2025/01/27 のログ
ご案内:「医療施設群 医療研究施設」にエデン-H-プランクさんが現れました。
ご案内:「医療施設群 医療研究施設」に緋月さんが現れました。
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 白く、明るい廊下に響く足音が二つ。
 一つは少女の物、もう一つは歩調を合わせる長身の男性の物だ。

「――検査結果としては、特別、身体機能への異常はなし。
 うん、健康体と言って問題ないだろうね」

 そう落ち着いた声で話すのは、長身の医師、鄒という男だ。
 手元には複数のデータを写したタブレット端末を持っている。

「色素の変化についても、これといって身体への影響は見られなかった。
 その、経緯が安心できるものであったら、経過観察も必要ないだろうね」

 そう念を押すように言うのは。
 まさにその経緯が、真っ当ではなく、とても安心できるようなものではなかったからである。
 

緋月 >  
「…ありがとうございます。お世話をおかけしました。」

そう答えるのは、暗い赤色の外套(マント)に書生服姿の少女。
長身の男の少し斜め後ろを、ついていく形で歩を進めている。

――その容貌は、たった二点。以前に此処に来た時とは、大きく異なってしまっている。
元々黒髪に比べて薄い色だったグレーの髪は、更に色素が薄い青みを帯びたライトグレーに。
赤色ではあった瞳も、より鮮やかな…血のような色の瞳に変じている。

「――あの黒水に浸かった時、直ぐに引き上げて貰えたので、この位の変化で済んだのだと。」

心当たりをそう告げる。
暫し前のある作戦行動…もう一人の同行者の意により、詳細は人員含めて伏せられる事になったが、
その行動中に被った、ある出来事の影響だった。

「流石に…自分でも、気が付いた時は、驚きました。」

>  
「うん、驚くのも無理ないだろうね」

 やんわりと、面白そうに笑った。

「君のパートナーに感謝しないといけないね。
 星骸による心身への影響が、問題ない範囲で収まっているのは、幸運としか言いようがないんだ。
 沢山の実例記録はあるけど――それを見せるのは流石に悪趣味かな?」

 そう言いながら、少女の方にタブレット端末を差し出してみせる。
 もし画面の中を見たのなら、星骸によって異形化した多くの実例映像。
 ――の、代わりに多種多様な子犬同士が戯れている、可愛らしい映像が流れていた。

「問題さえなければ、僕としては言う事はないけど。
 やっぱり、君は随分と無茶をするタイプの子みたいだからね。
 一応聞くけれど、検査項目以外で気になる事はあるかい?」

 と、医師は少女に微笑みかけながら訊ねた。
 

緋月 >  
「幸運、ですか……後は、そうですね…適合値、でしたか。
あのひとが言うには、私はそれが高い方だった、というのもあるのかも知れない、と。」

言いながら、ちょっと構えてタブレット端末を見てみると、多数の子犬が戯れる、心の和む映像。
ちょっと表情と雰囲気が緩んだ。
やはり小動物は心を癒す。

「そうですね…検査項目で、視力の方は異常がない、とは聞きましたけど。
私個人としては、異能の方に問題が出ていないかが心配です。
一応、自分で出来る分は軽くやってみて、今までと然程変わった感じはない…とは思いましたが。」

不可視の斬撃を放つ異能。
それが、星骸の影響で変質していないか、其処は心配な所であった。
とは言え、意識の回復直後に大物を相手に異能を使って戦ったのである。
その時に然程の違和感もなかったのだし、問題はない…ものだろう、とは漠然と思っていたが。

尚、実際に異能方面の測定結果はほぼ異常なしである。

>  
「異能についても、心配は必要なさそうだよ。
 少なくとも大きな変化は見られない。
 微細な変化があるかどうかは、君自身の手応えで感じ取るしかないかな」

 少女の事前、事後の検査記録と比べても、差異はほとんど誤差程度だった。
 異能に影響が出ていれば、何かしらの数値に変動が起きていてもおかしくないのだが、それらは認められない。
 となれば、後は本人の感覚次第である。

