2024/10/01 のログ
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――しばらくぼんやりと思考を巡らせて。
何が起きたのかは、おおよそ把握できていた。
『心臓』から血という血を搾り取られ、失血死寸前になった。
その結果、極度の貧血――脳をはじめ複数の臓気が機能不全を訴えているようで。
頭の中――脳の中で何かが崩れて、失われたような感覚がある。
(でも、大事な事はまだ――消えてないわ。
それなら、大丈夫。
またわたしは『彼女』の残骸でいられる――)
そして思い浮かぶのは、己を構成する、継ぎ接ぎされた人格の残滓。
それと、女を、『彼女』をそうした実験の――
(あら――?)
少しだけ奇妙に思って、いくつかの名刺を思い浮かべた。
(アルカディア――クライン――、メビウス博士――アーク――ホシノモリアルカ――ふふっ、なんだかおもしろい事になったわね)
恐らく、女の脳の一部が脳貧血によって壊死したのだろう。
それが、『偶然』、女の思考を支配し、管理していたマイクロチップを巻き込んだ。
つまり――一時的に。
うまく立ち回ればしばらくの間であれば、女は今までより自由に動ける事だろう。
どういう理由か、監視役に埋め込まれていた機器も取り外されている。
(――うふふ、これはちょっと、わくわくしてきちゃうわね。
でもしばらくは、大人しく病人らしくしてなくちゃ)
そもそも、意識は戻った物の、自発呼吸も危うい状態なのだ。
大人しくしている以外の選択はないと言っていい。
ただそれでも、女はこれからの事に楽しみを覚えるのだった。
ご案内:「医療施設群 長期療養施設」から❖❖❖❖❖さんが去りました。
ご案内:「医療施設群 長期療養施設」に❖❖❖❖❖さんが現れました。
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(はぁ――自由になったとはいえ、これだけ体がボロボロだと退屈になっちゃうわね。
うーん、めーちゃんもわたしが起きてるときにお見舞いしてくれればいいのに)
両腕に輸血のチューブと、薬液輸液のチューブを何本も刺して。
内臓の状態をモニターするためのスキャナー用のジェルパッドを全身にくっつけて。
脳波測定のために頭にも電極がくっついて。
しまいには、大型の呼吸補助機で、何とか呼吸して生命維持をしている始末。
手も足も動かないし、精々視線や、少しだけ頭が動かせるくらいである。
あんまり人に言えない管も繋がっていて、自力じゃ何もできない状態なのだ。
退屈自体はそれほど嫌いではない女としても、流石にここまで何もできないと、必要以上にぼんやりとしてしまう。
救いがあるとすれば。
目が覚めるといつの間にか増えている、小さな亀のぬいぐるみ。
青と緑と黄色。
それはカノジョが全てを犠牲にしても守ろうとした愛しい幼馴染の、不器用なお見舞いだった。
(うーん――起きてるときに誰か来てくれないかしら。
ちょっとだけなら喋れるのだけど――お喋りできないってこんなに寂しいのね)
なんて、ちょっぴり、寂しがってる超重症の女だった。
ご案内:「医療施設群 長期療養施設」に緋月さんが現れました。
■緋月 >
病院内ではお静かに。常識である。
常識である、のだが、それを顧みない駆け足がドア一枚隔てた廊下から響いて来る。
そして、その足音がはっきり聞こえるようになった所で、
「――――あーちゃん先生!?」
バァン、とドアをぶち開けそうな勢いで入室してきた小柄な人影。
いつもの暗い赤の外套に書生服を着込んだ少女だ。
例によって、その腰には長物の入った刀袋。
「つい暫く前に、面会の許可が出たからって、連絡が…!
大丈夫ですか!? どこか痛い所とか、動かない所とかありませんか!?」
相当慌ててる。
さもありなん、何しろ目の前でぶっ倒れたのだ、心配するなというのが無理だろう。
ともあれ、そんな調子で大慌てで姿を見せた書生服姿の少女である。
繰り返すが、病院内ではお静かに。
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病院内ではお静かに――もちろん常識なのだけど。
とてもよく響く声と共に、扉が開いた勢いの反動で勝手に閉まってしまう、そんな生命力に溢れた女の子。
それは女にとって、とっても嬉しい来客だった。
「まあ――!
