2024/12/13 のログ
ご案内:「医療施設群 医療研究施設」に❖❖❖❖❖さんが現れました。
ご案内:「医療施設群 医療研究施設」に緋月さんが現れました。
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 常世島、医療研究施設。
 最先端の医療技術の研究が行われているこの場所で、研究室を兼ねた処置室の一つが稼働している。
 その扉には赤いランプが点灯し、関係者以外の立ち入りを禁止していた。

 四角四面ではなく、円形に作られた処置室は、中央の円筒型の培養槽から、どの機材や計器へのアクセスも速やかに行えるようにとのレイアウトだ。
 怒声が飛び交う中、着実に準備は進み、第一次同調試験――意識覚醒試験の開始時刻が迫る。
 まさに、医学の戦場に相応しい緊迫感に満ちていた。
 

緋月 >  
報せを受けて、文字通り風の如き速度で走って来た書生服姿の少女。
背負う物もなかったので存分に全力を出せたが、その結果、大きく息を切らしており、心の準備も兼ねて
処置室に入る前に少々の休息が必要だった。

先日、「届け物」をした時に応対してくれた「先生」が手を回してくれたのだろう。
この場への立ち入りと同席の許可が出されており、思ったよりもスムーズに入る事が出来た。

「…………。」

現代の医学の知識などほとんどない少女に、出来る事など皆無である。
だからこそ、自分に出来るただ一つの事――事が無事に終わり、「試験」が成功する事、
「先生」の意識が戻る事を、ただ無言で祈る事のみを行っていた。

神仏に願いなど滅多にかけない少女が、この時ばかりは無言で、しかし必死になって祈っていた。
無事に、「先生」が意識を取り戻すよう…命が繋がるように、と。

>  
「ああ、焔城くんの言っていたのは君だね?」

 訪れた少女に、白衣を着た痩身長身、鉛色の長髪を束ねた青年が声を掛けた。
 特に特徴を挙げるとすれば、なぜか両眼を閉じている、という所。
 それ以外は穏やかで、物静かな雰囲気を纏っている。

「僕は、(スウ)
 ここの、今は主任研究員をしているよ。
 ――随分と辛い思いをしたようだね。
 まだ試験には時間が掛かるから、少し、座って休むといいよ」

 そう言って、青年は少女に椅子を勧める。
 同時に、助手なのだろう白衣の少女が二人分の湯気が立つカップを持ってやってきた。
 鄒がそれを受け取ると、白衣の少女は、両者に頭を下げて駆け足で下がっていった。

「はい、ホットココアだけど、嫌いじゃないかい?
 心の疲労には、温かい物と、甘い物が必要だ」

 言いながら、青年は少女にカップを差し出しつつ、薦めた椅子の隣に腰を下ろす。
 そして、柔らかな吐息と共に、部屋の中央を見上げた。
 そこには、むき出しの心臓と、首から上だけの女が、多数のケーブルに繋がって、特殊な養液の中に浮かんでいる。

「『彼女』の脳と心臓の同調は上手くいっているよ。
 ただ、焔城君の説明通りなら、『彼女』に宿る人格は四つ。
 目覚めるのは、そのうちの何れか一つになる。
 ――大丈夫かい?
 見ていて辛かったら、外で待っていてくれてもいいんだよ」

 そう青年は少女を気遣うように言った。
 

緋月 >  
「あ……ご丁寧に、どうも。」

白衣を着た長身の青年の言葉に甘えて、書生服姿の少女は勧められた椅子に着席する。
立ったままでも問題はなかったのだが、時間がかかると言われた事だし、
他の方の邪魔にならない方が良いだろうかと思い、厚意に甘える形になった。

「あ、大丈夫です。甘い物は好みなので。」

カップを持って来てくれた少女にこちらも一礼すると、そう答えつつカップを受け取り、一口。
一気に飲み干してお腹にダメージが来たら大変なので、少しずつ慣らすような形で飲んでいく。

