2024/12/14 のログ
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「ええ――もちろん知っているわ!
いいのよ、愛しい人の子。
あなたは何も悪くないもの。
身体の事は、んー、もともとわたしの身体じゃないから、気にしないで?」
少しだけ考えてから、両手を合わせて微笑む。
そんな笑い方は、『先生』とよく似ている事だろう。
「ええ、ええ。
納得できないから――とっても素敵な理由よ、緋月」
不機嫌な表情になる少女に、『妖精』はとても楽しそうな表情を浮かべていた。
まるで、少女の選んだ道が、間違っていないと肯定するように。
「他の方、なんて他人行儀にしなくていいわ。
だって、他のどれもが、まぎれもなく『あーちゃん』なんだもの」
そう言ってくすくす笑う。
「だから――わたしだけが例外。
例外だからこそ目覚められた。
わたしは、『あーちゃん』に移植された星核。
かつてのエデンが、唯一、あの子に遺せた、ほんの小さな希望。
それがわたし。
今は、小さくてとっても可愛い、電子の妖精さんよ」
小さな両手を後ろに回して、妖精は少女の瞳を、じっと真っすぐに覗き込み。
やはり、嬉しそうな微笑みを柔らかく浮かべた。
■緋月 >
「……その、すみません。
色々、「先輩」に吐き出したりして、自分なりに納得したつもりではあったんですが…。
どうしても、そう…不自由そうなのが、引っかかってしまって…。
身体の方は、アテがある、というお話なんですが。」
そう言いながら、ちら、と白衣の青年に視線を向ける少女。
妖精の浮かべる笑い方が、やはり「先生」に似ていると感じる所はある。
「星核――と、いうと…まさか、「神様」、ですか…!?」
思わず素っ頓狂な声。
星核の成り立ちについては、肝心な時にこの場に居ないバカから聞いている少女である。
流石にとんでもない声を上げざるを得なかった。
「す、すみません、変な声を上げてしまって…。
…「あーちゃん」…「星護有瑠華」という人については、名前は知っていても、
どんな人なのかは、私は全然知らなくて……。
知っているのは、「先生」…「ポーラ・スー」という人が、その人の砕けた意識を
寄せ集めて出来上がった人格だ、としか…。」
目の前の妖精さんだけが、例外。
それ以外の3人が同じと言うなら、
「――残りの二人も、「先生」と同じ、という事なんでしょうか?」
自然、考えつく仮定はそこになる。
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「いいのよ、そうやって、迷い悩んで成長するのが人の子だもの。
あら、身体の方は何とかなるのね?」
妖精は両手を合わせて、意外そうな表情を浮かべる。
けれど、少女の次の言葉を聞くと、おかしそうに声を上げて笑った。
「『神様』なんて大それたものじゃないわ。
わたしもかつては、普通の、とってもかわいい、人間の美少女だったの。
でも、語るも涙、聞くも涙の、とっても大変な物語が――」
そう言いながら、うぅ、と涙を浮かべて。
「――特にないの!
色々事故はあったけど、んー、その結果こうなっただけよ。
どう?
ちょっと、ドキってした?」
と、パタパタと手足を振って、ふわふわと楽し気に宙を漂う。
「うーん、あの子がどんな子か、ねえ」
少し悩んだ顔で、くるくるとその場で回る。
「有瑠華は、大人しくて優しい子よ。
例えば、神様を信じる敬虔な聖女。
例えば、神様に見捨てられた無神論者。
例えば、神様と混ざった万華鏡」
そうしてパン、と両手を打って。
にっこりと笑う。
「ええ、そのどれもが『星護有瑠華』という、ただの女の子よ。
ただわたしも混じっちゃったから、『ポーラ・スー』って人格は、ちょーっとわたしに似ちゃったかもしれないわ」
と、少女の疑問に答えた。
そして、少女の『先生』とどこか似ている所がある所以も。
■緋月 >
桃色の妖精が語る過去の話。
かつては普通の、人間の美少女だったという彼女に大変な物語が――――
「……特になかったんですか!?」
思わず突っ込み。
何かこう、とても大変な事が起こって、こうなった…と思っていたのだが。
思わず脱力してしまった。妖精さんの思うつぼである。
(そうでなければ、こちらに気を遣った…のでしょうか?)
そんな事を思わず考えてしまう。
自身の単なる深読み、という可能性も考えられるが。
「その言い方は――――。」
何と言うか、以前に聞いた話からして、もっとバラバラに人格が砕けてしまったのでは、と
思っていたのだが…もし、その言葉通りなら、
「――まるで、一人の人間の人格を、三つに切り分けたような…そんな気がします…。」
とはいえ、「万華鏡」という言葉が示すなら…「混ざった」人格だけは、より大きく砕けたのかも知れない。
そう考えれば、妖精さんの語る言葉にも納得はいく。
「確かに、エデンさん…失礼しました、エデンの言葉遣いや仕草は、先生に似てるとは思いました。
そんな理由が……。」
と、納得した所で、次の疑問。
「――先程の言葉。
エデンだけが「例外」ということは、他の三人は眠ったまま、なんでしょうか?