はぁい、るなちゃん。
久しぶりね、とぉってもうれし――けほっ」
思わず感極まった声で喜びの、いつもの挨拶をしようとしたら、当たり前の喀血。
内臓が一つ残らずボロボロになってるのだから仕方ない。
脳波計も大人しくしてろとばかりに、ピーピーと音を出していた。
■緋月 >
「あ、あーちゃん先生ー!?」
またも目の前での吐血。
何か医療機器が出したらやばそうな音を出しているのでこちらも大慌てである。
「だ、駄目じゃないですか、大人しくしていないと…!
ほら、はやく横になって…!」
あわあわしながら何とか落ち着かせようとする。
どちらかというと落ち着く必要があるのは書生服姿の少女の方なのではないだろうか。
よく見れば腕には管がたくさん、医療機器からも何本も線が繋がっている。
頭にも何かくっついているし、確か呼吸器、というのだったかまでつけられている程。
……随分前に見舞いに来られた記憶があるが、あの時とは立場が正反対だ。
オマケに重症度は先生の方が上の気がする。
「……でも、意識が戻ったって聞いて…本当に良かったです。
あの時はもう、凄く驚きましたし、病院からは面会はダメの一点張りだしで……。」
はぁ、と安心したように大きく息を吐く少女。
予断は許されないが、とりあえず山ひとつは越えた、と見ていいのだろうか。
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「はぁーい」
掠れるような小さな声で返事をする。
思わず無理やり起こしかけた体を再び、ベッドに沈み込ませて。
「ああ――でも、るなちゃんがお見舞いにきてくれるなんて。
とってもうれしくて、それだけで全部治っちゃいそう」
小さく掠れた声でも、普段の調子で微笑みながら言う。
とはいえ、内臓のほとんどが壊死寸前まで言っていて、脳に至っては一部が壊死。
全身の筋肉も長時間血液が廻らなかった事によって、随分とダメになっている。
「はあ、ふぅ――ごめんなさいね。
自力で呼吸も、うまくできないみたいなの」
そう、少し喋っては呼吸器のマスクで、しっかり呼吸しつつ。
それでも、少しも苦しそうな様子もなく嬉しそうににこにことしていた。
■緋月 >
「自力で呼吸も出来ないって…重症じゃないですか…。
お願いですから大人しくしてて下さい…。」
はぁー、と心配そうに大きく息を吐く。
何とか落ち着いたようではあるが、あまり長時間の面会は体調に差し障るかも知れない。
気を付けなくてはいけないだろう。
「…とりあえず、どの辺位まで覚えてますか?
お食事中、突然倒れたの、覚えてます?」
記憶が心配になったので、まずそこから。
何やら頭にくっついているのが心配になったらしい。
「…無理はしなくていいですからね、ホントに。
自分の身体を大事にして下さい。」
ニコニコされると余計心配になって来る。
また何かの拍子に血を吐いたりして体調が悪化したら大変だ。
(……一応、「仕込み」はしてきましたけど。
どうするかは、少し先生の体調に気を付けて、でしょうか。)
懐に入れた生徒手帳に、微かに意識が向く。
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「ふふっ、へいきよー?
そう簡単に死ねるようなら、今、こうしてなんていないもの」
そう安心できないような事を言いつつ、クリアなマスクの下で微笑む。
「そうねえ――病院に運ばれたくらいまでは、ふんわり?」
そして少し呼吸をしてから。
「それでるなちゃんは――ただお見舞いに来てくれただけ?