「僕としては、君の身体に残ってる、疲労の方が心配かな。
 ほら、このCKという数値を見てくれるかい?
 こっちが正常基準値で、こっちが今の君の数値。
 これはね、どれだけ筋肉が損傷しているかの目安になる数値なんだ」

 そう言いながら、画面を指先でスライドさせて、検査結果を少女に見せる。
 そこにはいくつか赤い数字が表示されていた。
 

緋月 >  
「そうですか…それなら、ひとまずは安心、でしょうか。」

ふぅ、と安心したように息をつき、少し遅れて白衣の青年が提示したタブレット端末に再び目を向ける。
説明を聞きながら、数値の方にも視線を注目させる。

「正常基準値から――えっと、これだけの差だと、どの位の損傷になるんでしょう…。」

正常基準値から見た、現在の少女の筋肉の損傷レベル。
それは凡そ、運動量が多く筋肉痛が少し激しい、といった程度の数値さ。
少なくとも、平常の生活を送るのに多少の痛みはあっても大きな不都合というものはないレベルである。

「家に戻ってから、調息などで身体は出来るだけ休めて、回復を優先させてはいましたけど…。」

実の所、単純な筋肉よりも経絡系の方がダメージ…というか、疲労度は大きかった。
大規模な蓮華座開花…チャクラの解放を行った反動によるものである。
最も、そちらも稽古を休んで回復に努めた結果、問題がないレベルの数値に収まってはいるが。

――と、そんな事を話している間に、目的の部屋までは近くなってきただろうか。

>  
「それだけ回復に努めて、激しい筋肉痛を伴う程度、と言った所かな。
 平然としてる君が、僕は心配になるよ」

 そう言って苦笑しながら肩を竦めた。

「経絡系の損傷もそうだけど、女の子が無茶をさせるものじゃないよ。
 回復できる間はいいけれど、いずれ回復が間に合わなくなるかもしれない。
 そうしたら、普段の生活もそうだけど、女性としての生理機能にも影響がでかねないんだよ」

 少しだけ諫めるような口調で少女に言って、足を止める。
 少女にとっては重要ではないのかもしれないが。
 医師としては言わなくてはならない事でもある。

「君は、愛する人の子供が産めなくなっても、気にならない子かい?」

 そんな事を言いながら扉に触れれば、あっさりとロックは解除され、扉は開いた。
 中には、場違いなのに馴染んでしまった、白いティーテーブルと椅子が堂々と佇んでいる。
 

緋月 >  
「――――――」

足を止めての質問には、一瞬、ぽかんとしたような表情。
それから直ぐに、少しだけ考え込むような雰囲気。

「……考えた事もなかったです。
そういう事とは…無縁に生きて来ましたし、そんな仲の相手も――
…いや、居ない訳ではないですけど、その……。」

と、少し口にしづらそうに口ごもる。
それだけで――まあ、凡その事情は理解できるだろうか。
ともあれ、少々そちら方面については頓着が薄すぎる。

「……と、もう到着ですか。えっと、用意用意…。」

扉が開いたのを目にすれば、少し慌てて服の中を探り、小さな箱を取り出す。
それを大事に抱えて、いざ入室。

「えっと、失礼します――。」

>  
「なら、この機会に少し考えるといいよ。
 女の子にしかできない、選べない大事な事だ。
 あんまり頓着しないでいると、気が付いたら手遅れ――そういう人も少なからず見てきたからね」

 少女の様子に、思わず苦笑を漏らしてしまう。
 彼の周囲には、どうやら自分が女性である事を忘れてしまう人が多いようだった。
 その点。
 この部屋を我が物顔で使っている少女に関しては、特別に例外ではあるけれど。