あ、流石にお話したいとか、無茶は言いません。
私にとっては…目が覚めた人格が違っても、先生の命が無事に繋がったのなら…
それで、見返りとしては充分すぎるので。」
流石に無理強いまではしたくない。
そも、別の人格とは言え、こうして話が出来るような状況に持っていけただけで少女としては安心だった。
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「――まぁ!」
両手を合わせて、目を丸くする妖精。
「緋月ったら、とっても賢いのね!
ええ、その通りよ、あの子は幾つかの転機のたびに、それまでの人格を封じてしまったの。
そうしなければ、あの子は生きていけなかったのよ」
少女を褒めて妖精は、初めて、僅かに悲し気な瞳の色を見せただろう。
「信じる神、心の底から信じていたものに裏切られて。
とある神様の器にされて、身体も心も粉々にされて。
わたしに出来たのは、あの子の大切な記憶だけを守る事。
幼い頃、無邪気でいられたあの子の記憶だけを」
妖精は少しだけ目を細めるが、すぐにそれまでと同じ楽し気な微笑みに変わる。
「そうねえ、まだ目覚めさせるわけにはいかない、という所かしら。
今、あの子は夢を見ているの。
とても優しい、楽園の夢」
そう話しつつ、妖精は少女に背中を向けて、小さな羽を動かしながら、養液に浮かぶ『星護有瑠華の残骸』を見上げた。
「あの子は、幸せな記憶と、傷だらけの記憶を、夢の中でゆっくりと思い出している。
そうして『あの子』自身の記憶を整理して、本当の自分を見つけようとしているの。
もし、その途中で夢から起こしてしまったら――」
封じていた記憶や、深い傷になった記憶、それらが半端に蘇ってしまえば。
本来の『星護有瑠華』に戻る前に、再び心と記憶が歪み、砕けてしまうかもしれない。
新たな人格が産まれて、自己防衛が働くのなら幸運である。
最悪であれば――廃人になってもおかしくないのだ。
■緋月 >
「それ、は――――」
解離性同一性障害。
精神の無意識の防衛行動である、耐えられない程の辛い記憶や感覚などを切り離した結果、
それらの情報が引き出せなくなり…場合によっては、異なる人格の発生に繋がるともされる。
(……郷の、過去の記録に、似ている。)
書生服姿の少女は、無論そんな症状などを知る程知識がある訳ではなかったが、
まだ己の故郷で過ごしていた折、まるで自我を切り分けたような症状を発症した結果、
かつて自身が暮らしていた座敷牢での生活を余儀なくされた一族の者が居る、という話を
書物からではあるが知る経験があった。
そうして、妖精さんの語る言葉に、小さく目を伏せ、少しだけの思案。
改めて上げた顔は、穏やかなものだった。
「――わかりました。
でしたら、会わせて欲しいとは言いません。
先生が――たとえ、私の知っている先生とは異なってしまう形であっても、自分から
目覚められるようになるまで、待ちます。
それまで、先生たちの事、よろしくお願いします。」
そうして、妖精さんに静かに頭を下げる。
既に、自分にとって十分な見返りは手に入れた。
ならば、無理はさせず、夢を見ている方が…きっと、自分にも先生にも、いいのだろう。
「…「K」の事や、また聞きたい事、訊かないといけない事。
その時は――エデン、あなたに訊ねれば、それでいいですか?」
それは確認しないといけない事だ。
何しろ、その相手と…いつかはエゴをぶつけ合わねばならないのかも知れぬのだ。
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「――緋月は優しいのね。
本当ならあなたの『先生』に会いたいはずなのに。
でも、ええ。
あの子が自然と目を覚ませるようになれば、あの子にとっても、あなたにとっても、きっといい未来に繋がるわ。
誰にでも、過去を受け入れて、思い出に刻んで、前に進む日がやってくる。
それがきっと、あの子にとっては、クラインの手から離れた今、やっと訪れたんだと思うわ」
妖精はまた半回転して、少女と顔を合わせる。
「人の子は、未来へと進み続けなければならない。
けれど、進めなくなる時もある。
そんなときは、歩みを止めて、振り返るの。
進んできた道のりを。
出逢ってきた人たちを。
そうして、いつでも、思い出の中に大切な物がある事を思い出して。
そうしてまた、未来へと進んでいくのよ」
――それが人間というものでしょう?
そう言うかのように、妖精は少女に笑いかけた。
「うーん、わたしに答えてあげられる事がちゃんとあるかしら?
わたしはだって、ほら、ただの可愛い妖精さんだもの!」
そう妖精は言いながら、自分の意識から生み出した電子アバターに、悩んでいるような恰好を取らせた。
■鄒 >
「――エデン。
この子を揶揄うのはほどほどにしてください。
随分と大変な思いをしているはずですから」
青年は、どこか懐かしそうに妖精へと困った顔で言う。
そして少女の方へと向いて、やわらかく微笑んだ。
「安心していい。
クライン教授について、彼女ほど知っている人物は、きっとこの島にはいないよ。
ああ、いや、焔城君は知っているはずだけど、今は彼女に連絡が取れないからね」
青年はそう少女に伝えるだろう。
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「あら――鄒!
