2024/06/16 のログ
ご案内:「黄泉の穴」に風花 優希さんが現れました。
風花 優希 >  
カランカランと、下駄特有の地面を踏みしめる音が静かに響く。
桜の意匠の袖が揺れ、漆黒のニーハイストッキングに包まれた脚が淀んだ空気の中を歩み進める。

「……ここが『黄泉の穴』か」

蒼髪の可憐な少年は、スラムの最奥の岬付近に存在する『穴』の前でその最奥を見つめて目を細める。
まるでそれは、そこが今如何なる存在が在るのかを、目を凝らして確かめるように。

「魔力の流れも乱れたまま…霊脈にも損傷がありそうだな。
 どおりで、放置されてるはずだな…封じるにもあまりに不安定すぎる」

少年は穴には踏み込まず、その入口とも言える”魔術的な穴”にて立ち止まり、十字を切る。

「(とはいえ、怪異が溢れ出さないようになっているだけマシ、かな)」

それは何かの作業をするかのように。
明確に思考を走らせながらも、その口では別の言霊を、誰にも聞こえぬ程度の声で呟き続ける。
”本”片手に紡がれるそれは、ある種の詠唱、呪唱であるの明白であった。

風花 優希 >  
宙へと印を刻むように、滑らかに手が滑り、微かな魔力が制御される。
隙間風のような冷たい空気が周囲を包み、澄んだ流れが空気を清める。
薄らと足元の地面に霜が降り、夏場だというのに砕氷が積もる。

「漂泊の 帰らぬ旅路 咲く白亜 
 尋ねど云わぬ そちは口無し」

白昼に水が消えゆくように、微かに紡がれた言霊と共に、それは明確な形となる。
魔術的な、欠けた穴。
総てを封じ切れては居ない『穴』を覆う魔術結界に存在するセキュリティホール。
それはそんな微かな穴の一つを埋め行くように唱えられ、そして封じる。

『風花の魔導書』。封じるために古来から存在するそれは今、常世にある危機の穴のひとつを封じていた。

「……気休めにしかならないけど、しないよりはマシ、だよな」

ご案内:「黄泉の穴」にDr.イーリスさんが現れました。
Dr.イーリス > 魔術のデータを取り解析するために、定期的に“穴”に訪れていた。漆黒のアンドロイドを連れて“穴”に向かっていた道中、今日はなんだか様子がおかしい。

「……“穴”に、妙な反応がありますね」

体内のコンピューターが、“穴”の異常な反応を感知した。科学だけではなく魔術による技術も取り入れた独自技術。それは、魔術の解析も可能としている。
やがて穴に辿り着けば、何者かが穴の前で何かをしていた。おそらく、“穴”の異常の原因となる何かをしていたのだろう。

「……“穴”をどうしようとしているのでしょう?」

小首を傾げる。
少なくとも悪意ある行動ではないのだろう。
穴の異常と言っても、“穴”に何かしら悪さをしているという風ではない。

風花 優希 >  
周囲には少年以外、音を起てるものは無かった。
遠くから聞こえてくる環境音や、穴の奥から湧き出る怪異らしき音以外、ここに音は無い。
故に、その声には直ぐに気が付いた。

静かに首を振り向かせれば、金の髪と青みががった瞳の、小さな少女の姿が見えた。
それを守る様に連れ添った、明らかな”自動人形”の姿も。

「……キミは……」

記憶の中に在る容姿ではない。
その姿形からして、恐らくは現代技術、科学的様式で造られた被造物だろうとは推測がつく。
だが、故にこそ何故に?と不可思議に思う。

何者が、何のためにこの『穴』へとやって来たのかと。
警戒は抜かず、ゆっくりと少年は振り返り、言葉を交わす。

「こんにちは、でいいのかな?」

Dr.イーリス > 釣れているアンドロイドは《試作型メカニカル・サイキッカーMk-Ⅲ》一体なので、自動人形が複数体いるわけではなかった。
特に隠れる意図はなかったので、堂々としている。

「こんにちは。初めまして、私の事はDr.イーリスと呼んでください。一年生です。しがないメカニックですが、科学の分野のみならず異能や魔術の研究なども行っております。“穴”についても、定期的にデータの収集や解析をするために訪れているのですよ」

