2024/11/10 のログ
ご案内:「医療施設群 長期療養施設」に❖❖❖❖❖さんが現れました。
ご案内:「医療施設群 長期療養施設」に緋月さんが現れました。
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「ふふっ、もう、みんなすぐ真似するんだから」

 見舞いにきた面会人が帰っていくと、残ったのは色とりどりの小さな亀のぬいぐるみ。
 最初に持ち込んだのは、女の幼馴染だったが、五色五段重ねになった後、次々と同じぬいぐるみが持ち込まれて。
 いつの間にか、サイドテーブルの上に、小亀のピラミッドが出来ていた。

「はぁ、あ。
 ほんにもう、みんなとっても可愛いんだから」

 目を細めて微笑む。
 それだけ心配し、想って貰えているのが嬉しく――女の望みは少なからず叶っていたのかもしれないとおもえてしまう。
 だからこそ、再び、無機質な天井を見上げた時。
 焦点も定まらず、ぼんやりとして、予感してしまった。

「――そろそろ、時間切れ、よねえ」

 そう呟きながら、別段何をするわけでも――何が出来るわけでもなく。
 ただぼんやりと、必ず訪れるその時(・・・)を、どこか穏やかな気持ちで待っていた。
 

緋月 >  
受付で許可を貰い、花束片手に「先生」のお見舞いにやって来た書生服姿の少女。
腰の刀袋については、その中身を抜けないように特殊な「ロック」をかける機具を
つける事で持ち込みの許可を貰えたのだった。

今日も今日とて、「稽古」の帰りであるため、右頬には少し大きめの絆創膏。
左目の少し下にも傷を塞ぐための絆創膏が貼られている。
とはいえ、傷については殆ど塞がっているようなものなのでまだ残っている打撲痕を隠すというのが理由だが。

目的の病室につくと、軽くノック。

「――あーちゃん先生、起きてますか?
お見舞いに来ましたー。」

特に緊張も無く、普段通りの声の調子である。

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「あら」

 いつからかすっかり親しんでしまった声。
 ただ、その声にはどこか、これまでより力強さが感じられた。

 手足共に動かせない患者のために、視線操作でドアが開けられる。
 そして、いつものように微笑みを浮かべた。

「――はぁい、愛しいお月さま。
 また、わたしに会いたくなっちゃった?」

 そう朗らかな声が、鈴の音の様に響いた。
 相変わらず、繋がれているケーブルや機材の数は変わっていない。
 むしろ増えているような気さえするくらいだろう。
 

緋月 >  
「元気してるかどうか心配ですから。」

かけられた声はそう軽く受け流し、開かれたドアから失礼しますと一言断りを入れて入室。
相変わらずの管と線ばかりに繋がれた様子には、流石にちょっとだけ元気がなくなるような雰囲気。

「…前より、線が増えましたか? あと、機械も。」

医療機器が増えるという事は体調が思わしくないという事だ。
そんな状況を目にしては、流石に多少は元気もなくなると言うもの。
それでも割合すぐに持ち直し、サイドテーブルに花束を置こう、として…

「――お見舞い、随分増えてますね。」

亀のぬいぐるみの山を見て、思わず小さく笑ってしまう。
とりあえず花束をサイドテーブルに置くのは諦めて、手近な椅子に腰を下ろす事にした。

「……お話とか、大丈夫そうですか?
体調が悪いなら、無理しなくてもいいんですけど。」

ちら、と開いたドアを見ながら。
――少しばかり、話しにくそうな雰囲気。

まあ、「そういう事」のお話なのだろうけど。

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「あら嬉しい。
 お花も綺麗ねえ」

 現れた少女に、目を細める。

「そうなの、回復に向かってるから、少しずつ新しい治療をしてくれてるみたい」

 意外にも、それは回復の兆しであるらしい。
 脳波計も非常に安定しており、壊死していた脳細胞も除去され、様態自体は安定しているようだ。
 声も以前より明るく、喋りやすそうにしているだろう。

「ふふっ、かわいいでしょ?
 みんな真似しちゃって、いつの間にかこんなになっちゃったの」

 くすくすと笑い、それで息切れを起こさない。
 完全でないとはいえ、自発呼吸も出来るようになってきているようだ。
 少女が座ったのを見ると、視線でドアを閉める。
 あくまで入院患者のため、ロックを掛ける事こそできないが、表側には面会中と表示された事だろう。

