を傾げる。
逮捕する方針以外にも、何かしら恐怖を煽りたい理由があるという事だろうか。

「逆探知で情報も集まっています。レポートや報告書でしたら、もう書き終わりましたよ。連絡先を教えていただければ、メールで転送しますね。そのあたりは、やってる感出すならあなたも現場に赴きましょう」

虚空に浮かぶモニターから手を止め、連絡先を交換すべくスマホを取り出した。
改造人間イーリスの体内に搭載されているコンピューターは性能が高かった。逆探知から情報収集、解析を行い、そこからレポート、報告書も既に完成させていた。

「お褒めいただきありがとうございます。むしろ、風紀委員さんと連携して解決にあたる方が余程効率的でしょう。私はこのスラムや落第街で暮らしていますから、胡散臭い方と手を組むなんてよくある事ですね。あまり報酬の事も考えていません」

事件の解決となれば、誰かの協力がある方が心強いのは明白。
面倒くさがりな風紀委員さんだが、ただものではないだろうし。

「脅しは、腐敗のもとですよ。司法取引ならともかく」

とは言え、風紀委員全体で見れば腐敗している様子もないので、しっかりしている人はちゃんとしっかりしているのだろう。

「……破壊神」

破壊神という神格、その後実際にテレビが破壊された光景に、一瞬目を見開いてしまう。

「随分と人間味のある神様でございますね。とは言え、何でも破壊できるならちょうどよくもあります。呪いなんかも壊せるのでしょうか? まさしく誰にも必要とされない邪魔なものでございますよ」

小首を傾げる。
イーリスを、そして今はエルピスさんをも蝕む“王”の呪い。
何でも破壊できるのであれば、呪いにも効力が及ぶのだろうか。
“王”の呪いは強力だが、神の力ならばどうなるのだろう。

蒼い影 > 「比較対象がおかしいだろ比較対象が」
「自爆するブツと比較するな」
「しかも下向きにしかレーザー出ないってとんだ欠陥だよ、何がしたいんだよ。」
「最悪だよそんなビーム浴びたくないだろ。何のためのレーザーだよ。アリでも退治するの?」
「《二宮二号》―――いやいやいやいや。そもそものネーミングがもうおかしいだろ。」
「次は《二宮三号》作る気満々だろ。」

「あぁ……この街の連中はどいつもこいつも恐怖しやがらないねっ。」

恐怖は……破壊神(わたし)にとって、一番の美味だってのに。
ま、でも承認してくれたならそれでいっか。それはそれで気分が良いから。


「……ま、表向き低賃金だけどさ、意外と悪くないんだよ、これが。
なんてったって冷房きかせ放題の個室に、無料のコンピューター。
寝てたいなら寝てられる。
面白い案件、非日常の話題には事欠かない。欲しい情報は好きに得られる。
…その代わり、面倒ごとを押し付けられるのがゴミ処理係なんだけどね。
やっぱ世知辛い。」
(表向きは金やっすいだけで、やることやったら賞与貰えるんだ。暗黙の了解だし、言わぬが花ってね。)

「"責任者さんがしっかり事件に取り組む必要が出てきますね"じゃないんだよ!
なんでキミは堂々とそういう物言いが出来るんだ?一応私警察組織よ。末端の末端だけど。
なんか…なんかなあ……あーはいはい、わかったわかった……もういいよやるよ、やりますよ……」

うへぇ、と、しっかりしてる振る舞いに参った素振りを見せる。
……なんかこの子、もしかして何かのグループで人の上に立って指揮とかしてたりしない…?
野次馬するから任せた、とは言わせてくれなさそうだ。

もう……
泣きそうだよ……
上司かよ……
なんでスラム街の一般人に風紀委員活動の指図されるんだよ私は……
とほほ……
(……面白いなあ、この子。)

「ありがとね。恐怖の方針の理由―――それはね。破壊神の生きる糧は、"想い"なんだよ。
破壊神(わたし)がいてほしい、なにかしてほしい、なにかを望む。想い。
或いは。
破壊神(わたし)への恐れ。圧倒的で理不尽な破壊への畏怖。想い。
それが私にとって最大の、生きる糧。誰からも恐れられない破壊神なんて、
価値がなく、忘れられて消えていくだけだから。」

……最近ソレで消えかけてたのは、ナイショ。
ともあれ。この子には素性を聞いといてもらおうか。
聞いてもらったところで、どうってことはないだろうけど。


「はっ?」
「……え?」
「レポートと、報告書を?」
「書き終わった?」
「……この短時間で?私と話しながら?」
「…………」

思考。
瞬き。
沈黙。

「あー……」
「助手やらない?ゴミ処理係の。」
「まぁまぁ待遇良いよ。」
(ちょっと超常犯罪者(ゴミ)の相手が多いけどね!)