それとも、なにか面白いお話しとか、してくれるのかしら。
身体も動かせないから、すっごく退屈だったのよ」
そう言って、再び呼吸器に身を任せつつ。
視線で、少女に楽し気な期待の眼差しを向けている。
■緋月 >
「そうですか…そこまでは覚えてるんですね。」
とりあえず記憶障害みたいなものはないようだと安心。
ふんわり気味なのがちょっと心配だが、こんな状態になるような症状では仕方もないのだろう。
「本当は、何か食べられそうなものでもお見舞いに持ってきたかったんですけど…
この様子では、そもそも固形物が駄目そうですね。
申し訳ないですけど、暫く安静にしてて下さい。」
恐らく医師辺りから同じ事は言われているんだろうとは思いつつ、
念押しの形でそう告げて置く。
お話、について訊かれると、少し首を傾げ、考え込んでから。
「――そうですね。
こんな時にするお話でもないかも知れませんが、
今の居候生活もあまり続けるわけにはいかないですし、そろそろ新しい住居を見つけようか、って。
暫く前から探していたんですが、異邦人街に随分と家賃が安い集合住宅があるそうで、
そちらに引っ越して、心機一転でもしようかな、と。
幸い、部屋は沢山あるそうなので、まだ仮ですけどほぼ其処に決定になりそうです。」
とりあえず、当たり障りのない自身の近況について。
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「そうなのー、なんにも食べられないから寂しいわ。
お医者様が言うには、内臓のほとんどが壊死寸前で機能不全みたいなの。
脳も一部壊死しちゃってるみたいで、後遺症も残るみたい。
やぁねえ、困っちゃうわよねえ」
まったく困っていなさそうな様子でさらっと言うが。
内容はちっともシャレになっていないのであった。
「あら――いいわね、新生活。
異邦人街だと――ああ、万妖邸かしら?
委員会のお仕事で、時々みまわりに行く事もあるから、よろしくね?」
そんなふうに、目元で微笑んで――視線は少女の気遣いを見透かすような何所迄も深い蒼だ。
■緋月 >
「な、内蔵の殆どが…それに脳も!?」
とんでもない事を聞いてしまった。
思った以上の重症である。
「……それでも、きっと生きているだけ、充分なんでしょうね…。
でも、後遺症が残ると、教師としてのお仕事は…。」
つい暗くなってしまう。
症状次第では、教師の職を降りなくてはいけないかもしれない。
それは少し…寂しいし、悲しい事だ。
「あ、はい。その名前の建物で間違いないです。
…あーちゃん先生は無理し過ぎないで下さいよ。
今でも大変そうなんですから。
えっと、多分ご存じだとは思いますけど、住所と…それから、入居の時に
部屋の名前を決めておくように、って言われたので、纏めて残しておきました。
まだ住所が覚えきれてないので、メモ帳機能で恐縮ですけど。」
言いながら、オモイカネ8を取り出し、ちょいちょいと少々手間取りながらもメモ帳機能を呼び出し、
住所の纏められた画面をちょい、と見せる。
間違いなく、万妖邸の住所と、部屋の名前だ。
「――――――」
少し注意を払い、そこから少し時間を置いて、すい、とメモ帳をスワイプ。
■メモ帳の画面 >
《第二方舟の事は、頼れそうな知り合いに話したら研究所に行ったと、お話を貰いました。
また何か事が起こったら、その時はその人の護衛担当で、
私も動くつもりでいます。
先生は、どうか心配しないで。》
――それを目に通すだけの時間を最低限確保してから、メモ帳を閉じる。
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「ふふっ、心配してくれるって嬉しいわね。
だいじょうぶ、ちょっとだけ、それもあまり深刻な影響がないところ見たいだから。
ちゃぁんと、せんせいのお仕事は続けられるわ」
そう、暗くなってしまった女の子に微笑みかけた。
本当なら、頭を撫でて抱きしめてあげたいくらいだ。
「あら、ちゃんと手帳も使えるようになったのね。
るなちゃったら、とってもえらいわ」
そう言ってから視線で文字列を追い――
「まあ――あの紅いお嬢さんかしら。
関わらないようにね、ってつもりだったのだけど――たしかに、あんな伝え方したら気にさせちゃうわよね」
失敗しちゃった、なんて、やんわりと笑う。
そしてまた、しばらく呼吸器に任せてゆっくりと息を整えてから。
「るなちゃんは、どれくらい聞いたのかしら?
アルカディア計画とか、『K』――クラインの事とか。
あとは、うーん、そうね、わたしのこととか?」
そう、まるで枷が外れているかのように。
さらりと、それまで監視、統制、制限されていた言葉を発して訊ねた。
■緋月 >
「――――!?」
思わず顔が青くなってしまう。
下手に口に出したら…!
「あ、あーちゃん先生…!