ひとまず、警戒されているのだとすれば少しでも解いてくれればと、身分や目的などを開示する。
イーリスはスマホを取り出して、画面に視線を落とす。

「今日は、普段と比べて何やら“穴”のデータに差異が見られますね。あなたが“穴”に何かをしていたようなので、少し気になりました」

風花 優希 >  
その言葉と共に視線を一瞥。
連れているそれは、恐らくは彼女の護衛用か、とアタリを付ける。

「Dr.イーリス……か。
 ボクは、風花 優希…二年生、図書委員だ」

ともあれ、一旦は名乗りを返す。相手は隠し立てをしている様子はない。
恐らくは此方の警戒を気にしての事だろうと推測して。

「ええと…つまりはキミはメカニックとして様々なデータを集めている、という事だね?」

そう問い返す。

彼女の言い分に矛盾は今のところない。
穴の状態を把握しているあたりも、データを定期的に集積していたからだろう。

だが、だからと言って信用してよいわけでは無い。
ここが危険地帯であり、この穴にある”もの”を狙う存在が居る事は少年も既知なのだ。
彼女も”そう”である可能性は、まだ捨てられない。

「……『穴』には何もしてないよ。
 ボクがしたのは、それを守る防衛機構の方のほうにちょいと手を加えただけだ」

だから、事実を離しつつも真実は伝えない。
詳細は語らず、何を成したのかだけを答えた。

Dr.イーリス > 「優希さんですね。有り体に言えば、そういう事になりますね。私が有する技術に、異能や魔術のデータは必要不可欠です」

返された問いに、こくんと首を縦に振った。
実際のところイーリス側も、優希さんへの警戒が全くないと言えば、そういう事もない。出会った場所が出会った場所故。
が、別にお腹の探り合いがしたいだとか、何かしら駆け引きがしたいとか、そういった意図はない。

「そうですか。では、防衛機構に何かしらの干渉が入り、それが原因で普段と比べて算出されたデータに差異があったのでしょう。詳細は話したくなければ無理に聞きはしないのですが、詳細不明のノイズが混ざっているとなると今回のデータがどれぐらい参考になるか分からないですね……」

穴をどうこうしたいという人は、この島に多くいる事だろう。それが善意か悪意か、人それぞれ事情があるもの。

「これだけは聞いておかなければいけないのですが、あなたが防衛機構に干渉した事によって、“穴”に入れば普段よりも危険になってしまうという可能性はありますか?」

風花 優希 >  
なるほどなと、密やかに思考の裡で零す。
技術者として異能や魔術も利用している、というのは恐らくは今では珍しくは無いのだろう。
それこそかつては、科学とそれらは全く別のモノだったが、ここはそれらが研究されている島でもある。
なれば、現代にはそういうものも居るだろうとは、納得は出来た。

「……純粋に、防衛機構の”穴埋め”だよ。
 ボクにできる事はそう大したことじゃあないし…なにより…」

故に、問われた言葉に言葉を選びつつも真摯に回答を返す。
ある種、それは反応を見るためのモノ。
警戒は抱いたままだが、疑いは晴らしておくべきだからだ。

「ボクがここに来た目的は、”その逆”だ。
 少しでも、この場の脅威を封じる為だよ」

Dr.イーリス > 優希さんの説明を聞いて、なるほど、とこくこく首を縦に振る。

「この危険地帯の脅威を出来る限り封じられるのであれば、それに越した事はありませんね。それは本当に、お疲れ様です。私も先月、データ集積をしていたら怪異に巻き込まれて危険な目に遭ってしまいました」

イーリスはその場にぺたんと座り、持っていたアタッシュケースを開ける。アタッシュケースから出てきたのは、ドローンと思しき機械。
ドローンがひとりでに浮き、そして穴の方へと向かっていく。

「それでは、穴の内部のデータも取りましょうか。何かしらのアーティファクトが回収できれば御の字なのですけどね」

スマホの画面に視線を戻す。

風花 優希 >  
「あぁ、そりゃあご愁傷様というか、よく無事だったね」

その時は傍にいる自動人形がどうにかしたのだろうか、と視線を一瞥。
しかしてその場に座り込み、アタッシュケースを開き始めた少女に直ぐに視線を戻した。

いきなり何をし始めるのかと、少しだけ瞳を丸めて。

「……なるほどな、そうやって安全を担保しつつ中を調査してるのか。
 個人的には不用意にアーティファクトを回収するのは好ましくはないんだが…」

それがデータ収集のためのドローンだと分かれば、そうぼやく。
同時にああ、そういう方法もあったなと、素直な驚きもそこにはあった。

Dr.イーリス > 「もう命辛々でしたよ。悪魔のような怪物が無数に襲ってきました。私が開発したこの《試作型メカニカル・サイキッカーMk-Ⅲ》のお陰でなんとか切り抜ける事ができましたけどね」