緩く話しながら―――そういうつもりだったんだけど。
さっきから手で
スマホだとか
虚空に浮かんでる…なにあれ?…画面?みたいなのを弄ってるのは。
つまり。
書いていたのか……?

(……や、やばくない……?)

鼻からビームがどうのとか言ってた人間と同一人物なのか……?
……面白い。

「とりあえず、はいこれ。私の連絡先ね。」
「この際名乗っとくよ。」
奥空蒼(オクソラアオイ)―――破壊の神にして、常世学園魔術教師にして、今はゴミ処理係。」
「送っといてよ。どの程度の出来栄えかチェックするからさ。」
(私のてっきとーなレポートよりよっぽどましなもん書いてくれるだろうな、この子)

ともあれ。
きっと彼女が手にする情報は、私が知り得ないものだ。
私なら知ろうともしなかっただろうし。

ひとまずこっちも携帯端末を差し出して交換しておこう。
頼んだよーって、アイコンタクト。



「スラムの人間がーーーっ!」
「風紀委員様様の腐敗を指摘するなーーー!!!」
「逆でしょ!さっきから!」
「なぁんで私がキミに"真っ当な"指図を受けなきゃなんないのさ!」
「そんなに言うならキミがやれよ!」
「はいこれ。あげる。つけてね。」

自分の「清掃中」のハチマキ取って。
はいどうぞって手渡した。要らない?要らないって言われたらしぶしぶ巻き直す。
貰ってくれたら呼びがあるからお揃いだね~とか緩い声でけらけら笑うだろう。


「呪い―――ね?」

ちょっと目を細める。
……紅い、紅い月……?
……刻まれたるは、殺害欲と苦痛……?
……死を伴う時限性の爆発……?

「うっわ、ひっどいねコレ」
「よく生きてたねこんなもん抱えて」
「完全に人間の致死量超えてる~…」
「ちょっと笑えるくらい悪趣味な呪縛じゃん、」
「なんか恨みでも買った?…そんな子には見えないけど。」

この子やっぱりただもんじゃないらしいな?

「報酬は出さないって言ったけど気が変わった」
「出そうか、報酬。」
「前払いするからさ。」
「苦痛と殺害欲、6割減で良い?」
「あとは…爆発の猶予を―――1か月くらい、伸ばすか。」

「よし、ここへ、おいで。」

いつの間にやら、足元に広がる蒼色の、幾何学模様。
自らの作った概念破壊領域に、少女を立たせて。

呪縛融壊(ディゾルブスペル)

パリン、とガラスが砕けるような音が響いた。

その身に刻まれた呪縛の苦痛と殺害欲を、きっちり六割だけ削り取った。

誰にも、必要とされていないようで。
どうもこの呪縛を強く必要としてる誰かがいるようだ。
十中八九仕掛けた当人とか、だろうけど。

「これが報酬の前払いね。」

にこやかに、告げる。



「あとはまぁ、そのー…なんだ。」
「人間臭いってことは割と言われるんだよね」
「なんていうか、人間臭くない奴が周りに多すぎるんだ。…キミもそうらしい。」
「それに神様ってより邪神が正しいかもね。」

「破壊―――人々に災いを齎す悪しき邪神。恐怖を食い物にして生きる存在だから。」
「祈られて、喜ばれるモノとは、少し違う気がしてるんだ。」

「私にできるのはさ、」
「壊すことだけだから。」
「全知全能に程遠く、何でもできる存在じゃないから…。」

「あーーー……いや、今のは忘れて。」

話しすぎた、気がする。
承認欲求が満たされて、ちょっと嬉しかったのかも、なんてそれこそ人間臭いなあ、私。


「……ちょっとだけ、手伝ってあげるよ。」
「廃品回収するんでしょ?」
「……これ、ナイショだからね。」

そういっていたずらな笑みを浮かべてから、
超常危険物が埋もれる場所へ手引きする。
蒼色の、カーペットが敷かれると、不思議とそこには、何の超常現象もなく。
容易くモノ集めが出来た事だろう。