「あまり緊張しなくていいよ。
 ちゃんと保管していれば、これといって被害を出すものじゃないからね。
 ――あ、飲み物にリクエストはあるかい?」

 そう言いながら、医師は優しく笑った。
 

緋月 >  
「飲み物は…ええと、もし融通が利くなら、お茶…煎茶などで。
では、失礼しますね。」

要望を伝えてから、手の中の箱を今一度確かめ、いざ室内へ。

「……失礼します。
えと、先日の「作戦」の戦果を持ってきました~。」

おずおずと、そう声を出す。
相手が相手ゆえ、何処から出て来るか分からないので、ちょっと用心気味。
手にした箱は驚いて落としたりしないよう、気を付けながら。

エデン-H-プランク >  
『お茶だね、少し待っていてくれ』

 そう答えながら頷いて、少女にティーテーブルの椅子を勧めて、医師は奥へと消えてしまう。

 残された少女は、椅子へと座らされたまま、ほったらかしになってしまう。
 普段なら、騒がしく、それこそ姦しくしている、自称妖精さんも、まだ姿すら見せず――

「――だーれだ?」

 突如、少女の視界が塞がれる。
 そうして視界を塞ぐものには、触ろうとしても触れない。
 触れようとすれば像がにじむだけ。
 立体映像の投影だ。
 

緋月 >  
「わっ…!」

急に視界を塞がれれば、流石に驚きの声。
幸い、持っていた箱は取り落とさなかった。落としたら大変である。
息を軽く吐いて落ち着きを取り戻し、

「……あんまり、そういう悪戯はどうかと思います、エデン。
下手に落とすなって、預かった人から言われてるんですから。」

そう声をかける。
触れようとしても触れられない立体映像。
そんな身体を持つ者は、この部屋に一人しか居ない筈。
軽く、手にした小箱を掲げて見せる。

「…言われていたもの、持ってきました。
「無限」と――もう一つ、手元に残った、「浮生」の星核です。

他の2つは、私とあのひとが一つずつ、潰してしまいました。」

すみません、と謝罪は入れるが、あまり済まなそうな様子ではない。

エデン-H-プランク >  
「あら、いいじゃない。
 こうやって遊んでいた方が、年頃の女の子らしいでしょう?」

 そう言って、くるくると、踊るように少女の前へと回って。
 改めてすぐ隣に並んで腰かける――ように投影される姿は、十代半ばから後半くらいの少女の姿。
 ブラウスとスカート、長い桃色の髪を纏めて揺らし、空色の瞳で少女の顔を覗く、少し変わった形の耳をした『女の子』の姿。

「さすがは腕利きの剣士さんと魔術師さんかしら。
 ええ、気にしないで大丈夫。
 いつかは全て、壊れるべきモノだもの」

 そう、ほんの少しだけ声の調子が落ち着いて、どことなく寂し気な表情と声。
 けれど、それも束の間、すぐに楽しそうな笑顔が戻ってくる。

「それにしても、ねえ、緋月。
 とぉっても素敵なイメチェンね!
 すごく似合うし、とっても可愛いと思うわ♪」

 そんなふうに朗らかに、花が咲くような笑顔と共に少女を見上げる。
 『妖精さん』は、年頃の人間らしい姿を映しても、少女より少し小柄だった。
 

緋月 >  
「いえ……イメチェンというか…ちょっと無茶して、星骸を被ってしまったせいで、
目と髪がこんな色になってしまったというか…。」

苦笑しながら、そんな事を。言うかも何も、それ以外の原因はない。
パートナーに怖い顔をさせてしまい、白衣の青年にはやんわりと注意され。
まあ、結果良ければ…とはいえ、危ない所ではあったのだった。

「……実の所を言うと、本当はこれ(浮生)も「斬る」つもりだったんです。
「不死」を斬る機会なんて、滅多に訪れないでしょうから…本当は、「無限」だけ、持ってくるつもりでした。
結局、私の力不足で、これを斬り滅ぼす事は出来ませんでしたが。」