「…………。」

鄒と名乗った青年の言葉に、軽く視線を落とし、カップの中を覗き込む形に。
落ち込んでいる…訳ではない。
既にあの心臓を託してくれた方から聞いている事でもあった。
その事実の再確認、と言う所が強い。

「……大丈夫です。
辛くない、といえば、確かに少しだけ嘘になります…けど、私が選んだ事です。
挟道さん…あの心臓を渡して下さった方にも、言った事ですが…先生が助かるのなら、
それだけで…例え、目が覚めたのが別人でも、命は繋がるんです。
私に返って来るものがあるなら…それだけで、充分すぎます。」

ふう、と息を吐いて、またココアを一口。優しい甘さが、口に広がる。
書生服姿の少女の眼には、迷いもぶれもない。
静かに、心臓が繋がっただけの、首だけの女性を眺めている。

>  
「君は正直で、真っすぐな子だね。
 研究者として、気休めにしかならないような事は言えないけれど。
 少なくとも、『彼女』の命は繋げるよ」

 そう言いってから、青年は少しだけ声を張って、技師たちに指示を出す。
 どうやら、試験開始の準備が最終段階に入ったようだ。

「――できたら、身体も用意してあげたかったところだけどね。
 焔城君がいうには、アテがあるようだったけど」

 そして、青年はゆっくりと立ち上がる。
 白衣の少女が駆け寄ってくると、準備が出来たと青年に告げた。
 やや大きい薄い端末を青年に渡して、青年は頷いた。

「うん――準備が出来たよ。
 後は、実行キーを入力するだけだ。
 ――君が押すかい?」

 そう言いながら、青年は長い指で実行キーを入力し。
 試験開始のボタンが表示された画面を少女に向けた。
 

緋月 >  
「――ありがとうございます。
意識が戻った後の事も…どうか、よろしくお願いします。」

青年にそう言葉を返し、指示と共に動き、準備を行う技師たちの姿を眺めながら、
書生服姿の少女はゆっくりとココアを飲み干していく。
そうして、カップがちょうど空になった時、準備が終わったという白衣の少女の声が、
書生服姿の少女の耳にも届いた。