「ああ、私私ー」
「ごめーん、ゴミ処理無理だったー」
「でも、近いうちにもうちょっと面白い報告出来るからさあ」
「良いよね?」
「うるっせー、切るよ」

無責任で破天荒な電話を、一つ。

ご案内:「スラム」から蒼い影さんが去りました。
Dr.イーリス > 「よくぞ気づきましたね。三号の設計図が既にあります!」

じゃん、と設計図見せるのだった。

「窓際部署なりのメリットがあるのですね」

楽できる、というのにはぴったりであるのかもしれない。

「犯人逮捕、ご一緒に頑張りましょうね。民間協力者にとっては、現場責任の警察さんが頼りです」

と、おそらく求められていないであろう鼓舞をする。

「“想い”が糧……。神様であるが故。誰かの心の中に“想い”がなければ存在できない……という事なのですね。そしてあなたの神格は、破壊神。破壊により神格を示している……という事ですか。神様も……苦労しているのですね」

信者がいなければ神は存続できない、という感覚に近いのだろう。
信者と言っても、破壊神の場合は畏怖などマイナスの感情でも成り立つようだ。

「助手でございますか。待遇がよろしいのですか!? それは嬉しい事ですね。しかし申し訳ございません、考えておきます」

待遇が良い、と聞いて両目を輝かせる。
とは言え、イーリスには色々事情があり、それだけの返事で留める。
そうして、連絡先を交換した。

「蒼さんでございますね。魔術教師をなされているのですか。私の事はDr.イーリスとお呼びください」

レポートがメールにて蒼さんの端末に転送された。
イーリスが得た情報は、そのレポートを読めば分かる。
しかし、普段適当なレポートを提出しているなら、そのまま出せば代筆である事が一瞬でばれるぐらいには細かいながらも分かりやすくそして丁寧だ。

「そんなおしゃれじゃないハチマキつけませんよ」

右手を左右に振って、いらない事を示した。
蒼さんはしぶしぶ巻き直していた。


「……強力なアンデッドの呪いですね。おそらく、完全な破壊は難しいでしょう。しかし、破壊していただけるのですか? ありがとうございます」

イーリスは、きらきらと双眸を輝かせた。
“王”の呪いは強力だ。おそらく神の力を以てしても、完全な破壊は成し遂げられないだろう。
それでも、破壊神による破壊なら強力な“王”の呪いであっても弱体化が望める……。

魔法陣が展開されたかと思えば、ガラスが砕かれるような音が響く。
すると、体がとても楽になった。
呪いが弱まった事を理解し、イーリスは目を丸くする。
実際に苦痛や殺害欲が六割減、爆発の猶予延長が一ヵ月かは分からない。なにせ“王”の呪いは強力だ……。削られた分を取り戻そうとして再び呪いも強まったりするし、不安定なものである。きっちり、なんて図りようがない程呪いは複雑化している。それ程に強力な呪い……。
それでも、呪いが弱まり、イーリスの苦痛が軽減して、ロッソルーナ状態にもなり辛くなり、そして爆発までのリミットが大幅に遅くなった事は確実。

「凄いです! 本当に、呪いを破壊できるのですね。ありがとうございます、蒼さん。とても感謝します!」

イーリスは喜びで笑顔になり、少しぴょんとその場で跳びはねた。
手紙さんが異能で呪いを弱めてくれて、エルピスさんが呪いを一緒に背負ってくれて、蒼さんがさらに呪いの弱体化を施してくれた。
みんなが助けてくれたから、あの強力な呪いが、かなり薄まった。
これだけ呪いの効力が薄まれば、爆発の恐れは当面考えなくていいだろう。感染を振りまく事もそうない。
これまでイーリスは爆発による感染拡大を恐れて落第街やスラムから出なくなっていたけど、もうそのあたりの心配をする必要もなさそうだ。