データ集積も命懸け……。
怪異に襲われた事を思い出して、あまり表情の変化がないながらも、ちょっと青ざめている。

「私の技術力があれば、こうして安全圏から穴の中を見られるのです」

胸を張ってみせてから、すぐにまた青ざめる。

「いえ、嘘です……。全然安全圏ではありません……。悪魔たくさん……。怪異恐ろしいです」

また、怪異に襲われた時の事を思い出してしまった。
やがて、ドローンが穴に入っていく。

「アーティファクトを回収されたくないという気持ちは分からなくもないですが、危険なお宝争奪戦でもあります。私は元より不良の身なので、あまり良い子でいる気もありません」

危険なアーティファクトが極悪人の手に渡れば大惨事にもなり得よう。理想を言うなら、ちゃんとした組織などがアーティファクトを回収するのはいいのだろう。
そういった事情を考えれば、優希さんが、不用意なアーティファクト回収が好ましくないと思うのも理解できる。
理解した上で、でも無法者なのでやります、というのがイーリスの考えだが。

風花 優希 >  
「見た目からイカツかったけど、大分強いんだね。試作型試験……ええと、なんだっけ?」

横文字が多いと、どうにも記録領域に保存しきれない。
ともあれ、それなりに大変だったのはその顔色から見て取れた。

「……怖いなら、無理に来なくていいだろうに」

少しだけ、呆れた苦笑を浮かべて少年は笑う。
思っていたよりは、見た目相応らしい仕草に警戒を緩めるように。

「触れるだけでも危険な品物であるモノなら、そのまま封じておきたいんだけどね。
 ……でもそうか、キミが不良であわよくばお宝が欲しいっていうのならしょうがない」

しかして、アーティファクトを狙っているという言葉には、目を鋭く細める。

「狙う理由は、一応聞いても?」

Dr.イーリス > 「なにせ、私の技術力の結晶ですからね。《試作型メカニカル・サイキッカーMk-Ⅲ》です。メカニカル・サイキッカーです」

優希さんに発明したメカを褒められて、表情の変化が小さいながらどやっと胸を張った。

「……か、科学の発展に犠牲はつきもの……。己の命をも、時には犠牲に……。メカニックには、恐怖を押し殺してでもやらなければいけない事があります……」

言葉とは裏腹に、ちょっと震え声。

「触れるだけで危険な物となると、なんとか安全に回収して祭祀局に封印を依頼していただくのもいいかもしれませんね。狙う理由は至極単純ですよ。アーティファクトを改造して使うまでです。あるいは分解して、パーツ単位で扱いますね。とても良き資源になります」

風花 優希 >  
「《試作型メカニカル・サイキッカーMk-Ⅲ》…ね、うん、覚えたよ」

その少し自慢げな姿からして、根っからの技術者であることに確信を深める。
命名からして異能由来の技術が使われている事も、何となしに推測できた。

「犠牲はつきものでも、安全工学ってのがあるんだろう?今の時代にはさ。
 まぁ、その為のそのメカニカル・サイキッカーなんだろうけども…」

だからこそ、怖さを押し殺してでも調査に来るのは、素直な尊敬の念もある。
同時に、安全な場所で研究していればいいとも思うが。

「当然、そんなものが見つかったら真っ先にあそこに報告するさ、古巣だしな」

さらりと少年はそう返し。

「……ああ、そういう感じか……。
 うーむ困ったな、そういう目的であればちょいと、個人的には見過ごせなくなってしまう」

頭を掻きながら、ため息をついた。

Dr.イーリス > 《試作型メカニカル・サイキッカーMk-Ⅲ》の名称がちゃんと伝わって、ちょっと満足気。

「メカニカル・サイキッカーがリスクマネジメントの役割をこなすのはその通りですね。私は改造人間で、体内に高性能なコンピューターを搭載しています。メカニカル・サイキッカーや先程のドローンは、その体内コンピューターにより操作されているものですね。データ解析に伴い演算もこの体内コンピューターで行われておりますので、私自身が現場にいる方が都合がいいのですよ」

イーリスが眺めているスマホの画面には、穴の向こうにある異界が映し出されている。
どこか魔界のような世界であり、そこには悪魔の姿をした怪異が存在している……。先月、イーリスを襲った悪魔達だ。