頂いたココアのお陰で、焦りや疲れの類はすっかり癒え、入れ替わるように緊張が少しやって来る。

「――もし良いのでしたら、失礼します…!」

緊張を吹き消すように、少し力を入れて返答。
大きく一つ深呼吸を行い、許しが出たならば手を伸ばし――

――迷うことなく、試験開始のボタンを押す。

>  
「もちろん、『彼女』が普通に生きられるようになるまで、尽力するつもりだよ。
 不安要素はあるけど、それをどうにかするのも医者だからね」

 そう答えて――少女の返答に微笑む。

 少女が端末に触れれば、周囲の機材がら唸るような音が鳴り始める。
 そしてそのまま数十秒が経過して――

「――終わったよ。
 試験は終了だ」

 青年は静かにそう言って立ち上がる。
 しかし、色水の中に浮かぶ頭にも、心臓にも、何かが変わった様子は見て取れなかった。
 

緋月 >  
「――――――。」

自身がスイッチを押すと同時に、周囲の機材が唸りを立て始める。
その様子を、少女は固唾を飲んで伺い続け――

「……お、終わり、ですか…?」

思ったよりも、何と言うか、あっけないというかあっさりした終わり方に、
思わず困惑の声。終わりというからには終わり、なのだろうが。

だが、水のような液体に浮かんでいる頭も、心臓も…変わった様子は見られない。

「……特に、変わりはないよう、ですけど…。」

ちょっとだけ不安になって、軽く立ち上がる。
様子から見て、失敗…とは思えないが…。

>  
「うん、終わりだ。
 数値に異常はない」

 青年は涼し気にそう答える。
 立ち上がった青年は、ゆっくりと周辺の機器に表示されるデータを見て回っていく。

「こういう試験は、始まってしまうとあっけない物なんだ。
 劇的な変化が訪れる事はほとんどない。
 むしろ、劇的な変化がある場合、多くは失敗と言ってもいい」

 そうして一通りの数値や波形、データを確認し終えると、青年は室内を見て回って戻ってくる。

「安心して。
 試験は成功と言っていいよ。
 そうは見えないかもしれないけどね」

 そう、さらりと青年は言って、少女に微笑みかけた。
 

緋月 >  
「そ、そういうもの…なんですか。」

常世島にお世話になって随分になるが、未だにこういった「科学」という分野には明るくない少女。
とりあえず、特に大きな変化がなかったのが成功、という事らしい。

(やはり、この世界の医学と言うものは全く以て分からない事ばかりです…。)

そういった知識を持っていないので仕方がないが、やはりわからないものはわからない。
難しいものだ、と思わざるを得ない少女であった。
ともあれ、試験が成功…という事は、単純にまだ目が覚めていない…自分に分かる解釈なら、
「眠っていて目が覚めていない」、という所、なのだろうか。

「……ありがとう、ございます。」

此処までやってくれた方々に、思わず感謝の言葉。
それを一番伝えたかった眼鏡の女性は…生憎不在で、先日に心臓を届けた時から、
結局お礼を言えずじまいであった。
そこだけが、少しだけ引っ掛かっている。

ともあれ、今は目の前の「成功」に目を向けるべきだろう、と思考を切り替える少女だった。

「………先生…。」

液体の中に浮かぶ、首だけの女性に視線を向け、思わずぽつりと小さく声を漏らす。

❖❖❖❖❖ >  
 少女が困惑する中。
 
「――はぁい♪
 わたしに会いたくなった?」

 そんな、場違いに明るく、子供のように無邪気で、高い音の声が研究室に響いた。
 

緋月 >  
「――――え?」

突然聞こえて来た声。
子供のように高い、無邪気な響きの声。

まさか。

思わず周囲を見渡してしまい、慌ててもう一度、首と其処に繋がる心臓が
収まっている筈の容器に視線を向ける。

「せ、先生……?」

つい、その声が口から出て来てしまう。
――落ち着け。深呼吸を忘れるな。
この声の主が、「ポーラ・スー」である確証は、まだ取れないのだ。

……しかし、その結果はどうあれ…書生服姿の少女には、安心があった。
たとえ「誰」であれ…この声が容器の中の人の声なら、
少なくとも「命」は繋がったのだから。

❖❖❖❖❖ >  
「まあ、なんて可愛らしい声!」

 そんな朗らかな声が、天井付近から降りてくる。
 そして、研究室に螺旋を描くように、明るい桃色の軌跡が舞い降りた。

「残念だけれど、わたしはあなたの『先生』じゃないわ。
 でも悲しまないで、愛しい、人の子」

 そう少女の前に姿を現したのは、100cmほどの、小さな影。
 三頭身のような姿に、桃色の髪と、背中の白く小さな羽。
 きらきらと光る、大きな瞳は薄い空色。
 

>  
「――なるほど、焔城君が言っていたのはこれか」

 桃色の小さな姿は、最新の立体映像技術によって、研究室内に投影された姿。
 『彼女』の中で目覚めた意識が作り出した、幻想的なイメージ映像だった。
 

緋月 >  
「は、あ……?」

何と言うか、随分と…こう、少女趣味、と言えば良いのか。
そんな雰囲気の、人…というには少々小さい何かが、部屋の上の方から降りて来た。
時折暇潰しに眺めていた、アニメの中に出て来そうな姿だ、と思う。

「……ええと、先生ではない…ということは、あなたは「他の3人」のうちの一人…という事ですか?