「ええ、大丈夫よ。
 今はとっても調子がいいの。
 お話しは大歓迎だわ」

 そう、いつもの無邪気な笑みを浮かべた。
 

緋月 >  
「そうなのですか? それなら、私としては安心ですが。」

ほ、と小さく安堵の息。
確かに以前よりも喋り易そうな雰囲気ではあるし、調子も良さそうに見える。
呼吸も問題がなさそうな具合。
症状悪化による機器の増加ではない事に、まずは安心である。

「賑やかそうで、いいと思いますよ。
何もないよりも精神衛生に良さそうですし、何より和みます。」

増えたお見舞いの実情には、こちらも釣られるように軽く笑い。
ともあれ、ベッドの主の視線でドアが閉まれば、少しばかり気持ちを引き締めて。

「では、少し真剣なお話から。

……「預かり物」は、頼まれた人にしっかり渡しました。
つい少し前に出来た事ですけど、「許し」も得られてます。」

まずは其処から。
以前に彼女から預かった品物の顛末について、である。
恐らく、これだけ告げれば概要は概ね理解できるだろう、と。
 

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「そうよね、なごむのよ。
 でも、少しくすぐったいわ。
 慕ってもらえるのは、本当に嬉しいのだけど」

 ふふ、と楽し気に笑いつつ。
 それだけ心配をかけていると思うと、少し悪い気もするのだった。

「はぁい」

 真剣なお話しと聞けば、返事をして、視線でゆっくりと頷く様に。

「ありがとう、るなちゃん。
 でも――少しびっくり。
 るなちゃんまで、『乗り越えた』のね」

 神山舟のもたらす所有者の選別、試練は容易に抜け出せるものではない。
 事実、女は、少女には出来ないと思っていたからこそ、少女には扱い方すら教えなかったのだから。

「子供の成長は早いって言うけれど――よく頑張ったわね、るなちゃん」

 そう、目を細めて、心から嬉しそうに言った。
 

緋月 >  
「……やはり、元々の持ち主だから、分かるものですか。」

かなわない、といった雰囲気でちょっとだけ眉を少し下げる。
本来持っている者だから分かるもの、という事もあるだろうが、
そこまで簡単に見抜かれてしまったのは流石に驚く。

「実際は、挑んだのはあのひとだけ、になる筈でした。
ちょっとした…事故みたいなもので、私がそれに巻き込まれる形になって。

なので、権限、でいいんでしょうか。
そっちはあのひとが持ってます。私は…そうですね、オマケみたいな形、なのでしょうか。」

実際、形としては試練を受けた相手が主体の使い手だ。
自分は…多分だが、あの試練を乗り越える「手助け」をしたから、特別に少しだけ、認められた…のだろう。
少なくとも、少女はそう考える事にしている。
あまり天狗になるつもりはなかった。

「後は…そうですね、色々とあのひとから詳しい事情、みたいなものも聴きました。
先生の孤児院を、今、代理で管理している方の事も。
どうも、直接会いに行ったそうなので、その時に色々と情報を交換したそうで、
私もあのひと伝いにですが、色々と聞きました。
……『K』という人の、事も。」

その先については、何を話せばいいのか、すこし難しいので、まずはそう話すに留める事に。
 

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「んー、持ち主だからというより――わたしの一部のようなものだからかしら」

 そう、少し考えるように言い、少女の様子に微笑む。

「おまけ、なんて、神山舟の試練にはあり得ないわ。
 るなちゃんがちゃんと、それだけの資格を持っていなかったら――きっと二人して、永久の幸せな眠り(とこしえのらくえん)の中で優しい夢を見ていたはずよ。
 ふふっ、あなたの恋人は、あなたを誇りに思わなくちゃ。
 あとで、たーっぷり、愛してもらうといいわ」

 なんて、少女を褒めたたえつつ、二人の関係を少し揶揄う。
 実際二人の関係はどれくらいなのだろう、と勘繰りたくもなってしまうが。

「あら――」

 その後に続いた話を聞くと、少し驚いた顔をした。

「めーちゃんの事を聞いたのね。
 めーちゃん、元気なのかしら、しばらくお見舞いにも来てくれていないのよ」

 そう、寂しそうに言いながらも、『K』と聞けば。

「クライン教授は――うん、そうね。
 前も少し話したけれど。
 改めて、るなちゃんは、彼女の事をどう思うのかしら。
 やっぱり、彼女は間違っていると思う?」

 そう、目を細めて穏やかな声音で訊ねた。
 

緋月 >  
「ま、またそんなことを……!」

思わぬところから思わぬ一言が出た事で思い切り赤面しつつも、件の「星の鍵」については一考。

「オマケじゃない…だったら、私が「巻き込まれた」と思っているのも誤りだと…そういう事ですか?
確かに、あの時は私はあのひとと一緒に…居ましたけど。」

直接開いたのは、現在の所持者である。
本当は自分の刀だけ持っていくと言っていたし、自分はてっきりそこに
事故みたいな形で紛れ込んだ想定外の者(イレギュラー)だと思っていたのだが…認識を改める必要があるか。