「……な、何かとあの悪魔達に縁がありますね」

また青ざめてしまった。
幸い、悪魔達は遠くにおり、ドローンの存在に気づいていない。

「祭祀局でのキャリアがあるのですね」

見過ごせない、という言葉にイーリスはスマホの画面から目を離し、優希さんに視線を向ける。

「見過ごせませんか……」

少し目を鋭くして。
何かを取り出す。

「これで、どうか見逃してください。私の貴重な食料源です。この後、仲間達とで食べようと学生通りで思い買いました」

焼き菓子が入った箱を優希さんに差し出して、ぺたんと座りながら頭を下げた。

風花 優希 >  
「つまりはキミが母機で、メカニカル・サイキッカーやあのドローンは子機ってことか。
 改造人間だっていうのには、ちょっと驚きもあるけれど…」

納得はする。技術者であればまあ、そういう事もあるだろうかと。
どこか機械的な雰囲気を感じたのも、理由の一つだ。

また青ざめている少女を横目に、どうしたものかと少年は思考を巡らせる。
少なくとも、危険物をそのまま転用するのは放置できない。
可能であれば須らく、そうした品々は封じられるものであるという理念もある。
しかして、現実問題…それを無理やりにでも止めるというのも、選択肢としてはバッドだ。

風花優希の戦闘力で、目の前の少女の操るそれに対抗できるかが未知数だ。
むしろ少女とメカニカル・サイキッカーの二つ、数的不利で分が悪い、と判断するべきだろう。

「……はぁ、お菓子で流石にボクは買収されないよ?
 まあ…条件付きで、この場は良しとしてもよいけれど…」

故に少年が選んだのは、条件を付けての認可であった。

Dr.イーリス > 「そういう事になりますね。メカを開発する上で、自分自身を改造すればとても効率が良い事に気づきましたので、やってみました。お陰で革新的な技術向上を果たす事ができましたね」

スマホの画面に映し出されたものを見て、イーリスは眉をぴくり動かした。

「アーティファクトらしき物が見つかりましたね。回収しましょう」

このままトラブルがなければ、アーティファクトを持ち帰る事がほぼ確実となった。
しかし、ドローンが帰還するまでに時間が掛かる。それまでに、この場がどうなっているか。

「条件……? 焼き菓子では足りませんでしたか……。欲張りさんですね。えっと、では……その……。ほ、他に渡そうにも貧困なので……もうお菓子ありません……。そうです、ミカンをおつけします。落第街の大通りで、おばちゃんにいただきました」

焼き菓子を地面に置き、さらにその上にミカンを乗せた。そして、頭を下げつつ優希さんの方に両手でスライドする。

風花 優希 >  
「(…普通はリスクやらがあるだろうに)」

そうしたリスクも込みで、己を改造するのが効率的だからと行うあたりに、
技術者として、何処かネジが外れた存在であることを認識する。

そうでなければ、違法であってもアーティファクトを回収し、
あまつさえ再利用しようとするなんて発想が出てこないだろうから。

「……いや、食べ物はいらないから、そんなにボクは食いしん坊じゃあないし」

何なら本来食事は不要なのだが…閑話休題。
ともあれ、天然なのかどうなのか分からぬそれに肩を竦めて言葉を続ける。

「そのアーティファクトが危険物じゃないかどうか、如何にして利用するかをチェックさせてくれ。
 …っていうのが条件だ。それが危ういものじゃなくて、危機を及ぼさない使われ方なら問題は無いからね」

Dr.イーリス > 改造してみました、と言った後に想定外に体の成長が10歳で止まった悲しき事を思い出して、内心涙を飲む。
リスク重い……。成長したかった……。

「食べ物を求めているのではなかったのですね。泣く泣く、貴重な食糧を手放さなくて済み助かりました。今日は、食事にありつけそうです」

もし焼き菓子やミカンを持っていかれたら、今日は空腹で寝るところだった……。よかった。
しかし、優希さんが示す条件に、イーリスはあまり良い表情をしなかった。

「それはお約束できない事ですね。何に利用するかは、まずアーティファクトを解析してから決める事です。今この場での即決はできません。それに、場合によっては普通に兵器転用しますので、それはおそらく危機を及ぼさない使い方に反するでしょう」

淡々と、優希さんにそう告げた。

風花 優希 >  
「……そんなに食事に困窮してるの?」

費用を切り詰めて改造やら開発につぎ込んでいるのだろうか…とそんな心配が過る。
しかして、そんな心配も今はしている場合では無さそうであった

彼女から返された返答は、実質的な「No」であったからだ。

「…だろうね、それが兵器や武装に利用できるものならそうするだろう。
 メカニカル・サイキッカーをみれば、それくらいはボクでもわかる」

しかして、直ぐに納得しないのまでは織り込み済みだ。
元より交渉するつもりで、少年はこの話を切り出していた。

「ならば代案だ。解析と開発利用への協力…という方向性はどうかな?
 何かに転用するのはまあぁ…100歩譲る事になるが良しとしてだ、その利用過程で何かあれば目覚めも悪い。
 安全を担保した上で、アーティファクトを利用できるなら悪い話じゃないと思うけど、どうかな?
 開発目的次第ではあるが…、ボクもそこまでなら妥協できる」