あ、失礼しました…私は緋月と申します。」

初見であるなら、名乗らずにいるのは無礼である。
一礼しながらそう挨拶。

…確率の問題は、予想していた事だ。
だが、思ったよりも――不思議と、ショックと呼べるものは少ない。
流石に皆無という訳ではなかったが、こうして現れた「誰か」が、思った以上に――
失礼かも知れないが、「先生」に似た雰囲気だったのが、大きかった。

(……確か、入院中に会った時も、こんな感じでしたよね。)

思わず、随分と前の事を思い出す書生服姿の少女。

❖❖❖❖❖ >  
 小さな三頭身の少女――というにはメルヘンではあるが。
 桃色の少女は両手を合わせて、小さな両足をパタパタとさせていた。

「まぁ、礼儀正しい子ね!
 会えて嬉しいわ、緋月」

 桃色の少女は微笑んで、小さな羽を翻して、くるりと回った。

「わたしは、エデン。
 エデン・H・プランク。
 今は見ての通り、とてもかわいい、ピンクの妖精さんよ!」

 そう、空中で小さな手を広げて、少々独特な自己紹介をした。
 

緋月 >  
「エデン…さん、ですか。」

何と言うか、外見も併せて随分と、こう…個性的な方という印象が強い。
最も、随分独特なセンスの綽名をつけてきた「先生」と比べると、普通に名前で呼んでくるのは
やはり異なる人格ゆえか、と言う所が少女の思う所である。

「ええと……何から話せばいいのでしょうか…。
その、エデンさんは、今のこの状態について、何処までご存じなのでしょうか?
後は…その、「他の3人」の方について、存じているのかどうか…ですけど。」

流石にいざ目の前にすると、何を訊けばよいか少し戸惑ってしまう。
そこまで、無事に試験が成功する事ばかりを祈っていたので、その後の事はさっぱり考えてなかったと言える。

❖❖❖❖❖ >  
「もう、緋月ったら!
 エデンよ、え、で、ん!」

 とても小さな人差し指を立てて、戸惑う少女の鼻先に触れるように。
 勿論、ただの投影映像であるため、触れ合う事は出来ないのだが。

「うーん、どこまでご存じなのかしら。
 でも、他の三人については知ってるわ。
 だって、同じ体に居たんだもの!」

 そう言ってくすくすと笑う。
 そんなちょっとした仕草は、『先生』にどこか似ているように感じられるだろう。

「そ、れ、と。
 クラインが、ちょっとやんちゃし過ぎてる事も、ね?」

 そう言って、パチリ、と片目を閉じてウィンクをした。
 

緋月 >  
「わぷっ。」

鼻先に振れられるような仕草には、思わず間の抜けた声。
触られたという感触がないのは…恐らく何かしらの映像として現れているからだ、とは理解が出来る。

(まるで本当にそこにいるみたいで、妙な気分ですけど…。)

とはいえ、話は通じているようなので助かるのは助かる。
それに――問題の人物(クライン)が、動いているらしい、というのも。

「……ご存じなのですか、K――クライン教授の、起こそうとしている事。

その結果で…その、すみません、身体の方が、随分と不自由になってしまわれて…。」

幸い、「先輩」のお陰で吹っ切る事は出来たが、それでも「身体」の事になると、どうしても落ち込んでしまう。
自分の所為ではないと理解はしているし、自分でも情けないと思うが、どうしようもない。

「……言葉は悪いですけど、私はその人(K)の起こそうとする事を、力づくでも止めるつもりでいます。
正しいとか、倫理がどうとかではなく…私が、やり方に、そのせいで蔑ろにされるモノに、納得が出来ないから。

――肝心の、私の雇い主(相方)が、バカ晒して捕まったので、今は変に動けませんけど。」

その人の話題になると、どうしても機嫌が悪い方に傾く。
何の相談も言伝もなしに笑顔で連行されていく姿をテレビで見れば、腹が立つのは仕方ないと思いたいが。

「他の方についても、存じているのですか…!
――その、私が知っているのは、先生…ポーラ・スーという人だけで…。
もし不都合でないなら、残りの二人の方について、教えて貰えませんか?」

これは、少々不純だが好奇心と言う所もある。
詳しい事情の他に、残り二人の事も可能なら知っておきたいというのはあるのだ。