「前報酬の分、頑張って働かせていただきますね」

蒼さんにとても感謝。
いただいた報酬分、ごみ処分のお仕事成し遂げてみよう。

「恐怖を糧に、と言いますと確かに邪神や魔王の印象が強くなりますね。とは言え、蒼さんは邪神であっても悪い方ではないのは理解してます。話していて、なんだかんだで優しい方というのは分かりますし、私の呪いも壊してくれました。壊す事で、私を助けてくださいました」

そう口にして、嬉し気に瞳を細める。

「何から何までありがとうございます」

ナイショ、という言葉には頷いた。
超常危険物は、蒼さんがカーペットを引くと消えていた。
あの危険物は廃品を回収する上で邪魔にもなっているので、消えた方が都合がいいところもある。
そうして、蒼さんに手伝っていただきながら、廃品回収を済ませた事だろう。

ご案内:「スラム」からDr.イーリスさんが去りました。
ご案内:「スラム」にさんが現れました。
> 何時もの街並み、何時もの光景、そして何時もの――閑古鳥。
流石に零細何でも屋とはいえ、ここまで依頼が無いと暇で仕方が無い。

「…ぬーん、ここ最近のまともな依頼がメアちゃんへの対人戦闘訓練くらいしかねぇとかやべぇ気がするな。」

…いや、冷静に考えてそれも特殊な依頼な気はするけど、それはさて置き。
そのご依頼は後日某所できちんと遂行するとして…だ。現在は殊更に暇である。
軒を連ねるバラックの屋根の上でだらしなく座り込みながらスラムを眺めつつ。

> たまーに用心棒みたいな仕事も割が良い場合は引き受けるが、経験上大体碌でもない事になるんだ。

(…依頼人が裏切って孤立無援で囲まれるとか生きた心地がしなかったわなぁ。)

その辺りは、自分の人を見る目が曇っていたという事で教訓としてます。
もそもそと、スラムで買った何かの肉らしき物と野菜を挟んだ簡素なサンドイッチを頬張る。

「…お、この肉は中々イケるな…欲を言えば何か甘辛いソースとかトッピングあると尚良いんだけど。」

何の肉かって?知らん!まぁ人肉とかではないだろう…多分。そうだったら店主に抗議の殴り込みだ。

> 「うん、美味であった。ごちそうさん。」

きちんと手を合わせつつ一言。零細何でも屋にとってこんなサンドイッチでもご馳走みたいなもの。
しかし、金策はどうにかしないといかんな、と思う。あんまりアレな稼ぎ方はしたくないが。

「とはいえ、変に宣伝しても悪目立ちになりそうだからなぁ。地道にやるっきゃねぇか。」

何でも屋の先輩とか居たらノウハウを色々とご教授願いたいものだが、生憎その手の知り合いがおらぬ。
欠伸を噛み殺しながら、ぼんやりスラムの街並みを眺める…ここに流れ着いておよそ2年。

「気が付きゃ2年かぁ。時間が経つのって案外はえーもんだよなぁ。」

何か黄昏モード入ってるな俺。非常に似合わないと自分で思う。イケメンならまだしも。

ご案内:「スラム」に能守重高さんが現れました。
能守重高 > 軒を連ねるバラックを僅かに踏みしめる音が増えた。
竹笠を被った和装の少女が古びた火縄銃をもって唐突に現れたのだ。
スラム街には中々いなさそうな見た目をし所持しているのが数百年前の銃火器。

笠の陰に隠れた表情は 無そのものだった。

是と言って喋ることはない、バラックの上を歩く様は音が静か目で、
やがて赫とは5m位の位置で足が止まった。

> 「…お?」

音が殆どない静かなそれでも、僅かな音さえあれば少年は聞き逃さない。
何気なくそちらに視線を向ければ、一瞬目を丸くして。取り敢えず眼を擦る…また見る。

「……何かインパクトのある出で立ちだな。」

素直な感想をぼそりと漏らすが、少年も鎖が巻かれて抜けない刀を4本ぶら下げてる時点で人の事は言えない。
しかし、竹の笠?で相手の視線や顔は見えない。ついでに、所持しているブツは…銃火器か?

(何だっけか…学園時代に何か授業で……あ、火縄銃か!)