あなたも居たのね。
生前の昔馴染みに会うなんて、なんだか不思議な気分ね」
そう親し気な声を、妖精は青年へと向ける。
「鄒もいるなら、そうね。
わたしが知っているのは、わたしの生前の第一方舟の事。
後は、あの子の中で見ていた事だけよ。
最近の事はよくわからないけど、わたしに答えられる事なら、出来る限り答えてあ、げ、る♪」
妖精はそうして、楽しそうに少女の周囲をきらきらと光る軌跡を残しながら飛び回った。
■緋月 >
「えっ…お二人とも、お知り合いだったんですか…!」
ちょっとびっくり。
まさかそんな縁があったから、今回の試験に立ち会ってくれたのだろうか。
そんな事を考えつつ、青年の言葉に少し思案顔。
(焔城先生…どうしているんだろう…。)
先日、心臓を此処まで運んだ時は、疲労と…それ以上に、先生の命が繋がるかどうかが掛かっていたので、
碌な会話も出来ず、必死で頼み込んだ記憶しかない。
その後は待っている間に寝てしまい、起きた時にはブランケットがかかっていただけだった。
心配にはなるが……連絡が取れないのは、どうしようもない。
それに、話をしてくれる人が見つかったのだ。
後は――――――
「……では、後日、訊きたい事などを纏めて、改めて…でいいでしょうか?
私は生憎、そういう情報を纏めたり必要な所を訊ねたりというのが上手くはなくて…。
……そういうのは、私の「雇い主」が上手いんですが…私に何も言わないで、アホみたいな笑い浮かべながら
連行されていって、今は塀の中で…あの馬鹿……。」
其処に触れると、どうしても不機嫌になってしまう。
自制したいとは思うのだが…どうしようもないのだ。
「――あの馬鹿が戻ってきたら、事の次第は話しておきます。
その時は…私じゃなくて、あの馬鹿が来ると思いますが。」
そう言いながら、大きく息を吐いて気持ちを落ち着ける。
先生は眠ったままだが――命は繋がった。それだけで、充分だ。
「では、私はそろそろお暇しようかと。
……用事がなくても、お見舞いに来たりしても、大丈夫、でしょうか…?」
最後の問いだけは、少しおずおずと。
命が繋がったとはいえ、状態が状態である。
あまり頻繁に来るのはどうかという気持ちもなくはない。
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「ええ、友達よ!
とっても優秀なお医者さんなの」
そう嬉しそうに答えながら、不機嫌そうになる少女を見詰めて、くすくす笑う。
「その雇い主さんの事、とーっても大事なのね!
ふふっ、仲良しなのは素敵な事だわ」
自分を落ち着ける少女の様子を見て、愉快そうに頬を緩める。
「まあ――!
もちろん、いつでも遊びに来ていいのよ。
その時は、わたし、ピンクの妖精エデンが、精一杯おもてなしするわね!」
大歓迎だと妖精ははしゃぐが、責任者の青年は困ったように苦笑する。
■鄒 >
「もちろん、君の訪問はいつでも歓迎するよ。
その時は、よく温まるココアと、少しビターなクッキーでも振舞わせてもらうよ。
遠慮せず、気軽に来るといい」
そう、青年も少女に笑って答えるだろう。
■緋月 >
「――エデンも、鄒さんも、ありがとうございます。
では、あまりに邪魔にならない程度に…お見舞いにお邪魔しますね…!」
二人の気遣いに、微笑みを浮かべつつ丁寧に頭を下げる。
まだ、考える事、気になる事は尽きないが、それでもこうして好転した事態もある。
(……本当に、あの馬鹿…肝心な時に居ないんですから…。)
そんな不満は、今はとりあえず表に出さず、心の奥にしまって置く事に。
そうして、もう二言三言軽く会話を交わせば、暇乞いの準備。
「今日は、ありがとうございました。また日を改めて、お邪魔します。
では、お二人とも…またいずれ、失礼します!」
再訪の約束を交わし、小さく手を振ると、書生服姿の少女は施設を後にして家路へと就くのだった。
ご案内:「医療施設群 医療研究施設」から緋月さんが去りました。
■鄒 >
「ああ、いつでも待っているよ。
気を付けて帰るんだよ」
そう言って青年は少女をみおくり――妖精となった古馴染みを見た。
「エデン、本当にいいのかい?」
そう、短く。
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「――ええ、もちろん」
妖精は自信たっぷりに笑う。
「もうわたし達の時代は終わり。
なら、わたしたちの残り火を、夢と希望の種を。
新しい時代に託すべき。
――そうでしょう?」
そして、妖精は『女の子』を見上げる。
「だから、ちゃんと起きるのよ、お寝坊さん」
ご案内:「医療施設群 医療研究施設」から❖❖❖❖❖さんが去りました。