2024/12/30 のログ
ご案内:「医療施設群 一般病棟」に泳夢さんが現れました。
泳夢 >  
……年の瀬も迫っているというのに、少女は病院に運ばれていた。
何があったかと言えば、実に単純。階段から転落したのだ。
より正確に追えば”突き落とされた”と言うべきだろうが…それを知るのは少女のみ。

「……はぁ。もう、泳夢さんは……本当に気を付けてくださいね?」
などと、看護師に小言を言われてしまうのは仕方のない事だろう。

幸いにも命に別状はない。頭に傷が出来たが、不思議ともうそれはふさがり始めていた。
ただ、地面に身体を打ち付けたことによる打ち身や、打撲などは未だ痛みも残っていたが。

「あたた……流石に年末にこれは、ちょっと気が重いなぁ」

子供でもないのにお小言を言われてしまうと、少しだけ恥ずかしさも感じてしまう。
とはいえ、年末年始を病室のベッドの上で迎える事はなさそうなことだけは、不幸中の幸いか。

泳夢 >  
ともあれ、相応の治療を施せば帰宅しても問題ないとは医者のお墨付きだ。
義肢の方も派手に落ちて外れたが、目立った損傷もなければ異常もない。
元よりある程度、そうした不測の事態にも対応した頑強さはある代物ではある為だ。

問題があるとすれば車椅子の方であり……。

「あー……やっぱりメンテナンス、時間かかっちゃうんだね」

電動車椅子のほうは、流石にそこまでの事は想定されたものではない。
壊れたり等はしてはいないとは思われるが、精密機器でもある為メンテナンスが必須と言われたのだ。
凡そ半日から丸一日時間が掛かると言われた泳夢は、今日はどうするべきかなぁと、頭を悩ませていた。

泳夢 >  
取れる選択肢はおおよそ二つ。

ひとつは普通の車椅子を借りて一時帰宅。
問題があるとすれば帰宅まで義手でなんとか漕がないといけないので、体力が持つかが不安な事。
じっくりと休み休み行けば問題ないが…流石に骨が折れるのは間違いない。
なにより万が一にでも義肢に不調が出れば、その時点で自らは身動きが取れなくなってしまう。

もうひとつは素直にここで一夜を過ごす…有体に言えば検査入院という名目での宿泊である。
それでもいいよ、とは医者からは伝えられてはいるのだが……

「あんまり手間かけるのもなぁ……」

半日程度の時間でも、そうして手間をかけてしまうことに少々の躊躇いはある。
何よりそう、此処に長居するのはなんとなく居心地が悪いのだ。

頭に包帯を巻き、治療施設の待合室で少女は一人、頭を悩ませていた。

ご案内:「医療施設群 一般病棟」に紫陽花 剱菊さんが現れました。
紫陽花 剱菊 >  
薄らと漂う命の匂い。
揺蕩(たゆた)う薬の香りは日進月歩の象徴也。
生きとし生けるものの繋ぎ手、おちこちと勤しむ最中、
少女の視界が、僅かに揺らぐ。

「…………」

然りて、男は忽然と現れた。
衣擦れも、足音さえ無き静寂の男。
(うろ)の双眸、少女を見やりて、口開く。

「……どうも、お初にお目に掛かる。
 私は紫陽花 剱菊(あじばな こんぎく)
 災難に見舞われたことを先ずはお悔やみ申し上げる」

二本指を口元に立て、一礼。
異界の世、乱世に置ける挨拶の作法。

「……然りて、(くだん)のあらましに付いて聞くたく罷り越した。
 ほんの少し、暇を頂戴したくと……、……何か、悩み事でも?」

泳夢 >  
「わわ…っ!?」

突如、眼前に現れた男の姿に、少女は驚きの声を上げる。
それはそうだ、足音も気配もなく現れたのだから。

「え、ええと…こ、こんにちは?」

そして次に抱いた印象は、随分と古風な雰囲気の人だ、というもの。
口調もそうだが、仕草や雰囲気、何より紡がれる語彙が現代人のそれではないと、そう感じた。

何故に自分に突然声を掛けて来たんだろうと、真っ当な疑問を抱きつつ。
少女はひとまず問われた言葉に返答を返していく。

「私は泳夢と言います。ええと…紫陽花さん?
 悩み事と言うか…んと、今日入院していくかどうか悩んでた感じかな?」

特に隠すようなことで悩んではいない。
なによりそう大した悩みですらない。
義肢の指を顎に充てながら、少女はそう答える。

紫陽花 剱菊 >  
驚嘆、然もありなん。

「……驚かせたようであれば済まない。
 良くぞ人に驚かれる。登場の仕方が良くないと言われるが、はて……」

然るに剱菊は自然体。
驚嘆の意図に思い当たる節も無く、
何くれど、武芸者故の泰平の世の"相違"を感じさせる。

「剱菊で構わない。
 其方(そなた)が此度に接触した者を追っている。
 ……其方(そなた)が接触したと聞き、罷り越した次第」

即ち(うろ)は影より見定める。
公安の刃、如何なる悪事をも見逃さん。
居住まいを崩す事も無し、凛然と少女を見下ろす(うろ)
武芸者、即ち生命(いのち)の解体者は一目で少女の身体状況を看破せし。

其方(そなた)が話したくないならそれもまた良し。
 然れど、胸襟を開けてくださるなら私としても嬉しき限り」

「……唯、傷もあろう。無理にとは言わぬ。
 ……? 斯様な姿成れば、世話と成れば大事無し」

「何か、引っかかることが?」

悪意は無い。然るに指摘する事を悪いと思わぬ。
故に事、不可思議に言問う。

泳夢 >  
もしかしなくとも、異世界から来たタイプの人なのかもしれない。
彼の口にした言葉を聞いて、少女は苦笑を携える。

「あはは…、突然人が現れたら誰だってびっくりするというか」

ともあれ、それが彼の中の常識なのだろうと飲み込めれば、その行いにもすっと腑に落ちる。
どことなく剣呑な雰囲気を纏っているのは、流石に少女も慣れないが。

「じゃあ剱菊さんで。
 ……で、ええと…うん?……どういうこと?」

ただ、続いて紡がれた言葉には、蒼い瞳をパチクリとさせた。
まるで此方の動向を覗いていたかのような、知っていたかのような物言い。
あの場で、あの状況を見ているものが居なかったのは間違いないというのに。

まるで見知らぬ相手に預金通帳の残高を口にされたかのような感覚に包まれた。