記憶が合致したのか、ポン、と手を叩く。…で、一人納得してたら5メートルという絶妙な間合いであちらがストップ。

「よぅ、こんばんわ?こんな辺鄙な場所に何か用か?」

取り敢えずフレンドリーに話し掛けてみる少年だった。

能守重高 > バラックの上を滑る様に動く様は一種の怪異。
場所がら制服でもないし洋服でもない、動きやすい和装を着て
場所がら何があってもいいように最低限の武装だけは怠らない。
お互い 何かしらの武具は所持しているしているが、少女の持っている火縄銃の火縄に火は灯っていなかった。

「お互いの事でございましょう」

ぽつりと言葉を彼に聞こえる範囲の声音で紡ぎ零す。
ついと銃を持っているのとは逆の手により竹笠の縁を持ち上げ
視線と顔を晒す事にした。火縄銃は右手だけで握り持っている。

「こんばんは、少し…昔を思い出したくなり来ただけですよ」

会話が出来そうなのではと少しだけ思って、銃を構えることなく
対話を望むべく銃口を下ろし肩に下げ直す少女であった。

> (…つーか、何だあの動き。魔術とか異能…じゃなくて歩法か?うちの爺ちゃんみてぇな動きだ。)

もうあの世に旅立ってるけど…今頃酒でも飲んでんだろうなぁ。あの世に酒があるか知らんけど。
取り敢えず、和装…でいいのか?いいよな?多分。ちなみにこっちの武装はそもそも”抜けない”。

「おいおい、俺の何処が奇抜なんだよ?……うん、まぁ4本刀をぶら下げてるのはあんまし見ないな。」

少なくとも、赤髪紅眼で、何か抜けないようになってる刀を4本ぶら下げてるのはスラムでも自分しか居ないだろうな。
…むしろ他に居たら怖いわ!ドッペルゲンガーさんかな?なんて戯言はさておき。

「お、美人さん…つーか、それ火縄銃だろ?すげー古い時代の銃火器。」

流石に詳細までは記憶に無いが、大雑把には授業の記憶が残っていはいるらしい。
昔を思い出したくなった……成程、この姐さんも黄昏モードになりにきたのか…美人だから映えそう。

ちなみに、少年は先ほどから刀の柄に手を掛ける事すらしていない。むしろ呑気に伸びなどをしている。
そういう意味では普通に隙だらけで無防備だ。スラムの住人にしては危機感が足りない…ように見える。

能守重高 > ちゃんと人のように動けばバラックの屋根を踏み抜いていそうな感じであるが
踏み抜いていないし何なら足の生えている西洋幽霊のような動きであった。

デザインは和装、ちゃんとした着物を着こなすものからしたら邪道と言われそうなスカート丈です。
太腿に我謝髑髏のタトゥ―を入れておりよくよく見たらおかしい点だらけの少女は彼を見つめる。

「お互いに奇抜では。大小刀を差すだけでも腰の負担になりましょうに4振りは中々居りませぬ。」

少女はやろうと思えば外見だけだがそっくりに変化することが出来る。あくまで見た目だけを忠実に模写する。

「え、ええ、火縄銃ですね。原型は先込め式単発銃。雨の日は使えないという曰く付きの銃火器です」

これですか、と肩から降ろし横に持ち彼に見せるように差し出す。
日本では江戸時代末期までは使われていたという比較的古い銃だった。

(美人?どこに?は、て)

後を少し振り返ったが誰もいない。ここにいるのは私と彼。

少ししたら銃を少女は徐に自身の陰に落とすように沈ませて手ぶらになってしまう。
代わりに影から取り出したのは折り畳んでいた提灯。ちゃっちゃと火を灯してぼんやりと灯が灯された。

> (よし、今の動きは幽霊歩法と名付けよう!…駄目だな、この姐さんと爺ちゃんに説教されそうだわ。)

しかし、和装って確か丈が長いのが基本だったような気がするが…何かスカートぽくない?
ファッションとかあんまり分からんけど、まぁそういうのもあるのかーという結論に直ぐ落ち着いたが。

(ほぅ、太ももにタトゥー…太もも!?しかも何か髑髏の!?)