それ、そんなの、喋ったら…こ、ここ…!」
大慌てで、自身の耳の辺りを指差す。
そう、聞いている話では、「そこ」の仕掛けで会話を聞かれている、という話だった。
――当然、枷が外れているなど、書生服姿の少女には思いもつかないものなので。
結果、答えるより先に大慌て状態なのである。
何なら廊下の方に警戒まで飛ばしてる。
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「あははっ、るなちゃんってばかわ――けほけほっ」
女の子の慌てっぷりに笑ってしまったら、やっぱり喀血。
マスクの中が真っ赤に染まるが、そこは最先端の医療機器。
あっという間に洗浄されて、女の呼吸を落ち着けた。
「ふ――っ、ふぅー。
ふふっ、へいきなのよ、今は、だけど」
くすくすと笑う様子は、普段の女の調子だ。
少々息苦しそうではあるが。
「それで、どうだったかしら?
ここの病室の防音もしっかりしてるし、心配ないわ」
そう言いながら、じっと、女の子の目を見つめた。
■緋月 >
「ああっ、また血が…!」
再度の吐血。大慌てもちょっと加速。
しかし、「今は平気」という言葉には、大きく息を吐いて、ようやく安心できた模様。
少し息を落ち着けて、そこから話を続ける。
「…分かりました、信じますよ。
――といっても、私があのひとから聞けたお話は、そんなに多くはありません。
第二方舟という施設が、人間の改造を行っている施設だという事と、
その改造が…神様の力を絞り出して、人間に植え付けている、というお話。
多分、それ以上を知ったら、私の身に危険が及ぶと、あのひとなりに気を使ってくれたんでしょう。
後は…さっきの通り。
一度、手合わせの必要はありますけど、それで納得が貰えたら、
次に何かあった時は私が護衛を担当する、という事で落ち着きました。」
其処まで話をして、一度、きょろきょろと忙しなく周囲を見てから、
そっと口を開く。
耳元に届くように。
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「あら――それだけなのね。
それじゃあ、その改造された人間が、わたしって事は聞いていないのかしら」
と、意外そうに訊ねた。
「そう、手合わせで。
ふふっ、今のるなちゃんに、あのお嬢さんを納得させられるのかしらね?」
そう笑っていたら、近づいてくる女の子――
「ああ――」
他人からそう呼ばれるのは――どれだけぶりだろうか。
けれど少女の答えは、ほんの少しだけ、正答から外れている。
「そのなまえはね――『わたし』になる前の『彼女』のなまえ。
現世でもっとも『聖女』に近づけるはずだった、一人の女の子の名前なのよ。
『わたし』は『彼女』の粉々になった自己意識を、継ぎ接ぎして出来た、『まがいもの』なのよ」
そう言って、珍しく――寂し気に自嘲した。
「――だから、『あの子』は、わたしを絶対に『彼女』とは認めてくれないの。
それでも、捨てないでくれてるのは、嬉しいけど、ね?」
そう、視線で、枕横に並んだ、三色の亀のぬいぐるみを嬉しそうに目を細めてみた。
■緋月 >
「あーちゃん先生、が……。」
…聞いてはいない。が、話の流れで薄々と予想だけは出来ていた事だった。
それでも実際、そんな非道な話に目の前の先生が使われていたとなれば、衝撃は受ける。
心の準備が出来ていた分、大きいか小さいかの違いだけだった。
「……納得させますよ。
そうでないと、私が納得できない状況で物事が終わってしまいますから。」
少しだけ、ぶすっとした物言い。
ふてくされてる…訳ではなく、ちょっと意地になっただけだ。
知ってしまった以上、見ぬ振りは出来ない。それだけの事。
「………粉々になったのは、その、改造のせいで、ですか?
一時とは言え、御神の力の宿った器物を持つ身だった以上、代償の大きさは理解してるつもりです。
力の宿ったモノを扱うだけでそれなんです、直接人間に流し込むなんて…とんでもない、無謀です。」
自分の場合は…まだ「軽い方」の代償だった。
無理をしなければ充分繕えるし、無理をしたとしても…ゆっくりだが、元に戻っていく。
それでも、代償を払った時は、精神が捩じり切れるかのような感覚を覚えた。
直接、神の力を注がれたら……自我が木っ端微塵になろうが、まるでおかしくない。
それどころか、寧ろ「その程度」で済まされて幸運だった可能性すらあり得る。
ベッドの上の先生の視線を、思わず追いかける。
枕の横に、三色の亀のぬいぐるみ。
――「あの子」という人が、お見舞いに置いていったのだろうか。