そして、「めーちゃん」のお話になると少し居住まいを正す。

「――はい。聞いたとは言っても、姿勢というか、こちらとの関り方、と言いますか。
ざっくり言って、人間としてのあーちゃん先生の奪還を最優先にしていて…あのひとから見た所、ですが、
現状では協調路線を取れる相手とみて良い、と。

……後は、『K』に身柄を狙われる理由があるらしい、とも。」

最後だけは、声を潜めて。
自分はそれについて詳しく知らされてはいないが、何が起こるか、分からない。
あまり大声では言えない事だ。

そして、問題の人物の話となると、すこし考え込む。

「……直接会っていない、情報だけの事なので、断定的には言えません。

メビウス博士…でしたか。その方を強く慕っていて、「計画」については…過程や結果より、
「名誉」の回復を求めているのではないか、とは聞かされました。」

そこで一度言葉を区切り、目を瞑る。
少し言葉を選ぶようにして、口を開く。

「忌憚なく言わせて貰えば……「恩師の為に」という気持ちについてだけは、理解できないでもありません。
でもその為に、それ以外の一切合切を道具か邪魔者のように扱うのは…きっと、間違っている……

いえ、違いますね。私が承服できないんです。
顔も知らない誰かの都合で、知人や友人や大事な人…それに大事な先生を、
ただの道具か何かのように扱われて終わるのは。」

つまりは、自身のエゴ。
自分の手や目が届く範囲なんて、たかが知れている。
その範囲にいる、大事な人々を好き勝手されるのは…そう、単純に、「許せない」。

世界は、件の人物だけのものではない。
他にも生きている者はいるのだ。
それを如何なる理由であれ、エゴで好き勝手しようというなら…こちらも一個の人として、
自分の大事なものを守るために、己のエゴで以て抵抗させて貰う。

至極、単純な行動原理。

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「あらあら、仲は順調みたいね?」

 初々しい反応に、つい頬が緩む。

「『巻き込まれた』というよりも、『一緒に挑んだ』って思っていいんじゃないかしら。
 そして、『一緒に乗り越えた』。
 ふふっ、それはとっても素敵ね?」

 確信とまではいかないが、恐らく、少女にも神山舟を使う事が出来るだろう。
 ただ、『二人で試練を超える』という前例がない上に――そもそもが『星護有瑠華(ほしのもりあるか)』のために作られた星の鍵でもある。
 女以外がどのように使えるかは、女にも想像がつかなかった。

「――めーちゃんが?」

 クライン教授に?
 と、女は明確に困惑した表情を浮かべた。
 そんなはずはない――という確信的な感覚と共に、何かを忘れている(・・・・・)ような違和感も覚えていた。

「ああ――」

 少女の答えに、困惑から一転、柔らかな声が零れた。

「ええ、きっとそれでいいのよ。
 けれど、彼女の想い――執念は、とても強いわ。
 強情なだけじゃなくて、きっと彼女は、生きて歩む、道標を失ってしまったの。
 だから、どんなことをしても取り戻そうとしている――彼女と、『先生』が生きた意味を、目指した道を」

 そうして話して、軽くせき込んだ。
 今日は少し面会人が多かったのかもしれない。
 少し、喉がかさついている――わかりやすく言えば喉が渇いてしまっていた。

「ごめんなさい、るなちゃん。
 ちょっと、ナースセンターで、看護師さんを呼んできてもらえないかしら。
 喉が渇いちゃったから、呼吸器の湿度を上げてもらいたいの」

 実際は、少女に操作してもらってもよかったのだが、勝手に弄ると大変に怒られてしまうのだ。
 ちゃんと治療として計算されて調整されているのだから、当然の事であるが。
 ナースコールをするほど緊急の事でもなく、甘えられる相手がいるから、甘えてしまおう。
 そんな、やわらかな茶目っ気の混じったお願いだった。