え、まさか見た目と違ってイケイケな姐さんだったりするのか?と真顔になる。
が、彼女の言葉に直ぐに我に返る。いかんいかん、太ももパワーは強烈だぜ…。

「あー、これ、4本中3本は妖刀?魔剣?の類だから、重さとか実はあんまり無いのよ。」

1振りだけ、特殊な能力のないただの切れ味と頑強さに優れた名刀なので相応の重さはあるが。
どちらにしろ、どれも細い鎖で柄と鞘を縛って固定して抜けない仕様になっているが。

「へぇ、そういうのを使うなんて姐さんも変わりモンだなぁ。狙撃とか射撃が得意なら、現代の銃火器でもいーんでない?」

もしくは、この姐さんの戦闘スタイルが特殊で、火縄銃でないといけない理由があるのかもしれん。
ともあれ、見せられたそれを繁々と眺める…うーむ、中々良いデザインだと思うが、やっぱ古めかしい。

「いや、アンタだよアンタ。他に美人さんがいきなりそこに居たら驚くわ。」

何かピンと来てないらしい相手に、苦笑気味にそう補足しつつ。
あ、何か銃が消えた…沈んだ?そして出てきたのは提灯…?異能か魔術かな、あれこそ。

能守重高 > 彼が何と思っているのかは少女は分からない。
質問をされればやり方くらいは教える程度。体の動かし方で誰でも出来ます、と伝える位に。

上は水干姿、下は丈の短いスカート、手首とか足首に巻かされているのは包帯に下は高下駄。
ちゃんと見たら色々な意味で邪道な着物の着こなし方をしている。
極めつけは爪はマニュキュアで黒く塗っているという。

普段の服装も…あまり変わらないのであ、でも肌面積は今が一番。

「妖刀に魔剣。そうでありましたらぎっくり腰とは無縁と。」

暗がりで尚且つ距離感があるので彼の装備している刀たちが抜けない様になっているとは見る事が叶わない。

「スコープも消音器もいりません。色々と試しましたが使いなれた銃を魔改造して
 使い続けるのが一番まともということに気づき今に至ります。
 現代の銃火器は試射したのですが、アンツィオ20㎜ライフルやバレットM82やM24SWSなど。
 いずれも大きく携帯性に欠けるので火縄銃を魔改造で終わりそうです」

試した現代の銃火器はいくつかあるが全て対物ライフル。
大の男でも一発撃つだけでも脱臼するとかいう威力のある銃火器。
色々と試したが見た目だけは火縄銃に拘って中の構造はもう別物だった。

「私ですか?美人ではないですよ、こんな背丈の小さい小娘を美人とは。」

いやいや冗談でしょう?と自身を指さして首を傾げて。
提灯に灯が灯った位で提灯そのものは消耗品。出し入れは魔術の類だった。

> むしろ心を読まれたら羞恥心で死ねるので、それは本当に助かるものである。
あと、体の動かし方でどうこうなるのかアレ…いや、考えたら俺もアレと似たようなのは出来るな…。
どのみち、彼女のそういう熟練度には全然及ばないだろうけども。三流剣士だからな!

「んー、別に全てのそういう系統の刀剣に重量軽減のカラクリがある訳でもねぇだろうし。
偶々、俺の手持ちの刀はそういう仕組みがあるってだけだろうなぁ。有難いけど。」

若干小柄だが、元風紀で鍛えていたので刀を提げるのは別に苦でもない。
ただ、4本扱うとなると矢張り嵩張るし…普通なら重さも問題となる。

「…お、おぅ…俺は銃火器あんまし詳しくねーから、名前出されてもピンと来ないけど…。」

銃火器はなぁ、風紀時代に試しに使わせて貰ってたが、危うく同僚にヘッドショットしそうになったからな…。
あれ以来、当時の同僚に正座説教を食らって以後は触れてもいません。

「いや、美人さんじゃん」

そこはごり押し即答である。こういうのは細かく丁寧に指摘するより、ストレートに言い切る方がいい。
まぁ、美人な姐さんなのはいいとして、しかしまた何でスラムに黄昏に来るかねぇ?