少しばかり未練のありそうな色を顔に覗かせつつ、書生服姿の少女は手にした箱の蓋をそっと開く。
――中には、間仕切りで仕切られた中に、大事に保管されているものが二つ。
淡い緑色の結晶と、薄青く光る結晶。

紛れもなく、「無限」と「浮生」の星核である。
激戦の末に、剣士と魔術師が「汚染源」を討ち、持ち帰ったものだ。

エデン-H-プランク >  
「あらあら、随分とハードなヘアカラーを使ったのね。
 でも素敵よ、似合ってるもの♪
 緋月には年頃の女の子らしさが足りなかったから、むしろちょうどいいかも?」

 ふふっ、と楽しそうに笑う妖精。
 並んで座っている姿を見れば、タイプの違う(自称一人と他称一人の)美少女が二人。
 随分と絵になっている事だろう。

「まあ――緋月ったらやっぱりやんちゃなのね」

 驚いたように言ってから、すぐにくすくすと笑った。
 しかし、箱の中身を見ると、妖精の視線は直ぐに懐かしい思い出に触れるように細められる。

「ちょっと違うわ。
 『浮生』の権能は生々流転――つまり、死しても何度でも生まれ変わる、「甦生不滅」の力なの。
 だから、力不足じゃなくて、うーん――勘違いかしら」

 きっと少女が、『浮生』の性質を正しく理解していれば、斬る事は出来ただろう。
 ただ、「不死」を斬ろうとした結果、生まれ変わるという性質によって、再構成されてしまったのだ。
 つまり、一度は間違いなく、少女はこの星核を斬り、滅してはいるのである。

「それにしても、お願いした以上の成果ね。
 一つも手に入らない事も、想定してたから。
 二つも――特にこの二つをしっかり持ち帰ってきてくれたのは、とっても嬉しいわ。
 ええ――ほんとうに、嬉しいの」

 そう言って、二つの結晶を見ながら微笑む姿は、今にも消えそうなほど儚い。
 その視線は、とても大切な、宝物を見つめるようなものであり。
 妖精がただ、無邪気でいられないだけの意味がそこにはあったのだ。
 

緋月 >  
「あははは…最初に鏡で見た時は、それは驚きました…。」

危ない橋を渡った自覚はあるので、苦笑いが出てしまう。
そして、「浮生」の星核の正体を聞けば、思わず天井を眺め、

「ああ……。」

其処まで言われれば、流石に少女にも理解が及ぶ。
不死、といった「規模の小さい」ものではなく…より大きな規模。
輪廻転生の理、それに近しいものである、と。

「それなら、納得です。確かに「斬った」手応えがあったのに…まるで何事も無かったように
浮かんでいたもので…私の実力がまだ足りていないのかと。

でも…そのような仕組みだというなら、もし正しい解釈に至っていても、今の私では斬れなかったかも、です。
輪廻…あるいはそれに近い概念には…まだ、私の刃では、届かない。」

残念そうに語るも、その血の色の瞳には狼の如き光が一瞬。
「力が届けば、今度こそは」――という意志。
その向上心は兎も角、何でも「斬る」方向に持っていく思考は、少々怖い。

「「無限」だけは、確実に確保する作戦で挑んでいましたから。
……斬った時に何が起こるか、想像するだに恐ろしかった、ですし…。」

つまり、何があっても淡い緑色の星核は此処へ持ってくるつもりだった。
薄青い結晶が加わったは――敢えて言うなら、「運命の悪戯」、という奴である。
自分やあの血の色の髪の魔術師でも、今は滅ぼすのが難しいだろうから。

「「汚染源」についても、倒す事は出来ました。
最も、堅牢の星核込みの最後の始末…というか、止めはあの人に任せた形ですし、
私は――「勝負」には勝ったし、「流転」を斬れましたけど、結局「浮生」は斬り斬れずに終わりましたし。

それも…「あそこで遇った人」のお膳立てあっての事、でしたから。」

――少しだけ、妙な言い回し。
まるで、剣士と魔術師以外にも、誰かがあの汚染区画に居たかのような言葉。