「つーか、もしかして姐さんはスラム出身とか?黄昏たいからってここにわざわざ来るのはあんまし見ねーぞ?」

能守重高 > 体の動かし方はまずは地面に足がつく前にもう片方の足が前へついていないと駄目なのであって、
瞬きより早く腰使いから柔軟に素早く動かす事で滑る様に地面を縫うように動けるという、
その動き股関節が摩耗するので人にはとても無理な速度を使うのであった。
つまり人をまずはやめる事ですねとさもレッツ人間卒業からです、を言いそうになった。

「不可思議な事があるのですね、重量軽減…あ、その辺考えていませんでした。
 先ほどまで持っていた銃は見た目圧縮しただけの代物だったので重さがそのままでした。
 ご指摘感謝します、私以外持てませんね!これは迂闊!」

彼が風紀委員会と何やら関りがあるとは知らない。元風紀委員だった少女だけど。
面識はないはず、あったとしてその時の姿が違い過ぎる。

「褒めても飴しか出ません」

二つの包まさった飴玉をどこからか取り出し、一つは少女は口に含み舐めながら、
もう一つの飴玉は包みから出さずに、彼に投げ渡したい。

「ん、んー異世界出身ですよ、転移荒野から出されてスラムにいて次に異邦人街に行き、学生になって今に至ります」

荒んだ狙撃手時代に戻ったようになります、とにこーと笑いかけた。

> あくまで俺は人間なので、彼女の動きを再現は勿論出来ません、人間なので。
ただ、似たような動きを出来るってだけなのである。じゃあうちの爺ちゃんは人外だったか…。

(冷静に考えて色々おかしい爺ちゃんだったからな…何か地獄に行ってそうだけど。)

地獄で獄卒さんと剣戟バトルとかしてないだろうな……してそうだな…うん…。
あと、俺は人間辞めるつもりは毛頭ないので別にいいです、と多分言われたら返しただろう。

「外見を圧縮してる時点で普通にとんでもだけど、この島じゃ普通か…普通か?」

うん?偶によく分からなくなるな、まぁいいか。
ちなみに風紀時代は一般風紀で目立った功績や活躍はゼロなので知らなくても不思議ではないかもしれない。

「お、飴ちゃんじゃーん、ありがとな!」

むしろ喜んで投げ渡されたそれを片手で受け取ってから包みを解いて口に放り込みつつ。

「あ、自己紹介遅れたけど俺は【赫】ってんだ。スラムで細々と何でも屋をやってる。お見知りおきをーってな。」

能守重高 > でも人間離れをする躰道という武術ならワンちゃんあるのではと思う。
達人ともなれば間合いは今までの倍になると聞きます、資料が少ないので教えたところで教え切れるかが。

今は5mの間合いですが躰道にとっては一瞬で詰めますから。
えげつない動きを身をもって経験している少女は体験しているだけを伝えるしかできそうにない。

「圧縮が普通ではない?皆さんしていそうな感じですが違いましたか。
 島の科学力がえらいのでこれが普通だとてっきり」

お互い面識がないのは後程判明するかも。
今はどうでもよろしいので受け流してしまいたい。
飴玉をコロコロと舐めながら名乗りをされれば。

「聞き逃しました 読み方は? 本名でもなさそうですね。
 いくつか名を持ちますけどこの姿では「能守重高(たかもりしげたか)」と申します。
 祭祀局の祓使いをしています。お見知りおきを」

> まぁ、身の丈にあった武術で俺はいいです…既によく分からん剣術叩き込まれてますけども。
でも、体術とか歩法はほぼ我流だから、そっちも勉強してみようかなぁ、とかぼんやり思いつつ。

「いや、少なくとも俺はそんな気軽に圧縮とか出来んって。」

ただの零細何でも屋なんですよこちらは!異能も何かあるけど無意味ぽいし!
ともあれ、飴玉を舐めながら彼女の名乗りに頷いて…え、祭祀局?まーじで?

(やべぇ、そうなると刀の素性余計に言えんわな…。)

何せ、少年の携える刀の内、1振りは祭祀局で【封印指定】された回収対象だ。
流石に手放す気は今は無いので、そこはきっちり黙っておこうと思う。

「へぇ、祭祀局ね……おっと、スマン能守の姐さん。俺はそろそろ塒に戻るわ。」

よいしょ、と立ち上がって。刀がバレない内にさっさと退散するに限る。でも焦ると怪しいので自然体で。